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【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る  作者: うどん
第三章:苦しみ抗う罪人たち

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099:メカニックの腕(side:ミッシェル)

 作業用のロボットアームが忙しなく動き回る。

 設計図のデータを読み込ませれば、今の時代はメリウスだろうと何だろうとすぐに作れちまう。

 大規模な工場でしか大量生産は出来ないが、俺たち一介のメカニックであればこれだけで十分だ。


 ……まぁ設計図の段階で重大なミスがあれば、ぶっ壊れちまうがな。


 俺はプロだ。

 そんな初歩的なミスは絶対にしない。

 現に、データを反映させた姐さんのシミュでは問題なく使用できていた。

 そこに姐さんから指摘された修正箇所を組み込んで……よし。


 ライフル自体にスラスターを増設。

 姿勢を安定させるものと反動を軽減させるものは出力を1.5倍まで引き上げた。

 これで機動力も安定し、射撃時のブレも抑えられる。

 ターゲットリンクも誤差を修正して……最大稼働時間は精々、40分ってところか。


 何とも中途半端であり、これで連続して弾を放てば更に稼働時間は減る。

 フルで使うとなれば、やはり30分が目安だろう。


 何とか、姐さんの希望通りには出来たが。

 これで災厄を倒せるかは賭けに近い。

 何故ならば、敵は未知数であり、世界を滅ぼしたような化け物だ。

 過剰なまでの威力を持っていようが、敵うかどうかは分からない。

 自信はある。ジャイアントキリングを出来るだけのものには仕上がっている。

 ただ相手が相手で……どうしたものかなぁ。


 カグツチへの改良を施しながら、俺は設計図を展開する。

 これ以上、手を加えるようになれば幾ら機材で組み立てるスピードが早くとも。

 微調整などで時間が使われて、最悪、間に合わない恐れがある。

 組み立てが出来たとしても、最後は人の手による確認が最も重要で。

 それで手を抜けば、パイロットの死に繋がってしまう。


 学生時代から、教師の奴らからそれは嫌というほど叩き込まれていた。

 だからこそ、俺はそこだけはどんなに人手を集めようとも自分で行っている。

 肝心なところを人任せにしていたら、メカニックを名乗れない。


「……三連シリンダーはこれでいい。熱伝導パイプの本数を増やすか……いや、それをしたらタンクに間違って熱が伝わる可能性が高いな……バレルの長さを少し長めに、口径を広げて……いや、ダメだ。重量の増加にエネルギ消費量の増大、許容オーバーだ……いや、待てよ。替えのタンクを積んで……それなら、アレを使えば……いいな。いいじゃねぇか。くふふふ」

「……先輩が笑ってるよ。イヴ」

「……先輩が笑ってるね。アニー」

「……お前らぁ。何呑気に茶飲んでんだよ。殺されるぞ?」

「ベックが休めって言った事にするから大丈夫」

「はぁぁ!? 冗談じゃねぇぞ!! 何で俺の」

「――ベックッ!! なぁに無駄口叩いてんだァァ!!」

「ひぃぃぃ!!」


 考え事の邪魔をする雑音が耳に入ってきた。

 そちらを向けば、工具を持ったまま突っ立っているベックがいた。

 俺は金を払っているのにサボっている奴を叱る。

 すると、アイツは顔面蒼白になりながらある場所を指さした。

 そちらに目を向ければ……何だよ。


 イヴとアニーの双子の姉妹が手を動かして作業をしている。

 身長は140センチほどしかなく小柄であり、着ているカーキ色の作業服も袖を捲っていた。

 イブもアニーも金髪で見分けがつかないほどに背格好も容姿も瓜二つだ。

 髪型も何方もサイドテールであり、唯一の見分け方はイヴの方が機械のような真顔をしていて。

 アニーの方が眠たげに目を少し細めている事だろう。

 学生時代の後輩であるが、あぁ見えて俺と同い年だ。

 アフロ頭のベックは俺よりも年上だけど、俺は推薦入学の上に飛び級だから奴の方が学年は下だった。

 ベックは何かにつけてネガティブであり、よく街の奴らに金をたかられていたが。

 俺がそんなムカつく奴らを締めてやれば、アイツは何故か俺を慕うようになった。


 学校を卒業して車の修理店を開店したとは聞いていた。

 この街だったと思い出して尋ねてみれば、イヴとアニーは暇そうに雑誌を読んでいて。

 ベックに至ってはいかがわしい本を読みながら、だらしなく鼻の下を伸ばしていやがった。

 まぁ街の小さな店だから、そこまで需要が無かったのかもしれないが、それにしても暇そうに見えた。

 俺が依頼を出せば、二つ返事で受けたのも納得できてしまう。

 聞く話によれば、極稀にメリウスなどの修理も手伝っていたようで腕は全く鈍っていなかった。


 ……まぁ目を離せば、こいつらはすぐにサボる……見ない内に、サボり癖がついちまったようだな。

 

 イブとアニーは武器に搭載する為のコアの整備を行っており。

 細かなパーツの点検をしつつ、それらを丁寧にコアに組み込んでいっていた。

 あぁいう細かい作業は、双子に任せれば間違いはない。

 昔からアイツ等はあぁいう細々とした作業が得意で。

 逆に、大掛かりなものやメリウスのような巨大なものの整備は不得意だと二人は公言していた。

 ベックはあの二人とは逆で、メリウスや武装の整備や製造を得意としている。

 お互いの苦手なものを補うようにチームを組んだんだろうと聞けば……アイツ等らしい理由があった。


『良いチームじゃねぇか……でも、何で車の修理店なんだ?』

営業許可証(ライセンス)を取る時にベックがメリウスの修理試験でやらかしたから』

『……ん?』

『緊張していて朝食の時に飲んでいた牛乳が腐っていた事に気づかなかった。それでお腹を下して手元を狂わせて、配線をめちゃくちゃにした上に、メリウスを起動させて試験場の壁を破壊した』

『……は?』

『もっと運の悪い事にお偉いさんの愛車に瓦礫が飛んでいって廃車にした。それで、許可証を取れなくなって車に変えた。笑えるでしょ?』

『……じゃあ、何でお前らはアイツについて行ったんだ?』

『面白かったから。もっと面白いもの見せてくれそうだと思ったから。ね、イヴ』

『うん、アイツは面白い。見ていて飽きない』

『…………はぁ』


 道理で、メリウスではなく車なんかにしていた訳だ。

 アイツらしいと言えばアイツらしい。

 のみの心臓と言われるほどに、アイツは肝っ玉が小さい。

 大事な試験やイベントがあれば、アイツは決まって歯をガチガチと鳴らすほどに緊張していた。

 その所為で、初めてのガールフレンドにもこっぴどく振られて。

 試験でもやらかして、何度も追試を受けさせられていた。


 ……だが、アイツの実力は本物だ。緊張さえしなければ一流だろうさ。


 ベックはチラチラと俺を見ながら、パネルを叩く。 

 怯えたような表情を浮かべながらも、その指の動きには迷いがない。

 追加で取り付ける為のスラスターの内部をメリウスようのボアスコープを動かして調整していく。

 精密作業であり、人間の体をいじくる外科医と同じだ。

 手元のボールを回転させながら、モノクルのようにつけた特殊なレンズを通して内部を見ている。

 傷を発見すれば、アイツはグローブ型の操作器具を動かして傷を埋めるための作業を行う。

 僅かな傷であろうとも見逃す事は許されない。

 ネジの一つでも外れていれば、空中分解の可能性だってある。

 傷一つでも、機械全体に響くようなものだってあるんだ。

 だからこそ、メリウスの修理や製造を商売とする人間たちは必ず許可証を取らなければならない。


 まぁ手伝いなどの補助作業を主にする場合はその限りではない。

 代表責任者がライセンスさえ持っていれば、こいつらはメリウスを弄ってもいい。

 もしも万が一があれば、その責任者が罰を受けるだけだから。


「……お前、手伝いって言ってたけど……”やってた”な?」

「…………も、黙秘で」

「……まぁ、いいよ。別に俺には関係ない……だが、一つ提案がある」

「な、何ですか……まさか、体で払えって」

「――殺すぞ」

「マヂトーンは止めて! 先輩のそれはガチで洒落にならないですから!」


 俺がぎろりと睨めば、アイツは震える……まぁいい。


「――俺たちについてくる気はあるか?」

「……へ?」


 アイツは間の抜けた声を上げて手を止めた。

 俺は手が止まっている事を注意する。

 すると奴はハッとしたように手を動かそうとして、勢いよく二度見をしてきた。

 グローブを脱ぎ捨てながら、唾を飛ばしながら叫んでいた。


「いやいやいや!! そうじゃないでしょ!! え、え!? ままままマジで言ってます!?」

「あぁ? 俺が冗談言うと思うかぁ?」

「い、いや。それは無いですけど……な、何で俺たちなんですか? 他にも優秀な奴はいっぱい」

「…………言ってなかったけどな。うちは前はそれなりに多くの社員を抱えていたんだが……ちっとばかしやらかしてな。今、メカニックをしているのは俺しかいないんだ。姐さんだけならそこまで負担じゃなかったが。最近は新しいパイロットを雇ってな。そいつがまぁとんでもない無茶な操縦をするもんでいっつも機体を壊して帰ってきやがる……つまり、俺だけだと体が保たねぇからさ。お前たちが来てくれたら、すげぇ助かるんだよ」


 俺は正直に理由を話す。

 前から考えていた事で、ヴァンにも愚痴のように零した事がある。

 いや、ナナシのそれは別にいい。

 機体を完璧に修理するのがメカニックの役割であり、金を貰っているのなら仕事はやる。

 ただ、最近は不眠不休で働く事も増えていたのでもう少し人手が欲しいと思っていた。

 ナナシが帰って来れば、本格的にメカニックとしての仕事も増えるだろう。

 ヴァンから聞いた話では、とんでもない機体を貰って来るなんて言ってやがった。


 興味がある反面、恐ろしく思う事もある。

 今までは第四世代の機体をいじくる程度だったが。

 これからは最新の機体を弄る様になる。

 そうなれば、俺一人で全ての作業をしているようでは眠っていられる時間なんて無くなっちまうかもしれない。

 暇よりも忙しい方が良いというが限度がある。


 ヴァンは良い人間がいればスカウトすると言っていて。

 俺に伝手があるのなら、そいつらを雇っても良いと言っていた。

 だから、俺はこいつらの腕を見た上でこいつらを雇った方がい良いと考えた。


 手を動かしながら、チラリとベックを見る。

 すると、奴は口を横一文字にしながらギュッと拳を握っていた……手、止まってるぞ。


「……人手不足ってのは納得出来ました……でも、それで俺たちが良いなんて理解できませんよ……聞いたでしょ? 俺が許可証を貰う時にやらかしたって……イヴとアニーなら大丈夫ですよ。アイツ等は天才だから……でも、俺は、俺なんかは……先輩の足手まといに――ぶぅ!!」


 俺は作業の手を止めてアイツに近づく。

 アイツが気づいて此方に視線を向けた瞬間――俺はアイツを殴った。


 右の拳で思いっきり殴ってやった。

 アイツは錐もみ回転しながら、床をバウンドして転がって行く。

 作業をしていたイブとアニーは目をキラキラと輝かせながら俺を見ていた……見るなよ。


 ベックはカタカタと震えながら、真っ赤に腫れる頬を抑える。

 目に涙を溜めながら、俺に何をするのかと言って来た。


「うじうじうじうじ……テメェ自身が自分を信じないでどうすんだよ? 今までお前がしてきた努力、ぜーんぶ――否定すんのかよ?」

「……っ。で、でも」

「でももだがもねぇんだよ――俺はお前を認めてんだ。お前が欲しい。一緒に来いよ」

「――っ!!」


 ベックは一気に顔を真っ赤にさせる。

 双子は両手で口を覆いながら、ぷるぷると震えていた……殺す。


 俺はへらりと口角を上げた。

 そうして、俺はベックに尋ねる。


「で? お前はどうするんだ? 此処で決めろ。来るのか、来ないのか――お前はどうしたい」


 俺は最後の確認をする。

 此処で断るのならそれまでだ。

 アイツの意思を曲げてまで無理やり連れていく事はしない。

 嫌というのなら、車の整備士として生きればいい。


 ベックは顔を下に向ける。

 プルプルと震えながら固まっていて――がばりと顔を上げる。


「――行きたいでしゅ!!!」

「……しゅ?」

「――最高だよ。アフロ」

「――期待を裏切らない。アフロ」

「うううううるせぇぇ!!!」


 ベックは顔を真っ赤にして両手をぶんぶんと振る。

 双子は頬をリスのように膨らませて目を細めている。

 俺はそんな奴らを見ながら笑みを浮かべた……決まりだな。


「ベックッ! イヴッ! アニーッ! 俺たちと一緒に来るんだなッ!」

「「「はい!」」」

「よし、なら――死ぬ気で働けやぁぁぁ!!!」

「「「……え?」」」


 先ほどまでの熱意が嘘のように引いていく……足りねぇな。

 

 俺は満面の笑みを受かべながら拳を鳴らす。

 奴らはぷるぷると震えて俺を見つめていた。

 全身から殺気を放ちながら、俺自らが熱意がない社員がどういう末路を辿るか伝える。


「サボりたきゃサボればいい……メリウスの装甲にしてやるよ」

「「「ひぃ!!」」」

 

 奴らはそれを聞いてガタガタと震えて、一斉に動き出して作業に集中し始めた。

 どいつもこいつも真剣な顔であり、熱意に溢れている。

 俺はそんな愛すべき仲間の心を受けながら、自らも作業に戻って行く。


 カタカタとパネルを叩き、投影されたライフルに触れて拡大。

 細かい部分までチェックしながら、システムエラーが起きないように調整を加えていく。

 内蔵型のスラスターの機構に、配線の一本たりとも見逃さない。

 微調整を終えて静かに手をパネルの外に置き息を吐く。


 ……L&Pはこれから先、もっとでっかくなる。


 その為には仲間が必要だ。

 姐さんとナナシがもっと活躍できるように――俺たちが全力でバックアップをするんだ。

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