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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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第一章 『“神”との取り引き』⑤

「それでは、消息を絶ったあとの『MC』の動きについて、国が掴んでいることを簡単に説明しておこう」

 早速、といった様子で、吉川長官が話し始めた。

「六月二十二日、午前六時。『MC』研究施設からの連絡が途絶えた。監視員がすぐに現場へと向かったが、既に『MC』五人の姿はなく、施設内にいた研究員十三名は全員殺害されていた」

「その施設って、昔、俺たちが連れて行かれたのと同じ場所ですか?」

 十五年前の出来事が鮮明に浮かんでくる中、それを無理に振り払った黒崎は、落ち着いた口調でそう聞いた。

「あぁ、同じだ。鹿児島県枕崎港から南西に九十キロ地点。東シナ海にある十七の無人島群、草垣群島のひとつだ」

「それで、施設内の状態は?」

「一部の発電設備を除いて、大きな打撃を受けていた。壊滅的だと表現してもよいほどだ。特に、彼等のこれまでを詳細に記録したデータは、電子ファイルはもちろん、文書記録に至るまで、全て抹消されていた」

「……なるほど」

「ん? 何か気になることでも?」

「いや、別に。大したことじゃなかです」

 黒崎の曖昧な返答が気になったようだが、吉川長官はそのまま続けた。

「我々は、彼らの行方を追った。警察組織二十七万人を総動員すれば、その日のうちにでも五人全員の身柄を確保できたことだろう。だが、国家機密である『MC』を民間人の知るところとしてはならなかった。そのために満足な動きが取れず、結果、林田大臣を亡くしてしまう事態となってしまった。誠に、悔恨の極みだ」

 悲愴感を露わにする吉川長官に、黒崎は尋ねた。

「林田さんば殺した『MC』は、自殺する前に何か言いませんでしたか?」

「そ、それは……」

 口籠る吉川長官の横から、韮沢総理の声が聞こえてきた。

「俺たちを止めたければ、“俺たちが生まれた意味”を教えてくれ」

「それが『MC』の言葉ですか?」

「あぁ。私に伝えろ、と前置きしてそう告げたらしい。だが、変だと思わないかね、黒崎君。彼らは、物心ついたころから殺人術だけを教育されてきた。だから、自分たちが生まれた意味、つまり、生まれた理由が、殺人にあることなど疾うに知っているのだ。それなのに何故、今更私に聞く必要がある?」

「知っていた上で、それでも納得できんかったとでしょう。自分が人を殺すために生まれてきたなんて、誰も納得はできんですばい」

「そうかも知れないな。それで三日前、これが届いたというわけか」

 韮沢総理は、懐から封筒を取り出すと、黒崎に振って見せた。それは、まるで孫から貰った手紙であるかのような、淡いブルーの周囲に鮮やかな花々がプリントされた可愛らしい封筒だった。

「それ、『MC』からですか?」

「あぁ。人を殺めた者が寄越した手紙だとは思えないだろう? 読むかね?」

「えぇ、是非」

 黒崎の返事を聞いた総理は、封筒を投げ渡した。

 総理の手から離れた封筒は、テーブルの上を滑り、黒崎の許に届いた。

 封筒を開き、中の紙を取り出す。

 手紙には、便箋三枚にも亘って以下のように綴られていた。


 韮沢内閣総理大臣へ

 突然施設を飛び出してしまってごめんなさい。でも、こうでもしなければ、総理には会えないと思ったから。

 今まで私たちは、殺人のエキスパートとなるように訓練を受けてきました。施設の研究員からは、「お前たちは、テロリストを抹殺するために作られた兵器だ」と、言われ続けてきました。

 だけど、そんなのっておかしいですよね。私たちが生まれた意味が、“人を殺すため”だなんてどう考えたって変です。

 そこで私たちは決めました。施設を出て、総理と直接お話しようと……。

 脱出の邪魔をされたので、研究員の皆さんには死んでもらいました。ずっと人として扱ってもらえなかったことに腹が立っていたのも、彼らを殺した理由なのかも知れません。教えてもらった殺人術が、こんなところで役に立つなんて皮肉なものです。

 施設を出た私たちは、東京に向かいました。

 首相官邸にいる総理に会おうと近くまで行ったのですが、警護が厳しくて侵入は不可能でした。

 困った私たちは話し合い、林田大臣に、総理と会えるようお願いすることにしました。深夜なので全員で押しかけるのは迷惑だろうと、代表でジャックが林田大臣のお家に行きました。

 ですが、これは失敗でした。ジャックはジョーカーと同じで、話し合いに向いていなかったのです。何ていうか、感情のままに行動しちゃう子なんです。

 ジャックが林田大臣のお家に行った日の朝、大臣が亡くなったというニュースをテレビで見ました。病死って言っていたけど、本当はジャックが殺しちゃったんですよね。

 その証拠に、あの日からジャックが帰ってこないのです。きっと、きちんと話し合いができなかった自分が恥ずかしくて、私たちの処に帰り辛いのでしょう。私はそう思います。

 でも、エースの意見は違いました。彼は、「ジャックは死んだ」って言うんです。

 ジャックがいなくなって、今日で十日になります。私も最近では、「ジャック、死んじゃったのかな?」って、ちょっと思っています。

 「もし、ジャックが殺されたのなら、俺は『MC』計画に関わった奴らを許さない」エースは独りごとのようにそう呟きます。私を含めて四人、その気持ちは同じです。

 総理なら何か知っていますよね。ジャックがどうなったのか教えてください。それと、私たちが生まれた本当の意味も。

 ずっと待っているなんてできませんので、期限を決めます。

 『八月十五日、午前九時まで』です。

 この日までに、公的な文書や声明等で、メディアを通して私たちの質問に答えてください。

 ひと月以上の猶予をもったのは、私たちが本気だという証です。

 私たちは、施設から持ち出した武器の他にも、十分な準備をしながら待つことにします。

 本気になった私たちの力、総理ならご存知ですよね?

 何の音沙汰もない場合、終戦記念日のこの日に、私たちは再び戦争を開始します。

 相手は、『MC』計画に関わった人たち全員です。皆さんを殺し、全てを破壊します。「テロ対策のために作られた」と言われ続けてきた私たちが、テロリストになるのです。

 しかし、私たちはそれを望んではいません。できることならば、再び武器を手にしたくはないのです。

 私たちがテロリストとなるか否かは、総理のご決断にかかっています。

                   平和的な解決を願って……  クイーン

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