9:胸のドキドキ
「ふぅーん……そうなんだー」
佐藤に、新垣先輩を好きになった理由や、伊藤先輩と冬香ちゃんの関係を簡単に説明した。
佐藤は、ふぅー。と一息ついて、私を見た。
「じゃ、俺部活行くわ!」
「え?部活入ってんの?」
「ああ。野球部!じゃあなー!」
佐藤はそのまま部活に向かってしまった。
新垣先輩は部活入ってるのかな?
「ハァー…」
教室から出て、階段を静かに降りた。
二階にある図書室に向かった。
夕方の図書室は人があまりいなくて好き。
静かに図書室に入り、辺りを見回した。
誰もいないかなー?
いないよねー!
勝手に納得して、本を探しはじめた。
適当に本をとって、椅子に座り、読もうとしたら、隣に誰かが座った。
え?おばけ!?
恐る恐る横を見ると、新垣先輩がにこーと笑っていた。
「こんにちは、神崎さん」
「こっ……こにちんは……」
ドキドキしすぎて変な言葉になっちゃったし!
心臓の音がうるさい。
静まれ静まれ静まれ!
「大丈夫?顔真っ赤だよ?」
新垣先輩が顔を覗き込んできた。
「は……はぃっ!大丈夫です!」
「そう?なら良かった」
新垣先輩は、教科書とノートを取出し、勉強をはじめた。
「先輩は……よくここに来るんですか?」
新垣先輩は顔をあげて頷いた。
「毎日来るよ。ここだと落ち着いて勉強できるし、夕方の図書室は好きなんだ」
新垣先輩はそう言って微笑んだ。
素敵!!!!!
「私も……誰もいない夕方の図書室が好きで、よく来るんですよ」
「そうなの?気が合うねー…。神崎さんも一緒に勉強する?」
「え。良いんですか?」
もちろん!という風に頷いてくれた。
私も数学の教科書とノートを取り出した。
いつの間にか、胸のドキドキが消えていた。