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変動


「な、なんで貴女が⋯⋯!?」



 混乱し、いまいち状況を把握できていないリアンは目の前に立つ〝お客様〟に問いかける。



「なんでって⋯⋯私、このギルドの創設者兼代表ですから。」



 リアンの問いかけにアリシアは胸を張ってそう答える。



「マジか⋯⋯。」



「マジよ。そんであんたの名前だしたらアリシア様がめちゃくちゃはしゃいで、連れて来いって言われたの。」



 頭を抱えるリアンに、レイチェルがため息混じりに答える。



「ええ、お疲れ様でしたわ。レイチェルさん。」



「じゃあ、呼ばれた理由って⋯⋯。」


 先日の会話や契約魔法の事、加えて今の状況を考慮すると、その答えは明白であった。



「はい。もうお分かりですね。」



「リアンさん、私のギルドに入りませんか?」



「⋯⋯はぁ!?」



 返事よりも先に声を上げたのはレイチェルであった。



「私は嫌です!こんな弱いくせに口の悪い性悪男!」



「酷え言われようだな。」



 自分のことを指差してそう喚き散らすレイチェルに、リアンは呆れと怒りを孕んだ視線を浴びせる。



「こいつ自身はほとんど戦闘能力を有してません。例え契約魔法なんてものがいくら強力でも、絶対足手まといになります。」



「ですがレイチェルさん、彼の魔法があればウチのギルドの戦力アップは間違いないでしょう?」



「ですからリスクの方が⋯⋯。」



「ね?リアンさん、どうか〝アーク〟に入って下さいまし。」



 アリシアはレイチェルの言葉を押し切り、強引にリアンにそう問いかける。




「いや、お断りします。」


 が、一言で両断される。



「そんなっ、そこをどうにか⋯⋯。」



「嫌なものは嫌です。第一、ギルドに入るなら普通別のところ入りますよ。〝フェンリルナイツ〟とか。」



「それに命張ってるのに給料安定しない職業なんで正気の沙汰じゃないでしょ。」



 やれやれと呆れた様子で否定の材料を揃えながらリアンはアリシアの意見をつっぱねる。



「あら、うちのギルドのお給料は定額ですわよ?」



「⋯⋯値段は?」


 それを聞いてほんの少しだけ興味が湧いたのか、リアンはなんとも言えない表情で問いかける。



「一人頭月々三十万ゴルドンですわ。」



「論外ですね。俺の所は入社四年目で月々三十五万ゴルドンです。」



 予想を下回る金額に自らの月収を公開しつつ、リアンは肩を落として答える。



「マジで!?あんたまだ二十そこそこだよね!?」



「さすがパンダドミノ。今一番キテる企業なだけあるね。」



「そーゆーこった。」



 リアンは二人の反応を見て天狗になりながらドヤ顔でそう答える。



「そうですね。⋯⋯では一つ交渉を⋯⋯?」



 アリシアが何かを言おうとした瞬間、その場にいた全員がなんらかの異変に気がつく。



「なんか外が騒がしいね?」



「本当ね、なんだろ?」


 家の外は夕方であるにもかかわらず、やけに騒がしかった。



「ん〜?⋯⋯⋯⋯っ!?マジっスか!?」



 目をつぶって外の音に集中した後、マリーナが険しい顔つきで真っ先に飛び出していく。


「ちょ、マリーナ!?どうしたの!?」



「ふむ、成る程な⋯⋯。」



 次に異変の原因を察知したのは本を持った女性だった。

 女性はマリーナと同じように目を瞑り、外の世界の音を拾って情報を得る。



「なにが起こってるの!?」



「外の奴等の話では、街の周囲に魔物の群れが出たらしい。」



「⋯⋯っ、行くわよノア!」


「⋯⋯うん。」



 女性の言葉を聞くと、レイチェルとノアは部屋の隅に転がっていた武器を拾い上げ、先に行ったマリーナを追うように走り出していく。



「ちょ、おい!⋯⋯行っちまった。」



「⋯⋯あんたは行かなくて良いのかよ。」



 放置されてどうすればいいか分からなくなったリアンは未だソファに深々と腰掛ける女性にそう問いかける。



「妾の仕事は此奴の警護じゃ、魔物退治は彼奴らの専門なのでの。」



「そうゆう事です。」



 再び本を読み始める女性の言葉に、アリシアが得意げにそう続ける。



「⋯⋯心配か?」



「⋯⋯別に。」


 ニヤリとわざとらしく笑いながら投げかけられる短い問いかけに素っ気なく返す。



「気になるのなら見てくればよい。」



「行かねーよ。命賭けるのはごめんだって言ってんだろ。」



 ニヤニヤと笑うその顔が癇に障り、リアンは強い口調で呆れたようにそう返す。



「すでに一般人に伝わってる程じゃ。とっくに他のギルドの冒険者も出ているだろう。何より前に出過ぎなければ危険などそうそう無い。」



 それを聞いて女性は冷静に分析した結果を答えていく。



「⋯⋯⋯⋯。」



「否定するだけなら猿でも出来る。拒む前に、一度その目で見てみたらどうじゃ?」



「⋯⋯⋯⋯っ、わあったよ、行きゃいいんだろ?」



 至極真っ当な意見を聞いてその場から立ち上がると面倒そうに頭をかいてドアに向かって歩き出す。



「そうか、行くのか。ならば⋯⋯。」



 女性はなにも持っていない手に、瞬時に一本の剣を取り出す。



「⋯⋯召喚魔法?」



「そんな大それたものではない。どちらかといえば手品や暗器の類じゃ。ほれ⋯⋯。」



 目を細めて分析するリアンに、女性は剣を投げつける。


「おっと⋯⋯。」


「万が一の護身用じゃ、持っておけ。」


「⋯⋯悪いな。」


 リアンはそう言うと、スーツ姿のまま家から飛び出していく。


「⋯⋯⋯⋯。」


 その後ろ姿を女性は妖しい笑みで見送る。






 家を出ていったリアンは高級住宅に囲まれた坂道を走って下りながら、女性の言葉を思い返す。


「⋯⋯⋯⋯否定するなら猿でも出来る、か。」


 そして思い返して、沸き起こる苛立ちから歯を強く食いしばる。



「⋯⋯だったら知った上で否定してやるよ。」



 聞こえるはずもない答えを鋭い目つきで夕焼けにそう呟く。


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