表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/37

9−目撃

 映画館で二人は、今流行しているミステリー映画を観た。緊張からかお互いに目を合わすこと

もなく、ただ時は流れた。それでもこうしてデート出来たことは英樹にとって幸せなことだった。

今まで亜美は相手にさえしてくれなかったのだから、これを大きな進展だと捉えたい。

 さあこれからどうしよう。高校生だからそんなにお金は無いけど、亜美を楽しませたい。あらか

じめ調べておいた高校生でも行ける安価なお店を、携帯で確認する。

「ねえ、これからバイキングへ行こうと思うんだけど時間あるよね?」

 噴水近くでぼんやりしている亜美に尋ねる。完全に英樹の言っていることに上の空だ。亜美は

話の流れに沿わないことを逆に尋ねてきた。


「ヒデって年上の女子に憧れることある?」

 よく考えてから英樹は答える。

「さあ、僕は年上の女子なんて興味ないけど。もしかして明日香さんのこと?」

「そうそう。ヒデ、あの女どう思った?」

 明日香の話をすると、亜美は急に食いついてきた。どうやらあの女性が亜美の興味対象らしい。

「初めて会ったけど、少なくとも僕はああいう女性はタイプじゃない。あの人と尚人とは知り合い

なの?」

 亜美は詳しく説明した。よほど腹に据えかねているのだろう。次から次へと明日香のことが出

てくる。

「家庭教師ね。それにしたら随分派手な女性だよね。てっきり僕はサッカー部の誰かの姉ちゃん

だと思ったよ」

「そうでしょう。家庭教師の分際で、サッカーに観戦にくるなんて度が過ぎるのよ」

 亜美は相当怒っている。発火点が何なのか、英樹はすぐに察知する。それは彼も聞いてみたい

ことだった。


「倉本が家庭教師になるわけにはいかないの?頭いいんだし、あの女性の代わりも勤まるだろう」

「それは無理。尚人が絶対に嫌がる」

 照れくさそうに亜美は答える。一緒に住んでいるのだから、勉強くらい教えてもいいはずだ。

さらに英樹は彼女の本音を探る。これは英樹がほぼ確証を得ている質問である。なるべくなら聞き

たくないが、これを確かめてこそ次のステージが開けるのである。


「あいつに嫌われたくないんだろう?」

 顔を見上げて英樹を見つめる亜美。透明感のある瞳がとても眩しい。意表を突かれた時に見せ

る驚きを隠せない瞳だ。

「嫌われたくないというか……」

 しどろもどろしている亜美。これ以上突っ込むわけにはいかない。英樹の居場所が全くなくなっ

てしまう恐れがある。

「もういいよ。この質問はこれで終わり」

「もういいの?」

「ああ、もういいさ。今日は映画に付き合ってくれてありがとう。今度の試合でゴール決めたら、

またこうしてデートしてくれる?」

「うん、いいけど……」

 はっきりとはイエスとは言わない。どこか後ろ向きなのは仕方がないことだ。これを少しでも前

に向かす努力を怠ってはいけないことを、英樹はひしひし感じていた。

 それでもショックはショックだ。やはり倉本亜美は松田尚人に好意を抱いている。それは彼女の

態度や行動を見ていたら、気づいていたことなのに、釈然としない。うやむやな気持ちだけが残っ

た亜美との初デートだった。


 JR京都駅の地下街をふらふら歩いていた亜美は、ヒデが言った『尚人に嫌われたくない』と

フレーズについてまだ考えていた。どんな意図で彼は言ったのだろう。真意はよくわからない。

だけど私のことはよく理解していると、亜美は思った。

 彼女の横を高校生らしきカップルが通り過ぎて言った。互いに顔を見合わせて、まるで二人以

外は誰もいないといった雰囲気を醸し出している。人を寄せ付けないオーラを彼らは持っていた。

さらに大学生と思われる男女カップルが、亜美のことなんてもちろん気にするわけもなく、仲睦

まじく通り過ぎて行った。

 しかし思わず亜美は振り返った。見覚えのある女性の姿だったからだ。それは紛れもない明日香

の姿であった。二人は腕を組み、どこから見てもカップルにしか見えない。おそらくサッカーの試合

が終わって、そのまま落ち合ったのだろう。明日香には交際中の彼がちゃんといるのだ。亜美は追

跡しようとも考えたが、それは諦めて急いで家に戻ることにした。この事実を浮かれかけている

尚人に伝えなければならないと。


 とにかく亜美は急いだ。観たいドラマがあるわけじゃない。早く尚人の顔を確認したかったか

らだ。なぜだかはわからなかった。

「ただいま、ナオいる?」

「どうしたの、息が切れてるじゃない?」

 母親の英子が心配そうにしている。

「ううん、大丈夫。それよりもナオいる?」

「尚人?尚人だったら、自分の部屋にいるんじゃない?出かけた様子もないみたいだけど」

英子の言葉を聞くと、亜美は一目散に、尚人の部屋へ駆け上がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ