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プロローグ・2


 そこは科学と引き換えに魔法の発展した世界。


 光、火、水、氷⋯⋯生活のあらゆる要素に魔法が結び付き、根付いたこの世界では、全人口の約半数が魔法の才能、魔力を持って生まれてくる。


 そしてそんな魔力を持って生まれるのは、必ずしも人間だけでは無く、森や川、火山に氷雪地帯などのあらゆる地域に生息する動物達にも適用される。


 魔力を持って生まれた動物、通称「魔物(モンスター)」はそのどれもが強大な力を持ち、人間達の生活を脅かしていた。


 そんな脅威に対抗すべく、一部の魔力の才に秀でた者達は、戦う術を身につけていった。


 人々は彼らをこう呼ぶ。



——冒険者と。








 草木をかき分けながら突き進む足音が何重にも重なる森の中で、戦士達の声が響き渡る。


 此処は世界を統べる四大国が一つ、イスタル王国領、〝静寂の森〟


 そんな名前には似つかわしく無い戦闘がそこでは巻き起こっていた。


「——っ、そっち行ったぞ!!」


 冒険者である男の一人が、そう叫ぶと、彼らの〝敵〟であるその魔物は、四足歩行で彼らの包囲網へと突き進んでいく。


「⋯⋯グルァァァァァァァァァァ!!」


 体長五メートルを超える熊型の魔物は、地鳴りのような咆哮を轟かせながら森の中を駆け抜ける。


「⋯⋯前衛、障壁を展開!」


「⋯⋯ハイ!」


「⋯⋯ッ、ガッ!?」


 魔法による盾を展開すると、魔物の動きはその盾に阻まれて侵攻を強引に止められる。


「攻撃魔法、展開!!」


 リーダーと思われる一人の男の指示によって周囲に身を潜めていた冒険者達は一気に掌に大きな魔法陣を展開し始める。



——この世界には、基本となる五つの属性の魔法が存在する。



「バーニングドライブ!」


 全てを焼き尽くし、灰にする〝火属性魔法〟



「アクアバラッジ!」


 高圧で噴出し、敵を切断、貫通する〝水属性魔法〟



「ランドショット!」


 大地の力を借りて敵を圧殺する〝土属性魔法〟



「ブレイズファン!」


 周囲の空気を押し固めて撃ち放つ〝風属性魔法〟



「ボルテージボルト!」


 光と共に高速で敵を撃つ〝雷属性魔法〟


 これらの基本五属性の魔法に加えて、光・闇・無属性の魔法や剣術を用いて冒険者達は戦っていく。



——同時に撃ち放たれた魔法は、魔物の身体へと直撃し、大きなその体躯は衝撃によって反り返る。


「⋯⋯ガッ!?」


「⋯⋯今だ、行け!」


 それでもなお動き出そうとする魔物を見て、冒険者達はニヤリと笑みを浮かべながら〝切り札〟に全てを託す選択をする。


「——エリン!!」


「⋯⋯⋯⋯ッ!!」


 リーダーの男の声に反応して一人の女性が草むらから飛び出していくと、胸元に魔法陣を展開しながら武器を構える。



「——ファングブレイズ」



「⋯⋯ッ!」


 竜巻のような風を纏いながら頭上に剣を構えると、振り下ろされた刃と共に風の一撃が魔物を真っ二つに両断する。








 そしてその後、冒険者達は両断された魔物の遺体を大きな手押し車で引きながら街の中を進んでいた。


「——いい動きだったぞ!エリン!」


「⋯⋯え?あ、どうも⋯⋯⋯⋯。」


「流石だな!」


「あ、あはは⋯⋯。」


 その中心で仲間達に賛辞の言葉を送られ、戸惑いを見せる茶髪の女性は、不慣れな笑顔を返していた。


「⋯⋯すげえ、あんな巨大な魔物を⋯⋯。」


「アレって、フェンリル・ナイツじゃないか?」


 そんな光景を眺める市民は、ある者は建物の中から身を乗り出し、ある者は手を振りながら彼らを迎える。


「⋯⋯じゃああの真ん中にいるのが、エースの⋯⋯⋯⋯。」


 そして、彼らはその中心を自信なさげに歩く女性に目を向ける。



「⋯⋯⋯⋯。」


 そんな有象無象の人間達の中に、たった一人冷めた視線を彼らに向ける男が存在していた。


「⋯⋯くだらねえな。」


 吐き捨てるように放たれる男の呟きは、誰の耳にも入る事なく街に流れる喧騒の中に消えていく。


「——ほら、どうしたのリアン君!」


 ただただ蔑むようにそれを眺める男に対して、背後から赤髪で白黒の制服を纏った女性が声を掛ける。


「あ、すいません、ボーッとしてて。」


 リアンと呼ばれた青年が女性に向かってそう返すと、ため息混じりに謝罪の言葉と正直な事実を述べる。


「今日はあと二件、気合入れて行くわよ!」



「⋯⋯うーす。」


 ニヤリと笑みを浮かべながら、少しだけ声色を上げて鼓舞する女性に対して、間の抜けた返事を返すと、女性はゆっくりと彼の元に歩み寄ってくる。


「⋯⋯ん?あれ、冒険者かしら?」


 そしてふと気がついたように彼の背後を眺めると、その奥で歩く冒険者に反応して彼らの姿を覗き込む。


「⋯⋯みたいっすね。」


「⋯⋯そういえば、今日は〝フェンリルナイツ〟が近くの森まで害獣駆除に出てるって話だったっけ?」


「見た感じ、依頼は成功っぽいですね。」


 巨大な魔物の死体を運びながら和気藹々と進んでいく彼らの姿を見れば、そう考えるのは当然であった。


「流石は冒険者ギルド最大手なだけあるわね。」


「最大手って、この国に冒険者のギルドなんて二つしかないでしょう?」


 女性が彼らを称賛するような言葉を呟くと、リアンはため息まじりにそう返す。


「⋯⋯あら、二つじゃなくて三つ目もあるらしいわよ?」


「へえ、それは初耳です。」


 女性の言葉を聞いてリアンは興味なさそうにそう答える。


「まあ、俺みたいな、何でも屋の雇われ魔法使いには関係ない事ですけどね。」


「冒険者なんて今時、先天的に魔力の高いような天才共のやる仕事ですし。」


「まあ、たとえ魔力があってもやろうとは思いませんが。」


 そして冷たい目で冒険者達を眺めながら、見下すような口調でそう言い放つ。


「はいはい、そうね。なら急ぐわよ。私達も負けないように何でも屋の仕事をしなくちゃ。」


「別に張り合ってねーっすよ。」


 呆れたように彼の手を引く女性に対して、若干の苛立ちを覚えながらも、軽口を叩きながらその場を立ち去っていく。


「⋯⋯⋯⋯。」


 そんな中で、冒険者の中心を歩く女性が、立ち去っていく彼らの背中を眺める。



「⋯⋯っ、リアン?」


 そして誰にも聞こえない声で、彼女はその名を呟く。







 魔法の発達した世界で、その才能を生かして人々を守る英雄的存在、冒険者。



 そしてこれは、そんな彼らとは関係のない——いや、関係の無かったはずの男の物語。


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