1:始まり
「……っ!成功だ!!」
男がそう叫ぶのを皮切りに多くの者が雄叫びに近い声を上げる。
時は遡ること数分前、私こと千咲瑠花は学校の帰宅途中にウルトラファンタジーな体験をした。
花も恥じらう17歳で親友と呼べるバカとクズもいたし、まあまあ充実している方な高校2年生である私がいつも通りに帰っていたら厨二チックな魔法陣が突然現れて今に至る感じ?
広く床には何も物の置かれていない、丸い部屋。或いは建物。
ぐるりと囲み込むように着色ガラスであしらわれた10の窓があるものの、いずれも外の光を通していないので室内は薄暗い。
灯らしい灯は数人の人々が疎らに手にするカンテラのみだが、その頼りない光源も周囲の様子を伺えるくらいには辺りを照らしてくれている。
努めて冷静に視線を下げればいかにもな幾何学模様が目に付いた。
私の記憶が正しければの話だが、ここに来る際に見たものと酷似しているように思う。
まあ、何が面白いって、成功だとか言って喜びながら何故か刃を向けられてることだよね、厳しい目と一緒に。
何かしらのドッキリだとしても、これはあんまりだ。
本物じゃね?この剣。
しかもなんだか頭がぐわんぐわんするし正直吐きそうで倦怠感半端ないし、ぶっちゃけ寝たい。
「立て」
私の気持ちを他所に、剣を向けているうちの一人の男がそう言う。
「ははは、それが人にものを頼む態度か?」
「刺すぞ」
「そうカリカリすんなって、器の狭い男は好かれな…、ごめんって!あーうそうそごめんなさい!」
ちょっとしたジョークを口にしていればこの男、あろう事かマジで刺突をかましてきたのだ。
流石に刺すつもりはなかったのか顔の横を掠めた程度だったが頬をスパッといかれる。
…これ、ドッキリだよね?
多少不安になりつつも両手を上げて降参だという意を示せば、早々に『立て』と目で訴えられ私の親友の佐木ちゃんに似てるなぁ…とぼんやり思った。主に態度の悪さ辺りね。
「早くしろ!」
「もー、立つって!カッカすんなよ……いやごめんて!」
めっちゃ睨まれたね。そういう所もそっくりである。
佐木2号かよ…とか思いながらもよろけないよう気を使いつつ私は立ち上がった。
「歩け」
だから何故命令形なんだ。せめて他の人が命令してくれればいいのに、そんなに私と話したくないのか?とか思うも周囲の冷たい目を見ればどう思われてるかなんて1発だった。
思ってたよりも私がキモすぎて言葉も交わしたくないとかそういうのじゃないことを祈ろう。
なんにしろ結局私に拒否権はないらしいからちゃんと歩きます。
彼ら以外の人達は外野で楽しげに話しているし、誰も私に優しい目を向けてくれないんだ。酷い話だね。
「そこに入ってろ」
ボケっとしてたら目的地に着いたようで、男は目の前の扉を指している。
少なくとも牢屋とかに連れられなかっただけ喜ぶべきか否か。
「重いし広いしめっちゃ綺麗ー!!」
「お前は静かにできない病気なのか…?」
「切実に言わないでよ」
男は明らかに引いているが、本当に扉は重かったし扉の先にある部屋が広くて綺麗なのだ。こんな部屋初めて入る。
「窓ぶち破ったら怒られたりする?」
「自己責任」
「ワ〜〜〜オ絶対に割らないでおこうと思える素晴らしい言葉だ」
部屋に入って窓の近くまで行き、外を見てみる。
すごく綺麗な景色で、澄み渡る青空に芝生や木の緑がよく映えた。
隅の部屋なのか一面の大自然だね。
空を飛ぶふさふさの毛玉とか羽根のある猫みたいなやつとか毛の生えた虫みたいなのがいたり。うん、うん?
「…なにあれ?」
「魔獣だ。詳しく知りたいなら自分で調べろ」
「ドッキリじゃなかったのか!」
まあ、薄々は感じていたけど。最近のCG技術はすごいなぁとか思ってたんだけど。…悪足掻きが過ぎたか。
だがおかしくないか?ここが異世界だとでも?
可能性としてはゼロじゃないかもしれないけど、私の中のリアリズムが『流石にないっしょ(笑)』って言ってる。
そんな私が行き着いた行動は睡眠だった。
寝よう、夢かもしれない。
そうだよ、眠るべきなんだ。
疲れてたしちょっとおかしい幻覚と幻聴を見ている可能性があるし?
そう、現実的に考えればまず異世界なんてありえない。
目の前の光景やらなんやらを冷静に見て考えればそれらは淡い期待かもしれないが、そんな小さな期待に賭けたっていいじゃないかと思う。ちくしょう。
「…寝る」
「静かで良くなるな」
「うるせー!!!!」
「お前がうるさいんだよ!」