15−対照的なふたり
立ち上がり、どちらの高校も緊張しているためか、なかなかゴールが決まらない。前半は両チ
ーム無得点で終わった。
後半が始まっても流れは変わらない。ディフェンス陣が必死に頑張ったため、失点こそなかっ
たが得点が入らない。FWの二人もだんだんとあせり始めていた。
「なんとか得点しなきゃいけない……」
いつもは冷静の英樹も、今日は汗がべっとり滲むほど、あせっている。エースがこれだと、そ
の雰囲気はチーム全体に及ぶ。
「ヒデ冷静にならなきゃ。おまえがあせったら、悪循環になるだけだ」
「ああ、わかっている、けれど……」
ヒデの焦りは頂点に達していた。この状況ではチームは好転せず、0−0のドローで試合は終
わった。試合決着はPK合戦に委ねられた。
「残念だ、守る方はよくやってくれたのに。いくら0点でも得点出来なければ勝てない」
「おいおいまだ試合は終わってはないぞ。まだ挽回のチャンスはある。PK戦に集中するんだ」
「PKで勝ったってちっとも嬉しくないさ。ゴール決めて勝つのが俺らの仕事だろう?」
「ヒデ……」
尚人の励ましの甲斐もなく、チームはPK戦で敗れた。尚人はしっかり決めたのだが、弱気に
なっていたヒデが外してしまった。結局2人が失敗して、チームは敗退した。亜美も最後まで、
この試合をじっと見ていた。あっけなく終わってしまった決勝戦だった。亜美の目からは大きな
涙粒がこぼれ出していた。
「……」
ロッカールームで頭からタオルを被って号泣し続けるヒデ。スタンドで見ていた亜美もイレブ
ンを励ましに、訪れていた。
「よく頑張ったよ。ヒデは悪くなんかない。まだサッカー生活は続くんだから」
亜美の言葉に、ヒデの心は少しだけ軽くなる。 お互いが励まし、健闘を称えている中に、な
ぜか尚人の姿はなかった。
「尚人はどこに?」
「知らない」
亜美の顔が曇った。答えは明日香の所だった。
「今日は観に来てくれて、ありがとう」
負けたはずの尚人だが、妙に明るい。明日香は少しホッとした。
「あともうちょいだったね」
「そうだね、でもPKは運もあるしね。僕的には満足しているよ」
尚人が今までで一番輝いて見えた。試合に負けたから、もっと落ち込んでいると思ったのに。
明日香は意外に思えた。
「今晩どこか行かない?」
「うん、今晩は無理なんだ。サッカー部のメンバーと、打ち上げパーティがあるから」
「そっかあ、そうだよね」
「また今度の休み、ゆっくり会おうよ」
「うん、そうしよう。楽しみにしている」
「じゃー、また今度ね」
尚人はサッカー部のメンバーがいるロッカールームへ戻って行った。明日香は尚人を最後まで、
見届ける。何だか尚人の背中が大きくなった気がした。
打ち上げパーティの席でも、尚人と亜美が会話を交わすことはなかった。亜美は相変わらずヒ
デとよく話し、尚人は他のメンバーとわいわい騒いでいた。
場は盛り上がりを見せ、みんなでカラオケボックスに行こうということになった。誰も異を唱え
るものはいないと思った瞬間、尚人が一人手を上げた。亜美も思わず見つめる。
「ゴメン、オレ帰るわ」
「えっ、どうしてだよ?せっかく盛り上がっているのに」
部員の一人が不満を漏らす。
「ちょっと用事があってさ、どうしても今晩中にやっておかなくちゃいけない用事があるんだ」
「マジかよ……」
今度は複数のメンバーがため息をつく。英樹は亜美に話しかけた。
「ねえ、ナオの大事な用事って何だろう?」
「さあ、知らない……」
ただ一言、亜美はそう言った。
「そりゃそうだよね。いくら一緒に住んでいても、尚人のスケジュール管理しているわけじゃな
いし」
ヒデは笑ってごまかそうとした。しかし亜美はヒデの真意を見破った。
「私に気を遣わなくてもいいよ。遊園地での一件で私が取った行動が迂闊だった。もっと冷静に
なって考えるべきだった。あれじゃ勘違いされるのも無理ないよね。だけどもう大丈夫」
亜美は淡々と話した。しかしヒデはこれが亜美の本心なのか、図り損ねていた。