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金髪の剣士


 それからすぐに街を出ると、二人は森の中を切り開いて作られた一本道を歩いていく。



「私のおばあちゃん、私が生まれた時から色んなこと教えてくれて、すごく物知りなんです。」



「そうなんですね。」



 少女の言葉にニッコリと笑みを貼り付けて返事をするが、正直リアンにとってはそんな事はどうでもよかった。


 リアンにとって、今現在最も重要なことは周囲の警戒。守ると言った以上、名前も知らない魔物にいつ相対してもいいように、限界まで周囲に警戒を張り巡らせていた。



(一応剣は持ってきたけど⋯⋯コレで倒せる程度なら人は死なねえよなあ⋯⋯。)



「そのおばあちゃんが、食べたことがないから食べてみたいって言ったんです。だから絶対買って帰りたくて⋯⋯。」



 八割近く話を聞き流しながら、腰にかかる剣に手をかけてリアンは歩みを進める。



「——ん?」


 すると遠くの方からバキバキと木の折れる音が聞こえてくる。


「⋯⋯?どうかしました?⋯⋯わっ!?」


「隠れて⋯⋯。」


 リアンは少女の服を引っ張り、咄嗟に木の陰に隠れる。



「⋯⋯っ!?あれって⋯⋯。」



(スライム、の亜種か!?⋯⋯マジかよ。)



 音が徐々に近づいてくると、金髪の女性とゲル状のモンスターが道の真ん中へ飛び出してくる。



「⋯⋯戦ってる?」



「みたいですね。胸元のあれ⋯⋯冒険者か?」


リアンは少女の言葉に反応しながら、リアンは戦っている女性の胸元についたブローチを見てそう推測する。



(嫌な予感が的中しやがった⋯⋯。つーか道の真ん中で戦ってんじゃねえよ。)



 リアンは内心でモンスターと名も知らぬ冒険者に愚痴を吐く。



「やられてる!!」


 目を向けると女性の身体は遠目から見ても分かるくらい傷だらけであった。



「⋯⋯うぐっ!?」



 モンスターの身体から伸びる触手が、女性の腹部にめり込み、そのまま吹き飛ばされる。



「マジか⋯⋯。」



 吹き飛ばされた女性はその衝撃のあまり、這いずりながら胃液を吐き出す。



(どうする⋯⋯助けに行くか?それともあの女は見捨てて素通りするか?⋯⋯つーか出来んのか?どう動けばいい?)



 蹲る女性に這い寄る無機質なモンスターを見つめて、リアンは頭をフル回転で回す。



「どうしよう⋯⋯?リアンさん⋯⋯。」



(うるせえ黙ってろ!⋯⋯どうする⋯⋯どうすれば俺もこの子も助かる?)



 怯えるだけの少女に心の中で辛辣に罵ると、リアンの目にモンスターの身体の一部、触手と身体の中心の間辺りに歪な穴のようなくぼみが見える。



「⋯⋯ん?なんだアレ?」




(切れてるのか?あの女がやったのか?つまりあいつは⋯⋯。)



 その形状を見て、くぼみは斬撃によるものだと気付くと、その思考の途中で、くぼみは徐々に消えていく。



「⋯⋯っ、やるしかねぇか。」



 リアンという男は別に英雄願望があるわけでも慈愛と友愛に満ちた人間であるわけでもない。むしろその逆、誰よりも己を一番とし、利害や効率を重視する男。


 でも、だからこそリアンはこのタイミングで、この状況で、女性を助けに走る。


 モンスターは再び触手を生やすとそのまま女性に振り下ろす。


 が、その触手に向かってリアンが慣れない動きで斬りかかると、リアンの予想通り、その触手は簡単に地面に落ちる。



「リアンさん!」



「行ってください!」


 自らの剣で魔物を牽制しつつ、リアンは少女にそう言う。



「⋯⋯っ、でも!」



「こいつは貴女が帰ってくるまでに私がどうにかします。売り切れる前に買ってきて下さい。」



 躊躇う少女に対して、リアンはニッコリと笑って先に行くよう促す。



「⋯⋯⋯⋯私は⋯⋯。」




「いいから行けよっ!!めんどくせぇなぁ!!」



 いそれでもなお戸惑う少女に対して、今日一の大声でそう叫ぶ。



「⋯⋯っ!?⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯やぁっと行ったよ。」


 自らの背後を通って道なりに走り去る少女を見送ると、一旦ため息をついて足元に寝転ぶ女性に目を向ける。



「⋯⋯な、にしてんのよ⋯⋯。」



「よお、冒険者さん。動けるか?」


 掠れた声で呟く女性に対して、リアンは軽い調子で手を伸ばし、そう問いかける。



「邪魔しないでよ。そいつは私の⋯⋯。」



「そうゆうのはいいから、一旦退くぞ。」


 払いのける手を無理やり掴み、そのまま担ぎ上げると、襲い来るモンスターに目を向ける。



「ちょ⋯⋯!?」



『清めよ——クリア』



 モンスターに左手を向けると、浄化魔法を発動させる。


 光の波がゲル状の身体に触れると、その身体の表面が少しずつ消し飛んでいく。



「⋯⋯お、効いた。んじゃ、逃げる。」



 モンスターが怯んだ隙にそのまま森の中へと走り出す。



「待ちなさいよ、私はまだ⋯⋯。」



「負けだっての、認めろバーカ。」


 ジタバタと暴れる女性に、リアンは容赦なくそう罵る。



「アンタねぇ⋯⋯。」



「力を貸してくれ、俺じゃ倒せねぇから。」


 女性が強く拳を握り締めると、リアンは真面目な声で食い気味にそう呟く。



「い、や⋯⋯だっ!!」



 女性は体を捻り、無理矢理リアンの腕から抜け出して振り払う。



「どわっ!?お前なあ!」



 あまりに乱暴な行動に、思わず怒鳴りつける。



「退いて、私があいつを倒すの⋯⋯ぐっ⋯⋯。」



 女性は地面を這いずりながら元の場所へ戻ろうとするが、痛みでその場で呻き声を上げる。


「⋯⋯ほら、傷薬にポーションだ。多少はマシになんだろ。」


 リアンは腰にかけたバックの中から一本の瓶と、包帯、塗り薬を取り出して女性に向かって投げつける。


「⋯⋯⋯⋯。」


 女性は薬を受け取ると、何も言わずに傷口の治療を始める。



「落ち着いたかよ。」



「⋯⋯うるさい。」



「反抗期かお前は。⋯⋯で、アレはスライムでいいんだよな?」


 辛辣な返事にため息を吐くと、木の陰に隠れながら、遠目に見えるモンスターを指差してそう問いかける。



「ええ、ただのスライムではないみたいだけどね。」



「と言いますと?」



「あのスライム、一時的に体を硬質化出来るみたい。」


 それを聞いて、リアンは先程の光景の理由を理解する。


 スライムというのは本来、物理攻撃に強い耐性を持つ代わりに自らも物理攻撃が出来ないため、基本的に口や鼻から入り込んで窒息させるのが本来の戦い方である。



(が、あのスライムはその弱点を硬質化で打ち消した訳だ。)



「だからお前はド派手にぶっ飛ばされてたのな。」



「ぶっ飛ばされてないし⋯⋯くっ⋯⋯。」


 強がりながら否定するが、身体中の傷が否応無しにそれを肯定していた。



「⋯⋯けどさ、スライムなら魔法でどうにかなんねーの?さっきみたいに。」



 スライムの弱点は火属性と浄化魔法、コレは一般人であるリアンでも知っている常識であった。



「⋯⋯⋯⋯いのよ。」


「⋯⋯ん?」



 女性の小さな呟きに、リアンは首を傾げて聞き直す。



「使えないのよ、魔法。」



「はぁ⋯⋯?」


 目を逸らしながら飛び出すカミングアウトに、リアンは思わず気の抜けた声を上げる。



「文句ある?」



「お前冒険者だろ!?なんで使えないんだよ。今時一般人ですら使えるぞ?」


 リアンは実際に手元に火属性の球を作り出してみせる。



「生まれつき魔力が無いの!仕方ないでしょ!!」



「なるほどな⋯⋯納得いったわ。」



 顔を赤くしてそう叫ぶ女性を見てリアンは一旦落ち着いて思考をまとめる。


(つまりはこいつは物理攻撃無効のスライム相手に斬撃だけで挑んでた訳か。)


(馬鹿だなこいつ。⋯⋯けど⋯⋯。)


 あまりの愚かさに頭を抱えて呆れ果てるが、決して絶望することはなかった。



「この選択肢で正解だった訳か。」



 誰に言うまでもなく、自らに向かって確認作業をすると、小さくそう呟く。



「よしっ、これでいける。⋯⋯ありがと、後で薬代は払うわ。」


「いけねえだろ。」


 治療を終え、再びスライムへ向かって行こうとする女性の手を掴みリアンはそれを引き止める。



「⋯⋯っ、離して。」



「お前さ、魔法が使えない癖に冒険者になれたってことは、相当剣技に自信があるんだろ?」



「⋯⋯⋯⋯。」



 リアンの問いかけに女性は何も答えず黙り込む。



「沈黙は肯定って事にしとくぞ。⋯⋯けどな、スライムはいくら斬っても死なないだろ。」



 まるで子供に言い聞かせるように一つ一つ丁寧に説明していく。


「知ってるわよ。スライム討伐の基本は火属性魔法で再生を止めるか、もしくはさっきあんたがやったみたいに浄化魔法で吹っ飛ばすのが一番手っ取り早い。」


「ならなんで向かってく。」


 そこまで分かっていてそれでもなお無策で向かって行く女性の心理構造にリアンは強く疑問を抱く。


「基本がそうなだけでしょ。別に剣技だけで倒せない訳じゃ無い。⋯⋯相手が再生し続けるなら、再生出来ない速度で切り続けるだけ。」


(⋯⋯やっぱり馬鹿だなこいつ。)


 至って真面目な表情で答える女性を見て、先程と同じように頭を抱えてそう断定する。



「そんな倒し方聞いた事ねぇよ。」



「じゃあ、あんたが倒すの?無理でしょ、あんな出力じゃ何年かかるかわからないわよ?」



 呆れた様子のリアンに対して、女性は不愉快そうにそう答える。



「ああ、俺だけじゃあいつは倒せねぇ。お前だけでも無理だろうな。だから⋯⋯。」



「手、組もうぜ?」



 その言葉を認めた上で、リアンは右の拳を握り締めて、女性の顔の前に突き出す。



「手を組む?冒険者でも無いあんたと?どうやってよ?」



「⋯⋯どうもこうもない。お前は全力で戦えばいい。」



 至極真っ当な疑問に対して、リアンは答えになっていない答えを返す。


「⋯⋯はぁ?」



「ただ誓え、あいつを倒すと。」



 気の抜けた声を無視してそう言うと、握り締めた拳に更に力を込めていく。



「どう言う事?」




「⋯⋯⋯⋯契約だよ。」


 ニカッと歯を見せて笑うリアンの指先が、金色に輝き出す。


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