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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第二章:世界を動かす者

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023:稲妻が走る

 怪我が完治したのは三日前。

 朝の内に先生に礼を言ってから俺は診療所を後にした。

 そうして、事務所へと戻ればヴァンやイザベラの姿は無く。

 端末を使ってミッシェルに連絡を繋いでみれば、二人は用事で出かけてしまったらしい。

 

 ヴァンはイザベラの紹介で件のマニアに会いに行ってしまった。

 何でも、交易都市では会いたくないようで。

 もっと人がいない秘密の場所で会おうとか何とか……よくは分からなかった。


 イザベラもヴァルハラから列車に乗り込み遠出したらしい。

 何でも珍しいパーツのオークションが別の街で開催される様で、彼女はそれを見に行くと前々から決めていたようだ。

 帰って来るのは四日後で、明日の朝には帰るらしい。


 ミッシェルは機体の整備で忙しく。

 一日目は特にやる事も無く、家の中で筋トレをしていた。

 二日目は外へと出て壁のこちら側を散策していた。

 すると、色々な店を発見しては驚かされた。

 映画の主人公になり切ったり、壮絶な人生を送った過去の偉人の人生を追体験できる店や。

 今一番感じたい感情を強制的に出す事が出来る薬などを売っているドラッグストア。

 他にも、子供や老人。性別の違う人間に一日だけなり切る事が出来るレンタル義体店など……凄かった。


 興味が全くない訳では無い。

 が、少しだけ冒険するだけの勇気が俺には無い。

 ぶらぶらと街の中を散策するだけで時間はあっという間に無くなって。

 陽が沈み始めた頃、事務所へと戻ろうとして――店を一つ発見した。


 そこはただのゲームセンターで。

 中に入れば、レトロなゲームが無数に置かれていた。

 液晶パネルに映し出された平面なゲームで。

 銃の形を模した玩具を使ってゾンビを撃つゲームなどが置いていた。


 しかし、中でも俺が気になったのは――コックピッドを模した筐体だ。


 卵のような形をした黒光りするそれは二台あり。

 それは最新の筐体とは違い何年も前に廃版となったものらしい。

 しかし、性能が劣る訳では無く。

 あまりにもリアル過ぎるから製造を中止されてしまったものらしい。

 店員が言うには、色々な改造が施されていて。

 ゲームのキャラクター以外にも、現実で存在する傭兵の戦闘データもインプットできる様だ。

 最も、それはその道のプロやオークションなどで購入しなければいけないらしいが……俺は自分の掴んでいる物を見る。


 店を発見した時は、時間ももう遅いからと帰った。

 そうして、翌日に再び店に行こうとして事務所に偶々いたミッシェルに声を掛けられて。

 彼女にその筐体の話を言えば、これを渡された。


 それは二枚のディスクであり、一枚にはバグのようなキャラのデータが入っている様だ。

 もう一枚は俺の愛機であるアンブルフのデータが入っていて……いつの間に作っていたんだ?

 

 何でも、このバグキャラのデータの製作者は不明であるらしい。

 そして、他にもこのデータのコピーを買った人間はいるが。

 誰もそいつに勝つ事が出来なかったと聞いている。

 現実に存在する傭兵では無いが、それを遥かに上回る存在で。

 正にバグと言えるようなとんでもないキャラクターらしい。


 何故か、ミッシェルはあの店の筐体を知っていた。

 理由は、彼女もアレでよく遊んでいたようで。

 よく話を聞けば、名のある傭兵の中には専用のシミュレーターを使うよりもアレを使いたがる人間がいるらしい。

 疑似的に体に掛かるGを発生させて、あらゆる感覚を体験させる装置が組み込まれているとか。

 流石に怪我はしないようだが、痛みは感じると聞いてる。それもかなりリアルな。

 それほどまでに現実味があり、とてもスリルがあるものらしいが……楽しみだな。


『ま、勝つ気でやってみな。碧い獣と思って戦って見ればいいんじゃねぇか?』

『……分かった』


 彼女との会話を思い出して。

 俺はゆっくりと息を吐く。

 そうして笑みを浮かべながら、自動扉を開けて中へと入る。

 店内には疎らだが客はいて。

 そのどれもが煙草を吸いながら、エアホッケーやスロットをしていた。

 俺はそんなガラの悪そうな客たちを無視して店の奥に行く。


 薄暗い店内には煙草の臭いが充満している。

 目が痛くなりそうなほど煙たいが。

 こんなのにはとっくに慣れてしまっている。

 ピロピロと少しだけ騒がしい店の中を歩いて行って……誰も使っていないな。


 ゆっくりと足を止めて筐体を見る。

 使用中のライトは点灯していないようで。

 俺は心の中で安堵しながら、ゆっくりと筐体の横に立つ。

 パネルに手を翳せば、卵型のそれの装甲がゆっくりとスライドする。

 開かれたその中へと入り、緑色のシートに腰を落とす。

 展開された装甲は静かに閉じて行って、筐体内は暗闇に包まれた。


 二秒ほど待てば、ポンと音が鳴り周りが明るくなる。

 正に、メリウスのコックピッドのような感じで。

 レバーの感じやシートの座り心地もそれっぽい。

 おまけに後ろにある設定操作用のコンソールもそっくりで……本物みたいだな。

 

 ディスプレイを見れば、金を入れろと表示されている。

 ゲームのタイトルも何も無く、ただ金を入れろと表示されていた。

 

 慣れ親しんだコックピッド内のようなそれに少しだけ感動しながら。

 俺はゆっくりとディスプレイに表示された説明通りに硬貨を投入した。

 チャりチャリと硬貨を三枚入れれば、二択の選択肢が表示される。

 一つは既存のキャラクターの中から対戦相手を選ぶというもの。

 二つ目は、持ってきたディスクを投入して対戦相手を決めるかだ。


 俺は二つ目を選択した。

 すると、選択肢は消えて代わりに下のスロットへと対戦相手に関するディスクを挿入するように表示される。

 丁寧な言葉では無く、本当に入れろと命令口調で書かれている。

 俺はこういうものなのかと思いつつ、言われた通り持ってきたケースを開いてディスクを入れた。

 ディスクが入っていき、次に表示されたのは既存の機体を使うか自分の機体のデータを使うかで。

 これに関しても、俺は自分の愛機を使う事を選択した。

 流れるようにケースを開いて、今度は上部のスロットへとアンブルフのデータが入ったディスクを入れる。

 筐体のシステムは二つのデータの読み込みを初めて……終わったか。

 

 ディスクからの情報の読み取りは十秒ほどで終わった。

 そして、次に表示されたのは邪魔な荷物をボックスへ入れろというもので……面倒だな。


 ガチャリと開いた右足横のボックスへと空のケースや財布などを入れる。

 開いたそれを押しこめばガチャリと音がした。

 ディスプレイに目を向ければ全部入れたのか聞かれた。


「……」


 無言で待てば、文字が消える。

 そうして、コックピッド内が勝手に動き始めた。

 体の形などをセンサーで読み取ったのか。

 シートの位置やペダルの深さまで。

 あらゆるものが自分に最適な状態に調整されていった。


 シートの頭部付近には円盤状の何かが降りてきて。

 それが視界を塞いだかと思えば、周りの視覚がクリアに映し出された。

 何故か、外から少し聞こえていた音も全く聞こえなくなり。

 これはどういう仕組みなのかは不明だが……意識をシステムとリンクさせて疑似的に作った仮想空間にそれを投影したのか?


 頭に触れれば円盤は消えていて、体をペタペタと触れば出撃時に来ていたパイロットスーツに変わっている。

 コックピッド内も完全にアンブルフの物と同じになっていて。

 現実世界のように感じる仮想空間に驚きながら、俺はレバーを握りしめた。

 冷たく硬いそれの感触を確かめながら、俺は前を見た。


 先ほどまでは文字だけだったそれが。

 脳内に直接響くように男の声が聞こえて来た。

 渋い男の声であり、何故か少しだけぶっきらぼうに感じる。

 システムの男は俺に対して言葉を送って来た。

 

『準備は良いか。地形マップを生成する』


 脳内に響いてくる情報。

 それが消えてなくなれば、ディスプレイには戦場となる地形が映し出された。

 前面に映し出されたクリアな映像であり、メリウスよりも大きなビルが数多く並ぶ街。

 しかし、人の気配が無い廃墟で、半ばから破壊されたそれらが空しく聳え立つ。

 灰色に染まった街。雪のように空から灰が降って来る。

 冷たく寂しく、空しさだけが残ったような光景に息を飲む。

 まるで、その街がこの筐体の外に存在しているかのように感じる。

 風の音や機体の外から感じられる温度。生きている世界のように、全てがハッキリと見えていた。


 俺はそんな世界を見て――システムが言葉を発する。


『対戦相手を出現させる。戦闘開始十秒前――』

「……あれか」


 システムの言葉と同時に、遥か上空に何かが現れた。

 青い光を発しながら出現したそれ。

 黄色を基調としたカラーリングのメリウスであり、装甲自体は薄いように見えた。

 両手にはハンドガンらしき武装を装備していて。

 肩部にサブスラスターが二つに、中心にメインが一つ……明らかに高機動型だな。


 機動力を武器に戦う見た目のメリウス。

 図らずも同じ戦闘スタイルらしきそれを見つめながら俺は口角を上げる。

 バクキャラだと言われるほどの性能を持っている敵。

 現実に存在しない相手であろうとも、倒せない事は絶対に無い。

 ならば、俺はこいつを倒して――勘を取り戻すだけだ。


「練習に付き合ってもらう」

《……》


 返事は聞こえない。

 当然だが、相手は作られただけの存在だ。

 戦う為のデータであり、そこには人格も心も無い。

 別にどうでもいい。戦えるのならそれで十分だ。

 怪我から復帰して、恐らくはすぐにまた戦場へと出る。

 その前のウォーミングアップで――システムの秒読みがゼロになる。


「――!」


 瞬間、爆発音のようなものが響く。

 そうして、奴の機体が消えた。

 何処に行ったのかと思って――怖気が走る。


 一気に機体を動かして前方に機体をブーストさせた。

 体に強烈な負荷が掛かり。

 機体は滑る様に地面を疾走した。

 一瞬遅れて、背後から炸裂音が聞こえた。

 そうして、肩部に何かが掠りシステムが被弾を伝えて来た。


「は?」

《……》


 一気に距離を離しながらセンサーを背後に向ける。

 しかし、既にそこには何も無く――敵意を感じた。


 鋭い刃物のようなそれ。

 俺は心臓の鼓動を早めながら、機体を連続させてブーストさせる。

 その瞬間に、真横から炸裂音が響き。

 ガスガスと俺が通った地面を抉り、真横の建物を吹き飛ばした――何だと!?


 爆発音だけが聞こえる。

 視線を向ければ既に敵はいない。

 まるで蜃気楼のように消えているのだ

 

 ――速い。それも桁違いに。

 

 消えた訳じゃない。加速して姿が捉えられなかっただけだ。

 それもレーダーが誤作動を起こすほどの速度で。

 言うのは簡単だ。だが、そんな事を普通の人間は出来ない。

 あり得ない推進力。そして、殺人的な機動で――化け物か。


 ゲームの世界。

 これは遊びだ。

 しかし、奴から感じる殺気は本物で。

 まるで、歴戦の猛者を相手にしているような感覚。

 背筋を冷たい物が常に走り、心臓の鼓動はどんどん速まって行く。

 

 怖い。底の見えない奴を――俺は恐れている。


「――面白いな」


 俺は恐怖を誤魔化すように笑う。

 そうして、機体を加速させながら敵に対して強襲用ライフルの弾丸を放つ。

 姿が見えない敵の機動を予測する。

 敵は熟練の乗り手であり、奴はこう動く。

 そう想像してそこへと弾を撃ち込んだ。

 すると、敵は俺の弾丸を空中で回転しながら華麗に避ける。

 優雅で、軽やかで。まるで踊っているようだ。


 化け物のような敵――まさに、バグキャラだ。


 ツゥっと額から汗を流す。

 そうして笑みを深めながら、俺は廃墟を疾走する。

 すぐ近くで俺を狙い攻撃してくる敵。

 そのハンドガンの弾が地面を抉り、砕け散った残骸が宙を舞う。

 正確無比な射撃であり、気を抜けば確実に殺される。

 奴は聳え立つ障害物など見ていない。

 目で見ていないのにスレスレで回避して縫うように移動している。

 そんな奴へと攻撃を仕掛ければ、奴は更に加速して。

 俺の視界から消えたかと思えば、反対方向から狙ってくる。

 ロックオンを知らせる警告音を聞いてからでは遅い。

 勘で回避しなければ死ぬ。

 避けたかと思っても、弾丸は機体を軽く撫でていて――恐ろしいなッ!


「ははははは!」


 笑みが零れる。

 恐怖で可笑しくなったのか。

 いや、違う――心の底から楽しい。


 あの漆黒の暗殺者も強かった。

 勝てるヴィジョンがまるで見えずとも。

 死ぬ気で戦えば一矢報いる事が出来た。


 が、こいつはどうだ――人間とも思えない。


 あり得ない機動。

 人間では不可能な動きを体現している。

 速さのその先で、奴は踊る様に戦っていた。

 勝てる勝てないの話じゃない――笑えるほどに規格外だ。


 楽しい。楽しいよ。こんな敵と戦えて――笑いたくなる。


 俺はペダルを踏みこみレバーを操作する。

 奴が弾丸を放つ瞬間を見極めてジャンプした。

 地面を強く蹴りつけて空中を飛び、肩部のミサイルを遥か先のビルへと撃ち込んだ。

 ミサイルは直線機動を描いて飛翔し、ビルへと全弾命中した。

 爆発音が響いてビルは残骸を飛び散らせながらゆっくりと崩れていった。

 俺は機体を下へと移動させて、邪魔な建物をギリギリで避けていく。

 奴も俺を追って来ていて、此方を狙っていた。


 

 来るぞ。来るぞ。来いよ――来いッ!!



 両手のライフルを奴へと向ける。

 そうして、微塵も遠慮する事無く連続して撃ち込む。

 奴は機体を回転させながら弾丸を避ける。

 それを見ながら、俺は崩れた建物の中へと突入した。

 下へと落下するビルの残骸の中を駆け抜ける。

 落下する残骸一つ一つを背部センサーで一瞬で認識し。

 それらの落下軌道を予測し、回避していく。

 速度を緩めない。フルスロットルで――突き抜けるッ!!


 奴は俺を追って来る。

 俺は奴へと攻撃を続けながら背中を向けながら突っ切る。

 避けきれずに、残骸が機体に当たりコックピッド内が揺れる。

 ビリビリと振動するレバーを強く握りしめながら。

 俺は歯を強く食いしばって笑う。


 一つ、二つ、三つ――此処だッ!!


 全ての残骸を回避。

 ビルを抜けて――肩部のミサイルを放つ。


 狙うのは奴であり、奴はそこから動けない。

 四方を残骸に阻まれて、得意の機動力を活かせない。

 無理に動かそうとすれば残骸に当たり、そのまま落下するそれに巻き込まれる。

 メリウスは戦闘機並みの速度で動け人間のような動きが出来るが――全てにおいて万能じゃない。


 

 スローモーションに感じる世界。

 俺が放ったミサイルが奴の機体に触れようとしていた。

 どうする。お前はこれをどう――ッ!!



 奴のセンサーが光る。

 そうして、奴はその場で機体を回転させた。

 速度を緩めず回転し、背中のスラスターを派手に噴かせた。

 すると、ミサイルがその風圧で揺れて僅かに軌道がズレる。

 針の穴に糸を通すような繊細な動き。それによって生まれた僅かな隙間。

 奴はその場で回転しながら、スレスレで一発目のミサイルを回避。

 二発目三発目が迫り、奴は機体を人間のように動かして全ての弾丸が奴の機体の隙間を抜けていく。

 まるで、ビルの上から小さな穴にコインを落とすような技術。

 奴はそれを俺に見せつけるようにしてみせた。

 背後で外れたミサイルが残骸に当たり爆発した。

 奴はそれらを見る事無くスラスターを一気に噴かせた。

 

 見えているのか、いや、そんな筈は無い。

 すぐそこに迫ったそれをセンサーで捉えて――出来る訳がない。


 出来たとしても実行するような人間はそうはいない。

 被弾すればただではすまないのに、ハンドガンで撃ち落さずに回避を選択した。

 撃ち落せばまだ爆風による被害だけで済んだかもしれないのに、繊細な動きによる回避を実行した。

 失敗すれば即死で――イカれている。


 常人では出来ない芸当。

 それに舌を巻きながら、迫りくる怪物を睨む。

 もしも、現実でこんな奴に会ったら――想像もしたくない。


 俺はだらだらと汗を流しながら空中戦に臨む。

 進路を阻む残骸を俺たちは避けて。

 互いに得物を向けながら攻撃を続けた。

 銃口から発生する閃光。手に伝わる衝撃。

 それを感じながら、これこそが”戦い”だと俺は思った――

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