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最終回−ふたりのアンテナ

「わがままなんだから、尚人は。本当尚人はわがままなんだから。でもそんなどうしようもない奴

を私は好きになったんだ」

 抱き抱えた尚人の体を離し、視線をじっと見つめる亜美。まるで眼の検査でもしている眼科医の

ように。

「どうしたの?何か眼にゴミでもついている?」

「そうじゃない、黙っていて」

 それから3分ほど亜美は見つめ続けた。何かを物色するように。


「よし、オッケー。二人と話をしてくる」

「どんな話?」

「私にどうしても日本に残ってほしいんでしょう?だから二人と話をつけてくる」

「もちろんですとも」

「じゃここで待っていて」

「ちょっと待てよ」

 尚人と亜美の二人が後ろを振り返ると、ヒデが立っていた。尚人に緊張が走る。今までの話を

彼は聞いていたのだろうか。

「亜美と話があるんだ。尚人は伝えたいこと伝えたんだろう。だったら僕と話してもいいよね」

「もちろん、私からも話があるから」

 尚人を残して、ヒデと亜美は移動してしまった。一体どんな話し合いが行われるのだろう。ヒデ

は激怒しているのだろうか。自分の取った行動も含めて、様々な思いが尚人の中を駆け巡った。


 15分ほどして二人は戻ってきた。ヒデが怒っているのではないかと尚人は心配したが、彼はに

こやかに笑っていた。どうやら話し合いはスムーズに進んだらしかった。

「亜美は日本に残ることになったよ。尚人の話を聞いて考えを改めたんだって」

「それは良かった」

「ちっともよくねえよ。亜美がどれだけ悩んでいたか、お前は知らないだろう?見ていてこっちが

苦しくなるほど亜美は悩んでいた。オレがもっと話し相手になっていれば、こんなことにならなか

ったんだろうが、出来なかった。悔しいけど距離は縮まらなかった」

 二人は黙ってヒデの話を聞いていた。尚人は亜美が別れ話を切り出したことを知る。

「なあ、尚人。一発殴ってもいいか?」

「えっ?」

 亜美は驚いた表情を見せた。だが尚人はひるむことなく、こう応じた。

「ああ、いいよ。だけどここだと人もいてヤバイから、場所を移動して……」

「大丈夫、誰も見てやしないよ」

 降りかかって来たヒデのパンチ。予期していなかったため、かなり吹っ飛ばされた。尻から床に

叩きつけられた尚人。亜美の悲鳴が空港内を包んだ。


 亜美が叫んだため、駆けつけた警備員に事情を聞かれたが尚人が弁明したため、大事には至らな

かった。頬には赤い傷と痛みが残り、尚人は買ってきてもらった氷で患部を冷やした。

「イテテテ……」

 亜美から事情を聞いた正芳さんは、勇ましいなどと笑っていた。冗談じゃないと亜美は切り返した

が、彼はこう話した。

「オレも若い頃はよくケンカしたよ。殴り合いのケンカばかりではないけどな。この一発のパンチは

彼の思いがこもっているんだよ。この野郎という気持ちと、尚人君にしっかりしろという二つの思

いがね。後は尚人くんがどう応えるかだな」

 ヒデは傷の手当をしてくれた後、ひと足早く京都に戻った。別の用事があるらしいとのことだった。

「おじさんの言う通りですね。あの一発で気合が入りました。人生で思い出のパンチになるかもし

れません」

「もう何を言っているのよ、尚人は。本当心配したんだから」


「これで安心してアメリカへ旅立てるな」

「本当申し訳ありません。家族で一緒に暮らす機会を僕が奪ったみたいで」

「その覚悟でここに乗り込んで来たんだろう?」

「ええ、もちろんです」

「だったらいいじゃないか。私でなくても、尚人君が娘のことを守ってくれるなら私は安心だぞ」

「ちょっと何言っているの、お父さん」

 亜美は照れながら言った。尚人は引き締まった様子で、こう言った。

「僕のわがままを聞いてもらって、本当に申し訳ありません。二人でこれから京都で暮らそうと思

っています。これからも力添えお願いします」

「ああ、もちろんだよ」

 最後までダンディで爽やかな風を残して、正芳さんはアメリカへ旅立って行った。ああいう大人

の男になりたいと尚人は思った。


 帰りの電車の中で、尚人は亜美に最初にデートに行ってみたい所を尋ねてみた。するとこう言った

答えが返ってきた。

「遊園地。どうしても行ってみたい遊園地があるの」

「東京ディズニーランド?USJ?」

「そんな大きな所に行かなくてもいいよ。ほら以前に明日香さんとダブルデートした遊園地がある

じゃない。あの遊園地がいい」

「ええっ、別にあそこじゃなくても他にいい所あるでしょう」

「どうしてもあの遊園地でないとダメなの。あそこは曰くつきの場所だからね」

「曰くつき?」

「ほら誰かさんと明日香さんが人前で堂々と……」

 あの遊園地は明日香さんとの思い出の場所であるから、なるべくなら避けたかったのだが。亜美

の言っている曰くつきとは一体何だろう。尚人は考えを巡らしてみた。すると一つのある場面に辿

る着いた。まさかあの場面を目撃されていたのだろうか。

「まさか僕と明日香さんのキス、見ていた?」

「さあ、そんなの知らないな」

「いいから、教えろよ」

 これからの交際は大変になると尚人は思った。帰りの電車から見える夕焼けがとてもキレイだった。


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