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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第三章:苦しみ抗う罪人たち

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080:不便な便利

 一夜が明けて、俺は再び第四メリウス研究開発棟へと戻って来た。

 管理人であるオットーさんからスクーターの鍵を貰い。

 これからは施設内をこれで移動した方が良いとアドバイスされた。

 小さなスクターであり、色は緑色でそれもハーランドが開発したものらしい。

 本気を出せば車ほどの速さが出て、ホバーモードに切り替えればエアバイクのようにも使えるようだった。


 ハイテクなものだと思いつつ、俺は普通に地面を走行して施設へと戻った。

 そうして、持って来ていたパスキーなどを翳して中へと入り。

 憶えていた道を通って、博士の元へと向かった。

 あの厳重なロックの解除方法についてはウッドマンさんから教わっていて。

 毎朝、起きたらパソコンをチェックしてパスワードを覚えておくように忠告された。

 音声パスワードは日によって変わるようであり、早速、変わっていたそれを口で発すれば扉は開いた。


 昨日のように煙が溢れ出てくるわけでもなく。

 バーナー博士はカタカタとコンソールを弄っているだけだった。

 ウッドマンさんは俺に気が付いて作業の手を止めて駆け寄って来る。

 彼から軽い説明を受けて、今日から本格的に新型のテストを行うと言われた。


 博士も俺に気づき、彼は少しだけ昨日よりも落ち着いた様子で俺に機体に乗り込むように言って来た。

 俺は少し戸惑いつつも、言われるがままにアンブルフへと乗り込む。

 すると、コックピッド内が変化している事に気づく。


 レバーが通常のそれぞれの指に対応したボタンが取り付けられたものではない。

 ボタンは無く、代わりに広いコックピッド内の両側に怪しげな装甲があった。

 展開されていて、その先には金属製のグローブのようなものがある……いや、ガントレッドか?


 ペダルも少し変化していて、高さが少し上がっている気がした。

 そして、踏み心地が若干硬い。


 過去のアンブルフのコックピッド内は狭く。

 無数のボタンやスイッチが取り付けられていた。

 しかし、今はボタンなどが綺麗さっぱり無くなっている。

 あのリミッターボタンも消えていて、広くなったうえにスッキリとしている。


《どうかなナナシ君!! 新しいアンブルフの中は!!》

「……バーナー博士」

《うんうん! 皆まで言わずとも分かるよ!! アンブルフの整備をしていたメカニックは優秀だったようだね! コックピッド以外はそこまで弄らずとも良かったから、いらぬ手間が省けたよ!! まさか、私が予め組み込んでいたシステムを理解した上で、それを阻害しないような作りを計算しメンテナンスするとは……是非、君のメカニックに会ってみたいものだ!! ははは!》

「……! ミッシェル」


 ミッシェルの事を褒められて俺自身も嬉しくなる。

 俺が笑っているのを見た博士は「ご機嫌だね!」と言ってくる。

 俺は顔を振って何時もの表情に戻した。

 そうして、機体の変更点などを教えて欲しいと頼む。

 すると、モニターに無数の情報が投影されて。博士はそれを見せながら説明を始めた。


《先ずは圧力調整システムを新しくした。今までのものはパイロットを慣らす為の仕様だったからね。ナナシ君にはそれは不要であるとハーランド君が判断したので、私もそれを信じて現行のもので一番のものを取り入れた。それにより、今まではかなり無理をして行っていた変則機動や急激な高度の変化にも柔軟に対応できるようになっただろう》

「……コックピッド内も少し広くなりましたね」

《あぁそうだろうそうだろう! これは私独自のプランによる改修でね。今まで使っていたレバーやボタンが無いだろう?

 試しにシステムを起動して、両側に腕を広げて見てくれないか?》

「……分かりました」


 俺は音声コマンドによりシステムを起動した。

 そうして、両腕を広げながら待てば、コックピッド内に明かりが灯る。

 モニターも全て起動し、周囲の景色が見えてきて――!


 ガントレットのように見えたそれが動き始める。

 そうして、広げていた腕を認識し展開された装甲が装着されて行った。

 銀色のそれが両腕を覆い、ゆっくりと定位置に戻れば、開いた手の中に黒い棒状の何かが投影された……これは?


《ははは! 驚いたかね? それは私が開発した新たな操縦システム”フリーハンドオペレーション”だよ! 君も見ていただろうが、あのフルトレースシステムを改良し……うん、まぁ少々機能的には劣るものの従来の操作システムよりも操作の幅が広がった上に、稼働領域が上がった事によってより三次元的な操作を可能としたものだよ! 試しに、投影された疑似レバーを掴まずにそのまま軽く腕を振って見たまえ》

「こうですか……おぉ」


 ゆっくりと右腕を操作する。

 すると、若干の違和感はあるものの腕が動いていた。


《それが腕部での操作であり、脚部やスラスターは別の補助システムを使う事によって操作するのだが……んん! もういいよ! 彼に挨拶を――”ロイド”》

「ロイド?」


 俺が首を傾げていれば、脳内に男の声が響いて来た。

 俺は驚きながら周囲に視線を向ける。

 すると、声の主は内部のシステムであると種を明かす。


《初めましてナナシ様。これよりお供致します。AIのロイドです》

「AIを何で俺の機体に? いや、別に構わないですけど……」

《言っただろう? 脚部などに関しては補助システムを使うと……ふむ。いい機会だ。システムの説明は君に任せよう!》

《畏まりました……それでは僭越ながら、ご説明のほどを……脚部やスラスターの操作をする場合、従来の機体ではレバーと五指に対応したボタンによる並列操作で行っていました。ですが、その場合、同時に手足を動かす事は不可能であり。攻撃などはシステムによる自動補助エイム機能を使うしかありませんした。我が社ではその操作の複雑性と不便さを嘆いており。これからの未来を担う若きパイロットが育たない事に悩んでいました。いえ、正確に言うのであればある程度の操作は出来ても、実戦ではまるで役に立つ事が無い粗悪品ばかりが出来上がってしまうのです》

「……口が悪いな。お前」

《お褒め頂き光栄です……そこで、我が社の叡智の結晶であるアルバート・バーナー博士は従来の操作システムを排除し、新たなる操作システムによるメリウスを開発いたしました。それがフリーハンドオペレーションともう一つのシステム――”脳波リンクアシスト”になります》


 AIであるロイドの説明を聞きながら、俺は感嘆の息を漏らす。

 脳波リンクは知っている。俺が持っている端末でも使えるものだ。

 しかし、それをメリウスほどの巨大なもので使えるとは知らなかった。

 彼は俺の反応に気分を良くして説明を続けた。


《脳波リンクアシストとは、文字通り操縦者と機体システムを脳波により繋ぎ合わせて。その操作をイメージによって行えるようにしたものです。勿論、完全と呼べるまでには至っていませんが。脚部やスラスターに限定する事によって、その機能を活かせるまでには至っています》

「……イメージと言ったな。だが、それでは別の事を考えたりしたらどうなる?」

《問題ありません。このシステムには予め”マインドノイズキャンセラー”が搭載されています。別の思考……例えば、敵がどう動きどのように行動するかを考えていても、マインドノイズキャンセラーが作動する事によってそれが本機を動かすコマンドではないと自動で判別してくれます……まぁそれをするのは私ですがね》


 最後の方は得意げに言っていた。

 俺は便利な機能だと思いつつ、具体的にはどうやって操作をするのか質問した。

 すると、そのタイミングで博士が再びモニターに映った。


《やや! 早く動かしたくて堪らないようだね! よし分かった! では早速、試験場へと移動して見ようか! 案内は私のドローンが行うので、君はそれについて行きなさい。我々もその後ろをついて行くから、安心してトライしてみるといい! 大丈夫だ! 車でも建物でも破壊しても、我々の懐は痛まない! 寧ろ、破壊してやるぞという気持ちで進めばいいよ! ははは!》

《博士!? 何を言っているんですか!! 怒られるのは私なんですよ!!》

《はははは! 無視しろ! さぁレッツゴーだ!》


 博士からの通信が消える。

 そうして、ドローンが俺の機体の前に現れた。

 視線を横に向ければ、ハッチが自動で開き始める。

 あそこから外へと出ればいいようだな……。


《イメージですよナナシ様。イメージするんです。こう散歩している様に》

 

 ロイドはイメージしろと俺に言う。

 そのイメージのもっとマシな具体例なものでもあれば良かったが。

 この際、文句を言っていても仕方がない。

 俺は気を引き締めながら、前を見つめる。

 

 俺はゆっくりと姿勢を正した。

 そうして、シートに体を預けながらイメージをしてみた。

 先ずは右足を前に――!


 イメージをすれば、その動きを反映する様に進み始めた。

 今度は左足だとイメージすれば、思っていた通りに動く。

 俺は良い調子だと思いながら、ゆっくりと歩かせる様にアンブルフを移動させる。


 ガシガシガシと音が響いて、振動が伝わって来る。

 生まれたばかりの獣のような動きではあるが。

 今までのように複雑な操作が不要になってる分、確かに動かしやすいかもしれない……でも、慣れないな。


「……」

《お上手ですよナナシ様。その調子です。1、2。1、2。はい、1、2》

「……すまん。少し静かにしてくれ」

《あ、はい》


 AIというのはこんなに騒がしい物なのか?


 俺はそんな疑問を抱きながらも、慣れない操作に集中する為に思考を正す。

 今はただ動く事だけを考えて、ゆっくりと開かれたハッチを潜り通路を進んでいった。

 一歩ずつ、一歩ずつ進み……ようやくだ。


 建物の外へと出れば、頭上から陽の光が差し込んできた。

 見上げれば雲一つない青空に太陽が浮かんでいて……試験場はどっちだ?


 ドローンを探せば、前方で待機している。

 俺はそれについていくように歩いていく。

 背部センサーで確認すれば、博士はスクーターに乗り込もうとして、ウッドマンさんは指を指しながら何かを言っていた。

 

「……何時もは気にしないものが……こんなに……」

  

 足元をチェックすれば、柵や消火栓なども設置されている。

 自転車置き場も近くにあり、俺はたらりと汗を流しながら少し狼狽えてしまう。

 首を左右に振りながら、何とか集中力を保ちながら再び前へと進み始める。


 先ずは歩く。歩く事だけを考えて……ぅ!?


 イメージが乱れた気がした。

 その瞬間に、左足の動きが中途半端に止まる。

 体勢が崩れそうになり、俺は咄嗟に左手を突き出した。

 その瞬間に、左手が何かに当たり派手な音を立てて何かを破壊した。

 

 

 視線を向けた先には――ウッドマンさんの車があった。


 

 何故、此処に。

 何故、俺の手の先に……ゆっくりと後ろを見る。


 すると、大きく目を見開きながら顔面蒼白のウッドマンさんがいる。

 傍ではバーナー博士が腹を抱えて笑っていた。


《ははははは! やっぱりアレに乗らなくて正解だっただろう!! 見ろ、鉄くずだ!! あはははは!!》

《……そんな。ローンが、まだ……》

「……すみません」


 俺は小さく謝る。

 しかし、ウッドマンさんに俺の声は届かない。

 手の型がついたそれから手を放しながら立ち上がる。

 すると、パラパラと残骸が掌から零れぺしゃんこのそれが地面に転がる……。


 俺はなるべく後ろを見ないようにした。

 そうして、ダラダラと汗を掻きながらもう失敗は出来ないと焦る。


《良かったですね。車で》

「……黙ってくれ」


 俺はぼそりと呟く。

 そうして、目を大きく見開きながらゆっくりと歩行を再開した。


 地面を踏むたびに機体が少し揺れる。

 何時もは何とも思わない揺れも、今は大きく感じて。

 試験場への道が果てしなく遠いように錯覚している俺の心は――大いに焦りを感じていた。

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