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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第三章:苦しみ抗う罪人たち

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070:カシウス平原の強襲

 ミッシェルの調整が終わり、俺はコックピッドへと乗り込んだ。

 彼女がナビゲートは必要かと聞いてきたが。

 これ以上、彼女の手を煩わせる訳にはいかない。

 簡単な説明を受けてから、俺はモニターに映るものを見ていた。


 過去の傭兵との戦闘や今まで発行された依頼への挑戦。

 過去の傭兵に関しては、現在活躍している傭兵のデータではなく。

 文字通り”過去の人間”となった傭兵のデータがこの中に入れられていた。

 それもその筈だが、公正公平な傭兵統括委員会が。

 現在、戦場にて戦っている傭兵のデータを取得し、勝手に他の傭兵の模擬戦闘での教材にする筈がない。

 そんな事が分かれば、データを盗まれた彼らは怒り狂うだろう。

 だからこそ、引退した傭兵か死亡した傭兵のデータだけを使っている。

 と言っても、その傭兵たちの腕は本物であり、間違いなく強者だ。

 相手にとって不足はなく、燃えるような戦いが出来るだろう。


 今まで発行された依頼に関しては、依頼の達成報告において採取したデータを元に。

 統括委員会の人間がデータを纏め上げてその時に起こった状況を再現するものだ。

 これに関しては、その時に戦闘になった傭兵も登場するらしい。

 最も、その中には現在も活躍している傭兵も稀に含まれているので。

 あくまで今までの実戦での撃墜記録や得意とする戦闘スタイルを元に作ったコピーデータのようだが。

 それでも、本物にも引けを取らないほどの強さは持っているとミッシェルは言っていた。


 ……まぁ、観測するデータだけで作ったから。実物よりも弱かったり強かったりバラつきはあるらしいが。


 別にそんな事はどうでもいい。

 弱ければ拍子抜けだが、強いのであればこちらの経験になる。

 だからこそ、俺は実戦を想定して過去の依頼データを復元してその時の戦闘を行おうとした。


 最初は、あの時の漆黒の暗殺者との戦闘を復元しようかと思った。

 しかし、碌なデータも無い中で再現された奴は確実に本物よりも弱い筈だ。

 そんな相手と戦っても、何一つ実りは無い。

 だからこそ、俺は依頼の中でも難度が高いものを選択する事にした。


 過去の依頼を復元し、挑戦する人間は俺やイザベラの他にもいる。

 そんな限られた人間たちが挑戦しても、達成できないような依頼も勿論あった。

 それらの依頼は、過去に存在した”伝説級”の傭兵が達成した依頼で。

 俺がイザベラから見せてもらったあの戦闘データの持ち主であるアーサー・クラウン。

 そいつしか達成できなかったような依頼もあった。


 アーサー・クラウンはAランクの傭兵だったが。

 雲の上の存在たちに手が届くとまで言わしめた存在だ。

 十番以内に入るだけでも至難の業なのに、最上位とされる五番以内に入れる傭兵は正に伝説だろう。

 アーサー・クラウンはそんな本物の伝説の仲間に入る前に姿を消した。


 何処で何をしているのかは分からないが。

 傭兵統括委員会はクラウンが死亡したと見なして彼の戦闘データを公表している。

 傭兵の中にはクラウンに憧れてこの業界に入った人間もいると酒場でテッドから聞いて事もあった。


「……挑戦する価値はあるな」


 当時の状況からして、クラウンが搭乗していた機体は主に第四世代だろう。

 第五世代の可能性もあるが、そんな事は関係ない。

 彼となるべく同じ状況で戦えるのなら、それほど勉強になる事はないだろう。

 俺はアーサーが行った依頼の中で、有名な”カシウス平原の強襲”を受けた。

 本当の依頼の名前は違うが、状況と年月から見てこれで間違いない。

 俺が選択を終えれば、モニターの色が暗めの青色から徐々に変わって行く。


 白い点の光が一気に広がって――次の瞬間には、何処かの輸送機の中に出ていた。


 轟轟と風の音が響いていて、遠くからは無数の爆発音が聞こえて来た。

 俺のメリウスは固定されていて、ガチャリと音が鳴り固定器具が外されたのが分かった。

 広さにすればかなりのものであり、俺以外にも複数のメリウスが待機している。

 赤いランプが点灯しているが、揺れからして攻撃は受けていないのだろう。

 かなりの高度で飛んでいるか、戦地から離れた場所なのか。

 

 量産型の軍用機体たちが動き始めて、展開されていく両側のハッチの方へと歩いて行った。

 センサーを横に向ければ、安全なエリアで声を荒げながら走っている人間たちがいる。

 作業服を着た人間の他に、見たことも無い軍服を着ている人間もいた。

 出来るかと考えて外の映像と繋げてみれば繋がって、多くのメリウスが空中戦を行っていた。

 少しよどんだ雲の上だから、あまり鮮明には見えないが確かに戦っている。

 地上では、無数の巨大な移動要塞が進軍しているようだ。

 キャタピラ式の要塞であり恐らくは味方のものだ。

 

 地上を走行する戦艦のような見た目のそれ。

 無数の砲塔を敵陣に向けて、展開されているバリアへ一斉に放つ。

 雨のように降り注ぐ砲弾がバリアに当たり煙が広がって――まるでダメージに至っていなかった。

 

 カシウス平原での戦いが今、目の前に広がっていて。

 タンブル人たちの英雄たちが、ケラルト人が駆るメリウスを墜として行っていた。

 ケラルト人は必死だろう。

 敵国へと攻める為には、このエリアを掌握する必要がある。

 この場所こそが起点となり、全てのエリアで発生する戦闘で多大なる影響を与えるからだ。

 物資の補給、全エリアへの兵士の派遣、負傷した兵士や捕虜の輸送。

 まだある、情報を集めて精査し、戦地で戦う味方へと伝える為の中継地点ともなる。

 あらゆる面において、このエリアは深く関わる。

 

 ケラルト人の必死さは十分に伝わる。

 だからこそ、多くの味方のメリウスがバリアを無効化する為に、内部へと侵入しようとしているが。

 堅牢な守りを突破できる者はおらず。敵メリウスとの空中戦に夢中と言った感じだ。

 侵入経路はたった一つであり、その周りの守りは固い。

 侵入しようとしても、内部から入り口に向けられている機関砲の斉射で蜂の巣にされるのがオチだ。

 

 この戦いの光景。

 それらはイザベラから見せてもらったクラウンの戦闘記録で――


《――何をぼさっとしているッ!! 観光をしている時間は無いぞッ!!》

「……誰だ」

《……何を寝ぼけた事を言っている? 恐怖で気でも狂ったか。寝言を言ってないで出撃しろッ!! ブリーフィングで説明した通り一時的に敵エネルギーフィールドの一部分を無効化する特殊弾を指定時間に撃ち込む。必ず役目を果たせ、出来なければお前は終わりだ。分かったなッ!!》


 一方的に説明をしてぶつりと通信を切った男。

 俺が誰なのかと聞けば、通信を繋げて来た男は声を荒げながら俺を叱責する。

 恐らくは、クラウンにゆかりのある人間か。

 彼に対して依頼を出した人間だろう……自然と受け答えが出来たな。


 ディスプレイの一部に目を向ければタイマーが作動している。

 恐らくは、これがゼロになれば弾を撃ち込むのだろう。

 

 凄い再現度だと思いながら、俺はゆっくりと足を動かす。

 下の誘導員の指示に従い、他のメリウス同様に発射台へと移動する。

 そうして、誰もいなくなった空間で多くの量産型メリスウが飛んでいく光景を見ていた。

 背中のランドセルに繋がったスラスターから青い光を噴出して。

 雲の中へと消えていく兵士たち。

 それを静かに見つめながら、俺は小さく笑う。


 従来の高機動戦重視のモデルではない。

 適度に装甲が付けられていて、スラスターに至っては大型のランドセルだ。

 昔の設計思想が現れており、装甲を増設しスラスターの出力も馬鹿みたいに上げるものだろう。

 深緑のカラーリングに、青い単眼センサーが特徴的なそれ。

 耳には通信機となる装置とそこから伸びるアンテナが二本。

 見てくれは重装備の騎士であり、今でいうところの重装甲型メリウスだろうか。


 敵の情報も予め見ていた。

 タンブル人の駆る機体も概ね此方の機体と似ている。

 ネイビーのカラーリングの機体であり、見た目は完全に重装甲型だ。

 違いがあるとすれば、ケラルト人のメリウスがゴテゴテとした見た目であるのなら。

 タンブル人の乗るメリウスは丸みを帯びている。

 それは空気抵抗を極限まで落とす為の工夫であり、一部の重要な拠点を守る防衛隊や士官クラスの兵士の乗るメリウスには更なる工夫も施されていると聞いたことがある。

 何方も第三世代のメリウスであるが、ケラルトの主力量産型メリウス”サーティエイト”は機体性能を高める為に操作が複雑化している。

 そして、タンブルの主力量産型メリウス”バッカニア”は操作の簡略化と整備のしやすさを突き詰めている。

 性能で言えばケラルトのメリウスが上だが、操作性からタンブルのメリウス乗りの方が技量も練度も上だろう。


 ……クラウンがいなければ、ケラルトが負けていたと言う話も強ち嘘ではないな。


 そんな事を考えながら、俺も位置に着く。

 脚部を台の上に載せれば、それがガチャリと固定される。

 背中の部分には、周りへスラスターの熱が伝わらないようにする為の遮蔽版が現れた。

 遅れた俺はたった一人の舞台で立ちながら、ゆっくりと機体の腰をおとした。

 メインスラスターを起動しながら徐々に温めていった。

 背中から小さくエネルギーが噴出する音が聞こえて。

 コアが温まっていき、音だけでスラスターの色が鮮やかな青色になっていくのが分かる。

 そして、モニターを戻して目の前の空を見つめる。

 

 そうして、上部のランプの灯りが変わるのを待ち――青に変わる。


 メインスラスターを一気に噴かせながら、地面を滑る。

 ギャリギャリと音を立てながら発射台を滑り――脚部の固定が外された。


 ガシュリと音が鳴り、一気に空へと舞い上がる。

 空中を舞いながら硝煙と混ざり合った灰色の雲を切り裂いて、一気に下へと降下していった。

 背部のセンサーから確認すれば、大きな翼に複数の大きなプロペラをつけた灰色の大型の輸送機が旋回して戦場から離れていく。

 帰りも載せる気があるのかは分からないが、やけに早い離脱だとは思った。


 俺は渇いた笑みを零す。

 そうしてペダルを踏んで、雲を抜けていく。

 風きり音が響いていて、コックピッド内がカタカタと揺れていた。

 レバーの振動からして風だけではない。

 やはり戦場だけあって無数の爆発が起きているようだった。

 

 朧げに見えていた戦場の姿がハッキリと見えてくる。

 音も大きくなり、爆発の衝撃も軽く伝わって来た。

 俺は武装を構えながら、ドッグファイトの会場を見つめた。

 

 緑とネイビーの機体が入り乱れる。

 互いに背中を取ろうと必死で。

 周りが見えていな奴は、死角から強襲されて墜とされる。

 先程出撃していたメリウスたちも戦っており――頭上から迫ったバッカニアの攻撃で蜂の巣にされていた。


 分厚い装甲に無数の穴が空き。

 センサーから光を消したそれはひらひらと落下していく。

 そうして、地面に激突して派手な爆発を上げていた。

 俺は目を細めながら、互いの戦闘を観察しつつ武器を構えた。

 

 今回、俺が選んだ武装はハンドガンとパイルバンカーだ。

 ハンドガンは銃身を長くして射程を上げたものであり、貫通力を高めた弾を込めてある。

 パイルバンカーは通常のものより携行性を高めた小型のものを装備。

 これは耐久力と連続使用回数が制限されてしまうものの、重量を抑える事が出来る。

 最大でも十回程度が限度だが、今回の任務は掃討戦ではなく敵拠点に設置されたエネルギータンクの破壊が任務だ。

 エネルギータンクを時間内に破壊していけば、敵の防衛装置の出力が弱まり。

 全てを破壊する事が出来れば、バリアを完全に無効化できる。

 防衛装置にエネルギーを回せ無くなれば、敵陣に隙が生まれ突破する事も出来る。

 強襲とは文字通り、敵の陣に突っ込み破壊工作をする事だ。

 クラウンは多くのメリウスを”ついで”に撃墜したが、俺には”まだ”そこまでの事は出来ない。


 武装の重量は抑えて機動力を確保し。

 特殊弾が撃ち込まれた瞬間に、敵陣を一気に突破しながら。

 エネルギータンクを全て破壊するつもりで臨む。

 俺はそう考えながら、更に機体を加速させた。

 

 肩部には追尾性を重視したミサイルポッドと破壊力を突き詰めたランチャーが一つ。

 もしも、敵が此方に向かって来るのであれば、ハンドガンで牽制しながらミサイルで迎撃。

 相手が操作をミスをしようものなら、一気に距離を詰めてバンカーで屠るつもりだ。

 両軍ともに重装甲型のメリウスであり、大型のランドセルによって機動力は挙げているが……たぶん、小回りは効かない筈だ。


 アレほどの大きさで装甲が厚いんだ。

 無理やりにスラスターの出力を上げれば、その分だけ機体は振り回されやすくなる。

 直線移動時は速く見えても、旋回したり変則機動をするには向いていない。

 遠目から確認できる機体を見れば、思っていた通りに妙な動きをしていた。

 直線移動時には速くても、機体を旋回させる時にスピードが遅くなる。

 微々たるものだが、アレは確実に隙だ。


 現代であれば、死に直結する動き。

 クラウンが二十機のメリウスを墜とせたのも頷ける――とは絶対に言えない。


 戦場へと突入すれば、その熱気が機体全体に伝わる。

 すぐそこで爆発が起こり、衝撃が風になって機体を襲う。

 機体が小刻みに震えながらも、俺は冷静に敵の拠点に視線を向けて――レバーを操作した。


 横合いから迫って来た機体。

 レーダーで発見するよりも前に察知して。

 俺は機体を上へと上げながら、敵の攻撃を回避した。

 片手に装備したガトリングンガン。

 弾数の多い攻撃であり、逃れようとする俺を追う。

 高速移動状態で敵が執拗に銃口を向けて連射。

 赤く赤熱した弾丸たちが線となり迫ってきている。

 互いに上下で飛行し大きく距離を離し交差する。

 敵は俺の下をくぐり、此方を見つめながらガトリングガンを放ち続けて――ブースト。


 敵のもう片方の武装から嫌な動きを察知した。

 何かする前に上昇を止めて機体をブーストさせて奴へと接近する。

 すると、その大筒のような何かから破裂するような音が響いた。

 それは一瞬にして眼前に迫り――俺は機体を操作してギリギリで回避した。


 飛んでいったそれが勢いよく爆ぜる。

 後ろから閃光が上がっていた。

 俺はそのまま離れようとする奴へと接近し、至近距離でパイルバンカーを当てて――距離を取る。


 瞬間、奴の胸部装甲が展開されて。

 その中から小型のミサイルが飛翔した。

 それは逃れようとする俺へと迫って来て。

 俺はそれらを肉眼で捉えながら、ロックオンしハンドガンで撃ち落していく。

 流れるように全てを撃ち落しながら宙を舞い――レバーを操作しペダルを踏む。


 一気に下へと降下すれば、先ほどまでいた場所を何かが通過していく。

 それは巨大なブレードを持っていて。

 もしも気づかぬまま飛んでいれば、奴の巨大なブレードで両断されていただろう。

 俺はたらりと冷や汗を流しながら、連携して攻撃してくる敵を警戒しながら拠点へと向かおうとして――ッ!!


 嫌な気配。それを感じた瞬間に、連続して機体をブーストさせる。

 その場から一気に離れれば、地面から一直線に青い光が飛ぶ。

 それはエネルギー兵器であり、射線上にいた機体は蒸発する。

 チラリと見れば、多脚型の”大型重戦機”が此方に狙いをつけていた。

 確実に此方を殺す気で放ってきた。他にも重戦機は存在しているが。

 その周りには護衛用のPB兵などが多数配置されていた。

 それも対メリウス戦用の仰々しい対空兵装を積んでいる……破壊は困難だな。

 

 移動要塞に向けての攻撃も行われている。

 しかし、あの分厚い装甲はただの飾りではないようだ。

 対エネルギー兵器ようの特殊装甲であり、実弾に対してもある程度の効力を発揮している。

 そして、地面を自由に動き回るそれは見かけよりも俊敏で。

 敵の狙いをかき乱しながら、バリアへの攻撃を続けていた。

 

 センサーで捉えた重戦機たちは、SAWが昔開発したエネルギー兵器の一つだ。

 今でこそ更なる機動力の確保であったり、エネルギーの安定化が突き詰められているが。

 アレは連発は不可能であり、エネルギーの安定化も不十分に見える。

 エネルギータンクの光量が弾を放った瞬間に落ちているのがその証拠だ……だが、厄介ではあるな。


 やはりこの時には既にアレほどのエネルギー兵器が存在していたのかと思いつつ。

 俺はこの任務が一筋縄ではいかないと悟る。

 先程の攻撃で墜とされたのは、味方ばかりで。

 敵は連携が取れている上に、戦い慣れている気がした。

 直線でのみしか機動力を発揮できない機体。

 しかし、敵はその弱点を理解した上で、味方と連携して穴を埋めて来た。

 こんな手練ればかりの戦場で、奴は任務を達成するまでに二十機のメリウスを撃墜してみせた……化け物だろう。


 笑みが零れそうであり――レーダーが接近する機影を捉えた。


 強襲作戦であるのに、敵は確実に俺を狙っている。

 いや、精確に言うにはアーサー・クラウンだろう。

 彼を伝説にした任務で、奴らは彼を知っている。

 恐らく、この任務を受ける前からクラウンの名は広まっていたのだろうな。

 視界の端で動く味方機……なるほどな。


 敵は拠点への攻撃を仕掛けている。

 恐らく、この任務の真の狙いは有名人であるクラウンを使って敵を引き付けて。

 敵の守りが薄くなったところへ攻め込もうとしているのだろう。

 苦肉の策であり、一点突破しようとしている。

 戦を仕掛けた味方からすれば、この戦いに敗れれば何の成果も得られなくなってしまう。

 だからこそ、傭兵を使ってでも勝つつもりだったのか……面白いな。


 重要拠点への攻撃。

 全てのエリアへの起点となるこの場所を墜とす為に。

 味方は躍起であり、敵の熱意も殺意に混じって伝わって来る。

 俺は隠すことも無く笑みを深めて――機体をブーストさせた。


 迫りくる敵から逃れる事を止めて突っ込んで行く。

 先頭に出る二機が此方に向けて弾丸を放つ。

 ミサイルも放ち、それら全てが此方に向かって来た。

 俺はそれらを全て見ながら、レバーを一瞬で動かしスラスターを調整する。

 そうして、奴らが運んできた風を利用し――機体をズラした。


 機体スレスレにミサイルが飛び。

 奴らの放った弾丸が装甲を撫でていく。

 不快な音と火を噴く音を聞いて、俺は奴らの間を滑り込んでいく。

 機体スレスレに奴らの機体が見える。

 俺と奴らを隔てる者は根に一つない。

 互いに交差しているが、奴にはもう何も出来ないのだ。

 焦りと恐怖を多分に含んだ視線。

 それを感じながら、俺はスローモーションに感じる世界でバンカーを合わせる。

 敵はセンサーを此方に向けているが、この状態から回避行動を取る事は不可能。

 

「――シィ」


 狙いを定めて――カチャリとボタンを押す。

 

 その瞬間に、パイルバンカーが放たれる。

 炸薬が爆ぜる音が響いて、鉄杭が勢いよく撃ち込まれた。

 そうして、一気に奴の装甲を穿ち胴体に風穴を開けた。

 バラバラと残骸が散らばり、コックピッドまで届いた穴からぼたぼたとオイルが漏れる。

 そのまま敵の機体はセンサーから光を消して落下していった……先ずは一機か。


「伝説には程遠いな」


 俺は笑みを浮かべる。

 そうして、奴らが戻って来る前に敵拠点へと急いで向かう。

 複数の敵が俺を見ており、隙を伺っている。

 まるで、この戦場にいる味方たちが案山子であると言わんばかりの注目度で。


 俺は人気者のアーサー・クラウンを心から尊敬してしまいそうになっていた。

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