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いざウィスタンドへ



 ——時は過ぎ、五日後。


 アークのギルドハウスの前には、準備を万端に整えた面々が揃っていた。


 そして四人で馬車の用意をしていると、門の外からツカツカとオリヴィアがこちらに歩み寄ってくる。



「準備はできたかの?」



「ええ、全員問題ないわ。」



 そんな問いを投げ掛けられると、レイチェルが代表して答えを返す。



「ウィスタンドへの入国手続きは済んでおる、到着したらまず依頼主から情報を得てそこから実行せよ。あちらに着いたら宿泊場所や拠点はお主らに任せる。」



「わかった。」



 そう言ってオリヴィアが胸元から一枚の紙を手渡すと、そこには行き先を詳しく明記した案内図が描かれていた。



「資金は渡したがくれぐれも無くさぬように、遠征では流石にそう言った追加の援助はできぬからな。」



「ええ、それも分かってるわ。」




「おおーい、レイチェル!馬車の準備出来たんだとよ。」



 オリヴィアから次々と注意やアドバイスを受けていると、馬車の向こうからリアンが顔を出してレイチェルの名を呼ぶ。



「すぐ行くわ。」



 前回の一件で多少信頼度が上がったのか、レイチェルは素直にリアンの言葉に返事をする。




「⋯⋯それから、最後に一つ。」


 そして踵を返して馬車へと向かおうとした瞬間、オリヴィアが小さな声でレイチェルを引き止める。



「⋯⋯何?」



「向こうで何かに絡まれても、絶対に相手にするな。」



「何かって、例えば?」



 珍しく抽象的な言い方を聞いて、レイチェルは思わず首を傾げる。



「なに、盗賊やその類の事じゃ。今回の件に関係ない事はなるべくするな。帰りが遅くなるだけじゃからな。」



「分かった、注意するわ。」



 具体的な答えを聞いて一応の納得をすると、そう言って首を縦に振る。



「おーい。」



「分かってるっての!うるさいわね!」



 直後に聞こえてくるリアンの二度目の呼び掛けが少しだけ癇に障ったのか、レイチェルは怒鳴り声を上げて返事をする。



「ああ!?んだとコラ!!」



 それを聞いてリアンも当然売り言葉に買い言葉で対抗する。



「はぁ⋯⋯おい、ヘタレ。」



 二人のいつも通りのやりとりを見て、呆れながら溜息をつくと、少しだけ強い口調でリアンを呼び寄せる。



「誰がヘタレだコラ!」



 リアンは半ギレの状態でそう答えると、レイチェルと入れ替わりでオリヴィアの元へと歩み寄る。



「⋯⋯貴様の強みはあくまで契約魔法、それは忘れるなよ。」



 オリヴィアはそう言ってリアンの目をじっと見つめる。



「⋯⋯?何言ってるんだ?」



 オリヴィアの突然の真面目な発言を聞いて、思わず首を傾げる。



「貴様の魔法は他者の能力を引き上げるもの、それ故に、一人ではどうしようもない力じゃ。」



「⋯⋯んな事分かってるよ。どうした急に?」



 リアンの魔法は、ノアの風魔法や、プリメラの光魔法とは違い、仲間がいて初めて成り立つ力、そんなことは使用者である本人が一番よく分かっていた。



「いやなに、なんとなく貴様が焦っているように見えたのでな。」



「⋯⋯っ、お前は、ホント性格悪いな。」



 魔法の指南を受けに来た時の様子を見て、オリヴィアがそう言うと、リアンは苦虫を噛み潰したような表情で毒を吐く。



「一人で強くある必要はない。貴様の場合、仲間と強くなれればそれで良いのだ。」



「⋯⋯気を付けろよ。」



 意味ありげな言葉を言った後、小さく微笑むと、最後にリアンの身を案じてそう話を締める。



「⋯⋯ああ、行ってくる。」


 

 最後まで彼女の言葉の意味が分からぬまま話が終わると、リアンは不思議そうな表情を浮かべたまま馬車に乗り込む。









 馬車に乗って平原の道を進むこと、約三日。リアン達の旅路は何事も無く順調に進んでいた。



「⋯⋯馬車移動って珍しいよな。」



 御者担当のリアンは、慣れた手つきで手綱を引きながら、隣に座るマリーナに向かってそんな言葉を投げ掛ける。



「流石に今回の目的地は遠過ぎるっスからね。」



 顔に当たる風に身を任せながら、マリーナは穏やかな表情でそんな言葉を返す。



「⋯⋯ところでお前ら全員、馬車使えるのか?」



「はいっス、レイチェルさんとノアさんは高校時代に免許取ったらしいし、アタシも二年くらい前に取ったっス。」



 三日間ずっと御者台に座っていたリアンがふと疑問に思ったことを問いかけると、マリーナは視線を斜め上に飛ばしながら、自らの記憶を頼りに答える。



「リアンさんは馬車操縦の免許いつ取ったんっスか?」



 そして答え終わると、今度はマリーナがリアンに向かって同じ質問を投げ掛ける。



「ああ、三年くらい前に取ったな。荷物の運送の仕事とか受けた時に便利だからな。」



 冒険者にとって、馬車の操縦は必須とまではいかないものの、確実に持っていた方がいい為、学校によっては必修科目であるところも存在する程であった。


 そして、高校時代は普通科であったリアンは、冒険者になる事が前提の総合科や魔法科とは違い、そういった資格の取得は決して必須ではない為、レイチェル達よりも少しだけ遅いタイミングで取得していた。



「ただこんな長距離の移動はしたことないな、そもそも俺イスタルから出たことないし。」



 そもそもイスタルの国の便利屋をしていたリアンにとっては、旅行でもしない限り国外に出る必要が無かったため、それは当然のことであった。



「お前はあるか?国外に出たこと。」




「⋯⋯っ、多分ないっス。」



 先程と同じような調子で再び質問を投げかけると、今度は少しだけ言葉を詰まらせた後に、曖昧な答えを返してくる。



「⋯⋯⋯⋯。」



 その瞬間、一瞬だけ沈黙が流れる。



「⋯⋯⋯⋯お前さ、今回のクエストのこと、何か知ってるんじゃないか?」


 少し間を開けた後、リアンはそれまでずっと抱えていた疑問をぶつけてみる。


「⋯⋯はい?」


「いや、なんか説明聞いてた時から様子変だったじゃん。」


「⋯⋯っ、いや、えっと⋯⋯⋯⋯。」


 それまでずっと穏やかだったマリーナの表情が一気に凍り付き、明らかに動揺した態度を見せる。



「⋯⋯なに?」



「⋯⋯なんでもないっス。」



 改めて首を傾げて聞き返すと、返ってきた言葉は、求めていたものとは違うものであった。



「⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯ごめんなさい、なんでもないんス。」



 納得がいかず、ずっとマリーナの目を見つめるが、それでも返ってきた言葉は変わることは無かった。



「⋯⋯分かった、言いたくないならいいや。」



「こっちだってヒトのプライベートにズケズケと踏み込むほど野暮じゃねえよ。」



 珍しくシュンとした態度を見て、何故だか可哀想になってきたリアンは聞くことをやめて視線を前に向ける。




「⋯⋯いや、リアンさんは結構野暮っスよ?」



 するとそれまで沈み込んだ態度を見せていたマリーナは、ふと顔を上げてそんな言葉を吐き出す。



「⋯⋯んなっ!?」



「⋯⋯なに話してるの?」



 突然の切り替えに驚くと、その声を聞きつけたノアが、その後ろから顔を出して声を掛けてくる。



「⋯⋯なんでもねえ、どうしたノア?」



 行き場の無い感情を押さえ込みながら、リアンは不思議そうな表情で首を傾げるノアにそう問いかける。



「そろそろ国境超えるから、一応言っておこうと思って。」



「おー、案外早かったな。」



 想定よりも遥かに早い到着に、リアンは気の抜けた声を上げる。



「想定より半日くらい早かったっスね。」



「うん、快晴で、かつ魔物とも一度も遭遇しなかったからね。」



「そういうことだから、あんたら気を引き締めなさいよ。」



 するとそれまで荷台で黙り込んでいたレイチェルは、まるで保護者のような態度で三人にそう促す。



「おーう。」


「了解。」


「おいっサー。」



「⋯⋯⋯⋯はぁ、大丈夫かしら⋯⋯。」



 同時に返ってくる三つの気の抜けた返事を聞いて、レイチェルは思わず頭を抱える。








 目的地に到着し、馬車を降りると、リアン達は依頼者の待つ家に向かってウィスタンドの街を歩き始める。



「⋯⋯町の中に入るとガラッと雰囲気変わるわね。」



 しばらく歩いていると、レイチェルはキョロキョロと周囲を見渡しながらそう呟く。



「⋯⋯静かで過ごしやすそう。」



「ならいっそ住むか?」



 抑揚のない声でノアが呟くと、リアンはあくび混じりにそう尋ねる。



「リアンが養ってくれるなら考える。」



「そのかわりお前が家事を手伝うなら考える。」



「⋯⋯⋯⋯今のままでいい。」



「だろうな。」



 そんな内容も意味も無い会話を繰り広げていると、その隣でレイチェルが呆れながら不機嫌そうに咳払いをする。



「くだらない話してないで準備しておいて。そろそろ依頼主のところに着くから。」



「はーい。」



「おーう。」



 視線を向けられると、リアンとノアは間延びした返事をする。



「⋯⋯⋯⋯。」



(⋯⋯やっぱ静かだな。)



 その横で黙り込むマリーナを見て、リアンはやはりその態度に違和感を感じる。



「着いたわ。ここが今回の依頼主の⋯⋯家、なんだけど⋯⋯。」



 手に持った地図に目を向けながらレイチェルが、視線を上に向けると、目的地であるはずの建物を見て思わず言葉を失う。



「⋯⋯でけえな。」



「⋯⋯でっかいっス。」



 驚いたのはその家の大きさであった。



「アリシア様の屋敷くらいあるね。」



 高い外壁に囲まれた白く巨大なその建物は、ノアの言う通り、アリシアの住む屋敷と遜色ないレベルの屋敷であった。



「めっちゃ金持ってるのかな?」



「そういえば今回の依頼主ってアリシア様と顔見知りらしいわよ。」



 真っ先にリアンはそんな下衆な思考を巡らせると、レイチェルは補足の情報を付け加える。



「ああ、どおりで。」



 そしてそれを聞いてリアンの疑問はすぐに解消される。


 と、そんな会話を繰り広げていると、リアン達の目の前の門はゴゴゴ、と重々しい音を立てて左右に開く。


「⋯⋯勝手に空いた。」


「ほら、入るわよ。」


「⋯⋯はいっス。」


 それを歓迎していると受け取ると、四人はゆっくりと門をくぐりながら敷地の中へと入る。




「——お待ちしておりました。」



 レイチェル、ノア、マリーナ、リアンの順番で門をくぐると、一番最後に進んでいくと、リアンの背後、門の方から声が聞こえてくる。



「⋯⋯うおっ、ビックリした!」



 突然背後から聞こえてきた声に、リアンは思わず肩を震わせる。


 振り返ると、そこにはドレスを纏った若々しいゆるふわ系の女性が門の裏側に隠れるように立っていた。



「⋯⋯はじめまして、冒険者ギルド、アークのレイチェル・アシュリーと申します。」



 それを見てレイチェルは、すぐさまその女性が依頼主であると察し、深々と頭を下げて挨拶をする。



「こちら左から、リアン、ノア、マリーナです。」



「「よろしくお願いします。」」



「⋯⋯⋯⋯。」



 レイチェルの紹介を受けて、リアン、ノアの二人は同時に挨拶をしながら、そしてマリーナは口を閉ざしながら頭を下げる。



「私、この家の当主をしております、サフラ・シュタルと申します。」


「どうぞ、よろしくお願いしますね。」



 女性はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、ニッコリとはにかんでコテンと首を傾げる。


次回の更新は五月二十六日になります。

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