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反撃開始


 森の中をある程度走り、魔物の近くまで辿り着くと、レイチェルの指示で、リアンは走ることをやめて息を殺しながら進んでいた。


「持続時間はおおよそ五から七分くらい。そんで、その間に三体倒せば俺達の勝ちだ。」


 リアンはゆっくりとレイチェルの後をついて行きながら作戦の内容を彼女と確認する。


「最悪二体倒せれば契約が切れても私一人でも対応できる。」


 強気な発言にも聞こえたが、確かに先程の戦闘を見ていても、相当なイレギュラーがない限り一対一で彼女が負けるようには思えなかった。


「なら、お前は一体ずつ各個撃破で、俺はそれ以外の奴らを別の所に引きつける。」


 リアンはその邪魔をしないように別行動を提案するが、考えるまでもなくそちらの方が遥かに無茶な提案であった。




「⋯⋯⋯⋯なにしてんの?」



 が、そんな事よりも気になってしまったのはリアンの行動であった。


 リアンはレイチェルと会話をしながら、忙しなく周囲の草木を剣で刈り取り、拾い上げた枯葉や落ち葉と共に近くにあった木の根元へと集めていた。


「あ?⋯⋯ああ、引きつける為の準備だよ。」


 そう言って魔法の詠唱をするとリアンの指先から小さな火の玉が発生する。


「山火事でも起こす気?」


 それを見てレイチェルは訝しげな表情でそう尋ねる。


「それも面白そうだな、そうすりゃ魔物も纏めて全滅出来るし。」


 リアンはヘラヘラと軽い調子で笑いながらふざけた様子でそう返す。


 理にはかなっていたが、色々ダメなのは言うまでもなかった。


「馬鹿なこと言わないで。」


 レイチェルはため息混じりに冷たい視線をリアンに浴びせる。


「冗談だっての、全部燃やすつもりはねぇよ。」


 リアンは苦笑いでそう返すと、火の玉を連続で草木に投げ込む。


 すると生え揃った木々は根元の方から炎が上がり、あっという間に十数本の木々が列をなすように炎を上げ始める。


「⋯⋯ところで、お前倒す順番とか決めてんのか?」


「スライムからやりに行くわ。」


 リアンが思い出したかのようにそう尋ねると、レイチェルは無表情で即答する。



「スライム⋯⋯!?スライムいんの!?」



 リアンは首を九十度急旋回して叫ぶようにそう問いかける。


「居るわ、契約が切れた時、一番勝ち目が薄いから優先して叩くつもりよ。」


 物理攻撃を完全に受け流すスライムは剣術しか使えないレイチェルにとっては天敵であり、それを優先して倒しに行くのは確かに理にかなっていた。


「あんまり時間取られすぎんなよ。」


 が、前回の依頼でエネルギー切れで殺されかけたリアンとしてはスライムに対しての恐怖が抜けきっていなかった。


 だからこそ、レイチェルに対して短く簡単な警告を発する。


「アンタに言われなくても分かってるわよ。」


「ならいい。それで、それ以外の二体は大体どの辺にいるんだ?」


 スライムはレイチェルが相手をするとして、他二体を相手をする為にはその位置を特定する必要があった。


「前方百メートル先にさっきの蜘蛛、右三百メートル先にもう一体って感じね。」


 レイチェルは気配を辿ることが出来ないリアンに対して出来る限り正確な敵の位置を伝える。


「了解、とりあえず俺は蜘蛛の相手をする。」


 リアンは実力や状況を考慮して、距離の近い蜘蛛を優先することにした。


「ええ、始めるわよ。」


「ああ、行くぞ。」


 やることは決まった、引けないならばとことん前に出るしかない。


 二人は同時に覚悟を決めると、互いに背を向けて自らの敵のいる方向を強く睨みつける。



『私に力を貸して。』



 リアンとレイチェル、彼らの二回目の契約はレイチェルからであった。



『契約を許可する。』



 その言葉の直後、黄金色の光がレイチェルの身体へと吸い込まれると二人は同時に別々の道を走り出す。







 その光を遠目から見ていたプリメラは治療に集中しながらトールに話を振る。



「⋯⋯行っちゃったね。」



「ええ⋯⋯もう使っても大丈夫なのでは?例の特別な魔法とやらを。」


 トールとしても、部下の命の危機から、少しだけ急かすような口調になってしまう。



「⋯⋯オーケー、それじゃ役割交代するよ。」


 切り替えるという言葉の意味は、トールはすぐに理解できた。


 現在、プリメラは回復ではなく、エリンの出血を抑える為の魔法に全神経を集中させている。そして自分が傷の治癒を担当している。


 つまり今トールがすべき事は一つ。



「⋯⋯止血魔法へ切り替えます。」



 その数秒後、トールは宣言通り治療の魔法の上から重ねがけするように止血の魔法を発動させる。


「⋯⋯っ。」


(切り替わった⋯⋯。)


 プリメラはトールが止血の魔法を発動させたのを感じ取ると、ゆっくりとエリンの身体から手を離す。


「ふぃ〜⋯⋯キツかった。」


 そしてそのまま気を抜くと真紅の鮮血に染まった両手を下ろしながら、 上空を仰いで大きく息を吐く。


「プリメラさん⋯⋯早くっ⋯⋯!」


 想像以上に難しいのか、トールは先程以上に苦しそうな表情でプリメラに訴えかける。


「うん、今どうにかする。⋯⋯⋯⋯と、その前にさ。」


 魔法の準備に入ろうとした瞬間、プリメラは思い出したかのようにそう切り出す。


「⋯⋯何ですか?」



「今から使う魔法、誰にも言わないでね。」



 荒々しい口調でトールが聞き返すと、プリメラまるで最終確認をするように首を傾げて問いかける。



「⋯⋯分かりました。」



 もはや集中力が限界を迎えそうなトールは即答でそう返す。



「当然君の所のギルマスにも言っちゃダメだよ?」



「⋯⋯っ、はい。」



 図星を突かれ一瞬言葉に詰まるが、部下の命が握られてる今、なりふり構っている余裕はなかった。


「⋯⋯⋯⋯よろしい。あっちの準備もできたたみたいだし、こっちも始めようか。」


「⋯⋯っ、それは⋯⋯!?」


 そう言ってプリメラが魔法の準備を始めると、トールはそれを見て大きく目を見開きながら驚嘆の声を上げる。



「⋯⋯起きて、ウィル。出番だよ。」




『——私に、力を貸して。』




 その言葉の直後、淡い水色の光が彼女を包み込み、そのまま天を衝くように空へと広がっていく。


次回の更新は七月八日になります。

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