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とりあえず今は


 事件の翌日、とある場所では、各ギルドのトップ達による会議が開かれていた。


「一体どういうこと!?これは!」



 不気味な静寂の中そう叫んだのは、イスタル最大の規模を誇る冒険者ギルド、フェンリルナイツのギルドマスター、クインであった。



「どうもこうもない。報告の通りじゃ。」



 バンッ、と机を叩きながら発せられる叫びに対して、オリヴィアは頭を軽く抱えながらそう答える。



「容疑者のハバードはザミエルと呼ばれる何者かによって殺害され死亡。そしてその女は逃亡して行方知れず⋯⋯⋯⋯これは⋯⋯⋯⋯。」




 そしてその横ではドラゴスパーダのマスター代理であるシェアトが同じようにため息混じりにそう呟く。




「まあ、最悪の展開じゃな。」




 オリヴィアは途中まで出かかっていたシェアトの言葉の続きを躊躇いなく発する。




「いや、容疑者死亡だけど、一応騒動は収まってるわけだし、最悪とは一概には言えないけど⋯⋯⋯⋯。」


「欲しい情報はほとんど手に入らないのもまた事実。」



 彼らからすれば、今回の一件で最も避けたかったのは何も情報が得られない事にあった。


「現状手に入った情報は、元凶であるハバードが外部のなんらかの組織と繋がっていたこと。」


「その組織の一つに、ザミエルと呼ばれる女がいたこと、そしてその女にはハバードの口封じをしなければならない何かしらの事情があったこと、くらいじゃな。」



 オリヴィアはある程度割り切った態度を見せると、少ない情報を集めて今回得られた成果を統合していく。



「ハバードの目的も、その組織の目的も知れないのは痛手よね。」



「⋯⋯申し訳ありません、これは我々アークの失態ですわ。」



 愚痴のように吐き出される言葉に対して、アークのギルドマスターであるアリシアは深々と頭を下げて謝罪する。



「いや、その時はうちのウェンディも居たわけだし、貴女達だけが悪いとは言えないのよね。」



 それを受けたクインは、逆に申し訳なさそうに視線を逸らしながらそう答える。



「⋯⋯こうなった以上、引き続き調査を続けるしかあるまい。」



 最後にそう言って話を締めると、オリヴィアは深々と溜息をつく。




「⋯⋯そうね。これ以上話し合っても埒があかないわ。解散しましょ。」



「ええ、では引き続き情報の共有をするということで。」



 そう言って話を締めると、クイン、シェアトの二人はその場から立ち上がり部屋に一つだけ設置されたドアから外へと出て行く。



「⋯⋯ああ、宜しく頼む。」



 オリヴィアはそんな二人の背中に小さく返事をすると、深く考え込むようにして地面を眺める。



「⋯⋯⋯⋯。」


(レイチェルや他の冒険者がいながら、ハバードを殺せる実力者か⋯⋯⋯⋯。)



「⋯⋯⋯⋯ザミエルか、一体どこの何者なのか⋯⋯⋯⋯。」


 そして二人残された部屋で、小さく天を仰ぎながらそう呟く。







 そして、時は少し戻りハバードが殺された日の夕方頃。


 風の如き速度で森を駆け抜ける少女は、鬱蒼と生い茂る草木を躱しながら空いた手で通信の術式を発動させる。



「⋯⋯任務ミッション完了コンプリート。ザミエル、帰還します。」




 ハバードの死亡、そして追手の有無を確認すると、少女は淡々とした態度で魔法陣へと声をかける。



『ご苦労、気を付けて帰って来い。』



 すると直後に魔法陣から先程は返ってこなかった返事が彼女の耳へと届く。




「⋯⋯了解。」




 そう答えて走るのを止めると、ゆっくりとした足取りで森を抜けていく。



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯っ!?」



 その瞬間、気配を察知したザミエルは、手に持った武器を構えてそちらの方向へと振り返る。




「おおっと、ストップ!俺だよ俺。」



 直後に木の陰から一人の中性的な姿をした黒髪の少年が両手を上げて出てくる。



「⋯⋯貴様か。」



 ザミエルはその姿を見て呆れたような態度を見せると、敵対心を一切隠すことなく武器をゆっくりと下ろす。



「アハハハハ、そんなカリカリすんなよザミエルちゃ〜ん。間違って殺しちゃうぞ?」



 少年はケタケタと愉快な笑い声を上げながら、殺気を放つザミエルに対して同じように殺気をぶつける。



「あらそう、蜂の巣にしてやるわ。」



 そしてザミエルも一切引くことなく少年のその挑発に対して、同じように挑発で答える。



「⋯⋯⋯⋯ハバード、負けたんだって?」



 このままでは話が進まないと溜息を吐き出すと、少年は殺気を放つのを止め、穏やかな雰囲気でそう問いを投げかける。




「ええ、冒険者にね。」



 ザミエルはそれでも殺気を解くことなく淡々とした様子で答える。


「まあしゃーねーわな。あのおっさん戦闘力ほぼゼロのインテリくんだしな。薬使ったとしてもたかが知れてらぁ。」



 それを聞いた少年は、小馬鹿にするような態度で両手を頭の後ろに回しながら、くるくるとその場で回り始める。



「そうね。⋯⋯⋯⋯で?貴方は何の用なの?」



 そんな気の抜けた態度を見てもなお一切の油断も隙も見せないザミエルは、敵対心を未だ収めることなく問いかける。



「他の依頼帰りに寄っただけ、ついでに手伝ってやろうと思ったけど、入国した頃には既に事は済んでたって感じ?」



「余計なお世話よ。元から傭兵風情に手を借りようとは思ってないわ。」



 少年の答えを聞いて、ザミエルはさらに不快そうな表情ではっきりとそう答える。



「あっそう、じゃあ帰るわ。」



「⋯⋯あ、そういや一つ。」



 興味を失った少年はザミエルに背を向けて歩き出したが、数歩歩いた後に立ち止まって、ふとそんなことを呟く。



「⋯⋯何よ?」



「ハバード倒したのってどんな奴なの?」



 不快そうな態度のまま首を傾げるザミエルに対して、少年は首だけを向けたまま問いを投げかける。




「一人は魔法が使えない女剣士、もう一人は、契約魔法の使い手よ。」



「⋯⋯契約、魔法?⋯⋯⋯⋯へえ?」



 少年はザミエルの言葉のその部分に小さく反応すると、それまでのゆるい雰囲気が一瞬、凍り付くように静まり返る。



「ええ、どうやら精霊抜きで使えるらしいわよ。⋯⋯⋯⋯どうしたの?」



 それを察したザミエルは、契約魔法のことを中心に話をするが、少年は全てを聴き終える前にくるりと踵を返す。



「⋯⋯⋯⋯いいや、別に。⋯⋯⋯⋯ただちょっと、興味が湧いた。」



 不思議そうに問いを投げかける少女に背を向けながら、黒髪の少年は大きく頬を釣り上げてそう答える。










 数日後——




「⋯⋯⋯⋯ん、んん?」



 アークのギルドでは、それまでずっと眠っていたリアンが目を覚ます。



「⋯⋯あら、目が覚めたみたいね。」



 重たい瞼を開けて数秒ほど天井を眺めていると、視界の外、ベッドの真横からそんな声が聞こえてくる。



「⋯⋯なんでお前が俺の部屋にいる?」



 ゆっくりと首を動かし、声の主の姿を視界に収めると、真っ先に飛び出したのはその言葉であった。



「あら、せっかく看病してあげたのに、随分と太々しい態度ね?」



 それを聞いたレイチェルは、少しばかり苛立ちを見せながら皮肉交じりにそう尋ねる。



「お前が?嘘はよせよ。」



 するとリアンはそんな態度を全く意に介せず、太々しい態度のまま言葉を返す。



「⋯⋯っ、コイツっ⋯⋯⋯⋯!!」



「大方暇だったから俺の様子を見に来ただけだろ?」



 苛立つレイチェルに対して、さらに挑発するような表情で追及する。



「はぁ、もういいわそれで。ほんと、ずっと寝てればいいのに。」



 そう言って折れると、レイチェルはリアンに聞こえないような小さな声で辛辣な言葉を吐き出す。




「⋯⋯⋯⋯?」



「そういや⋯⋯ハバードはどうなった?」



 聞き逃した言葉に首を傾げると、それを無視して自らの疑問を投げかける。




「⋯⋯死んだわ、殺された。」



 すると、返ってきた言葉は、短くシンプルでそしてそれ以上無いくらい分かりやすいものであった。



「⋯⋯やっぱそうか。」



 それを聞いてリアンは、どこか落ち着いた様子で肩の力を抜く。




「あら、見てたの?」




「半分な、ほとんど意識は飛んでた。」



 意外そうな顔をするレイチェルに短く答えると、そのまま視線を窓の外へと移して小さく溜息をつく。



「⋯⋯⋯⋯そうか、やっぱ守れなかったか。」



「守りたかったんだけどなぁ⋯⋯。」




 隣に座るレイチェルに表情を見せぬまま、リアンは悔しそうに言葉を絞り出す。




「⋯⋯別に、そんなに暗くならなくてもいいんじゃないの?」



「たしかに私達はハバードを死なせてしまったけど、元凶であるあいつを止めたのは私達なんだから。」



「あいつ自身は守れなかったけど、それ以外の沢山の人を守れたのも事実よ。」



 沈み込むリアンに対して、レイチェルは割り切った様子で淡々と言葉を吐き捨てる。



「それだって俺一人では出来なかった。」




「それでも、倒したのはアンタなんだから、胸を張ってればいいのよ。」




 反論するリアンに対して、レイチェルはそれでもなお態度を崩すことなく事実を述べる。




「とりあえず、今は笑いなさい、バカ魔法使い。」




「⋯⋯はっ、バカは余計だっての。」



 ニヤリと頬を釣り上げて発せられるレイチェルの言葉を聞いて、リアンはぎこちない笑みを浮かべたままそう答える。



「色々と問題も疑問も残ってるけど、今は笑って、そんでしっかりと休みなさい。」



 呆れたような表情を浮かべながら、諭すような優しい声色でレイチェルは小さくそう呟く。



「⋯⋯お疲れ様。」



 納得のいかない事も、分からないことも残ってはいたが、それでも大量発生事件はリアン・モングロールの手によって幕を閉じた。



物語の途中で抜け落ちていた話がありましたので修正、及び再掲致しました。


次回の更新は二月二十四日になります。

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