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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第三章:苦しみ抗う罪人たち

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100:それぞれの切り札(side:ヴァン)

 他の会社との協定は結び終えた。

 望みのある十社の内、連絡が取れたのが六つ。

 そこから協力関係を結べたのが……たったの二つか。


 分かっていた。

 傭兵は基本的には他の奴らと群れる事はしない。

 あったとしても同じ会社の仲間や利害が一致した奴らだけだ。

 今回は災厄という大きな敵であり、少なくとも五社は協力関係を結んでくれるんじゃないかと思っていたが……甘かったな。


 他の会社の連中は、災厄についての情報を充分に得られていなかった。

 いや、俺たちもそうだったが。それよりも下の情報しか持っていなかったんだろう。

 敵の存在を軽んじており、中には簡単に倒せると断言していた奴もいた。

 そんな奴らからの協力は逆に邪魔であり、これで良かったとすら思えてしまう。


 今回、協力関係を結んだのが不知火社とアーテックス社の二社だ。

 不知火は火乃国に本社を置く大会社であり、各国に幾つも支店を構えている。

 保有する傭兵の数も多く、その情報精度もかなりのものだ。

 アーテックス社はあまり聞いたことが無い会社だったけど、調べてみればそれなりの実績を積んでいた。

 任務の遂行率も八十五パーセントと高く。俺が依頼主であれば、こういうところを使いたいと思う。


 俺が話を持ち掛けた時に、この二社だけが取り合ってくれた。

 不知火と我が社で情報を交換し信用に足ると判断して彼らは協力関係を結んでくれた。

 アーテックスは、俺と同じように他と協力関係を結ぼうと動いていたらしい。

 二社は今回の作戦の成功を大きく捉えており、是が非でも成功したいと言っていた。

 それだけの熱意があり、俺も同じ気持ちだった。


 腐っても三大企業の一つであるSAWの依頼だ。

 そして、今回動員される傭兵の数も過去の依頼から見てもかなりの規模で。

 この作戦に加わって生き残れただけでも相当な実績になるだろう。

 もしも、手柄を立てる事になれば、俺たちL&P社の名前も広く浸透する。


 ナナシだけじゃない。

 俺たちにも戦う理由はある。

 イザベラは金で、俺はその功績を欲している。

 ミッシェルは純粋に二人の為を思っているが……。


 そんな事を考えていれば、画面越しにマイクを持った男は笑みを浮かべながら話していた。

 

《――という事になります……それでは、ご質問がある方は?》


 現在、俺はパソコンの前に座りながらSAWの職員からの説明を聞いていた。

 リモートであり、皆が顔を隠して話を聞いている。

 俺もそうであり、先ほどまでの説明を思い出していく。


 今回の作戦で交戦する事になる災厄。

 それは超大型のメリウスであると捉えればいいらしい……随分と抽象的な言い方だ。


 飛行能力は無く、動きは鈍いらしい。

 ただかなりの大きさであるからか、耐久力が高い上に少しでも触れれば装甲がズクズクに溶けてしまうと言っていた。

 表面に何か特殊な液体が付着しているようであり、触れただけで即死亡もありえる。

 だからこそ、近接戦闘ではなく、なるべく距離を離しての戦闘を想定して欲しいと言っていた。


 戦場となる場所は、北部地方のノース・カメリア近郊の荒野で。

 敵は恐らく、カメリアに向けて進行すると予想されているらしい。

 傭兵以外にも作戦に加わる人間がいるかと思えば、そういう理由があったのか。


 過去の戦闘で敵が使った戦法は三つある。

 一つは体を使った近接攻撃であり、これは一瞬でも判断を誤れば即死ぬな。

 もう一つは、本体から分離して攻撃を仕掛けて来る”メリウス擬き”だ。

 こいつが一番厄介であり、どういう原理かは知らないがマジでメリウスのように飛行する何かが襲ってくるらしい。

 そして最後が奴にとっての最大の武装――二つの掌から放つ極太の”レーザー砲”だ。


 レーザー兵器を積んでいるだけでも脅威だが。

 奴の掌から放たたれるそれは、もはや戦略兵器と言っても過言ではない。

 高出力のそれは触れただけでも即死であり、発動のタイミングを見極めて素早く回避行動を取る必要がある。


 ……予想はしていた。絶対に一筋縄ではいかないと。


 無数のメリウス擬きによる攻撃と。

 巨大な腕による攻撃も警戒して。

 レーザー兵器自体も強力で……冗談だと言って欲しい。


 全ての攻撃が即死級であり、理不尽な暴力そのものだ。

 まさに、過去に存在した魔王そのものであり……イメージ通りだ。


 俺が思考している間にも、次々に質問が飛ぶ。

 それに応える男は笑みを絶やさない。


 

 どのような作戦でこれを倒すのか――ある一定のダメージを確認できれば、此方の”最終兵器”を投入する。


 その最終兵器の詳細を――情報漏洩の危険性がある為、それは教えられない。


 一定のダメージ量の基準は何か――敵の”修復率”が落ちて動きが鈍った時。


 

 ――待て、修復率?

 


 俺はカタカタとキーボードを叩いてメッセージを送る。

 それを見た男は頷きながら俺の質問に答えた。


《……申し訳ありません。大事な事を言い忘れていました……敵は自己再生能力を持っています。どんなにダメージを負おうとも、すぐに回復してしまいます》


 ……冗談だろ?


 これほどの強力な武装を積み。

 耐久力自体もかなりのものだと予想される中で。

 この出鱈目な魔王様は自己再生機能まであるのか?


 冗談じゃない――こんなの反則だ。


 黙って聞いていた何名かが文字による入力をやめる。

 そうして、合成音声でこの話は受けないと言い始めた。

 俺もこのリスキーな依頼を拒もうと考えて――


《ん? 無理ですよ。それは出来ません。この話を聞いてしまった以上。拒否権はありません》

《は? 何を言って》

《――そのコーヒーは南部のものですね! 私も好きなんですよぉ。あ、後ろの時計のデザイン良いですね。白と黒ですかぁ》

《――》


 息を飲むような音が聞こえた。

 今の話がどういう意味なのかは理解している。


 俺はゆっくりと視線を逸らして窓を見た。

 そこには何も無く、視線だって感じない。

 気配を消しているのか。それとも、今のはただのハッタリだったのか……何方にせよ。逃げる事が出来ない。


《……さて、もう質問はございませんか? それでは……指定のポイントに、約束の時間までに必ずお集り下さい。でなければ……ふふ……それでは皆様、ごきげんよう》


 リモートが終わり、皆が黙ったまま動かない。

 退席する者は一人もおらず……誰かが声を発した。


《……誰か俺たちと手を組みたい奴はいるか?》

《……私たちも協力者を求めます。求める人材はBランク以上で》

「……始まったな」


 俺は次々に声を上げる奴らを冷めた目で見つめる。

 そうして、静かに退席のボタンを押した。


 ゆっくりと椅子に背を預けながら。

 両手で顔を覆い息を吐く。

 こうなる事は少なからず予想していた。

 敵は強大であり、それが分かった途端に他の奴らは協力者を求め始めると……だけど、もう遅い。


 恐怖によって結ばれた協力関係に意味はない。

 最初の段階で正しく敵を認識していないのであれば、そんな脆いだけの絆はすぐに破綻する。

 まだ尻尾を巻いて逃げるなら可愛い方だ。

 問題なのは、此方の足を引っ張り盾にしようとする奴らだ。

 そんなのと協力関係を結んだが最期、棺桶までご一緒する未来しか見えてこない。

 だからこそ、今の話に乗る事はせず。

 俺は黙って退席した……連絡だな。


 端末が震えたのでそれを取る。

 誰なのかと確認すれば、同時に二人であり……よし。


「もしもし? どうかされましたか?」

《……どうかも何も……困った状況になりましたね。ヴァンさん》

《馬鹿どもがこぞって”盾”を集めている……アレはすぐに死ぬな》

「……あはは……まぁ彼らは彼らで上手くやりますよ。たぶん……あ、良い機会ですね。ちょっとキムラさんとガルシアさんにご相談があるんですが。よろしいですかね?」

《ん? 何でしょうか》

《何だ?》

「……敵は再生能力がある上に、強力な武装も積んでいます。恐らく、距離が近づけば近づくほどに危険でしょう……皆さんも遠距離からの攻撃を考えていると思いますが……一点集中攻撃であれば、その再生力を削ぐことが出来るんじゃないでしょうか」


 俺は自らの考えを明かす。

 一点に集中して攻撃を仕掛ければ、再生も追いつかないのではないかと。

 メリウスのような何かであれば十中八九、コアのような何かが隠されている筈だ。

 何処に隠されているのかは分からないが。それを破壊することさえ出来れば勝機はある。


 コアが無くとも、生きているのであれば必ず弱点はある。

 それを見つけ出す事さえ出来れば……ガルシアさんが鼻で笑う。


《良い考えだが。そう容易くはない。よほどの高精度な探知機でもない限り、得体の知れないアレを解析する事は》

「――ありますよね。アーテッドには最新の索敵機が」

《……何を言っている?》


 ガルシアさんは訳が分からないと言いたげだ。

 どんなに口が悪くとも、流石は一つの会社のトップだ。

 そう容易く、自社の切り札を明かしてはくれない。

 不知火の支社長であるキムラさんも何かに気づいていたようでだんまりだ。


「アーテッドの任務遂行率の高さの秘訣は、その分析力の高さにある……情報屋からのものですが。貴方方が受ける依頼は、それなりの期間を要するものが多い……これは敵の情報を収集するだけの時間があるものを敢えて選択しているんじゃないですか?」

《……憶測だな。だが、それを言うのならキムラさんもそうだろ……数名の傭兵のランクを偽装しているな?》

《……いやいや。そんな事出来ませんよ。ランクを決めるのは委員会の仕事で》

《――随伴する傭兵に、敢えて手柄を与えているとすれば?》

《……お二人共、よしましょうよ。我々は仲間ですよ。疑い合うのは》


 二人が逃げようとする。

 互いに探られたくない情報であり――俺は笑みを浮かべる。

 

「――我が社には秘密兵器があります。ハイエネルギーライフルと我々は呼んでいますが。威力は保障しますよ」

《……と、言うと?》


 俺はアッサリと秘密兵器の事を話した。

 キムラさんは興味ありげに聞いてくる。

 俺は端的に此方の要求を伝えた。


「ガルシアさんが分析し弱点を焙りだす。そして、その間の機械の護衛を本気を出したキムラさんの所の秘蔵っ子で……締めは俺たちの秘密兵器です……これなら、SAWの兵器を使わずに全ての手柄が我々のものになります。決して悪い話じゃないでしょう?」

《……絵に描いた餅ということわざが、母国にはあります……それは本当に実現しますか?》

《……アレだけの巨体を、沈められる自信があるのか? 根拠を見せろ》


 二人の言葉を受けて、俺は迷うことなくシミュの映像を送る。

 二人はそれを受け取り、暫くの間、無言でそれを見ていた。


 やがて、二人から息を飲むような声が聞こえて来る。

 俺は二人の言葉を静かに待って……キムラさんはくつくつ笑う。


《あり得ない……ですが。実現不可能ではないですね》

《……面白い。乗ってやろう……勿論、キムラさんも彼の提案通りに》

《えぇ勿論です……ふふ、年甲斐もなく興奮してきましたよ……これぞロマンですね。ヴァン社長》

「そうですね……ロマンです」


 キムラさんと一緒になって笑う。

 ガルシアさんはそんな俺たちにため息を零していた。

 だが、その声からして彼女も楽しそうで。

 俺はこの協力関係であれば、災厄にも一手届くのではないかと思えた。


 

 ……それに、”アイツ”だっているんだ。



 二人には明かさないもう一つの切り札。

 必ず現れるであろう我が社のエース。

 どんな姿で現れるのかを想像しながら、俺は小さく口角を上げた。

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