表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/74

影と闇の契約者


 突然の強襲を前に、その場にいた全員が動く事すら出来ずにいると、その中でただ一人、少年の攻撃と同時に走り出していた。



『飛剣術——蒼断!!』



 レイチェルはリアンと彼に向かって迫る黒い斬撃の間に割り込み自らの飛び道具で応戦する。



「⋯⋯甘い。」



 二つの斬撃がぶつかり合った瞬間、レイチェルの放った風の刃は黒い斬撃に押されて砕け散る。


「⋯⋯なっ!?」



『——ストライクエア!』



 黒い刃はその速度を保ったままレイチェルの真横を突き抜けると、今度は銀髪の少女がリアンの前に飛び出して衝撃波を放つ。



「⋯⋯くっ!」



 二つの妨害を受けた黒い刃は、ノアの攻撃との衝突と同時に、周囲に強い風を撒き散らしながら砕け散る。



「⋯⋯⋯⋯っ!?」



(二人がかりでようやく相殺、この男、強過ぎる。)



 敵の攻撃に上手く対処できたとはいえ、彼女達の表情は依然凍り付いたままであった。


 たった一度の衝突、しかしそれは彼女らに力の差を思い知らせるには十分過ぎた。



「リアン、魔力は残ってる?」



 ノアは一瞬だけ動きを止めた後、即座にリアンの方に振り返ってそう問いかける。



「まあまあだ、正直お前とマリーナだけでも結構キツイ。」



 リアンは前方で黒い力を纏ったまま立ち尽くす少年に視線を固定したまま、苦々しい表情でそう答える。



「ならマリーナとの契約を切って、契約相手をレイチェルと私に絞って。」



「あの男、全力でやらないと勝てない。」



 するとノアは、一切の間を開ける事なく作戦を組み立て、焦りから少しだけ強くなった口調で指示を出す。



「それはいいが、まだアイツに契約紋渡してねえ。」



「そうだった⋯⋯。」



 リアンがしかめっ面でそう答えると、ノアは先程までの戦闘と、その作戦会議を思い出して小さく頭を抱える。



「なら私が時間を稼ぐ、レイチェルに渡してきて。あと解除もね。」


 

「了解、死ぬなよ。」



「約束しかねる。」


 最後にそんな言葉を交わすと、二人は互いに背を向け、同時に逆の方向へと走り出す。



「⋯⋯ん?」


(⋯⋯二手に分かれた?)



 それまで彼らの動きを伺おうと構えていた少年は、攻撃が来ると予想していた彼の考えに反する二人の行動を見て不思議そうに声を上げる。



『契約を解除する!』



「⋯⋯消えた?」



 そんな中、リアンが力強くそう叫ぶと、マリーナの背中にある契約紋に灯る光が消え、同時に彼女の身体に宿るリアンの力が消え失せる。



「マリーナ。」



「⋯⋯ノア、さん?」



 マリーナが不思議そうに身体を起こすと、少し遅れてノアが彼女の前に立って庇うように手を伸ばす。



「一旦下がって、治療は後でするから。」



「⋯⋯了解っス。」



 ノアの指示を受け、自身が足を引っ張りかねないと理解すると、背後にある木までフラフラと足を運ばせ、そしてくたりともたれ掛かる。



「レイチェル!」



「⋯⋯っ!」



 そして彼女らに背を向けたまま走るリアンは、視界の中心に立つレイチェルに向かって手を伸ばす。



「なるほど、させるかよ!」



 そこでようやく彼らの行動の意図を汲み取ると、少年は迷う事なく二人に向かって八本の触手を突き立てる。



「⋯⋯ちぃ!」



『——紅断!』



 同時にリアンの行動を理解したレイチェルは、契約紋の受け取りを妨害されぬよう斬撃の盾を展開する。



「ハッ、そんなんで防げるかよ!」



 が、咄嗟に展開したその盾も契約魔法によって強化された触手の前に尽く貫かれる。



「⋯⋯だったら。」



『華鳥!』


 それを見たレイチェル、今度はその場で立ち止まり、構えを変えて真下から触手を弾き上げる。



「軌道を逸らしたのか。なら、これはどうだ?」



 すると今度は弾かれた触手を含めた全ての触手を束ねて彼らに突き立てる。



『ブレイズファン!』



「⋯⋯ぬりぃ!」



 完全に狙いをリアン達に定めた少年の意識を散らそうと、ノアは風の魔法で妨害するが、その妨害も彼が軽く弾くように手を振った瞬間に砕け散って消え失せる。



「⋯⋯⋯⋯効いてない?いや⋯⋯。」



(ガス欠?さっきので使い切った?)



 ノアは自らの攻撃の弱体化を感じ取ると、すぐにその原因を理解して歯噛みする。



「⋯⋯手、伸ばせ!」



「⋯⋯ええ!」



 それでも彼女のサポートが功を奏し、リアンとレイチェル、二人の手は互いに引き寄せ合って近づいていく。



「⋯⋯はっ、少し遅いぞ!」



「⋯⋯⋯⋯ッ!?」


 二人の手が触れ合い、打ち鳴らされる瞬間、少年の放った攻撃がレイチェルに直撃し、二人の距離は大きく引き剥がされる。



「⋯⋯くっ、レイチェル!」



「お前もだよ。」



「⋯⋯しまっ!ぶっ!?」



 リアンがレイチェルの名を叫ぶと、直後に彼の腹部にも触手がぶつかり、彼女と同様に後方に吹き飛ばされる。



「が、はっ⋯⋯!?」



 リアンとレイチェルが倒れたのを見ると、少年は最後にくるりと振り返り、残った最後の一人を睨みつける。



「さあ、最後はテメエだ。クソガキ。」



「⋯⋯っ。」



 少年の重々しい圧力を真正面から受けるノアの心の中には、恐怖ではなく別の感情が渦巻いていた。



「なんだ、ビビってんのか?」



そんな感情など知る由もない少年は、煽るように舌を出しながらそう尋ねる。



(リアン、レイチェル、マリーナ⋯⋯。)



「⋯⋯やるしか、ないか。」



 そして周囲に倒れる仲間達に視線を送った後、ノアは覚悟を決めたように大きく溜息を吐き出す。



「⋯⋯何?はっきり喋れよ。」



「⋯⋯⋯⋯ガキはそっちも同じでしょ。」



 そして視線を少年に向けると、鋭い視線で睨みつけながらそんな言葉を返す。



「⋯⋯あ?」



「貴方は強い、多分私が見た中でもトップクラスにね。」



「どうせ私達が普通に戦っても勝ち目はない、だから、全力の一撃で仕留める。」


 


「させると思うか?」



 少年は自らの触手を突き出すと、容赦なくノアに向かってその全てを撃ち放つ。



『——ミリオンナイツ』



 刹那、ノアが誰にも聞こえまいというほどの小さく、そして短い呟きの後、彼女に迫る触手は不快な高音とともにその侵攻を阻まれる。



「⋯⋯なっ!?」



「⋯⋯っ、ぶはっ。」



「⋯⋯はっ、なんだよ。一回防いだだけで限界かよ。」


 少年は自身の攻撃が防がれた事に驚きを隠すことなく声を上げるが、直後にノアが魔力切れで大量の血液を吐き出した事で呆然としたままそれを笑い飛ばす。



「⋯⋯だから何?」



「はぁ?」



 だが当の本人は、そんな少年の言葉を一蹴してそんな態度で問いを返す。



「どうせ後一撃、我慢すればいい。」



「⋯⋯⋯⋯っ!」



(この雰囲気は、やべぇ!?)



 ノアが目の前に手を構え、魔法陣を展開すると、その迫力、そして彼女の言葉からえもしれない危機感を感じて少年は改めて触手を構える。



『——聖なる意思に従い解き放て』


(撃たせるな、目を話すな。)



 少年が紫色の触手を増加させて撃ち放つと、彼女の目の前に展開された障壁に次々とヒビが入っていく。



『——我が手に栄光の御旗を、我が背に眩き後光を』



『——平伏せよ、此れは定められし天啓なり』



 それでもなお、ノアは逃げも隠れもすることなく詠唱を続ける。



「終わりだ!」



『アオレオーレ!!』



 少年の言葉と共に障壁が破壊されると、一瞬遅れてノアの詠唱が完了し、魔法が発動される。



「⋯⋯ッ!?」



 直後、周囲に強烈な閃光が迸る。



「⋯⋯っ、てめぇ!!俺の目を!!」



 強い警戒と彼女の過剰なブラフによって一瞬たりとも視線を外す事なくノアを睨みつけていた少年は、真っ向から閃光を受けてしまいその視力を一時的に奪われてしまう。



「後は頼んだよ、二人とも。」



 力無く点滅する魔法陣が完全に消え失せると、最後にノアは大量の血を吹き出しながら糸の途切れた操り人形のように崩れ落ちる。



「ええ、任せなさい。」



 その瞬間、受けたダメージを引き金に〝心眼〟を発動させたレイチェルが、高速でノアの横を走り抜ける。



『力を貸しなさい!!』



『契約を、許可する!』



 一気に少年との距離を詰めながらそう叫ぶと、そこから離れたリアンは身体を起こしながらそう返す。



「⋯⋯くっそ、プルート!俺を守れ!!」



「遅いわよ。」



 レイチェルの接近を察知すると、少年が迷う事なく防御の構えを取るが、それすらも気にする事なく剣豪姫は必殺の一撃を構える。



『奥義——散光!』



 空間すら切り裂く一撃は、数多に及ぶ堅牢な守りを打ち崩す。


 何本かの触手が切り離され、宙を舞った後に重々しく地面に落ちると、紫色の光を放ちながら消えていく。



「⋯⋯っ!?」



 だがレイチェルの剣は、少年の肉体まで貫くことは無く、肩口に浅い傷口を作りながらも受け止められていた。



「⋯⋯凄えな、強化版のスパイダーまでぶち抜くとかマジでバケモノじゃねえか。」



 攻撃自体は防いだものの、少年の発言、そして表情には、確かに焦りと恐怖に近いものが映っていた。 



「⋯⋯う、そでしょ?」



「お互い全開だったら或いは⋯⋯いや、それはねえか。」



 あるはずもない仮定を口にした後、少年は退屈そうな声色でレイチェルの身体を触手で貫く。



「⋯⋯ぐっ!?」



 そして貫いた触手を乱暴に振り回すと、レイチェルの身体は力無く振り払われて地面を転がる。



「ちぃ、レイチェル!」



 リアンはそれを見て自らの身体を強引に叩き起こしてレイチェルへと声をかける。



「動かねえよ、今回はしっかり貫通したからな。」



「⋯⋯さて、と。」



 が、少年は冷たい声色でそう断言すると、ゆっくりとリアンの方へと振り返る。



「褐色のは大した事なかったし、魔法使いは自滅、そんで剣士の姉ちゃんも死に体、後はお前だけだぞ。契約使い。」



「⋯⋯それとも、契約相手がいなきゃ何も出来ないか?」



 少年が両手を広げて一人一人に視線を遣りながら語っていくと、最後にリアンの目を真正面から見つめたまま下衆な笑みを挑発する。



「⋯⋯っ、なんだと?」



 リアンはその挑発に簡単に乗ってしまうと、フラフラの体のまま激しい剣幕で歩み寄っていく。



「そうだろ?戦えない、サポートも出来ない、魔力も大した事ない。だから棒立ちで仲間がやられてるのを見てるしか出来ない。」


「だから強者と相対した時、お前は仲間がやられているのを見ている事しか出来ないんだよ。」



 それでもなお少年は挑発を止めることなく淡々とリアンの図星を突いていく。



「⋯⋯てめぇ。」



「リアン、一旦逃げて。貴方だけじゃ⋯⋯。」



 煽られるままに突っかかっていくと、それを危険視したノアが絞り出すような声で静止する。



『契約を解除する。』



 少女の言葉を無視してそう呟くと、三人に掛けられた契約魔法が切れ、光の放たぬ契約紋だけが取り残される。



「⋯⋯リアン!」



「⋯⋯お前ら、動けるなら這ってでも逃げろ。」



 最後に大きく息を吐き出すと、リアンは未だ意識は残っているであろう三人に向けてそんな言葉を投げかける。


「コイツは、俺がなんとかする。」



次回の更新は九月二十二日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ