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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第三章:苦しみ抗う罪人たち

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072:鋼の心

 降り注ぐ弾丸の雨の中を移動する。

 掠めた箇所から火花が散り、装甲の一部が剥がれる。

 システムが警告を発するが損傷は軽微――まだ戦える。

 

 広い拠点の上空を移動する。

 ブーストを繰り返し、進行方向を何度も変えながら変則的な機動をした。

 体に掛かる負荷を感じながら、歯を強く噛みしめて痛みに耐える。

 スラスターを常に稼働させれば、コアが激しく動いて。

 発生する熱がコックピッド内を温めて、蒸し暑さを感じた。


 ビリビリと振動するレバー。

 すぐそばで聞こえる弾丸の風を裂く音。

 目に見える景色がクリアに見えて。

 豆粒ほどの人間の動きがどれも違っている。


 意識が逸れそうになる。

 気を抜きそうだ。

 それほどまでに目に見えるもの全てに――生命を感じる。

 

 これは本物じゃない。

 今見ている世界は偽物で、過去の光景を模しただけだ。

 それでも、この戦場の空気も肌に感じる熱も。

 俺にとっては紛れも無い本物で――闘志が満ちていく。


 レバーを操作しながら機体を回転。

 上空へと出れば、拠点内に設置された機関砲が俺を狙って攻撃してくる。

 無数の閃光が線となり、その中を駆け抜ける。

 弾丸の雨を縫うように回避。

 そうして、その隙を埋めるように攻撃してくる背後のメリウスたち。

 ライフルを持った指揮官機ともう二機たちが執拗に攻撃を続ける。

 ただの無駄弾ではなく、此方の動きを予測して攻撃してくるのだ。

 嫌らしいやり方で、自由に飛ぶことを奴らは許さない。

 数発が装甲を掠めていき、システムが警告を発する。

 俺はそれを無視しながら、エネルギータンクを目指して疾走する。

 

「流石に慣れているな。振り切れそうにないか」


 揺さぶりを掛けるように機体を揺らす。

 しかし、敵は此方の誘いには一切のらない。

 一定の距離から攻撃を仕掛けていて、逆に此方のしびれを切らそうとしていた。

 頭の切れる指揮官に、静かな心を持つ部下か――羨ましいな。


 再び降下していき、建物の影に隠れながら移動。

 上空から降り注ぐ弾丸の雨を回避。

 背面飛行をしながら、ハンドガンの弾を奴らに向けて乱射した。

 牽制目的であり大したダメージにはならないが、敵は此方の攻撃を冷静に回避していた。

 当たってから判断するのではなく、最悪の事態を考えて回避するか。

 合理的で、何処までも慎重な考えだった。

 

 追走してくるハンターたちは五機で、そのどれもが高機動型を模したメリウスたちだ。

 各々が味方機との距離を開けながらも、此方へと銃口を向けて攻撃を仕掛けて来る。

 回転しながらそれらの攻撃を避けながら、此方もハンドガンの攻撃を仕掛けた。

 俺の攻撃を奴らは華麗な動きで回避し、ブーストによって接近しようとする。

 しかし、そう簡単には俺の領域には入れない。

 合わせる様に此方もブーストしながら、硬直しそうになる敵を狙い――回避。


 スラスターを噴かせて上へと飛べば、弾丸が頭部スレスレを通過していく。

 すかさず攻撃を仕掛けて来た方向に向けてハンドガンの弾を放つ。

 五発の弾丸が飛んでいき、一発の弾丸が敵の装甲を薄く撫でた。

 高い場所にある建物の上に留まっていた敵機体。

 狙撃銃のようなものを持ったそれの装甲の一部が見えていて、火花が散りその箇所だけが歪んでいた。

 チャンスだと思ったが、俺は接近せずにその場から大きく距離を取る。

 すると、横合いから敵メリウスが二機接近して来てブレードによる攻撃を仕掛けて来た。


 互いのブレードは空を切り。

 その何方もが互いの数センチ外を外れていった。

 相打ちになって欲しかったが、それほど馬鹿じゃない。

 二機のメリウスはそのまま互いに逆の方向へと飛びながら、ぎろりと此方を睨んできた。

 

 ただのブレードではなくヒートブレードであり、刃が赤く赤熱している。

 超高温に熱された刃は、単純な作りであるが切れ味は本物だ。

 エネルギー兵器を無力化するような相手であれば、アレほど頼りになる武装も無い。

 物理兵装に特化した装甲であろうとも、アレを喰らえば一たまりも無い。

 奴らはセンサーをキラリと光らせながら猛然と俺へと迫る。

 そんな奴らに牽制するよう弾丸を放つが、奴らは分厚いシールドでバチバチと弾丸を弾いていく――闘牛かよ。


 前面の守りが異様に硬い。

 他のメリウスとは違い。

 その二機のメリウスは近接格闘戦用のチューンナップが施されているように見える。

 背後を見せる事を考えていないような武装だ。

 分厚い鉄板を幾つも張り付けたような武骨なシールドだが、その硬さは本物だ。

 アレ相手にハンドガンだけでは分が悪い。

 エネルギータンクは既にレーダーの範囲内で、攻撃を仕掛ければ破壊できるだろう。

 しかし、攻撃を仕掛けた瞬間に奴らは俺を襲い殺しに来る。

 未来予知でも無く、その未来は誰にでも見えていた。

 

 上空に出過ぎれば、高所からの機関砲による攻撃を受ける。

 回避は出来るが、意識を削がれてしまうから長時間いれば確実に隙が生まれてしまう。

 低すぎれば此方の機動力が活かせない。

 遮蔽物に隠れての移動が最も望ましいように見えるが、それでは道が制限されて狙い撃ちされる。

 その上、慣れていない地形であり、肉眼で確認しながら道を選ぶ必要がある。

 それはロスの上に、意識まで削がれる最悪の選択で――なら、一つだな。

 

 ギリギリの位置で飛行しながら、敵メリウスを捌かなければいけない。

 だが、目的はあくまでタンクの破壊であり、その難度を下げる必要がある。

 タンクへの攻撃を可能とする為にするべき行動は――


「数を――減らすかッ!!」


 くるりと回転し、地面へと向かう。

 格闘戦タイプの二機はそんな俺を追って来る。

 背後からの殺気を感じながら、俺は目を細めた。

 一気に地面へと迫りながらランチャーを起動。

 そうしてロックオンもしないままにランチャーを地面へ向けて――放つ。


《――ッ!》


 敵が息を飲むのが分かった。

 血迷ったかと思っているのだろう。

 だが、そうじゃない。


 ランチャーの弾が地面に当たり爆ぜる。

 地面が大きくめくれ上がり土煙が広がった。

 土に混じって舞い上がった石礫が機体に当たりカチャカチャと音を立てる。

 視界不良となり、奴らが慌てふためいているのが分かる。

 機体の姿勢を調整しながら、地面へと勢いのまま着地。

 俺はそのまま地面に脚部を擦りつけて、最低限のシステムを残してスラスターを消す。


 少しだけコックピッド内が暗くなる。

 ギャリギャリと地面をアンブルフが滑って行く音だけが聞こえて。

 ボコボコの地面であり、何か大きな瓦礫のようなものが脚部に当たり大きく揺れた。

 体勢が崩れるかもしれない。しかし、俺は何もしない。

 耳と目に全神経を集中させながら、何もせずに数秒の時間を待つ。

 

 センサーで煙の動きを観察し――揺れ動いた。


 風の揺らめき、その方向と強さ。

 移動した敵の数は二機。

 風きり音の強さとスラスターの微かな音の響き方から敵の距離を計算。

 頭を回転させながら、敵の移動予測経路をはじき出し――システムを再起動。


 体勢が崩れそうになったそれを素早く持ち直す。

 そうして、スラスターにエネルギーを溜めて――噴射した。


《――戻れッ!! ジェーン、ション!》

《何言って――は?》


 ブーストして一気に煙を抜ける。

 同時に三機のメリウスが煙から飛び出し、俺はパイルバンカーを一機の胸に。

 そうして、もう一機のコックピッドにランチャーの銃口を向けていた。

 スローモーションに感じる世界で、俺は笑みを深めた。


「あばよ」

《ああああぁぁぁ――――…………》

《――――…………》


 無慈悲に攻撃を放つ。

 炸薬が爆ぜて、鉄杭が勢いよく撃ち込まれる。

 がら空きの胴体にめり込み、大きな風穴を開けた。

 そうして、肩部のランチャーから弾が放たれて後方の間抜けを盾事貫く。


 二機の残骸が宙を舞い、全身に敵の返り血を浴びる。

 びちゃびちゃと黒い液体が俺の愛機を穢し。

 敵の断末魔が響いて不自然な形で途絶えた。

 その一瞬の出来事を記憶しながら、俺は強くペダルを踏む。

 俺はそのまま一気にブーストし――爆発音が響いた。


 後方で上がる閃光。

 敵が動揺し呆気に取られている中で。

 レーダーの反応を辿り、密集した建物の中の一つに狙いをつける。

 サーマルによってそこの高熱源反応があるのはバレバレだ。

 俺はランチャーの弾倉を吐き出し、自動で次の弾倉を装填する。

 ガシャリと音が響き新しい弾倉が装填された事を確認し、俺は建物の中に隠されたタンクを狙い――撃つ。


 ランチャーの弾は一直線に向かい。

 倉庫内に隠されたそれに当たり、またしても大きな青い花を咲かせた。

 周囲一帯を巻き込みキラキラと粒子が舞って――怖気が走る。


 強い殺気。果てしないプレッシャー。

 それを感じた瞬間に、俺はハンドガンを咄嗟に構えた。

 が、そこには何もいない。


 

《こっちだ》

「――ッ!?」



 背後から視線を感じた。

 その瞬間に、俺は機体を回転させようとして――衝撃が走る。


 視線を向けようとして、背後から無数の弾丸を浴びせられた。

 それらはアンブルフの装甲を穿ち。

 手足がもぎ取れて、機体の損壊度が跳ね上がった。

 しかし、俺はまだ生きている。

 辛うじて生きているシステム。

 それを使って、俺は死に抗うようにランチャーの銃口を奴へと向ける。


 背後に立っていたのはあの指揮官機だ。

 奴は両手のライフルから弾丸を放ち続けていて。

 俺は奴へと飛翔しながら、歯を食いしばる。

 分かっている。もう詰みである事は、でも、それでも俺は――


 

 

 俺はそんな奴を道連れにする為に弾を――は?


 

 

 影が出来る。

 

 レーダーが何かの接近を告げていた。

 

 それは上部より此方に迫っていて、ゆっくりと見上げれば――ぶつりと映像が途切れる。



 

《――シミュレート終了。お疲れ様です》

「……メリウスだったな。重量に任せた垂直蹴りか……はは、凄いな」


 たった数分のシミュレート。

 映像が途切れたかと思えば、コックピッド内を青い光が優しく満たす。

 体は熱く、息も少し荒かった。


 味方が撃ち落された直後だ。

 普通であれば硬直しすぐには動けない。

 そうタカを括って攻撃すれば、敵は連携を組んで俺へと迫り。

 そのまま敵を見失った俺は蜂のすにされてミンチにされた。

 現実であれば死んでいて……負けは負けだな。

 

 負けた。完全に負けて、任務は失敗だ。

 生き残る事も、あの指揮官機を倒す事も出来なかった。

 しかし、実りは多かった。

 俺は敗れて戦死してしまったが、伝説と同じ舞台で戦えた。


 第三世代型のメリウスと侮っていた部分もあるだろう。

 俺の小さな慢心が生んだ敗北で……いや、違うな。


 慢心なんてのはただの言い訳だ。

 俺が負けた理由は単純明快であり、俺自身が弱く未熟だったから死んだだけだ。

 あのアーサー・クラウンは、もっと性能が下のメリウスで戦っていた筈だ。

 それでも奴はあの手練れ達と戦って、二十機ものメリウスを撃墜し、タンクを全て破壊して見せた。

 凄まじい戦果であり、実際に体験すればそれが如何に難しいか分かる。

 誰も達成できないのも頷けるような難しさで……本当に、笑えて来るな。


「く、くく……楽しいな」


 面白い。心の底から楽しかった。

 ただのシミュレートで此処までの体験が出来る。

 死ぬ間隔を体験できるアレとは違う。

 これはこれでリアリティーがあり、何度でも挑戦できると思える。


 腕時計を確認する。

 すると、まだ時間は沢山あった。

 帰る時になれば、ミッシェルが声を掛けて来るだろう。

 それまでの間、俺はもっと戦ってみたい。

 戦って戦って、もっともっと経験を積んで――成長したい。


「……やるぞ」


 俺は汗を軽く拭う。

 そうして、レバーを握りながら笑みを深めた。


 まるで、新しいおもちゃを与えられた子供のようで。

 こんな姿を仲間に見せれば笑われてしまうだろう。

 でも、笑われたって構わない。

 今はただ戦いに身を投じて、熱い気持ちを敵にぶつけたかった。


 戦いを楽しむのは最低だ。

 でも、この気持ちを抑え込む事は出来ない。


 俺は次の任務を選び決定する。

 そうして、次の戦場へと向かいながら。

 心のままに戦場へと機体を飛び立たせていった。

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