最終章 『生まれることの意味』⑩
「さて、爆破まで残り五分。そろそろ時間だ」
エースが六人に告げる。
「え? もう? 早く逃げようよ」
周りを見回し、豊が急かした。
「よし。黒崎、逃げるばい」
恭也が促す。
……だが、
「いや、俺はここに残る」
黒崎はそう返事をした。
「何でや?」
「テレビば見たやろ? 俺と澪は、テロリストっちことになっとる。もし、俺たちがお前らと一緒に外に出ようとしたら、口封じのために容赦なく撃ち殺されるやろう。そうしたら、お前らにまで危険が及ぶことになる。そげんなこと、俺にはできん」
「私も残ります」
澪も黒崎に賛同する声を上げた。
「あんたまで、何でや? なぁ、黒崎、こげんな馬鹿な話があるか!」
「馬鹿な話っち思うやろうが、これが現実たい」
怒鳴る恭也にそう言うと、黒崎は口を噤んでその瞳を閉じた。
「おい! エース! 黒崎はお前の親父やろうが。どげんか説得せい!」
恭也がエースに助けを求める。
しかし、彼の返事も同じだった。
「俺たちも、ここで最後の時を待つ」
「何でや? 俺、お前に言ったやろ? “人はその人生で、自分の生まれた意味を探す旅ばしよる”っち。自分の生まれた意味がまだ分かっとらんお前は、生きてそれば探す旅ばせんといかんやろうもん」
「それが、できないんだ」
「何でや?」
何で、何で、何で。質問ばかりの自分に怒りと焦りを感じながら、それでも恭也はそう聞いた。
「それは、俺たちが、『MC』だからだ」
「そげんな名前、関係なかやろうもん」
「いや、関係あるんだ。そういえば、君たちには、『MC』の全てを教える約束だったな。残り、……四分か。よし、君たちには、俺たちが何ゆえ『MC』と呼ばれているのか、その本当の理由を教えよう」
「本当の理由?」
恭也が首を傾げた。
「あぁ、そうだ。俺たち『MC』は、大人になるまで生きられない。二十歳までに、全員が消されるんだ」
「消される? 消されるっち、殺されるっちことか?」
「そうだ。俺たちはテロ対策の専門部隊だが、それは、事前対策を旨としている」
「事前対策?」
「事が起きる前、つまり、テロが起きる前に、それを未然に防ぐということだ」
「そんなもん、間違いが出てくるやろう?」
「そのとおりだ。二十歳まで生きられない、と言った理由はそこにある。もし、間違いだった場合、当然、俺たちは法により裁かれる。俺たちが二十歳未満だった際、マスコミはそれを伏せるが、二十歳をすぎていれば、顔と実名が報道されることになる」
「少年法だね」
そうレオが言った。
「あぁ、そうだ。国の最高機密である俺たちの顔や名を出すことは、『MC』の存在を国民に知らせるのと同じだ。そのため、俺たちは、二十歳を迎える前に、子供のままその存在を消されるんだ。それが、俺たちが“モータル・チルドレン”、『死に行く運命の子供たち』と呼ばれている、本当の理由だ」
話し終えると、エースは大きく溜め息をついた。
「何や、それは。二十までに消されるけん『死に行く運命の』とか、いったい、国は人の命ば何と思っとるとや。……むかつくねぇ。そう思わんや? レオ」
恭也が拳で床を叩いた。
「あぁ、腹が立つよ。しかも、その話、裏が見えるだけに一層腹が立つ」
レオは唇を噛み締めた。
「裏? 裏っち何や?」
そう尋ねる恭也に、レオは自分を落ち着けるよう深く呼吸をしてから言った。
「国は、『MC』を使って、自分に逆らおうとしている者たちを消していくことができるんだよ」
「どういうことだ?」
これまでずっと黙って聞いていたキングが、気になった様子で尋ねた。
「“テロの事前対策”というところがポイントなんだよ。例えば、国の権力者の弱みを握っている者がいたとする。そこに、『MC』をテロ対策という名目で差し向け、殺させる。テロではないのでその『MC』は逮捕、若しくは補導されるが、『MC』という存在自体は未成年であることから一切世の中に知らされない。そうやって、テロ対策の名の下に国は、殺人専門部隊である『MC』を、自分にとって都合が悪い人間を殺す道具にすることができるんだよ。僕が思うに、これから先も国は、『MC』の数をもっと増やしていくつもりだろうね」
そう答えるとレオは、「呆れた」という様子で両の手の平を上に向けた。
「なるほど。それだったら、なおさら俺たちはここに残らないといけないな」
キングは苦々しくはき捨てた。
「何故だい?」
レオが聞く。
「俺たちのデータをこれ以上国に渡さないようにするためだ。第二、第三の『MC』を作り出せないようにすること。それが、“俺たちが生まれた意味”だったんだ」
淡く笑うキングに、エースとクイーンも共感するように頷いた。
「さぁ、もう残り二分を切った。まだ君たちは、生まれた意味を探す旅の途中なんだろう? 早く行くんだ」
エースが六人を促した。
「お前ら、どうしても一緒に行く気はないんか?」
恭也が三人の『MC』に目をやる。
それを見つめ返して、エースは頷いた。
「もう決めたことだ」
「そうか。それやったら、俺も決めた。俺は、ここで寝る!」
そう宣言すると恭也は、いきなり大の字に自分の身体を床へと投げ出した。
「ちょっと、恭也。気持ちは分かるけど、行こうよ」
豊が腕を引っ張るが、それでも彼に動く気配はない。
そこに、広間に響き渡るほどの大声が轟いた。
「恭也!」
声の主は、黒崎だった。
「何や?」
「行ってくれ。頼むけん、行ってくれ。無鉄砲で、頭の悪くて、剣道しか取り柄のなか今のお前のままでもよかけん、生きてくれ。……頼む」
黒崎の目からは、大粒の涙が流れていた。
「……ばってん、……俺」
なおも愚図っている恭也。
すると、その身体が突然宙に浮いた。清次郎が担ぎ上げたのだ。
「ちょ、何ばするとや!」
恭也が全身をばたつかせる。
だが、それでも清次郎は、その手を離すことなく怒鳴った。
「おめは死んではならねぇ! オラとの勝負、まだ終わってねぇじゃねぇか!」
それから彼は、恭也を肩に担いだまま正面玄関に続く下り階段へと向かって駆け出した。
同時に、レオ、豊、千鶴、亜依の四人も、清次郎に続いて走り出す。
「黒崎! 黒崎!」
幾度となく叫ぶ恭也の目には、大きく手を振る黒崎が滲んで見えていた。
転がるように階段を駆け下り、正面玄関へ。ブロンズ製の大扉を飛び出す六人の眼前には、銃を構える大勢の機動隊の姿があった。
「人質解放確認! 突入!」
隊長の号令とともに、機動隊が国会議事堂内に入ろうとする。
それを六人は、
「やめろ!」
「皆、逃げて!」
「中には爆弾があるんだ」
「もうすぐ爆発する」
と、口々に大声を上げて制止した。
現状が理解されると六人は、配備されていた救急車に乗せられた。
けたたましいサイレン音を響かせ、救急車が正門に向かって走り始める。
車内後方の窓から、蜘蛛の子を散らすように避難する機動隊の姿が見えた。
午前十時。
国会議事堂正門から桜田門へと向かう通りで六人は、まるで雷鳴のように轟く大きな爆発音をその耳に聞いた。




