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それは私の英雄譚  作者: 九時半
12/18

12:まほうべんり

数分、或いは数時間か。

そういった感覚は現実で初めてだなと思ったりもしながら落ちかけていた意識を手繰り寄せた。

契とやらを交わし終えたのか、何かが私の上から退いたので私もまだ痛みの残る体を起こす。


「しんど…31連勤の人より肉体的に疲労を覚えてる自信ある…」


割と絶好調だったわ。

まあ口に指突っ込まれるのも本当に不愉快だったから吐きたいしまだ口内が気持ち悪いけど。

激痛とかそれどころじゃなくて哲学的に痛みとは?みたいな状況になってたりもしたけど…!


「……非道なことをしておいてなんだが、逞しいな」


「将来の夢はお金持ち!目指せ世界征服、ヒエラルキーの頂点!!」


「ぶれませんね」


蛮勇とは正しく私のこと。

比率的には蛮の割合の方が多そうだけど、そんなのは些細なことである。


拭えるだけの汚れを拭いながら立ち上がって、ボロボロのソファーに座った。


「説明願いましょうか」


隊長と副隊長が互いに意思を確認するよう視線を合わせてからひとつ頷いて、私の前に来る。


「まず、非情な行いを謝罪する。済まなかった」


「はい、私は謝罪をしかと受け入れさせていただきます。んで、説明は?」


え〜?とか言っていじろうかとも思ったけど、流石にやめておいたよ。

別に怒ったりとかはしなかったし、別にいいかなって。

そんなことより説明の方が欲しかった次第だ。


「えっと…まず、この世界には特別な契約と言うものがあるんです。契約自体はいくつか種類があり、今回あなたにさせたのは神の契約というものでした」


「契約をすることで相手は優れた再生能力や身体能力などを得ることができる反面、大きな痛みを伴う。そして、痛みに耐えることが出来た者は神の主となれるのだ」


逆に言えば耐えられない場合は神が主となるらしいし、それ以前に契約が成立すること自体が少ないそうな。

言ってしまえば、痛みに耐えられず死んでしまうケースが多いっていう話。

痛みに耐えるということと死なないことはイコールじゃないらしい。

死なないことを前提としてどれだけ痛みを我慢できるか…みたいな?

というか、常識が違うんだし言っても無駄だけど、人間が神様の主になれるってかなり神に冒涜的な気がする。


「私、耐えれてましたかね?」


「今までに見たことがない程、誰よりも耐えていたと思うぞ」


「わーい」


神の契約の仕方は互いの血を飲むこと。

契約の期限は存在しないが、片方が死んだ場合にもう片方が契約を切るかどうか決められる。因みに、片方が死ぬと得られた能力の質が下がるそう。

主となったものは複数の契約を結ぶことができるが、どれかひとつの契約でも主になれなかった場合は全ての契約がなかったものとなる。

また、契約の数に比例した痛みを伴う。

主となった方に危害を加えることは基本的に出来ないが、完全に不可能ということはない…などなど。

覚えられるかどうか心配だしそもそも理解出来てるかも怪しい。


「君に契約をさせたのは、君だからというわけではなく君が異邦人だから。召喚する際にはどんな世界から来る異邦人なのか、想像もできない。異世界の人間にこの世界のことを教えてやれる時間も人材もなく、常識の違う君を支えるような者もおらず。そんな状態で戦場に駆り出しても早々に潰れるのがオチだ」


「そこで出てきた案が契約で、当初は神相手とまでは決めてなかったんですが…たまたまこの国で暴れるそこの神がいたのです」


要するに私が来る前から会議的やつで、時間がない中こちらの常識を知らないのは致命的だからと契約が推奨され、そこに国を荒らす神がいたから丁度いいとばかりに私に宛てた、と。


「神様を異邦人のガイドにして首輪付けようとは中々ですなぁ」


「…本当に軽いな」


「生きていればこんなこともありますよ!」


改めて壁にもたれ掛かる何かこと神様を見やった。

引きずるほど長い灰色の髪に赤い瞳が爛々と揺れている。

睫毛も長いし女性だと言われても納得出来るが男性だと言われても納得出来るような綺麗な顔立ちなものの、怪我が痛々しかったり血で汚れていたりと残念な感じだ。


私の隣に座るよう促すと、嫌そうな顔をしつつ従ってくれた。やはり私の方が上なんだね。


「みすぼらしいからなおしちゃって良いですか?」


「なおすって…よくわからんが、まあ任せる」


許可も頂けたことだし、訝しげな神様本人は放っておいて勝手にやらせてもらおう。


その手を握ってなんかいい感じに怪我が治ったり汚れがなくなるのを想像すると、手元が淡く光ながら想像通りになる。

本当に魔法って便利な能力だと思うよ、最強すぎる。


「………結構魔力があるレベルじゃないだろ…」


「元の世界に魔法などはなかったはずでは?」


「どこで魔法を覚えたんだ、お前は!」


頭の痛そうな顔で一斉に言われたが全て笑顔でスルーです。


神様にどう?と尋ねると、呆けたような顔でそっと繋いだ手を握り返してくれた。

そのまんま私は神様の顔を下から覗き込む。


「うん、すごく綺麗な顔だ」


ボサボサでボロボロだったからまともに見えなかったその容姿はとても優美で艶美で秀美。美しづくしだ。とっても綺麗だし、ワンチャン佐木ちゃんに匹敵するかもしれない。


「………気持ち悪…」


「おぉっと初めて私に掛ける言葉がそれか?」


まさかの罵倒に苦笑を禁じ得ない。

この神様まで口が悪かったら大分しんどいんだけどな。

なんなんだ、私の身の回りにはそういう人ばっかり集まってきちゃうのだろうか?


「…自分の方は綺麗にしなくていいのか?」


「あぁ、忘れてました」


隊長に指摘されうっかりうっかり、と自分の方も服についた血とか取っといた。

魔法さえあればどこでも暮らしていける気さえする。

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