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不安要素と不満要素



 そして来たる合同任務当日。



 〝アーク〟の面々は前回と同様、朝早くから集合場所である森林の広場に向けて歩いていた。



 が、その中に約一名、どうしても乗り気でない者がいた。



「またここ入んのかぁ⋯⋯。」



 青臭い香りとジメジメした空気、風でカサカサと揺れ動く草木は何度来ても都会育ちのリアンには気持ちの良いものでは無かった。



「嘆いたって仕方ないっスよ。」



 そんな情けない表情をするリアンの横を、マリーナはなんの躊躇いもなく進んでいく。


「ほら、行こ。」


「⋯⋯分かってる。」


 ノアに引っ張られるようにしてリアンは背中を丸めながら森の中へと入っていく。



(よくこいつらこんな躊躇いもなく入れるな⋯⋯。もしかして虫とか大丈夫なタイプ?)



 それとも自分がまだまだ冒険者として未熟なのかは分からなかったが、これに慣れるくらいなら一生未熟のままで良いと思ってしまう。



「昨日言われたから分かってると思うけど今回は三ギルド合同でチームを組むから、私たちはバラバラになるからね。各自いつも以上に気をつけるように。」



 先頭を歩くレイチェルは完全にリアンの事など気にすることもなく振り返る事すらせずに淡々とした口調で注意を促す。



「「はーい。」」



「⋯⋯はぁ、行くしかねえか⋯⋯。」



 話が進むにつれてリアンは否が応でも覚悟を決めざるを得ない状況まで追い詰められる。








 嫌悪感を全力で抑え込み、ノアに引っ張られながら数分ほど歩くと、ほんの少しだけ広い空間に出る。


「あ、いたいた、集まってるっスよ。」


 周囲を見渡すと、その奥で二十から三十程の冒険者と思われる人々を見つける。


 同時に相手方の一人がこちらの存在に気が付き、ゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる。



「来ましたね、アークの皆さん。フェンリルナイツ、サブマスターのウェンディです。今回もよろしくお願いします。」



 女性はリアン達の前で立ち止まると堂々とした立ち振る舞いで小さく頭を下げる。



「こちらこそよろしくお願いします。」



 それに反応して前回と同じようにレイチェルが代表して頭を下げて返事を返す。



「リアンさん。」



 すると、その後ろで男性の声がリアンの名を呼ぶ。


「ん?⋯⋯ああ、トールさん。あんたも一緒か。」


 それに反応して振り向くと、前回のクエストを共にした真面目そうな青年がこちらに歩み寄って来ていた。


「あはは、一応こんなんでも精鋭という扱いですからね。」


 トールは謙虚な姿勢で恥ずかしそうに頭をかきながらそう答える。



「⋯⋯それより怪我の方はもう大丈夫なんですか?」



「おかげさまで、バッチリだ。」



「それは良かった。」


 リアンが親指を立ててニッコリ笑うと、ドールは安心しきった様子で小さく笑顔を見せる。


「今回は足引っ張んねえように気をつけるからよろしくな。」


 前回、一発食らっただけで気を失ってしまった分、リアンとしても同じ轍を踏むつもりはなかった。


「元より足を引っ張られた記憶はありませんから、大丈夫ですよ。」


 そんな覚悟を知ってか知らずか、トールはリアンの肩の力が抜けるようリラックスした表情でフォローを入れる。



「⋯⋯そういや、今回は精鋭を揃えるって聞いたけど、アイツもいるのか?」



 リアンはキョロキョロと周りを見渡しながら彼女・・の存在の有無を尋ねる。



「いますよ。ほら⋯⋯。」



 トールが指をさした方を見ると、戦闘装束を纏った茶髪で整った顔立ちをした女性が、こちらを向いて立っていた。



「⋯⋯この前ぶりねリアン。」



 女性はリアンの顔を見ると小さく微笑みかけながらそう呟く。



「おお、この前ぶりだなエ——」



「——久しぶりね、エリン・アレス・コロッセイア。」



 返事を返そうとするリアンの言葉を遮って、レイチェルはエリンの顔を鋭い眼光で睨みつける。



「⋯⋯っ!」


「⋯⋯⋯⋯?」



 突然の介入にエリンは肩を震わせながら、リアンは首を傾げながら反応する。



「ひっ、久しぶり⋯⋯です。はい⋯⋯。」



 突然リアン以外の人間に話しかけられた影響で、エリンはその凛とした態度を一気に崩壊させてボソボソと尻すぼみ気味に返事をする。


「あの二人、知り合いだったのか⋯⋯。」


 突然蚊帳の外にはじき出されたリアンは、隣にいたノアに顔を近づけながらそう問いかける。


「高校がおんなじだったらしいよ。ペルフォードの総合科。」


 そんなリアンの問いかけに、ノアは二人を眺めながら何考えてるのか分からないほど変化のない表情で答える。


「はぁ!?初耳なんだけど!?」


 エリンとレイチェルは同じ学校、つまり学科は違えど自分とも同じ学校であるという事になる。


 当然そんなことは教えられるはずもないリアンは驚愕を露わにする。



「聞いた話だけど、高校の時からライバルみたいな関係だったらしいよ?」



「実力は拮抗してたけど、評価は知っての通り、レイチェルは魔法が使えないってだけで不当な評価を受けてて⋯⋯。」



 そんなリアンに、ノアは知っているだけの二人の関係や情報を伝えていく。



「対するアイツは弱点らしい弱点もなく、史上最高の才媛としてもてはやされたと。」



 エリンの情報は幼馴染であるリアンも当然知っていたため、自分自身で彼女の情報を補正していく。



「そう。だからレイチェルはあの人のことちょっと嫌いみたい。」



(そりゃ、嫌いにもなるわな⋯⋯。つかアイツ同じ学校だったのかよ。)



 実力が同じなのに、魔法が使えないだけで評価に雲泥の差が生まれるなんてことが起これば、自分が同じ立場にいてもそんな考えに至るであろうと想像する。


 まして彼女の場合、努力ではどうにもならない所で差が出てしまっていた為、不満は出て当然であった。



「⋯⋯ギルド入って相当期待されてるみたいだけど、浮かれてこっちの足引っ張らないでよね。」



 それらの影響もあってか、レイチェルはかなり当たりの強い口調でエリンに問いかける。


「⋯⋯が、頑張ります。」


 同級生とはいえ、エリンの動揺ぶりやレイチェルの態度を見る限り、やはり仲が良いわけではないのは明確であった。



「⋯⋯おい、レイチェル、そんくらいにしとけよ。」



 コミュ障の症状と、突然の辛辣な言葉のせいで泣き出しそうになるエリンを見て、リアンは咳払いをしながらレイチェルを咎める。



「⋯⋯っ、分かってる。」



 すぐさま自分の大人げない発言に気がつくと、レイチェルは内心少しだけ後悔しながら、そう言ってくるりと踵を返す。


「⋯⋯っ!」


 そうしてエリンはレイチェルから解放されたのだが、何故か辛そうな表情でリアンの顔を見つめる。



「あの⋯⋯リア⋯⋯。」



「悪かったな、ウチのやつが変な突っかかり方して。あんまり気にしないでくれ。」



 礼を言おうと声をかけるが、その言葉は今度はリアンによって遮られる。


「⋯⋯うん、分かってる。それで⋯⋯あの⋯⋯。」


 なにかを言おうとするエリンの言葉はそこで詰まってしまう。


「⋯⋯ん?なんだ?」


 リアンは自分が聞き取れてなかったと勘違いし、首を傾げて聞き直す。



「⋯⋯⋯⋯頑張ろうね⋯⋯?」



 本当は何か別の事を言おうと思っていたが、レイチェルとの会話での緊張や、またそう言ったことを意識したことでの緊張によって、結局何か特別なことを言うわけでもなく、動揺した態度のまま上目遣いでそう言う。



「おう、足引っ張んねえように頑張るぜ!」



「リアンさーん、行きましょー。」


 リアンがそう返すと、遠くからマリーナが手を振ってこっちに来いと言っているのが聞こえてきた。


「ああ、今行くよ。⋯⋯じゃ。」


 リアンは短くそう返すと、エリンに合図を送って仲間の元へと走り去っていく。


「あ、うん⋯⋯。」


 エリンは小さく手を振りながらその背中を見送る。


「⋯⋯⋯⋯。」


 エリンは仲間と親密そうに会話するリアンの横顔を見て儚げな表情を浮かべる。


「⋯⋯⋯⋯。」


 その背中には暗い影が差しており、とても話しかけられる雰囲気ではなかった。


「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 どうするべきか分からないトールとウェンディは同時に顔を見合わせる。


「⋯⋯⋯⋯はぁ。」


 深いため息の後、エリンはリアンとその仲間の事で頭がいっぱいになってしまう。



(顔近かったな⋯⋯。)



 自分が金髪の彼女と話している時、彼が隣にいた少女と話す時の距離が気になってしまった。



(名前⋯⋯呼んでもらえなかったな⋯⋯。)



 自分は呼んでくれなかったのに、彼女の名は平然と呼んでいた。



(私も⋯⋯呼んでもらいたかったな⋯⋯。)



 仲間であれば名前で呼ぶのは全く変ではないし、仲間内での会話なら多少距離感が近くても変ではない。


 決して彼に問題があるわけでも、彼の仲間に問題があるわけでもない、強いて言えば自分が気にし過ぎなだけであった。


 それでも、分かっていても、心の中で嫉妬という名の感情が湧き出てくる。



「カッコ悪いな⋯⋯私⋯⋯。」



 そんな自分に嫌気がさす。



「⋯⋯?何か言いましたか?」



 トールはエリンの口から漏れ出した小さな呟きに反応して問いかける。



「⋯⋯っ!!な、なんでもないです!」



 エリンはトールのその言葉を聞いて、自分が無意識に口に出てしまっていた事に気がつくと、そんな醜い感情を押し殺すように取り繕う。



「⋯⋯?⋯⋯⋯⋯あ、来ました。」



 するとトールが森の細い道に目を向けて、何かに気がつく。



「——おやぁ?今日は私たちが最後みたいですよ?」



「別に時間には遅れてねえから問題ねえだろ。」



 振り返る前に聞こえて来た声は、その場にいた誰もが聞いたことのある声であった。



「⋯⋯⋯⋯。」



 見えたのは三人の人影。


 両サイドで纏めた桃色の髪を歩くたびに揺らす可愛らしい冒険者、ズボンを腰パンで履いて右手には棍棒を手に持ったヤンキーのような冒険者。


 そして一言も発する事なくその二人の前を歩く、眼鏡をかけた銀髪の男。


 ウェンディはその三人を見るとそのまま三人に近づいていく。



「⋯⋯ドラゴスパーダ、サブマスター、シェアト他二名現着しました。」



 銀髪の男がウェンディにそう言って報告すると、腕を組みながら自らの眼鏡をクイっと持ち上げる。



「フェンリルナイツ、サブマスター、ウェンディです。本日は協力ありがとうございます。」



 対するウェンディは先程リアン達にした時と同じように対応する。



「いいえ、こちらも仕事を貰えるのはありがたいですから。」



 シェアトは表情を全く変えることなく淡々とした態度でそう返す。


「今回は我々が指揮をとる事になっていますが、よろしかったのですか?魔物の討伐ならはあなた方の方が手慣れていると思うのですが。」


 ウェンディは数枚の資料を手に持ちながら、純粋に疑問に思ったことをシェアトに投げかける。



「我々は基本的に個人技主体ですから、仲間がいようがいまいが大して変わりません。」



 高慢とも取れるその発言と自信は圧倒的な実力に裏付けされたものであった。



「それよりも全員揃ったのであれば始めてしまいましょう。」



「そうですね。⋯⋯⋯⋯それでは皆さん集まって下さい。」



 促されるまま周囲にアナウンスすると、冒険者達の表情は一気に鋭く引き締まったものになる。


「お、始まるっぽいな。」


 同じくリアンもウェンディの言葉に反応してその方向への顔を向ける。


「リアン⋯⋯。」


「⋯⋯ん?」




「手振ってるよ?」



 ノアの言葉を聞いて視線を移すと、その先でプリメラがこちらに向かって思い切り手を振っているのが見えた。



「ああ、プリメラか。」



 リアンは小さく笑みをこぼしながら、左手で小さく手を振り返す。



「——今回の目標はこの森周辺に複数生息していると思われるコアモンスターの討伐になります。」



「なお、今回はあらかじめ通達していた通り、三ギルド間で五人一組のパーティーを組んでもらいます。」


 その間にウェンディは説明を始めると、リアンとプリメラはすぐさま手を振るのをやめてその顔を見つめる。



「わざわざ他ギルドとパーティーを組むのは純粋に各チームごとの戦力的なバランスを整えるためであり、回復魔法が使えるものが全てのパーティーに二人以上入るようにしています。」



 ウェンディ曰くどうやら冒険者にとって回復魔法を使えるというのはある程度付加価値が付くらしい。



「つってもウチで回復使えるのはノアくらいだもんな。」



「優秀だからね。」



 そう言われるとノアはドヤ顔でリアンの顔をわざとらしく見つめる。



「自信と口だけは一丁前だな。」



 少なくとも補助を貰わなくては攻撃魔法の一つも撃てない者が言う言葉ではない。



「はーい、質問いいですか〜?」



 するとプリメラが元気よく手を上げてウェンディに問いかける。



「なんでしょう?」



「そのコアモンスターってのはトータルでどの位いる計算なんですか?」



 プリメラは場違いなほど気の抜けた明るい表情でそう問いかけるが、質問の中身はリアンが思っていた以上にガチな質問であった。



「前回のクエストの後、魔物の異常行動が収まった範囲から逆算しましたが、推定で四体以上、としか分かっていません。」



度重なるクエストや討伐によって情報自体は充実してきてはいたが、それでも今現在、存在が確認されているコアの正確な数までは割り出すことは出来なかった。



「把握です!」



 プリメラはそれを聞いて敬礼のポーズをとって元気よく返事をする。



「⋯⋯⋯⋯他に質問はありますか?」



「⋯⋯⋯⋯。」


 ウェンディが立て続けに周囲にそう言って見渡すが、一瞬その場に沈黙が流れる。



「なお標的を見つけた場合、その場での討伐、または援軍を呼ぶなどの裁量は各チームごとの判断に委ねます。」



 質問がないのを確認するとウェンディはそう言って話を続ける。



(自分らでやれそうならやっちまえって事か。)



 逆に難しそうなら仲間を呼んで一気に叩く算段であるのはすぐに理解が出来た。



「私からの話は以上です。ここから先は各チームのリーダーをあらかじめこちらで決めておりますので、その指示に従って下さい。」



 ウェンディが全て言い終えると、その横に立つように冒険者の中から五人ほどが前に出てくる。



「⋯⋯ではまず最初に私、トールの班から。呼ばれた方は私の前まで来て下さい。」



 その五人の中の一人であるトールもまた片手に一枚の紙を持ちながら全体に向けて声を張り上げる。




「一人目、アーク所属、リアンさん。」




 トールがその名を呼んだ瞬間、冒険者達の雰囲気が一気に張り詰めたものへと変わる。


 変わり者揃いの〝アーク〟に新しく加入した新人、その知名度は既に相当なものであるのが、周囲の反応から伺えた。



「お、一発目からか。」



 当のリアンはというと、これだけの冒険者がいるのにもかかわらず真っ先に自分の名前を呼ばれる事にほんの少しだけ驚く程度であった。


「今回もよろしくな、トールさん。」


 言われた通りトールの目の前まで行くと、リアンはフレンドリーな態度でニッコリと笑う。




「ええ⋯⋯それでは二人目、ドラゴスパーダのプリメラさん。」




 トールは軽く会釈をするとすぐさま次の名を呼ぶ。



「おお!リアンくんと一緒じゃーん!」



 その言葉に返事をすると、プリメラは嬉しそうにリアンに向かって走りながら寄ってくる。


「言った通りになったな。」


 リアンは銭湯での会話を思い出しながら内心で自らの命の安全を確信する。



「君は私が守るぜ⋯⋯!」



 それを見透かしてプリメラは高い声色のままカッコつけるようにリアンに宣言する。


「あんたに言われるとどう反応すべきか分かんねぇな。」


 女みたいな男にそう言われて、なおかつ自分は男であれば、はっきり言って複雑な感情になるだけであった。


 二人が軽くふざけ合っていると、トールは構わず次の名前を呼ぶ。




「三人目、アーク所属、レイチェルさん。」




「「⋯⋯っ!?」」



 それを聞いてリアンとレイチェルは同時に反応する。



「ちょっと、どういうことよ!?」



 レイチェルは本来組むはずのない同じギルドのメンバーであり、最も組みたくない相手であるリアンと同じ班であることに当然抗議をする。



「本来は同じギルドのメンバーは各チームに均等に分割されますが、リアンさんの場合、使用する魔法が特殊過ぎるため同じギルドのレイチェルさんと組んで頂くことになりました。」



 納得のいかない様子のレイチェルに、ウェンディはまるでその反応が来ると分かっていたかのように淡々と説明を述べていく。



「他にも、二人以上で組むと実力以上の能力を発揮できる例がある場合は優先的に組ませるように作りました。」



 同じギルドのメンバーと組めば実力以上に活躍できるリアンはすぐさまその理由を飲み込むが、レイチェルの方はそう簡単にはいかなかった。



「けど、わざわざ私とじゃなくても⋯⋯!」



「今回のクエストの主導は我々に一任されています。出来る限り従って頂きたい。」



 それでも嫌がるレイチェルにウェンディは冷たい態度で無理矢理認めさせる。



「⋯⋯っ、⋯⋯分かったわよ。」



 それを聞いてこれ以上は自らのわがままであると察するとレイチェルは渋々その条件を受け入れる。


「納得頂けて良かったです。」


 ウェンディもそれ以上何も言うことなくくるりと踵を返して自らの持ち場へと戻っていく。



「私は剣豪姫と組めるなんて嬉しいけどな。」



 そんな二人を見ながら、プリメラはニッコリと笑みを絶やすことなくそう言う。



「⋯⋯剣豪姫?」



「二つ名だよ、彼女の。」


 リアンが問いかけると、プリメラはレイチェルの背中を見つめながら小さな声でリアンに耳打ちする。


「へぇ⋯⋯。」


 リアンはそれを聞いてまた一つ彼女の情報を頭にインプットする。


 レイチェルが落ち着くと、トールは小さくため息をついて最後の一人の名を呼ぶ。




「⋯⋯それでは最後、フェンリルナイツ、エリン。」




「「「⋯⋯っ!!?」」」



 すると今度はリアン、レイチェルと共に呼ばれた本人であるエリンも同時に肩を震わせて反応する。



「⋯⋯コレは少し露骨過ぎんじゃねえの?」



 真っ先に口を開いたのはヴォルグだった。


 編成されたメンバーを見て、隣を抜けるウェンディに向かって小さくそう問いかける。



「⋯⋯なんのことでしょう?」



 ウェンディは白々しい態度で首を傾げながらその問いの意味を尋ねる。


「はぐらかすんじゃねえよクソ野郎。」


 ヴォルグは全く表情を変えることのないウェンディのその態度に違和感と軽い苛立ちを覚える。



「どういうことっスか?」



 そのやり取りを遠目から見ていたマリーナは隣にいるノアにそう問いかける。



「⋯⋯簡単な話だよ。ぱっと見で分かるけど、強過ぎる。」



 他のチームはまだ発表されていなかったが、それでも明らかにおかしかった。



「剣豪姫に、フェンリルナイツのナンバー3、それにエース、そしてドラゴスパーダ所属の戦闘員。かなり過剰な戦力だけど、何考えてるのかな、君の所のマスターは?」



 明らかにパワーバランスのおかしいその編成に、プリメラも違和感を感じていた。



 だからこそ笑顔を消して射殺すような視線をトールに向けて問いかける。



「理由はすぐに分かります⋯⋯。」



 そんなプリメラの問いかけに、トールは頭を抱えながら返事をする。



「あの二人と一緒かよ⋯⋯。」



 そんな周囲の同様の中、リアンは別の心配をしていた。


 確かに実力で言えば満点であったが、心配だったのは相性の問題であった。


 自分以外の人間とのコミュニケーションがほとんど出来ないエリンと、彼女を嫌い、自分のことも嫌うレイチェル。


 その二人が同じチームなど、はっきり言って不安しかなかった。



(マジでどうなるんだ今回のクエスト⋯⋯!?)



 リアンは先程までとは一転して、なんとも言えない表情で心の中でそう叫ぶ。

次回の更新は五月五日になります。

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