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契約魔法


「⋯⋯契約?訳わかんないんだけど⋯⋯。」



 黄金色に輝くリアンの指先を見て女性は訝しげな顔で問いかける。



「まぁそうだろうな⋯⋯って⋯⋯。」



 説明しようと考えていると、バキバキと木を砕いて移動するモンスターの足音が接近してくるのを感じる。



「来るっ⋯⋯。」



 その発言の直後、スライムの触手は二人に向かって振り下ろされ、二人は左右に分かれて回避する。



「ちっ⋯⋯どわぁ⋯⋯!?」



 引き剥がされる瞬間、リアンは女性の掌を自らの手で叩き合わせる。


 すると、そこには指先の光と同じ色の小さな紋章が浮かび上がる。



「ちょ、なにこれ!?」



「勝つにはこれしかねぇ!お前は誓うだけでいい!!いくぞ契約魔法!!」



 問いかけに答えることなく、リアンはニッコリと笑って話を進める。



「もうっ!!訳わかんない!!」




『俺の力、お前に貸してやる。だから、勝て!!』




 混乱する女性に、リアンは訳の分からない言葉を投げかける。



(何言ってんの⋯⋯?こいつ⋯⋯。)


「⋯⋯⋯⋯っ。」


 訳の分からないまま、吐き出しそうになる愚痴を喉の奥へと飲み込む。そして、 短く、こう叫ぶ。




『⋯⋯分かったわよ!!』



「⋯⋯よっしゃ。」


 金色の光は一瞬で全身に広がり、女性の身体を包み、体内へと浸透していく。



「⋯⋯⋯⋯なに、これ?」


(力が湧いてくる⋯⋯。)



 微力ながら普段よりも軽く感じる身体と、内側から湧き出る感じたことのない力に戸惑いを感じる。



「魔法だ!魔法を使え!」



 リアンは放心状態で立ち止まる女性に対して、スライムの攻撃を避け続けながらそう叫ぶ。



「はぁ⋯⋯?さっき使えないって⋯⋯。」



「今なら使える、復唱しろ!」



「炎のマナよ——」


 否定しようとする言葉を食い気味に遮ると、リアンは一人詠唱を開始する。



『ほ、炎のマナよ——』



 訳の分からぬまま慌ててその詠唱をリアンの後ろから唱える。



「連鎖し、収束せよ。」



『れ、連鎖し、収束せよ。』



「なっ⋯⋯!?」


 短い詠唱を終えると、女性の持つ剣は徐々に熱を帯び始め、その高温で刃はゆっくりと赤く染まる。



「⋯⋯っ、うそ⋯⋯私が、魔法を⋯⋯?」



 女性は真っ赤に輝きながら煙を上げる剣を見つめて呆然とする。



「⋯⋯それならやれるだろ?」



「⋯⋯ええ。」


 リアンの言葉で我に帰ると先程までとは一転して、女性は自信に満ち溢れた表情で短くそう答える。



「⋯⋯⋯⋯やれ。」



「⋯⋯はぁ!!」



 短い命令に応じて剣を振るうと、スライムの身体はコマ切れになって弾け飛び、そのカケラ一つ一つが発火し、蒸発するように消え去る。



「⋯⋯すっげえな。」



(太刀筋が全く見えなかった。)


 弾け飛ぶスライムを見て、リアンは力が抜けたようにその場に座り込む。





 リアンは自らの安全を確認すると、ため息をつきながら歩み寄る。



「⋯⋯ふぃ〜、取り敢えずお疲れさん。⋯⋯⋯⋯って、なに泣いてんだお前?」



 すると、その女性の目にうっすらと涙がにじんでるのが見える。



「⋯⋯っ、うるさいっ!泣いてないし!」



 そう言われてハッとすると慌てて後ろを向き涙を拭う。



「いや、泣いてんだろ、⋯⋯⋯⋯⋯⋯ははぁ〜ん?」



「⋯⋯なによ。」



 リアンは何かに気付くと、わざとらしくそう言って顔を近づける。



「お前アレだろ、人生で初めて魔法使って感動してんだろ?ん?そうだろ?」



「⋯⋯っ、うるさいバカ!!」



「馬鹿はお前だろっての⋯⋯まあいいや、とりあえず返して貰うぞ。」



 照れ隠しで罵ってくる女性に淡々と言い返すと、指先の光をゆっくりと消していく。


 すると女性の持つ剣に灯る赤い光がゆっくりと収まっていき、やがてそれは完全に消失する。



「あっ⋯⋯。」



 女性は儚げな顔で残念そうに声を上げる。



「⋯⋯嬉しいのは分かるが、ずっとは発動出来ないんだよ。使用中ずっと魔力使い続けるからな。」



 あまりに残念そうな表情を表に出す為、リアンも思わず罪悪感に駆られる。



「⋯⋯⋯⋯アンタは、なんで手伝ってくれたの?」



 納得したのか、強がっているのか、その女性は少しだけ黙り込んだ後、リアンに向かってそう問いかける。



「別に、これが一番安全な道だと思ったからだよ。⋯⋯あのままお前を置いてけば、とりあえずあの場で襲われることは無かっただろうが、帰りに別のところにいるって確証はどこにもないだろ?」



「もしお前があの場で食われて、帰りに俺とあの女の子二人でアレに相対しちまった場合、勝ち目はゼロだからな。」



 その最悪の状況を考えると、解決した今でも背筋にゾッと冷たいものを感じる。



「だから勝てる可能性の高い方に賭けた、と。」


「そうゆーことだ。」


 結論を出す女性に対して、指をさしてそう答える。


「じゃあさ、もう一つ聞いていい?」


「なんだ?」


 かなり態度が柔らかくなった問いかけに、少しだけ答えてやろうと返事を返す。



「あの魔法はなに?」



「⋯⋯⋯⋯企業秘密。」



 が、その問いには答える事はなかった。



「言いたくないの?」



「そうゆうこった。そんじゃ、俺はいくぜ。」



 逃げるように荷物を纏めると、リアンはそのまま森を抜けて本来の道へと戻る。



「あっ⋯⋯ちょっと、待ちなさいよ。」



「待たねえ、時間が無えんだ。」


 走りながらピッタリとついてくる女性の言葉をリアンはピシャリと両断する。



「なんでそんなに急いでるのよ。」



「もうすぐ夕方になっちまう。」


 ゆっくりと日が落ち始め、橙色に染まる空を見上げる。


「夕方だとなにがまずいの?」


「誕生日会に間に合わねえ。」


「はぁ⋯⋯?」


 冒険者の女性はその言い分に訳がわからないと言った様子で気の抜けた声を上げる。



「あの子はな、おばあちゃんの誕生日ケーキを買いに行ってんだよ。誕生日会までに間に合わなかったら依頼失敗だろ。」



「そりゃそうだけど⋯⋯。」



 走りながら必死にそう言うリアンに女性は口ごもりながらついていく。



「俺はな、俺の命が世界で一番大事なんだよ。」


「その俺の命を俺自身が賭けたんだ。だったらその対価は、結末は大成功以外認めねぇ。」


 当然といえば当然なのかもしれないが、それでも普通ならば堂々と言うことを憚りそうな言葉を胸を張って言う。



「⋯⋯いたわよ。」



「お、マジだ。」


 女性が指差した先に、大きな箱を持った少女の姿が見える。


「あ、リアンさん!大丈夫でしたか?」



「ええ、無傷ですよ。それで、ケーキは⋯⋯。」


 少女もこちらの存在を発見すると、心配そうにリアンに歩み寄ってくる。


「はい、買えましたよ!ちょっと買い過ぎちゃいましたけど⋯⋯。」


「⋯⋯それは良かった。」


 照れ笑いを浮かべる少女を見て深い安堵のため息と共にそう声をかける。



「それで⋯⋯その、さっきは⋯⋯。」



「さっきはすいませんでした。咄嗟とはいえ、粗暴な言葉遣いになってしまいました。」


 何かを言おうとする少女よりも先に、リアンは少女に対して深々と頭を下げる。



「い、いえ、タラタラしていた私が悪いんです。」


「いえ、誰だってあんな目に会えば気が動転するのは当たり前です。配慮できなかった私に問題があるんです。」



 視線を下に向け続けながら、少女の言葉を否定してそう続ける。


「あ、頭を上げてください。私は気にしてませんから。」


「⋯⋯ありがとうございます。」


 少女に促されてリアンは頭を上げる。



「⋯⋯⋯⋯。」



 その横では冒険者の女性が自らへの対応の差に不満そうな顔を見せる。


「それでは、日が暮れる前に帰りましょうか。」



「⋯⋯はい!」


 リアンの言葉に少女はニッコリと笑ってそう答える。


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