全人類が時間停止能力を有した時計を所持する世界
ある日、突然の贈り物。
時間停止ができる時計。
全ての人類に贈られる。
同時に全員が使い方を理解した。
「へっへっへ……女子更衣室を覗き放題だぁ」
令和の時代になっても考えることは同じである。
とある変態が時間を止めて忍びこもうとした。
だが……。
「あっ……あれ? 誰もいない?」
時間停止には時間停止を。
こうなることを見通して、女の子たちは時間を停止して服を着替えていたのだ。
「はい逮捕ー!」
「え? え?」
「時計は没収です!」
「そんなぁ!」
張り込んでいた警察にあえなく逮捕された覗き魔。
世間ではこんなことが頻発していた。
「早く起きなさーい!」
「あと五分……」
時間停止が容易になったこの世界で、人々は時間を自由に使えるようになった。
「ふぅ……時間停止ぽちっとな」
彼女は時間を止め、服を着替え、朝食を食べ、ゆっくりと歩いて学校へ。
「席について、時間停止解除……と」
「出席とるぞー」
教師が言うと、一瞬で生徒たちが席に現れる。
「今日も遅刻ゼロだな」
当然と言えば当然である。
みんながみんな時間を止められるのだから。
この能力は仕事でも重宝され、円滑に仕事が進められる。
だが……。
「時間の停止のし過ぎで、早老症の問題が深刻化しています」
時間を停止しても、老化は進む。
止めた時間は戻らない。
人々は普通よりも早く老けるようになった。
そして……。
「ぱぱぁ、ままぁ」
「はいはい、なんだい?」
「いいこだねぇ」
老人が子供の世話をするようになる。
よぼよぼの年寄りにしか見えないが、二人はまだ40代である。
全世界でこのような現象が起き、次々に老衰で人が死んでいく。
気づけば幼い子供たちと、時計を没収された人だけが生き残る世界となった。
「ひゃっはー! 俺たちの時代だぁ!」
時計を奪われた者たちは脱獄して好き勝手暴れ始めた。
世界から秩序は失われ、混沌の時代が訪れる。
「ねぇ……この世界はどうなっちゃうの?」
幼い子供が老人に尋ねる。
「どうにもならん。なるようにしかならないさ」
「みんないなくなっちゃった。
まるで時間が止まったみたい」
人がいなくなり、何もかもが奪われた街。
しんと静まり返って音がしない。
「いいや、止まりなんてしないさ。
俺たちが生きている限り、世界は動き続ける」
「そうなんだ!」
「さぁ、出発だ。今日の食い扶持を探さにゃならん」
幼い子を助手席に乗せ、軽トラを走らせる老人。
二人の時間は動き続けている。