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後編

 魔導騎士隊(スペルブリゲード)の本部に通されたオレは、そこで司令官にお目通りした。

 司令官もオレがデモ隊を一人の犠牲者も出さずに解散させた話を聞いて、信じられないといった表情を浮かべている。


「こんな子供が、我々魔導騎士隊(スペルブリゲード)でも手を焼いていた暴徒鎮圧を一人で成し遂げるとは……いや、精鋭揃いの我が隊の者が見誤るとも思えん」


「はい。卓越した魔導はおろか、その手腕も見事の一言でした。」


 オレを本部へと案内してくれた騎馬隊の隊長が、司令官にオレの手並みを説明してくれる。

 それに対して司令官はいちいち頷いて、どうやらオレへの興味を持ってくれたようだ。


「君が用いた手段について、いくつか聞きたい。まず、最初に光を生み出したのは何故か?」


「周囲を照らすためです。あの時、既に街は暗闇に支配されつつありました。彼らがその時間を狙ってデモを始めたのは、きっと闇に紛れて活動することで魔導騎士隊(スペルブリゲード)の目から逃れるのが目的だったのでしょう。光で辺りを照らせば、その目論見は崩れると考えたからです」


 オレの答えに、司令官は納得した様子だ。

 大きく頷いた後、次の質問をしてきた。


「一人一人の名前を呼んで、家に帰るよう促したそうだが……その意図は?」


「デモに参加した一人一人は、無力な市民です。とても魔導騎士隊(スペルブリゲード)に太刀打ちできる力は持っていない。けれど集団の中にいると人は、自然と度胸が付いて大それた行為も恐れることなくやってのけます。一人一人の名前を挙げることで、集団から個人へと戻る心理を突くのが目的でした」


 これには騎馬隊の隊長もハッとした表情を浮かべた。

 現場を目の当たりにはしたものの、その効果については読み取れていなかったと見える。


「なるほど、子供とは思えぬ見事さよ。しかし、最後の策だけは感心できぬ。何故、最高魔導会議が奴らの要求を受け入れたなどと申したのか? 我ら魔導階級は、断じて一般市民の無茶な要求を飲んだりはせぬぞ」


「あれはデモ隊を解散させるための、その場限りの狂言です。彼らが再びデモを起こした時、今も会議は継続中であると言えば時間を稼ぐことが出来ます。その間に、恒久的な解決策を練れば良いとは思いませんか?」


 もちろんオレが願う恒久的な解決策とは、魔導階級から一般市民への歩み寄りなんだが……それは、この場では伏せておこう。

 オレが転生したこの世界は、魔法というものが存在してはいるが誰もが扱える訳ではない。

 生まれながらに魔導の素質を持っているかどうかで、居住区から職業、与えられる権力まで差が付いてしまう。

 今は魔導の力を持った階級のみが権力を握っているが……それが続く限り、自由と平等を求めるデモは続いていくだろう。


「ううむ……どこで学んだのかは知らぬが、君の話はいちいち合点がいく。そこで頼みがあるのだが、聞いてくれるかね?」


「はい。その話……恐らくはブラス砦のことではないでしょうか?」


「流石だな、既に読んでおったか。ブラス砦には、今も多くの市民が立てこもり魔導騎士隊(スペルブリゲード)と攻防を繰り広げておる。これ以上の疲弊は、我が隊にとっても利するところがない。どうか、力を貸してほしい」


 オレも、その依頼が来るのを望んでいた。だから司令官に会いに来たんだ。

 難攻不落のブラス砦に立てこもっている市民が解散したと分かれば、他の多くのデモ隊も活動の継続を諦めて大人しくなるはず。

 そのためにも、まず攻略すべきはブラス砦……今度も双方に犠牲を出すことなく解決してみせる。


「それでリフォン殿、どのようにして砦を落とすつもりで?」


 ブラス砦までやってきたところで、騎馬隊の隊長が当然の疑問を投げかける。

 見たところブラス砦は頑強な造りで、窓という窓は全てバリケードで塞がれている。

 屋上にはスローガンが書かれた旗を掲げた連中が、眼下のオレたちを見下ろしている。


「危ないッ! 火炎ビンだ!」


 その屋上から、火炎ビンの投擲が始まった。

 騎馬隊は慌てて引き下がっていくが、最強魔導士のオレは冷静に対処する。


水の魔法(アクアマジック)!」


 地面から湧き上がった巨大な水の壁が、火炎ビンを受け止めると火を全て消していく。

 そして、水の壁から凄まじい勢いで水流を放つ。

 ブラス砦の窓を塞いでいたバリケードは、水流の勢いに負けて破られていった。


「まだまだ!」


 続けて指をパチンと鳴らすと、今度は黒煙を発生させて砦の窓を目掛けて放つ。

 しばらくすると砦の入口が開け放たれて、立てこもっていた連中が中から一斉に飛び出してきた。

 皆、全身ズブ濡れ。煙で目を真っ赤にして、ゴホゴホ咳き込んでとても抵抗できる状況ではない。


「それッ! 取り押さえろー!」


 隊長の号令で、無抵抗の彼らは次々と捕まっていく。

 それはいいが、不必要に痛めつける騎士がいるなら、今度はそいつに向かってオレの魔法が放たれると思え。


「リフォン殿、お見事でした! どうか、これからは我ら魔導騎士隊(スペルブリゲード)の指揮官……いや、参謀長となって活躍いただきたい!」


 この誘いに、オレは応じることにした。

 かつて民主化を求めるデモに参加し、体制側の暴力で命を落としたオレだ。

 民衆が求めるもの、そしてデモ隊の弱点……いずれも知り尽くしている。

 そのオレが、今度は体制側へと回る。デモ隊を平和的に解散させて、体制側と一般市民との和解を実現させるために。

 そのためにも魔導騎士隊(スペルブリゲード)を、オレが理想とする暴動鎮圧部隊に改革してやる。

 最強魔導士リフォンの真の戦いは、これからだ!

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