成人の儀
「ところで、肝心の儀式は具体的にどうすれば良いのだ?」
確かにお姉ちゃんの言う通り、噂では聞いていても、実際に何をするのかは私も知りません。
噂によると、神様と交信する事で、直接試練を授かるのだそうです。そして、その試練を突破して初めて大人として認められます。
他所では分かりませんが、この地域ではずっと昔から続く伝統行事で、突破できなかった人は今まで一人もいないのだとか。
「静かに神に祈りを捧げ、神託をじっと待つのです」
「それだけなのか?」
「はい、それだけです」
「なんだ、それなら家でも出来たではないか」
「可能ではあります、神は場所など選びませんから。しかし、貴方達はどうでしょう。ご自宅でじっと静かに祈り続ける事ができますか?」
確かに、家だといろいろ誘惑があって、じっとしているのは難しいでしょう。お姉ちゃんが。
「ふむ、それなら仕方が無い」
お姉ちゃん自身も自覚はあるようです。
「では、始めましょうか」
「その前に少し休憩させてはくれないか」
私とは逆に、お姉ちゃんは大人顔負けの体力を持っています。なので、休憩の進言はおそらく私のためでしょう。大丈夫だと言ったのに、お姉ちゃんったら。
「できれば、菓子か果物があると嬉しい」
……目的はそっち、かな?
「はっはっは。それでは、成人祝いに渡す予定だった物の一部を、先に差し上げましょうか」
そう言って神官様は、奥からいくつかの果物を本当に出してきてくれました。
「おお、気が利くではないか。では早速」
「お姉ちゃん、行儀が悪いですよ」
私はお姉ちゃんをたしなめながら、一緒に持ってきてもらった刃物で果物を切り分け、皮を剥いていきます。
「はい、どうぞ」
「うむ、いただこう」
私も一緒においしく果物をいただき、いよいよ成人の儀の始まりです。
「神よ、今まさに羽ばたかんとする二人に導きを……」
神官様の言葉を受けながら、静かに目を閉じていると、やがて不思議な感覚がしました。周囲の空気が一瞬で変わったような、もしくは違う場所に瞬間移動したような、そんな感じです。
思わず目を開けると、やはりそこはさっきまでいた神殿ではありません。
全体が石で造られた広い建物の中で、さっきまでの場所よりよっぽど神殿らしいです。
「よく来ました、人の子よ」
突然、一方から柔らかい女性の声が聞こえてきました。
声のした方に振り向くと、そこには声の印象通りの、綺麗で優しそうな女性が立っていました。