初恋はゾーイさま
設定ゆるゆるです。
雷に打たれたって、こういうのだと思う。
「ぼくと結婚してください!」
僕を抱き起こしてくれた素敵なご令嬢に、みんなの前で公開プロポーズ。
だって、兄さまにとられたら困るもん。転んだ僕を心配して駆けつけた兄さまは、お口をあんぐり。お目目はまん丸。
「国王陛下の御許しがいただけましたら...」と、ご令嬢は僕に微笑んでくれました。
もしかして顔が真っ赤になってるんじゃないかな、僕。なんだかとってもあっついや。
「では、父上に許可をいただいてきます!」僕は大きな声で返事をし、父上のところへ走り出した。
後ろで兄さまが何か叫んでいたけど、それどころじゃないよね。
だって僕ってば6歳にして運命の出会いってやつをしちゃったんだ。
「でんかー!お待ち下さい、でんかーー!!」僕の後ろからジョセフが付いてくる。ジョセフはおじいちゃんだから、走るのが遅いんだ。僕もまだあんまり速く走れないけど。
僕が父上のお部屋に向かっていると、丁度お仕事が終わったのか、父上が歩いて来た。やったね、ナイスタイミーング☆
「ちーちーうーえーーー!!」
僕が大きな声で父上を呼ぶと、父上の影から兄上が出てきた。
「ノア!」
「ぐぇっ」
兄上が僕の事、思いっきり抱きしめるから、蛙が潰れたような声がでたよ。
兄上はブラコンなんだ。僕の事だいすきなの。
因みに僕は三人兄弟。
兄上は第一王子のオリバー、僕より10歳お兄ちゃん。兄さまは第二王子のフレディ、僕より7歳お兄ちゃん。それで末っ子が僕、ノア6歳。みんなに甘やかされてノビノビ育ってるところだよ。末っ子ってお得だね。兄上とか見てたら大変そうだもの。
兄上にはグレースっていう可愛い婚約者がいるよ。公爵家のお嬢さまってやつだね。
それで、今日は兄さまの婚約者を探すパーティーだったんだけど、こっそり偵察に行った僕の方が運命の出会いをしちゃったんだ!
「父上、ぼく婚約したい方がいるんですけど、婚約してもいいですか?もうプロポーズはしました。」
「ノア!?」
「どこのお嬢さんに!?」
父上も兄上も、兄さまと同じ顔になってる。あれれ、今気づいたけど僕、さっきのご令嬢のお名前聞くの忘れてた。ジョセフに聞いたらわかるかな?
「ジョセフー、ぼくさっきお名前聞くの忘れちゃった。わかる?」
「先程の御令嬢は、エルギン伯爵家のゾーイ様にございます。」
「父上、ゾーイさまだって!いいよね?ね?」
そっかー、ゾーイさまかぁー、後でちゃんと自己紹介しなくちゃね。
「ノア、とりあえず落ち着きなさい。お相手のご両親ともお話ししなければならないし、今日すぐに婚約という事にはならないんだよ。ゾーイ嬢にもお話を聞かないといけないしね。それに、まずはフレディの婚約者を決めなければな...」
「ノアに婚約者なんてまだ早いだろう。そうだ、兄上とピクニックにでも行こうか!楽しいぞ~」
二人とも全然わかってないんだから。あんなに素敵なゾーイさまだもの。
「ピクニックしてる間に他の男が求婚しちゃうよ!それで婚約しちゃったらどうするのさ!?」
と、父上を急かし、ゾーイさまのお父さまとお話あいしてくれる事になったんだ。
僕はその事を報告しようと急いでパーティー会場に戻ったんだけど、父上と兄上がモタモタしてるからパーティーはお開きになって、ゾーイさまも帰ってしまったんだって。
次はいつ会えるのかな。早く会いたいな。次に会う時は婚約者になってたらいいな。
それから毎日父上をせっついたお陰で、ゾーイさまは僕の婚約者候補になったんだ。
なんで候補なの?って、ちょっと不満だったんだけど、兄さまの婚約者が決まってないからだよって言われてしまった。
兄さまのフレディはちょっと意地悪だから、なかなか婚約してくれる人が見つからないのかも。早く見つけてよね、って言ったらフレディにひっぱたかれた。泣いた。
そしたらそれを見ていた兄上が怒り狂って二人は取っ組み合いの大喧嘩になってしまった。
誰にも止められなくて、みんながオロオロしてたんだけど最後はぶちギレた母上が止めてくれて収まったよ。二人とも傷だらけだけど、僕のせいじゃないよね。
僕は毎日お勉強やお作法を頑張ったらゾーイさまに会わせてもらえると言われて、いつも以上に頑張った。いつもは眠くなってウトウトしちゃうコナー先生のお話も一生懸命聞いた。そしたら先生感激してたよ。たまにはちゃんと聞いてあげないとダメだね、ごめんね。
毎日頑張ったお陰で、3日後にゾーイさまに会える事になった。
どうしよう。プレゼントを用意しなくちゃ!何がいいかな?
僕は兄上にお買い物に行きたいとおねだりした。兄上は飛び付いて喜んだ。僕は買い物に行けて嬉しい、兄上は僕と出かけられて嬉しい。Win-Winってやつだね。
父上にお小遣いをもらわなくっちゃ。
本当は婚約指輪を買いたかったんだけど、僕の軍資金は3000イェン。ちょっと指輪は無理みたい。僕のお小遣いは国民の血税なんだって。ムダ遣いはダメですよ。だって。僕ってばまだ無職だもの、仕方ないよね。
兄上と手を繋いでお店を見て回る。兄上が、あれが僕に似合う、これも僕に似合うといちいちうるさい。僕まだ何も買ってないのに、兄上はめちゃめちゃ買い物してる。兄上の侍従のジェスは荷物をいっぱい持たされてる。重そう。それ全部僕用なんだよね、ごめんねジェス。
ポッケに入れてたアメをジェスにあげたら兄上も欲しがってうるさかったので、兄上の口にもアメを放り込んであげた。少しおとなしくなった。
兄上がグレース嬢にもお土産を買うと言って、小さな雑貨店に寄った。グレース嬢はここの雑貨店の猫グッズを集めてるんだって。兄上が猫グッズを見ている間に僕もお店の中を見て回った。そしたら、とってもキレイなリボンが目についた。淡い薄紅色に白銀の糸で細かい刺繍がされていて、ゾーイさまにとっても似合うんじゃないかなって思った。お値段2980イェン。ビビビッときたので、僕はゾーイさまへのプレゼントをこのリボンに決めた。
「プレゼントなので包んでください。」
ちゃんとひとりで買えました。実は僕の初めてのお買い物。兄上が後ろでニヨニヨ見てるけど、無事目的達成、大満足。婚約指輪は僕が大人になってお仕事をするようになってから贈ろう。
そうして今日は、待ちに待ったゾーイさまに会える日。お城に来てくれるんだって。ソワソワ。僕は時間よりかなり早いけど、ゾーイさまに会いたくてこっそり門の近くに隠れて待っていた。かくれんぼは得意だよ。どこか遠くでジョセフが「でんかー!」って叫んでるけど、今は隠密中だからお返事しないよ。
しばらく待っていると、僕の愛しのゾーイさまが現れた!うわぁー、今日も可愛いなぁ。
あれ?ゾーイさま門番の人とお話してなかなか中に入ってこないぞ。
僕、とっても視力が良いんだ。
ゾーイさまが門番の人に何か渡してる。しかもすごい嬉しそうにはにかんでる!!この前の僕に向けてくれた微笑みとは大違いじゃないか。これって...これって...
愕然としていたら、ようやくジョセフが僕を見つけたみたい。
「でんかー!探しましたぞー!!」
ジョセフにしがみついて泣いちゃった。いいよね、まだ6歳だもん。
「ゾーイさまの運命の人はぼくじゃないみたい。」
「左様でございましたか。殿下も本当の運命のお相手にはまだ巡りあっていないのですよ。まだまだお若いのですから、そう簡単には見つかりますまい。」
そう言ってジョセフは僕の頭を撫でてくれた。
ちょっと悲しくてゾーイさまには会えなかったので、お詫びに僕の大好きなお菓子の詰め合わせを渡してもらった。
父上にゾーイさまとは婚約できません。と言うとわかってたみたい。
ゾーイさまと門番の方は幼馴染みなんだって。そもそも、ゾーイさまは僕より8歳も年上だから、少しの間だけ婚約者候補として付き合ってあげてほしいってお願いしたんだって。失礼しちゃうな。
これって、全部兄さまがケラケラ笑いながら僕に教えてくれた話だけどね。
本当、デリカシーのないやつだ。
ゾーイさまに渡せなかったリボンは母上にプレゼントしました。とっても喜んでくれたよ。
母上には可愛すぎるから、しまっておいてねって言ったのに次の日髪の毛に付けてたよ。
それを見た父上が母上の事をべた褒めしていた。僕も早くそんな相手が欲しいな。