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新たなクエスト


 冒険者ギルド〝アーク〟〝フェンリルナイツ〟〝ドラゴスパーダ〟の三ギルド合同クエストから数日後、リアン達はクエストで負った怪我も回復し、平穏な日々を過ごしていた。



「——次の仕事じゃ。」



 が、そんな平穏もオリヴィアから放たれたそんな言葉によってアッサリと終わりを迎える。


「⋯⋯⋯⋯。」


 その日は上機嫌だったリアンの表情は、この世の終わりのような絶望に染まる。


「くっくっくっ、そう嬉しそうな顔をするな。」


 その様子の一部始終を見て、オリヴィアは愉悦の笑みを浮かべる。


「目ぇ腐ってんのかお前。」


 そんなオリヴィアとは正反対の感情を抱えながら、全身全霊の怒りと悲しみを乗せて吐き出すようにそう呟く。


「⋯⋯内容は?」


 リアンの隣のソファに座りながら500ゴルドンのプリンを口にしていたノアは、そんな二人の会話に割り込むようにそう尋ねる。


「今回も邪魔者退治じゃ。」


「⋯⋯てことはまた魔物かよ!?」


何気ない態度で放たれる言葉に、リアンは叫ぶように嘆きの声を上げる。


「⋯⋯少し違うの。」


「⋯⋯てことは山賊?」


 オリヴィアがすぐさま否定すると、隣にいたノアがボソリと呟くように首を傾げる。


「正解じゃ。一応依頼内容を読み上げるぞ。」


 そう言って以前と同様に胸元から複数枚の紙を取り出すと、ペラペラとめくりながらそれを広げて読み上げ始める。



「——流れの森における討伐依頼。」


「ここ数週間の間に流れの森を拠点とする山賊の集団、いわゆる〝ハグレモノ〟達の活動が活発になり、各方面での商業的な流通が妨害されています。ですので、今回は〝ハグレモノ〟達の捕獲、又は討伐を依頼したいと思います。」


「なお彼らの生死は問いません。」



「流れの森か⋯⋯。この前の所とは違う場所だよな?」


 最後の一文に頬を引きつらせながら、リアンは冷静にそう問いかける。


「なんか何にもないってイメージっスけど。」


 リアンの言葉を聞いてマリーナは視線を宙に泳がせると、誰に言うでもなくボソリとそう呟く。


「そう、何も無い⋯⋯だからこそ面倒なのじゃ。」


「どーゆーことっスか?」


 その言葉を拾い上げたオリヴィアの言葉を理解できず、マリーナは不思議そうに首を傾げる。


「何も無い、魔物も居ないし、外敵も少ないってことは、そうゆう奴らが溜まるのには最高の場所なのよ。」


 魔物がいなければ住処を襲われる心配は無いし、人工物が無ければ国の人間が近づく事もない。


 つまりはそういった輩にとって都合の悪い者が近づく可能性が低くなるのである。


「そもそも、はぐれもの⋯⋯ってなんなんだ?」


 マリーナが納得しかけていたその時、その会話に割り込むようにリアンが手を上げる。


「いわゆるあの辺りに住む山賊のことじゃ。」


「つまり今回はその〝ハグレモノ〟退治、って事でいいのか?」


 ため息混じりに返される言葉を聞いて納得すると、話をまとめるように改めてそう尋ねる。


「その通り、それと、今回の依頼主は他ならぬアリシアじゃ、全員気を抜かぬように。」


 それを聞いて、レイチェル、ノア、マリーナの三人は表情を少しだけ硬くするが、リアンだけは一人別な事を考えていた。


「⋯⋯?なんでアリシア様がこんな依頼出すんだ?」


 そもそも一介のギルドマスターであるはずのアリシアにとっては「商業的な流通」などあまり関係ないようにも思えた。


「本業の方に影響が出てるってこと?」


(⋯⋯本業?)


「そうじゃ。」


 するとまたしても他の四人はリアンの知らぬところで勝手に話を進めていってしまう。


「⋯⋯本業ってなんだよ?」


「⋯⋯はぁ!?アンタ知らないの!?」


 リアンがそう問いかけると、レイチェルは呆れを通り越して少しだけ機嫌の悪そうにそう問い返してくる。


 見ると他の三人も同様に呆れたようにリアンに視線を向けていた。


「⋯⋯みんな知ってんのか?」


 はっきり言ってリアンにとってアリシアは大金を積んでくれるお金持ち程度の認識しか無く、ギルドマスター以外の仕事をしているという認識は無かった。


「そりゃまあ⋯⋯当然知ってるっス。」


「アリシア様の本業はね、社長さんだよ。」


 いつもはリアンのフォローをしてくれるマリーナが珍しく呆れていると、真横に座るノアはリアンの目を真っ直ぐに見てそう答える。


「⋯⋯なんの?」


 あれだけの立派な屋敷があるのであれば、ギルドマスター以外の仕事で社長業をしているのは別に変な話では無かった。


 だからこそ、何をして稼いでいるかを知るためにそう問いかける。



「服の製造⋯⋯ざっくり言えばファッションブランドっス。」



「と言っても、あやつの得意分野は特殊な素材の加工、つまり、耐熱性や衝撃の緩和、機能性が高いものが多いから売る相手は基本的に冒険者や貴族、城の兵士達となる。」



「ギルマスの仕事はあくまで副業じゃ。」



 マリーナが端的にそう言うと、オリヴィアが訂正と補足を入れて説明する。


「本業は防具屋に近い感じか⋯⋯。」


「ちなみに私達が着てる戦闘服もアリシア様デザインよ。」


 それまであまり話に入ってこなかったレイチェルは立ち上がってそう言うと一人一人の服装の説明をし始める。


「例えばマリーナの服はパンチや蹴りの邪魔になんないようになるべく関節の動きを阻害しない作りになってるし。」


 他のメンバーと比べて一際露出の多い服装はそれが理由だったのかと納得する。


「私の服は少し重いけど耐熱性と防腐性に優れてて破れにくくて丈夫な素材で出来てる。」


 レイチェルの場合、機動力を削いでまで耐久性を上げたのは戦闘のパターンが近接に限られているからだと理解できた。


「ノアやアンタのは基本的に私の服に性能は近いけど、多少守備力を落として軽い素材にしてる、って聞いたわ。」


 逆にリアン、ノアの二人は近接戦の機会が少ない上に、筋力がただでさえ少ないため、機動力を優先したと考えられる。


「まじか⋯⋯受け取ったもんそのまんま来てたけど、あれ、アリシア様が作ってたのか⋯⋯。」


 当然リアンはそんな事は初耳であり、動きやすいからという理由だけで着ていた。


「社員は相当数いるが、基本的にオーダーメイドの要望は全てあやつ自らがデザインしておる。⋯⋯つまりあやつはあやつで多忙なのじゃ。」


「そんな中でのこの案件じゃ、あやつも相当頭を痛めておる。全員、雇い主に恩を果たすつもりで頑張るのじゃ。以上、解散。」


「「はーい。」」


 オリヴィアがそう言ってミーティングを締めると、未成年組の二人は手を挙げてお気楽な返事をする。


「⋯⋯了解。」


「はぁ⋯⋯魔物の次は山賊か⋯⋯。」


 が、リアンとレイチェルは各々煮え切らない返事をするのだった。







——翌日


 リアン達四人は、早朝からクエストに向けて準備をしていた。


「よし!あんた達、準備はいい?」


 指揮はいつも通りレイチェルが取ることとなり、レイチェル本人も気合が入った様子でそう声を上げる。


「「おー!」」


 早朝にもかかわらずノアもマリーナも、相変わらずのお気楽さで元気よく返事をする。


「⋯⋯はぁ⋯⋯⋯⋯。」


 その横ではリアンが相変わらずの憂鬱な態度でため息をついていた。


「大丈夫ね!行くわよ。」


 そんなところまで構っていられないレイチェルは冷たい態度で突きはなす。


「——もう出発するのですね。」


「⋯⋯っ、アリシア様。」


 声を聞いて振り返ると、ギルドマスターであり、今回のクエストの依頼主でもあるアリシアがオリヴィアを連れて四人に近づいてきていた。


「はい、今から出発します。」


 その中でレイチェルが代表して凛とした態度でそう答える。


「では、一つ私から忠告を⋯⋯。」


「彼らの戦闘力はさほど高くないでしょうが、もしもイレギュラーが起きた場合は無理せず返って来て下さい。」


「物資の流通も大事ですが、私はなによりも貴女達が大切なんですから。」


 つまりは無理せず油断せず、出来る限りの事をすればいい、というのがアリシアの考えであった。


「⋯⋯分かりました。けど、可能な限りは私達で対処してみせます。」


 だからこそレイチェルは多少無理でも自分達だけで対処しようと考えていた。


「ええ、期待してますよ。」


「それでは行って参ります。」


 アリシアがそう言ってニッコリと笑うと、レイチェルは深く頭を下げて話を断つ。


「はい、ご武運を。」


「行ってきます!」


「いってらっしゃいマリーナ。」


 にこやかに手を振るアリシアに見送られながら、四人はアークのギルドハウスを発つのであった。




「——行ったのう。」


 四人がいなくなり、空っぽになったギルドハウスの前に立ちながら、オリヴィアは隣に立つアリシアにそう呟く。


「今回の敵はさほど面倒なものでもありませんし、問題はないでしょう。」


「イレギュラーが無ければの。」


 アリシアの言葉に付け足すようにオリヴィアはそう付け足す。


「まあはっきり言って少し期待しているんですけど⋯⋯。」


「わざわざ自ら依頼主になってまで彼らを行かせたんです。普通の結果以上のものが欲しいのです。」


 そう答えるアリシアが浮かべる笑顔は黒い訳でも影がかかっているわけでもなく、ただひたすら挑戦的なものだった。


「相変わらずしたたかじゃのう⋯⋯。」


 オリヴィアは呆れた様子でため息をつく。


 と、同時にそう言ったある種の強欲さが彼女が成功した理由でもあるのかもしれないと考える。


「私は信じているのです、彼女らの強さを、そして彼の引きの強さを。」



更新が遅れてしまい申し訳ありません。

次回の更新は九月二十三日になります。

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