12:それぞれの想い
佑介は階段をゆっくり下って行った。
あれから凛に引き止められたが、帰る。と言って抜け出した。
教室に忘れてしまったバックを手に取り、廊下を歩いた。
佑介が向かった先は、図書室だった。
ドアノブに手をかけ、入ろうとした瞬間、
「───佑介?」
後ろから、聞き覚えのある声がした。
振り向くと、冬香が不思議そうな顔をしていた。
凛じゃなかった事に安心して、ほっとした。
「何してるの?」
冬香は首を傾げて聞いてくる。
その仕草に、つい顔が赤くなってしまい、顔を手で隠しながら答えた。
「いや……それより、一緒に帰ろう?」
「うん……いいけど……どうして顔、隠してるの?」
悪戯っぽい声で聞いてくるのに、また顔を赤くした。
「わかったぁ〜♪照れてるんでしょー?可愛いー♪」
「う……うるさい!とにかく帰るぞ!」
冬香はハーイと言って佑介の横に立った。
「……そんなの、お前が可愛いからに決まってるだろ……」
小声で言うと、冬香は照れた顔を隠さず、
「ありがとう」
と、最高の笑みで言った。
二人は手をつなぎ、階段を下って行った。
「────!!」
見てしまった。
見たくない光景を、見てしまった。
早く階段を下ろう。
そう思っているのに、凛の足は動かない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!
雄麻が冬香と仲良く話しているの……見たくなかった。
だから、早く階段を下ろうって……!!
なのに、足は動かない。
呼吸が乱れてくるのを感じる。
手をつないで、幸せそうに歩く二人なんか見たくない!!
咄嗟に、凛は走りだした。
階段を昇って昇って……一年生の教室に逃げ込んだ。
何組かはわからない。
だけど、そんなのどうでもいい。
体の震えが止まらない!
止まれ止まれ止まれ!!!
そう願いながら凛は、ぽたぽたを涙を流した。
「───凛?」
誰かの声が聞こえた。
頭がぼーっとして、よくわからない。
顔をあげると、雄麻に似た少年が、手を差し伸べていた。
「───え?」
何で、そんな事を佐藤が知ってるのよ?
その気持ちを悟ったのか、佐藤は静かに口を開いた。
「凛から聞いた。───いや、凛から俺が聞き出したんだ」
「ど、どういう事……?」
私はおそるおそる聞くと、
「───好きだから……神崎の事」
佐藤がそう言ったと同時に、図書室の扉の、汚れた窓から、新垣先輩の姿があった。
来てくれた……!?
私は、今の状況を忘れて、ドアを開けた。
そこで見たのは───新垣先輩と冬香ちゃんが、手をつないで階段を下る所。
わかってはいた。
二人は付き合ってるんだから……!!
だけど───!
悲しみが怒りが混じり、私はあてもなく走りだした。