都市1・出発
「う~ん……」
次に目が覚めると、そこは見た事もない、不思議な場所でした。
土じゃない硬い地面に、表面がでこぼこした、お城のように大きな箱がたくさん並んでいます。
「おっ、目が覚めたか。妹よ」
「お姉ちゃん、ここは?」
「どうやら、ここが神の言っていた世界らしい。さっき少し周囲を見てきたが、本当に誰一人いないな」
「そうですか……ところで、これは何ですか?」
私は真下、つまり今私が腰を下ろしている乗り物らしき何かを指差し、お姉ちゃんに尋ねました。
「それはワタシ達を運んでくれる原動機付き荷車だ。神がワタシ達にくれた道具のひとつで、神曰くよほど無茶な機動をしない限りはずっと走り続けてくれるらしい」
「へぇ、それは便利ですね」
「そしてもう一つはこれだ」
そう言ってお姉ちゃんは、板状の物を私に見せてきました。表面はほぼ真っ白で、一部にシミのようなものが着いています。
「これは、まな板ですか?」
「さすがにまな板だけあっても無駄だ妹よ。神はこれを白地図と呼んでいた。原理はさっぱり分からないが、ワタシ達が通った場所を勝手に地図として記録してくれるらしい」
「あれ? 行き先が分からない地図に何の意味が?」
「要はこれは、ワタシ達がまだ行っていない場所を確認する為の道具なのだろう」
「なるほど。他にはどんな物が?」
「これだけだ」
「えっ? 食べ物とかは……」
「自給自足、なのだろうな。あるいは、体の時間が止まっているのなら、食糧を必要としないのかも知れないが」
「そうですね。でもそうじゃなかった時に困るので、水や食べ物を探しながら、灯りを消していきましょう」
「分かった、ではそれで行こう。やはり妹は頼りになるな」
「そんな事ないですよ。私なんてお姉ちゃんに迷惑かけてばかりで……」
「それは違うぞ、妹よ」
「え?」
お姉ちゃんは、いつもと違う真剣な目で私をじっと見つめてきました。
「ならばなぜ、この試練はワタシ達二人で挑む事になったのか? それは、突破するには両方の力が必要だからだ」
「……」
「神の試練は、受ける者が必ず達成できるものが用意されると言う。逆に言えば、二人で挑むこの試練は、どちらか片方だけでは不可能だったはずだ」
「そう、ですね」
お姉ちゃんはとても勘が良く、何となくでいろんな事をそつなくこなしてしまいます。
でもだからと言って決して万能ではない事は、ずっとそばにいた私が一番良く知っています。
「私は、私のできる事を精一杯頑張ります」
「よし、その意気だ。それでは出発しようか」
「はい!」
こうして私達は、長くて短い消灯の旅に出発したのでした。