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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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最終章 『生まれることの意味』⑧

 午前九時三十分。国会議事堂内、中央広間。

 エースがゆっくりと口を開いた。

「今から十四年前、俺たち五人は、草垣群島の研究施設で生まれた。普通、赤ん坊は母親の胎内から生まれてくるものだ。しかし、俺たちが生まれたのは、研究施設にある無機質なカプセルだった」

「『MC』研究施設の最奥にあったあれのことかい?」

 等間隔に並ぶ六つの楕円形のカプセルを思い出しながらレオが尋ねる。

「あぁ、そうだ。……って、ちょっと待て。君たち、あの施設に行ったのか?」

「うん、見てきたよ。ついでに言えば、壊されたカプセル内にいたのは恐らく胎児のころの君たちだろうという推測もその時にできていた」

「そうか、ならば話が早い。そのカプセルに大きな機械がつながっていただろう? あれは、胎児の時の俺たちの成長分析をするためにつけられていたものだ。俺たちが生まれたあとも、分析は検査と名を変えて行われた。身長や体重は勿論、心情的な変化から排泄の回数に至るまで、全ては詳細なデータとして記録されていったんだ。そして、物心がついたころ、俺たちにひとつの生きる目的が言い渡された」

「テロ対策の兵器となれ、だね」

「そうだ。その日から俺たちは、殺人術の訓練に打ちこむことになった」

「荻原澪さんの指導の下に、かな?」

「え? どうして、君が彼女の名を?」

 「研究施設に行った」と告げられた以上の驚きをエースはレオに見せた。

「実は、君たちを霞が関の研究施設へと連れて行くという今回の作戦に、彼女も参加しているんだ。僕たち六人に、拳銃の撃ち方を教えてくれたのも彼女だ」

「そうか。澪さんも……」

 エースは、一瞬、過去を懐かしむような表情を浮かべたが、すぐにそれを引き締め直し、続けた。

「話を戻そう。殺人術の訓練に明け暮れていたころの俺たちは、何も考えてはいなかった。国のためだと言う研究員の言葉を素直に信じ、澪さんから褒められることだけを生き甲斐に、血と汗を流し続けた」

「へぇ、澪さんが人ば褒めることとかあるとね? 俺なんか一回もなかばい。まぁ、最近は少し変わってきたごたるけど……」

 そう恭也が、横から口を挟む。

「何を言っているんだ。施設内で俺たちに最も優しかったのは彼女だ。それに、最も人間的だったのも。俺たちは、今でも彼女を尊敬し、深厚の愛情を抱いてもいる。だから、施設を出る際にも、澪さんがいない時を狙ったんだ」

「なるほど。でも、それだけ深く想ってくれる澪さんという存在がありながら、どうして、君たちは施設を出たんだい? そこには大きな理由がありそうだ。よければ、教えてくれないかな?」

 レオが促した。

「分かった、話そう。今から半年ほど前からだろうか、テロ対策の兵器だと言われ続けることに、俺たちは疑問を感じるようになった。俺たちがこの世に生まれた理由がテロリストを殺すことだけにあるとするならば、“俺たちが生まれた意味”とはいったい何なのか? そう考えるようになったんだ。人を殺すためだけに生まれた俺たち。そんな俺たちに、“生まれた意味”はあるのか? 分からなかった。そこで、俺たちは、『MC』計画の最高責任者である韮沢総理に、“俺たちの生まれた意味”を聞きに行くことにした」

「それが、君たちが『MC』研究施設を出た理由なのか?」

「そうだ。だが、施設を出たあと俺たちには、総理に聞かなければならないことが、もうひとつ増えた」

「それは?」

「いなくなったジャックの行方だ。韮沢総理との面会を取り次いでもらおうと林田大臣邸に行ったあと、帰ってこなくなったんだ。そして、その日の朝の新聞には、林田大臣病死の記事が載っていた。だが、恐らく大臣は、病死ではなくジャックに殺されたのだと思う」

「そちらのほうなら、僕が答えを出せるよ」

 少し悩む様子を見せながらも、レオはそう告げた。

「本当か? ジャックの行方を知っているのか?」

「あぁ」

 レオは静かに頷き、告げた。

「彼は、……死んだよ」

「何故、そう思う?」

 意外と冷静にエースは尋ねた。彼も、その可能性があると考えていたのだ。

「思うんじゃなくて、聞いたんだよ。澪さんからね。『MC』は元もと五人いて、失踪後に単独で殺人を行った一人は自殺したと」

「そうか。やはりな」

 エースは静かに俯いた。彼の隣ではクイーンが、ぎゅっと自分のこぶしを握り固めている。

「すまない。余計なことを言ったのかも知れない」

 頭を下げるレオに、エースは首を横に振って見せた。

「いや、君が気にすることじゃない。俺たちの一番の気がかりは、ジャックの行方だったんだから。あとは、“俺たちが生まれた意味”さえ分かれば……」

 口を閉ざすエースに、恭也が言った。

「なぁ、何か難しかことば考えよるみたいばってん、そげんなこと、人に聞くもんと違うやろ?」

「どういう意味だ?」

 エースが足を投げ出し座っている恭也に視線を向けた。

「確かに、お前たちが生まれた“理由”は、テロ対策の殺人部隊になるためやったとかも知れん。ばってん、お前の知りたか“俺たちの生まれた意味”っちいうとは、生まれた“意義”とか“価値”とかのことやろ?」

「そうだ」

「そげんなこと、誰に聞いたっちゃ答えは返ってこんばい。自分の意義や価値なんてもんは、人に決めてもらうもんじゃなか。自分で決めるったい」

「自分で、決める?」

「そうたい。自分で、“俺は、生まれた意義のある人間、価値のある人間ばい”っち感じた瞬間から、そいつは、意味のある人間や価値のある人間になれるとたい。ばってん、そげん簡単にその瞬間はやってこん。やけんが、人は生きる中で、それば探していくとたい。つまり、人は、“人生の中で、自分の生まれた意味を探す旅ばしよる”っちいうことやな」

 そう言うと恭也は、自分の言葉に酔いしれたようににんまりと笑った。

 その時、

「立派になったねぇ、恭也」

 広間の下り階段付近からそんな声が聞こえてきた。

「く、黒崎!」

 慌てた様子で恭也がそちらを見る。

「黒崎? ……彼が」

 エースが小さく呟いた。

 黒崎の後ろには、女性の姿もあった。

「澪さん!」

 その姿を見つけたクイーンが、嬉しそうに彼女に駆け寄る。

「お久しぶりです。クイーン」

 澪は、優しく慈愛に満ちた眼差しで、彼女の頭を撫でた。

 その光景は、まるで本当の親子であるかのように、六人の子供たちの目には映っていた。

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