103:祭りの会場へ(side:ヴァン)
腕時計を確認する。
時間は既にこの地域に合わさっており。
時間にすれば午前六時ち丁度だ……間に合いそうだな。
カタカタと揺れる輸送機内。
操縦端を軽くに握りながら、チラリと視線を手元に向ける。
計器を細かく確認しつつ、高度を一定に保ち飛行する……まぁオートだけどな。
SAWから指示されたポイントへ向けて、現在は北部地方の上空を飛行していた。
道中で危なげな場面は無く、あったのは最寄りの国から所属を聞かれた時くらいだ。
その時にSAWから発行してもらった書類データを送りつけてやれば。
奴らは何も言わずにその場から去って行った……SAWの影響力は半端ねぇなと思ったよ。
機体を激しく揺らすことなく静かなフライトを楽しむ。
横を見ればミッシェルが席に座りながら目を閉じている……お疲れさん。
ミッシェルにはかなり無理をさせちまった。
この日までに何とか秘密兵器の開発を終わらせてもらって。
問題なく、ハイエネルギーライフルを使用できるようにしてもらった。
それだけじゃなく。こいつは別のものまで速攻で組み立てていやがった。
何でも、いらないと思って没にしていたアイデアを再利用したもんだとか……本当に天才って恐ろしいなぁ。
ポッと出たアイデアだけで何でも作っちまいやがる。
それも用意されたパーツを使って一から組み立てたんだ。
設計図も速攻で書き上げてから、機械のセティイングをミスなく行って。
それで何の不具合も無いもんが魔法のように出来上がってやがる。
こいつを引っ張って来たイザベラは本当に見る目がある。
だからこそ、俺は今でもアイツには頭が上がらないんだ……よく尻に敷かれてるって言われちまうけどな。
「……」
イザベラの尻に敷かれている自分を想像しちまった。
情けない悲鳴を上げている自分がいて、思わず眉間に皺が寄っちまう。
俺は頭を左右に振ってから、操縦端を握りしめて目標のポイントへ向けて飛ぶ。
チラリと横を見れば、随伴する別の輸送機が見える。
アレは不知火でもアーテックスでもない。
恐らくは、別の傭兵たちが乗っているものだろう。
目指すべき場所が同じ味方であるが、互いに何も言わない。
アイツ等は味方ではあるが、仲間と言うほどでもないのだ。
互いに協力関係を結んでいないからこそ、互いに干渉する事はしない。
俺が話すべき相手はキムラさんとガルシアさんだけで……今頃は彼らもポイントへ向かっているだろう。
詳細な数は明かさなかったが。
ざっと見積もって百を軽く超える数の傭兵が集まる見込みだ。
そして、その中にはカメリアの兵やSAWの私兵は入っていない。
それを含めれば、軽い軍隊のようであり……これでも勝てるどうか怪しいのかよ。
自分たちでは片づけられないから人手を集めた。
そして、これだけの数を集めても絶対に勝てるなんて言葉は奴らは使わなかった。
奴らが俺たちに期待しているのは、奴らが使う秘密兵器を使用できるまで災厄にダメージを与える事までだ。
絶対に俺たちだけでは勝てないと決めつけているからこそ、秘密兵器については明かさなかった……軽く見られちまってるな。
期待なんてしなくたっていい。
俺たちは自分たちの仕事を全力でするだけだ。
大丈夫。俺たちはやれるだけの事はした。
災厄の情報も少ないながらも集まって、敵の攻撃パターンも大体が判明している。
触れたが最期であり、勿論、此方は遠距離からの攻撃に徹するつもりだ。
他の傭兵たちも近距離での攻撃なんてしないだろう。
問題があるとすれば、接近してくるメリウス擬きの対応だが。
それに関しては、キムラさんの所の傭兵たちが何とかしてくれる手筈になっていた。
キムラさんの所の傭兵は粒ぞろいであり。
あのSAWですら、キムラさんが他の傭兵を使ってもいいかと聞けば二つ返事で了承していた。
それほど不知火という会社は、この業界では信頼されている。
ランクの不正に関しては確証が無かったが、アーテックスのガルシアさんがあそこまで言い切るのなら間違いないだろう。
今回の作戦では、その隠し玉も引っ張って来るような事を言っていた。
まぁ明言して確約してくれた訳では無いが……出し惜しみはしないだろう。
隠し玉は、アーテックスの分析機の護衛に徹してもらう。
その他の傭兵には、イザベラに襲い掛かる敵の露払いを任せる。
この三社の協力は絶対であり、誰かが裏切ればすぐにこの作戦は破綻する。
分析役がいなければ、相手の弱点を割り出す事は出来ない。
護衛役がいなければ、要らぬ消耗をする事になり、最悪分析機が壊されてしまう。
うちのハイエネルギーライフルが無ければ、決定打となるものが無くなってしまう。
「……裏切るなよぉ。キムラとガルシアぁ」
「……何言ってんだよ……ふあぁ」
「お、起きたのか……たく、仮眠室が空いてるんだからちゃんと……あぁ、いや。増えたんだったな。三人も」
「何寝ぼけてんだぁ? 夢見るのは早いぜ……それで、ナナシはどうだって?」
「……ちょっと遅れるらしい。輸送機のトラブルかなんかで離陸が遅れているらしいぜ……ま、SAWには言っておくから心配はいらねぇよ」
「……アイツも運がねぇな……でも、あと二人も仲間が増えるのか」
ミッシェルは頭に手を置きながらシートをギシギシと揺らす。
こいつの言う通り、ナナシが引っ張って来る二名のパイロットも新たな仲間になる。
最初はセシリアが強引に押し付けようとしていると思ったが。
後からナナシから連絡があって、正式に雇って欲しいなんて言われちまった。
アイツからの頼みを無下には出来ないから受け入れたが……大丈夫かなぁ。
「……何でも実戦経験は皆無らしい。養成所ってところで教育は受けていたらしいけど……お前はどう思う?」
「あぁ? んなこと俺に聞かれても……まぁナナシがいけるっていうんだったら、いけるんじゃねぇの?」
「……まぁアイツは元軍人だし。そういうところは分かってるとは思うけど……でもなぁぁ」
「……分かった。ヴァン、テメェ給料が払えねぇってんで断るセリフを考えてるなぁ?」
「……へへ」
「……図星かよ……ま、まぁ? ナナシも帰って来る上に。姐さんだってパワーアップしてんだ……じゃんじゃん仕事とりゃ良いんだよ! 弱気になるな!」
「……まぁそうだけど……この仕事が無事に終われば、デカい金も入るしな……むふ。むふふふ! やべ、よだれが」
俺は先日の説明の時に依頼が達成された時の報酬金を聞いていた。
手柄によって増えたりもするらしいが。
基本的に支払われる額で言えば……それこそ、一生遊んでいられるほどの金が支払われる。
「アレだけあれば、借金をチャラにしてもおつりが出る……全員分の給料を出したって、まだまだ手元には……新しい車を買うか。いや、新しい倉庫を? いやいや、その前に豪華なお食事でも――あたぁ!!?」
妄想に耽っていれば頭に強い衝撃を感じた。
ひりひりと痛む頭を片手で摩りながら見れば、ミッシェルが拳に息を吹きかけていた。
俺は恨みがましく奴を見つめながら何をするんだと聞く。
すると、奴はジト目で俺を見つめながらぼそりと言う。
「金金金って守銭奴かよ……それも大事だけど。問題はその後に起こる事なんじゃねぇのか? 何も解決してんぇんだぞ。ナナシの問題とかさ」
「…………そんなの分かってるよ……ただ、それに関しては俺にもどうなるかは分かんねぇんだ」
操縦桿を握りながら、俺は眉を顰めさせる。
SAWからのデカい仕事はいえ、引き受けた理由はナナシだ。
アイツが自分の目的を達成する為に必要な事だからと引き受けた。
それもこれも、碧い獣に関係する事だからで……災厄を倒したら何が起きるって言うんだ?
ナナシの話では、災厄を倒せと碧い獣から言われたらしい。
その災厄が持つとされる鍵が重要だと聞かされた。
そもそも、奴らが鍵と呼んでいるそれを見た事も聞いたことも無い。
どんな形をしていて、どうやって災厄から取るのかも聞いていないんだぞ。
それなのに、災厄を倒して手に入れろだなんて……どうしろって言うんだ。
ナナシは何も疑いを持っていない。
まるで、災厄自体を倒せば鍵は自然と手に入ると言わんばかりで……アイツには何が見えているんだ。
鍵もそうだ。そうして、神の野郎らの事もある。
今では奴ら異分子の国の人間だけじゃなく。
とんでもない大物までもがナナシを狙っている。
俺たちの所には来ず。直接、ナナシの所に襲いに行ったって事は……はなから俺たちなんて眼中にねぇんだ。
前と変わらない。
アイツにとって俺のような人間は、道端に転がる小石と同じだ。
そこにある事に何も思わず。
蹴っても転がしても、蚊ほども心が動かない。
生きようが死のうがどうでも良く。
奴は俺たちに対してひどく無関心だった。
神なんて大嫌いだ。
ふんぞり返って人様の全てを見透かしたような物言いをして。
そいつの辿る運命も結末も、全部勝手に決めちまう。
俺は心の底から嫌だった。
自分で選択した事すら、奴がそうしろと指示した事のように感じるからだ。
ナナシが鍵を手にすれば、恐らく奴らも本格的に接触してくるだろう。
何故だか分からないが、俺はナナシを神に会わせてはいけないように思う。
単純に好き嫌いの話ではなく。俺の勘が全力で会わせるなと叫んでいるんだ。
だからこそ、もしも奴らがナナシを強引にでも連れて行こうと言うのなら……その時は俺が……。
操縦端を強く握りしめる。
そうして、真っすぐ前を見つめながら雲の上を進んでいく。
空には綺麗な青空が広がっていて、下には雲が浮かんでいる。
機体を安定させながら進み――通信をキャッチした。
繋いでみればSAWの職員であり、指示に従って降下するように言って来た。
気づけば、目の前に誘導灯を灯したドローンが三機飛んでいる。
チラリと隣を見れば、一緒に飛んでいたそれは後ろへと機体を後退させていた。
俺は指示をする職員に返事をしながら、オートからマニュアルに切り替えた。
そうして、スイッチをパチパチと起動させながら機体を下へと降下させていく。
俺はマイクを口から離しながら、ミッシェルに顔を向ける。
「……何も分かんねぇけどよ……どうにかしてやろうぜ。俺たちでな」
「……ケッ、結局それかよ……わぁったよ。地獄でも何でも付き合ってやるさ」
ミッシェルはひらひらと手を振りながらシートに体を預けて瞼を閉じた。
俺はそんな奴を見て笑みを浮かべる。
そうして、見えて来た簡易的に作られた拠点を見つめながらドローンを追っていく。
……どうにかしてみせる。それが社長として……相棒としての責任だ。




