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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第二章:世界を動かす者

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029:戦場の景色を

「本当に撮るだけでいいんだな?」

《あぁ、奴らから渡された解析プログラム……ミッシェルが言うにはセンサーで捉えた機体を解析するもんだが。妙なものは無かったらしい。それで戦っている兵士たちを……または、襲い掛って来た傭兵を撮れば良いらしい》

「……もう隠す気も無いのか」

《……だな。まぁ二人なら大丈夫だと思うが……危険と判断したら離脱しろ》

《言われなくてもそうするよ。ナナシ、判断はアンタに任せる》

「……分かった」


 コンソールを叩きながらシステムをチェックする。

 SAWの人間が建てた仮説キャンプ。

 そこには他にも傭兵が数名いて、奴らは暫くすればスラスターを噴かせて飛び立っていった。

 俺はそんな傭兵を横目に見ながらヴァンたちと通信をして。

 改めて依頼について確認していた。


 まさか、現地に到着した翌日から仕事を始めるように言われるとは思わなった。

 ミッシェルはそうなると分かっていたからか。

 移動中に必要な機体のメンテナンスは終わらせていたらしい。

 現在は、キャンプにて指示を待っている状態だ。


 画面に表示される情報を流し見ていく。

 どれも正常値であり、異常は見られない……流石だな。


 それなりに揺れる上に、時間もそんなに無かった筈だ。

 それなのに完璧な仕事をしてくれたミッシェルには頭が上がらない。

 彼女は碌に寝てないらしいから、今は一人で休んでいるらしい。

 帰ったら飯でも奢ってやりたいと思いつつ、俺は全ての確認を終わらせた。

 そうして、レバーを握って指一本ずつに当てられたボタンをカチカチと押す。


 腕部の操作は問題なし。

 脚部の動きも大丈夫だ。

 サブアームも動いていて、武装とのリンクも良好。

 スラスターの調整もちゃんと反映されていて……いけるな。


 今回の武装はエネルギー兵器であるプラズマライフル二丁。

 肩部には予備の武装としてショットプラズマを二丁だ。

 本当は閃光弾かスモーク弾を積んだランチャーを装備する筈だったが。

 SAWの連中がデータの解析度に影響が出る可能性が高いからと禁止してきた。

 その結果、ミサイル類も封じられて仕方なく他の武装を搭載した。


 プラズマライフルは弾丸がいらないからか。

 マガジンを差し込む部分には専用のカートリッジが挿入されている。

 連続して使用する事も出来るらしいが、オーバーヒートを起こす場合があると聞いていた。

 だからこそ、ある程度、間隔を置いて使用しろと言われた。


 ショットプラズマも同じではあるが。

 これは予め設定した出力によって使用できる間隔は変わる。

 エネルギーの減りにも関係しており、出力を抑えればそれだけ連射は出来るだろう。

 しかし、威力が低くなり相手に対して致命傷を与えられない可能性が出る。

 出力を高めれば威力は上がるが、その分、エネルギーの消耗も激しく連続使用も出来なくなってしまう。

 だからこそ、使い慣れていない今はSAWの指示通り初期設定値による使用が好ましい。


 他にもショットプラズマは弾の拡散力も調整できる。

 エネルギー拡散範囲を広げればそれだけ多くの敵を狙えるが。

 これに関しても威力が分散してしまうからあまり弄る事は出来ない。


「……よし」

《……改めて今回の任務内容を言うぜ。今回、お前とイザベラの二人はこの先で行われているムンド国とファルヌス国の戦いに参加してもらう。だが、あくまでお前たちはその両軍の何方かの”エースパイロット”の戦闘データを回収するのが任務だ。何方か一方で良い。この戦場には他にもSAWが雇った傭兵がいるからな。それと何機撃墜しようとも報酬には影響が無いから、無理に戦おうと思うな。執拗に狙って来るのなら戦っても良いが、自分からは仕掛けるな。いいな?》

「……分かった……攻撃を受けた場合は、イザベラか俺のどちらかが応戦すればいいのか?」

《そうだな。二人で応戦した方が早く片付くが。それだと映像が撮れなくなる。悪いが、何方か一人で対処してくれ……今の内に決めておくか?》

《私はどっちでもいいよ。どうする?》


 イザベラは笑みを浮かべて試すように聞いて来た。

 俺は無表情で彼女に対して「俺が戦う」と伝えた。


《……やる気だね。いいよ、それで》

《……よし、それじゃイザベラが戦闘データの収集に専念。ナナシは敵が攻めて来た時の露払いだ》

「了解……そろそろか?」


 二人とやり取りをしていれば、下にいた人間が合図を送って来る。

 ヴァンを見れば誰かからメッセージが届いた様だ。


《……時間だ。それじゃ、二人共頼んだぞ》

《了解》

「了解」


 ヴァンからの通信が消えた。

 そうして、俺はイザベラを見て静かに頷く。

 

 コンソールを後ろへと戻してから、レバーを握りしめる。

 そうして、音声コマンドによってシステムを切り替えた。

 待機状態から戦闘状態に切り替える。

 コクピッド内が光に満たされて。

 俺はレバーを握りながら、ゆっくりと機体を前進させた。

 横に立つイザベラのワンデイも移動を始めて。

 スタッフが指定する位置まで機体を動かした。


 そうして、周りに人がいなくなったのを確認する。

 俺はゆっくりと呼吸を整えて――ペダルを踏む。


 スラスターから音が鳴り。

 青いエネルギーが噴射され機体が持ち上がる。

 ゆっくりと上へと上昇していき、安全圏まで機体を持ち上げた。

 そうして、スイッチを全てオンにして出力を安定させる。


「行くぞ」

《了解》


 イザベラに声を掛けてから、ペダルを深く踏む。

 そうしてレバーを倒しながら、上空を飛行した。

 戦場へと向かいながら、並び立つワンデイを見る。

 彼女は俺と同じようにプラズマライフルを両手に装備していた。

 ゆっくりと手を振りながら問題ない事を伝えてきて。

 俺は戦場へと視線を戻してから、騒々しい前線を見つめた。


 元は綺麗な自然が広がっていた平原だったのか。

 今では見る影も無く、空は黒煙が広がり汚れていた。

 穢されて黒ずんでいる大地には無数の人間が戦っていて。

 防壁を築き城塞から攻撃を続け前線を守っているファルヌスは、やや苦しげだった。

 それもその筈。ムンドは大量の機動兵器を導入している。

 その中にはPBも無数に存在して、堅牢な守りであっても崩されるのは時間の問題だ。

 

 爆発音が連続して響く。

 黒煙が空を汚して、炎に包まれた何かが落ちていく。

 小さな閃光が何度も見えていて、上空を無数のメリウスが飛行している。


 ムンド国が前線をあげてきてファルヌス国は後退してきた。

 ムンドは今、敵の防衛網を崩そうと躍起になっている。

 対するファルヌスもメリウスだけでなく、地上に対空ユニットを幾つも配置して迎撃に当たっていた。

 ムンドの地上侵攻軍は、そんなファルヌスの対空ユニットを潰す為に特攻を仕掛けているらしい。

 何故、そんなごり押しの戦法でファルヌスは後退させられたのか。

 それはムンドのメリウス乗りは、ファルヌスよりも洗練されているからだ。


 ムンドはどの国よりも早くメリウスの利便性に気づき。

 早い段階から自国の主戦力として導入し。

 専門の技術顧問を養成するなどして研究を続けていた。

 今でも、自国のパイロットの練度を高める為に。

 外部から教官となる傭兵をスカウトしていると聞く。

 

 ファルヌスも練度は高いが、ムンドの前では幾分か見劣りする。

 だからこそ、ファルヌスは多くの同盟国を味方にして。

 何としてでもムンドを打倒しようと合作していた。

 ファルヌスは豊富な資源を要する国であり、そこで取られる鉱物は質が高い。

 ムンドはそれを狙っているらしく、彼の国に味方する国々もその利のお零れを貰おうとしているらしい。


 ムンドはこの前線で勝利を収めて。

 更にファルヌス国へと近づこうとしている。

 このまま前線を推し進められれば、何れはムンドはファルヌスに対して降伏勧告を行う筈だ。

 そうなれば、ムンドは勝利を確信し一気に戦争を終わらせるだろう。


 俺はそんな事を考えながら、イザベラに対して対空ユニットに警戒するように言う。

 上空ではメリウスが飛行しているが。

 あまり地上へと近づいていけば、対空ユニットに狙われる可能性がある。

 一応は、両軍から狙われないように識別信号を持っているが……傭兵に対しては無意味だろう。


『傭兵からの攻撃を警戒すればいいんだな』

『あぁそうだ。奴らは国に雇われただけの人間だ。その国の兵士じゃないからこそ、俺たちを攻撃したとしても御咎めは無い。恐らく、両軍の兵士たちからは攻撃されないが……奴らは積極的にお前たちを墜としに来るだろうさ』


 ヴァンとの会話を思い出す。

 危険視するべきは傭兵たち。

 奴らは互いの国の人間から依頼を受けている。

 そして、その内容を予測するのであれば――”邪魔者を消せ”か。


 敵を殺す事も任務。

 そして、俺たちのような自国のメリウスの戦闘データを盗む輩も邪魔者だ。

 兵士たちがSAWを恐れて出来ない事を、奴らなら平然と出来る。

 俺は戦場へと近づく中で、警戒心を高めていった。


《交戦エリアに侵入》


 システムが敵の交戦エリアに入った事を知らせる。

 音が激しくなり、衝撃が此処まで伝わって来た。

 空気そのものが振動していて、レバーがピリピリと揺れる。

 それを感じながら――ッ!!


 遥か彼方より何かが迫って来た。

 イザベラは左へ移動し、俺も右へと機体を動かした。

 俺たちに二人の間を黒煙に包まれたメリウスが通過していって。

 その後ろから二機のカーキ色のメリウスが追いかけていく。

 アレはムンドの機体だ……つまり、アレはファルヌスの……。


 ムンドの兵士たちは俺たちを無視して大破寸前の機体を追う。

 そうして、背後で炸裂音が響き――爆発音が聞こえた。


 撃墜されたようで。

 俺はそれを見る事無く戦場を見渡す。


 地上からは絶えず上空に飛ぶメリウスに向けて砲弾が放たれていた。

 連続して響いていた爆発音はこれであり。

 被弾した敵兵士は爆発し、残骸をぶちまけながら落下していった。

 しかし、そのほとんどが空を切っており。

 上空には白煙が広がっているだけだった。


 ファルヌスのメリウスが交戦している。

 隊から離れたのかそいつは一機で。

 相手は二機でその相手を攻撃している……手慣れているな。


 遠目からその光景を見ていれば。

 一人に集中していたそいつは、背後から迫った敵に気づくことなく。

 胴体部に弾丸を撃ち込まれて撃墜されていた。


 明らかに対メリウス戦に特化した動き。

 一方が敵を引き付けて、もう一方が敵の死角から攻め込み一気に片付ける。

 考えれば誰でも思いつく戦法。

 しかし、混戦状態の中でそれを実行できる人間はそれほどいない。

 新兵であれば尚の事で、いつの間にかチームから離れさせられて孤立する場合が多い。


「やはり、ムンドの兵士の方が練度が高いな」

《だね。これじゃあっと言う間に終わっちまうんじゃ――ん?》


 イザベラが何かに気づく。

 上空を飛行しながら視線を向ければ、ファルヌスの機体らしき物が高速で飛行している。

 相手はムンドの兵士であり、数は三機も引き連れていた。

 傍から見れば危険な状態。

 だが、あのファルヌスの機体からは何かを感じた。


「……アレがそうかもしれない。行くぞ」

《あいよ》


 ペダルを踏みこみ加速する。

 そうして、ファルヌスの兵士のデータが取れる位置まで移動する。

 高速戦闘状態のメリウス四機。

 背後から迫るムンド兵は執拗に弾丸を放ち続けて敵を揺さぶる。

 対してファルヌスの兵士はそんな攻撃を紙一重で躱していた。

 機体を旋回させながら、敵の狙いを乱して――仕掛けるか。


 相手のセンサーが光ったように感じた。

 ファルヌス兵は一気にスラスターを逆噴射させる。

 敵は驚きを露わにして、あわや激突という瞬間にファルヌスの機体が揺れる。


「――あれは!」


 機体を広げて風を強く受けた。

 そうすれば、硬く重いメリウスは強風により機体を一気に動かされた。

 ぐんと機体がズレて、足裏を軽く擦りながらも敵の機体を避けて見せた。

 そうして、そのままファルヌスの兵士はスラスターを再び噴かして加速する。

 背後を取られたムンド兵、その内の一機が射線から逃れようと――だめだ。


 その動きは見抜かれている。

 そう思った瞬間には、ファルヌス兵は手に持ったライフルで正確に敵のコアを射抜いて見せた。

 ムンド兵の一人は機体を激しくスパークしながら落下していき――爆発四散した。


 他の二機はそれにより動揺したのか。

 操作を誤り、大きな動きで逃れようとして――奴は二つのライフルで精確に二機のコアを射抜く。


「……凄い」


 瞬く間に状況を好転させた。

 そうして、あっと言う間に戦い慣れしたムンド兵を三機墜とした。

 紛れも無く奴こそがファルヌスのエースパイロットに違いない。

 

 先程見せたあの動き。

 アレはアーサーの動きで――ッ!


 システムが警告を発する。

 俺はその瞬間に機体を旋回させた。

 後方からミサイルが追尾してきている。

 それを放ったのは――アイツか。


 後方より追って来る敵。

 ロックオンされるまで気づかなかったのは、敵がステルスに特化しているからか。

 此方のレーダーを誤認させるほどのステルス性能。

 見れば奴の機体は限りなく装甲が薄く。

 まるで板と棒を繋げたような貧弱な見た目のそれは、明らかに守りよりも攻めに特化しているのだと分かった。


 迫るミサイル。徐々に距離を詰めてきていて――だったらッ!


 サブアームを動かす。

 そうしてエネルギーを充填させた。

 そうして、目の前に照準を定めて――放つ。


 前方に勢いよく放たれたプラズマ。

 それが一気に拡散し前面に広がる。

 俺はその瞬間に機体を一気に下へと降下させた。

 強いブーストによって体に負荷が掛かるが――どうってことない。


 ミサイルの軌道上から一気に消えて。

 奴は目の前に広がった熱を俺だと誤認した。

 そうして、プラズマの中へと突っ込み――爆発した。


 鮮やかな赤が広がり、煙が上がる。

 俺はそれを無視して、追走してくる敵を見つめた。


 イザベラの方には行っていない。

 狙いは俺であり――オープン回線で通信を繋げてきた。


《ケケケ、いたいたぁ……がっぽり稼がせてもらいますぜぇ》

「……何だ、こいつは?」

 

 不気味な笑みを零す男。

 恐らくは、あの超軽量型のパイロットだろう。

 両手に箱状の何かを装備して。

 両肩には小型のミサイルポッドを装備している。

 闇に紛れて行動するかのように、その装甲は光沢の無い黒い塗料に染まっていて。

 ギョロギョロと赤い複眼センサーを動かしながら俺を見ていた。


 

 何が狙いか。何がしたいのか――関係ない。全て殺す。



 俺は静かに笑う。

 そうして、ペダルを踏み更に加速した。

 敵も俺に合わせて加速し、俺を執拗に追いかける。

 システムがロックオンの警告をしているのを聞きながら――心臓の鼓動を速めていった。

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