クリスはお友だち
今日は兄弟3人で、最近街で流行ってる、ケンポーの演武ってやつを見に来たよ。
今日の僕は街っ子スタイル。
皆が着ているような簡素なシャツに半ズボン。
動きやすくていいね、これ。
この前、グレース嬢が拐われたばっかりだから、一般人に変装してきたんだよ。
兄上は分厚いメガネをかけて、髪の毛をもっさりしてるし、兄さまは前髪で顔を隠してる。
ただ、兄上は僕と同じくシンプルなシャツと、ズボンなのに、兄さまはどこから手に入れたのか、はっきり言って悪趣味、ド派手なシャツを着てる。
逆に目立つよね、それ。
勿論、街中には警備の人も沢山いるよ。
パッと見、僕たち3人だけなんだけど、こっそり護衛してくれてる人もいるんだって。
お仕事ご苦労様です。
それにしてもケンポーって何だろう。
会場に着くと、僕を抱っこしたがる兄上をよけて、席に座った。
なんだか強そうな人達が出てきたぞ。
演武が始まると、僕はだんだん前のめり。
何あれ、何あれ!めっちゃ格好いい!!
僕、大興奮。魔法の才能はなかったけど、体を鍛えるのならできるんじゃない?
「兄上、ぼくあれやりたい!」
兄上は僕の願いを叶える為に、すごーく迅速に行動してくれました。
会場の入口のところで、入会申込みしただけだけど。
これで僕は門下生だ。
さてさて、始めてのお稽古の日です。
僕は今、演武をしていた人達が着ていたような変わった服を着てるよ。
集まってるのは僕と同じくらいの年頃の子が10人くらいなんだけど、びっくり。ひとりだけ、すごく可愛い女の子がいる。本当に可愛い。
師範っていう人が、ケンポーとは~とちょっと難しいお話をして、初日の今日は自己紹介になった。
初心者グループで、皆今日が始めてなんだって。
因みに僕は、お父さんがお城で働いてる関係で、家族皆お城の敷地内に住んでる一般人って事になってるよ。
だいたいは合ってるよね。
だから自己紹介も「ノアです!」だ。
僕はまだお仕事してないから、一般の人は僕の顔を知らない。
今の僕は王子じゃないのだ。
ちょっと楽しいぞ。
女の子はクリスちゃんだって。
こんな可愛い子と仲良くなれたら嬉しいな。
新しい恋の予感にドキドキの僕。
まずはお掃除からさせられました。
自分達でお掃除するんだって!
それから挨拶についてを教えてもらって、いちばん基礎の型を教わったよ。
ちょっとだけね。
それで、終わったらまたお掃除。
あんまり僕が思ってたケンポーはしなかった。
僕、ここに通ったら特技お掃除になるんじゃない?
そんな感じだったけど、僕は汗だくだった。皆も同じみたい。
服がベタベタ気持ち悪くて、速く着替えたい。
僕たちは急いで服を脱ぎ捨て、濡らしたタオルで体を拭いた。すごく、さっぱり~。
と、思ってたら、その中にクリスもいた。
ちょっと、ダメだよ!女の子がこんな皆の前で服を脱ぐなんて!!
僕がアワアワしてると、クリスはきょとんとして「どうしたの?」だって。
僕が女の子は皆の前で服を脱いだらダメだよって、言ったら皆して大爆笑。
ここって、女の子は入れないんだって。
女人禁制。
クリスはちょっとムッとしてた。
......ごめんね!
クリスにはお友だちとして仲良くしてもらおう。
ケンポーは少林寺風なこの世界独自の武術です。