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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第三章:苦しみ抗う罪人たち

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101:本気でやれるのか?

 ヴァンとの最後の連絡を終えた。

 SAWからの依頼を正式に受注し、多くの傭兵たちが参加するようになったようだ。

 拒否権は無く、ヴァンは監視者がついてしまったと嘆いていた。

 しかし、全てが悪いように進んでいる訳ではない。

 協力関係を結べた傭兵たちもおり、新兵器の開発も順調に進んでいる様だった。


 詳しくは通話では話せないと言われたがかなり強力なものらしい。

 それで災厄を倒せたのならいいが……俺自身にもそれは分からない。


 ヴァンの新兵器とSAWの兵器。

 奴らは自分たちが保有している私設軍隊も使うと言っていたようだ。

 つまり、騙された依頼で出会った傭兵二人や生きていればあの工場で俺が戦った奴も来るかもしれない。


 名のある傭兵であり、奴らが作戦に加わればかなりの戦力になるだろう。

 ヴァンは詳細は不明でありながら、他の傭兵についても調べているようで。

 確認できた傭兵の中にはAランクの傭兵はいなかったらしいが。

 恐らく、それは意図的に情報を伏せているだけだろうと言っていた。


 私設軍隊の投入に隠された秘密兵器。

 それを使えば確実に災厄を屠れるのか……こうしてはいられないな。


 俺は自室の窓から外の景色を眺める。

 まだまだ施設内全体の修繕作業は続いており、瓦礫も少なからず転がっている。

 しかし、警備部隊の職員たちは既に自分たちの研究作業に戻っているようで。

 俺自身も新型のパックの最終調整に取り掛かっていた。


「わん!」

「……ナイト」


 俺の足元で座っている犬。

 名付け親はドリスとライオットで。

 名前の由来は、俺を助けるような行動を度々していると二人が聞いたからだった。

 可愛い奴であり、今では俺の癒しだ。


 両手でナイトを抱き上げながら、一緒に外の景色を眺める。

 今も遥か遠くでヴァンたちは動いている。

 ミッシェルは新兵器の開発を行って、イザベラは自分の機体でシミュレートを繰り返し。

 ヴァンは他の傭兵との連絡を繰り返しながら情報を集めて……俺もだ。


 アンブルフの新たな操作システムは体に馴染んだ。

 強化パックの一通りの扱い方にも慣れて、後は災厄との戦闘を待つだけだ。

 まだ時間はある。やれるだけの事をするまでであり――必ず倒して見せる。


「……お前も来てくれるか?」

「わん!」

「……家にって意味だからな? 間違っても機体に乗り込むなよ」

「……わふ?」

 

 首を傾げているだけでも可愛い。

 俺は顔を擦り寄せながら、優しく撫でてやる。

 ナイトは気持ちよさそうに目を細めていて……誰か来たな。


 今日は休みであり、訓練があったとしても一通りは終えてある。

 出来る事と言えばシミュによる訓練だけで。

 博士たちは輸送機に俺の機体の積み込みを行っている筈だ。

 ヴァンにも倉庫に幾つかのパックを送る事になるとは説明したが……誰だろうか。


 俺はナイトをゆっくりと床に下ろす。

 そうして、扉の前に近づいて……何だ。


 俺は警戒心を解き扉のロックを解除した。

 扉を開けて入ってきたのはドリスとライオットで。

 二人は何故か。大きなリュックを背負っていた。

 真剣そうな顔であり、心なしか鼻息も荒いように感じる。

 俺がジッと二人を見つめていれば、ライオットが顔を強張らせながら「中で話そう」と言う。


 俺は二人の圧に押されて渋々部屋の奥に行く。

 二人は扉をロックしてから中へと入り――ガバリと頭を下げる。


「「俺たち(私たち)を一緒に連れて行ってくれ(ください)!!!」」

「……は?」


 行き成り何を言い出すかと思えば、二人はそんな突拍子もない事を言って来た。

 俺は訳が分からずに表情を凍らせる。

 いや、連れて行ってくれって……本気か?


 俺が戸惑っていれば、部屋のスピーカーから独りでに声が聞こえて来た。

 女の声であり、その声には聞き覚えがある……セシリアさんか?


《あぁ、あぁ……聞こえているかな、ナナシ君。今頃、君の部屋にはライオット君とドリス君が来ている事だろうね……驚いたかな?》

「……説明してください。これは何の真似ですか」

《ははは、そう訝しむ事じゃない……彼らは君の戦いを見て、君の傍にいれば何か得られるものがあるんじゃないかと思ってついて行きたいと言っているんだ。決して私が強制した訳じゃない》

「そうなんだ! あの時、シェルターに避難しようと思ったんだけど。お前の事が心配で……その時にお前の戦いを遠くから見ていたけどよ……やっぱりお前はすげぇよ」

「私もです。実戦経験の無い私たちでも分かるほどに卓越した操縦技術……傭兵の命を懸けた戦い。あれこそ、私がなりたかった傭兵の姿なんです」


 二人は真剣な目を俺に向けながら語る。

 熱意は十分に伝わって来て、本気でついて来ようとしているんだろう。

 これほどの気持ちがあるのなら……いや、ダメだ。


「……熱意があろうとも。お前たちには――無理だ」

「――っ! 何でそんな事!」

「わ、私たちでも!」

「――敵を本気で殺せるのか?」

「「……っ」」


 二人は初めて言葉を詰まらせた。

 俺も意地悪で突き放している訳じゃない。

 ただ全くと言っていいほど経験の無い二人が俺たちについてきてだ。

 敵を前にして臆せずに殺せる事が出来るのかが知りたかった。

 もしも此処で殺せると断言できるのなら、それならそれでいい。

 しかし、少しでも迷いがあるのなら連れて行く訳にはいかない。


 敵との戦闘での迷い。

 一秒ほどの思考が発生すれば、それだけで敵は銃弾を放つ事が出来る。

 戦場では日常茶飯事であり、迷った奴から真っ先に死ぬ。

 そうならない為に、戦場に送られる人間たちは迷うことなく命を奪えるような教育を予め施される。

 味方の中に、敵を殺してはダメなんて叫ぶ奴がいれば……邪魔なだけだ。


 戦場での命の奪い合いは当たり前で。

 それに対して一々気に病むようではダメだ。

 敵は殺す。非戦闘員であろうとも……やる時はやるしかない。


 後悔は後ですればいい。

 戦場でだけでもマシーンのような冷静さが求められる。


「……無理ならそれまでだ。今日はもう」

「やれますッ!」

「……ドリス!?」


 ドリスがハッキリとやれると言った。

 ライオットなら可能性はあったが。

 まさか、ドリスの方からやれるなんて言葉が出るなんて思わなかった。

 俺は本気なのかと彼女の瞳をジッと見つめる。

 ドリスは決して俺から目を逸らすことなく見つめてきて……本気だな。


 本気で覚悟を決めた人間の目だ。

 こういう目をした奴は、大体が腹を括った奴で。

 恐らくは、実際に戦場に出ても確実に敵を殺すだろう。


「……分かった。ドリスはいい……だが、ライオット。お前はダメだ」

「……っ。そんなの!」

「じゃ此処で言え。お前は敵を殺せるのか?」

「……で、出来る!!」

「……そうか、なら……そこで待っていろ」

「……? あ、あぁ」


 俺はゆっくりとテーブルに近づく。

 そうして、引き出しを開けて――拳銃を取り出す。


「「――っ!」」


 スライドを引いてから、黒塗りのオートマチックをライオットに渡す。

 そうして、静かに指を――ナイトに向けた。


「――撃て」

「「――ッ!!?」」


 俺はナイトを撃つように指示する。

 冗談ではなく本気だ。

 ライオットは大きく目を見開きながら俺を見つめる。


 それ以上は一言も発しない。

 これ以上何かを言う必要は無い。

 目的はハッキリしていて、照準を合わせて引き金を引けば良いだけだ。

 俺はライオットから少し離れて様子を伺う。

 

 彼はゆっくりと自分が握っている拳銃に視線を向ける。

 本物であり玩具ではない。

 引き金を引けば弾が発射されて、それが体に当たれば血が流れて大体の奴は死ぬ。

 理解している筈だ。一度でも銃に触れて、その威力を知っているのなら誰しも。


「はぁ……はぁ……はぁ……ぅ!」


 ライオットは呼吸を乱しながらナイトを見る。

 何も理解できていないナイトは首を傾げてライオットを見ていた。

 彼は思わず口を覆う。

 

 ……やはりダメだ。彼を連れて行っても死ぬだけだ。


 俺は暫くライオットを見つめていた。

 彼はゆっくりと口から手を離す。

 そうして、両手で拳銃を持ちながら震える手で照準をナイトに合わせた。

 歯をガチガチと鳴らしていて、今にも手から拳銃が零れ落ちそうだ。


 ドリスはそんな彼を心配そうに見つめるが、決して止めようとはしない。

 恐らく、彼女は何か考えがあると思っているんだろう。

 俺は黙っていてくれる彼女に感謝しながらライオットを見つめる。


 撃てなければそれまでだ。

 もしも、引き金を引く事が出来たのなら……。


 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――あああぁぁぁ!!!」


 

 

 カチャリと音が響く。



 

 引き金を引いた音であり、銃口からは何も出ていない。

 ライオットは唾を口元から垂らしていて――がくりと倒れる。


 リュックがクッションとなり、彼を受け止めた。

 ころりと転がった拳銃を手に持ち、俺はマガジンを取り出して見せた。


「弾は入っていない。そもそも、簡単に武器は持ち込めないからな。これは精巧な作りをしたレプリカだ」

「レプ、リカ……?」


 ライオットはカタカタと震えている。

 俺は微笑みながら、本気でナイトを殺させる訳ないだろうと伝える。

 最初からどれくらいの覚悟があるのか試しただけで。

 こんなにも可愛い犬を殺す筈がない。


「……ドリスは気づいていたのかよ?」

「……ううん、そこまでは……ただ、途中で止めに入るかなって」

「……マヂかよぉぉ」


 ライオットは両手で顔を覆う。

 ナイトはそんな彼の足元に近寄り足をバシバシと叩いていた。

 ライオットは「ごめんよぉ」と謝っている。


《……で、私抜きで話が進んでいる様だが……彼らの覚悟は伝わったかい?》

「……えぇ、まぁ……ただし、俺の一存では何とも。ヴァンに連絡をしてから」

《それは心配無用だ。何故ならば、私が先に彼に連絡したからね!》


 彼女は胸を張る様な感じで言い切った。

 俺は目を細めながら「最初から俺の意思は関係なかった?」と零す。


《いやいや、彼からも言われたよ。ナナシの同意があればってね……ま、これでオーケーだろ?》

「……まぁ……でも、何で二人は荷物を纏めているんだ?」

「え? だってすぐに出発するって」

「……いや、出発は一週間後だが……セシリアさん」

《……あれ? そうだったかなぁ……はは!》


 セシリアさんは笑って誤魔化す。

 そうして、急用が出来たからとぶつりと通信を切断した。

 俺たちは気まずい空気の中で互いを見つめる。


「……まぁ、何と言うか……よろしくな」

「……はい」

「……おう」


 二人は恥ずかしそうにしながらも返事をする。

 そうして、すくりと立ち上がり頭を下げて帰って行った。

 ばたりと扉が閉じられた音が響き、俺は静かに息を吐く。

 下にはナイトが俺を見上げていて……。


「……仲間が増えたな。ナイト」

「わん!」


 勧誘もしていなければ募集もしていなかったが。

 仲間が増える事には意義は無く……少しだけ嬉しく思っていたのは秘密だ。

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