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14−決勝戦

 翌日の練習も、亜美は姿を見せなかった。二日続けて来ないと、さすがにサッカー部のメンバー

も心配した。尚人は彼らから亜美と何かあったのか、散々問い詰められた。最終的にはヒデにも

聞かれることになった。


「ナオ、どうして亜美が来なかったのか知っているか?」

 他の部員と違って、ヒデはその訳を知っているようだ。二人は親密な付き合いをしているからか。

一緒に暮らしている尚人よりも詳しいようだ。

「知らないさ、あいつの真意はよくわからない」

「皆が言っている通り、ナオが原因だよ」

「僕が原因?」

「ああ、そうさ。詳しくは言えないけどな。ナオが早く彼女の気持ちに気づいてやるべきだ」

 首を傾げる尚人亜美に嫌われる根拠が全くわからない。強いていえば明日香が家にやって来て

からおかしくなったくらいだ。

「明日香さんが原因なのか?でもどうして……」

「鈍感だな、全く持って素晴らしい」

 感心するヒデ。色々と思い浮かべるが、該当する事柄が見当たらない。


「全くわからないみたいだな。だったらヒントをやるよ。お前遊園地で明日香さんとキスしただ

ろう。あれをオレと倉本は見てしまったんだ。それから倉本はおかしくなった。これでわかるだ

ろう。決勝戦にはちゃんと連れて来いよ、尚人の責任で」

 既に顔が真っ赤の尚人。知り合いは誰もいないことを確認して、したつもりだった。寄りも寄

って一番見られたくない二人に見られてしまった。しかしそれでなぜ亜美がおかしくなるのか、

答えは見つかりそうにもなかった。


 自宅に戻った尚人は、足早に亜美のいると思われる部屋に駆け上がる。ドアの前に立つと、尚人

はトントンと二度叩いた。中から小さな声で、「何の用」と応答する亜美の声がした。

 声のトーンから体調は崩していないようだ。だとしたらただのサボりである。

「どうして来なかったんだよ。みんな心配していたぞ」

「……」

 返事がない。ヒデの言っていたことが脳裏をよぎる。

「僕が悪いのか?だとしたらはっきり言ってくれよ。何でもするからさ」

「無責任なこと言わないで。何でもするなんて無責任なこと言わないでよ」

 どーんと大きな音がした。何やら亜美が物を投げたみたいだ。相当怒っている様子である。

「僕が何かしたのなら謝る。ただ今度の決勝戦だけは絶対に来い。サボったら承知しないからな」

 尚人はそう言うと、自分の部屋に入った。机の中にしまってあるあの亜美が捨てていた中学の

入学式の時の写真を眺める。尚人の何が気に入らないのだろう。あれこれと原因を探ってみても、

思い当たらない。亜美を深く傷つけたつもりはないし、悪口を言ったわけではない。いつも最新

の注意は払ってきたつもりなのに……


 雨がまじる天気。まるで尚人と亜美の、今の関係を暗示しているようだ。果たして亜美は決勝戦

の会場に姿を現すのか?

「ちゃんと言ったんだろうな?」

「ああ、強く言ったさ」

 試合前のミーティングで、小さな声で尋ねてきたヒデ。本当に来て欲しいのなら、ヒデの口から

言えばいいのにと尚人は思う。

会場を見渡すと、弥生に連れられて来たのかポツンと座っている亜美がいた。弥生に頼んでおい

て良かったと尚人はひと安心する。


「今度の決勝戦、清水から観に来るように言ってくれないかな?」

「別にいいけど、まだ亜美と揉めているの?」

「もめているというか……僕自身はよくわからないんだけど」

「はっきり言うけど、原因は尚人だよ。そのことには気づいている?」

 ヒデと同じように、弥生も話す。まわりは理解しているようだが、尚人だけはわからない。

「その様子だと全く気づいてないみたいだね。本当に凄いというか……」

「教えてくれよ、僕が何をしたんだ?」

「私の口からは言えない。やっぱりこういうことは当人同士で解決すべき問題だと思うんだ。決

勝戦の案件は、引き受けた。無理やりでも引っ張っていくよ。サッカー部の集大成の試合だし」

 約束を果たしてくれた弥生に感謝しつつも、依然として解決しない亜美との問題を抱えたまま

の決勝戦。モヤモヤが晴れたわけではなかった。


 亜美とは少し離れた所には、明日香もやって来ていた。一昨日、初めて彼女の家で勉強を教え

てもらった。かなり緊張して汗をかいたが、充実した時間だった。まだ恋人未満、友達以上の関

係が続いているといったところか。

 様々な人の思いを乗せて、決勝戦のホイッスルが鳴った。


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