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1−勘違い

 風薫る五月。サッカー部に所属している松田尚人は、一段と練習に熱を帯びていた。試合まで

あと一週間。レギュラーか控えかの際どい立場にいる尚人は追い込まれていた。


「おいおい、パスが甘いぞ」

 監督の大石に注意を受ける。

「すいません」

 頭を下げる尚人。額には大量の汗をかいている。激しいプレーか、焦りからの冷や汗なのかは

よくわからない。


「ナオも一生懸命にやっているんだけどな、あと一歩ってとこだな」

 尚人と同じ学年で、レギュラーは実績からいってほぼ当確の戸田英樹が言った。

「どこがいけないんだろう?」

 英樹の隣で同じく尚人のプレーを見ていた女子マネージャーの、倉本亜美が尋ねた。

「うーん、そうだな。オレが考えるには技術では他のレギュラーメンバーとそう差はないと思う

んだ。よく練習しているしね。問題はここじゃないかな」

 分厚い胸板をポンポンと二度叩いた英樹。亜美はそれが何かすぐに察知する。

「やっぱりね、あとはハート面だよね。あいつ、優しい性格だからね」


「ナオトのことも心配だと思うけどさ。たまにはオレのことも……」

「パスパス。ヒデは私なんかひっかけなくても、多くの女の子にモテるでしょ」

「オレは、亜美のことが……」

 英樹が話す前に、亜美はいなくなっていた。英樹はこのようにして何度も彼女にトライしてい

るが、いつも肩透かしを食らっている。


「お疲れさん」

 亜美は尚人にタオルを渡した。

「ありがとうって、またお前か」

「お前かってそれはないんじゃない?」

「つまり……どこまでオレに付きまとうかって言いたいんだよ」

 どうにもならないことを今さら言うと亜美は思った。そのたびに胸を締め付けられる思いをす

るのだ。

「別に尚人がいるからマネージャーをやっているわけじゃないよ。英樹君からマネージャーが足

りないって言われて手伝っているだけなんだから」

 不満を述べてもこれで一掃される。尚人は黙ったまま、ペットボトルの水を一気に飲み干した。


「まあやりにくいことは亜美だってわかるだろう」

 ポツリと尚人は言った。

「やりにくいのはもう慣れたでしょ。もう2年あまり、一緒にやってんだから」

「学校でもウチでもこんな調子だと、いつもお前に監視されているみたいだよ。おかげで学校中

で勘違いされているんだぜ」

「私は気にしてないけど」

 亜美は実にあっけらかんとしていた。こんな調子だからどうしようもない。本当はもっと早く

亜美の代わりになるマネージャーを探したかったのだが、キツいマネージャー業に応募してくれ

る人はなかなか見つからなかった。


「お前ら仲いいよな。同じ家に住んでいるんだから、当たり前か」

「言い争っているのに、仲がいいってのはおかしいだろ」

「それを仲が良いって言うんだよ。ウチでもそんな調子なのか?」

 プレースタイルと同様に、しつこく尋ねてくる英樹を尚人は振り切ろうとした。

「本当はどうなんだよ。尚人は亜美のことどう思っているんだ?」

「いつも言っているだろう。亜美とはただの同居人だって」

「でも一緒に暮らそうって行ったのはお前から何だろう?」

 疑いの目で英樹から向けられるのは仕方がない。尚人自身が言ったことだ。

「ああ、そうだよ。だけどそれを恋愛と結びつけるのは強引過ぎだよ」

「それじゃオレが亜美と付き合うのは問題ないんだな?」

「ああ、もちろんだよ」

 亜美がはっきり返事すればいいものを、ずっとはぐらかし続けることになるからややこしくなる。

尚人はこうなるたびに思った。


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