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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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最終章 『生まれることの意味』⑦

 その時、中央階段の上から声が聞こえてきた。

 御休所に行っていた三人が戻ってきたのだ。

「あれ? 清ちゃん、どしたん? 血ぃ出てるで」

 清次郎の顔を見るなり、心配そうに千鶴が手を差し出す。

「いや、何でもねぇ」

 清次郎は、傷を隠すように顔をそらした。

 その様子を目にしたレオが、気を利かせて話題を変えた。

「それより、早坂さん。そっちはどうだったんだい?」

「綺麗やったで、御休所。豪華絢爛ってのは、ああいうのを言うんやな。それに、クーちゃんとも仲よくなれたし、大満足や。なぁ、クーちゃん」

 微笑む千鶴に、いつの間にか「クーちゃん」と呼ばれるようになっているクイーンも、

「うん!」

 と、笑顔で答えた。

「でな、色んな話題で盛り上がっててんけど、中でも一番は、亜依ちゃんとクーちゃんが似てるって話やってん。ちょっと待ってな、今、見せたるから。亜依ちゃん、クーちゃんの隣に並んでみて。そんで、クーちゃんは髪の毛隠してみて」

 千鶴に指示され、亜依がクイーンの隣に並んだ。クイーンも、素直に髪の毛を後ろに流した。

「なぁ、似てるやろ?」

「本当だ。写真で見た時も似てるって思ったけど、実物はそっくりだね」

 二人を見比べながら、豊が驚きの声を上げた。

「せやろ? ウチら三人、これが切っ掛けで仲よくなれてん。で、学校のこととか好きな子の話とかして、もっと話したいって思てんけど、クーちゃんがそろそろ時間やって言うもんやから仕方なく降りてきてん」

 千鶴が残念そうにクイーンに目をやる。

「ごめんね、千鶴ちゃん。でも、時間なの」

 クイーンは、寂しそうに千鶴を見つめ返した。

「時間って、何の時間なんだい?」

 気になったレオがクイーンに聞いた。

「それは……」

 クイーンが言葉を詰まらせると、

「俺から話そう」

 代わりにエースが口を開いた。

「この国会議事堂に爆弾を仕掛けたんだ。TNT火薬十キロ分の」

「爆弾? 爆破時刻は?」

「午前十時だ。あと、……三十分、か」

 エースが自分の腕時計を確認して答えた。

「まだ十分間に合うじゃん。早く逃げようよ」

 豊が皆の顔を見回して急かす。

「いや、逃げるのは、君たち六人だけだ。俺たちはここに残る」

「何で? 一緒に逃げようや」

 千鶴が隣のクイーンの腕を掴んだ。

「駄目だ。それはできない。それが、あいつのとの約束だから……」

 エースは、ジョーカーの亡骸に目をやった。

「国会議事堂に入る際、四人で誓ったんだ。この中の誰か一人でも欠けるようなことがあった時には、同じ場所で死をともにしよう、と。だから、俺たちはここに残る。それと、君たちももう少しだけここにいてくれないか?」

「どうして?」

 豊が尋ねた。

「今、君たちがここを出れば、代わりの者たちが侵入してくるだろう。そうなれば、有無を言わせず銃撃戦になり、必ず死人が出る。それを避けたいんだ。俺たちは、もう人を殺したくはない。だから、ここを出るのは、午前十時近くになってからにして欲しい」

「なるほど。それで、頼み事とか言って時間を稼いでいたわけだね」

「騙すつもりはなかった。それに、あの頼み事は、俺たちが死ぬ前に本当にやりたいと思っていたことだったんだ。嘘じゃない」

「それと、三十分を残したことにも理由がある、かな?」

 レオがエースの考えを読んでいるかのように言葉を足した。

「何故、分かった?」

「言っていたじゃないか。頼みを聞いてくれたら『MC』計画の全てを教える、って。残りの時間は、そのために空けていたんだろう?」

「鋭いな、敵わないよ。だが、国の最高機密である『MC』について話をするのが君たちでよかった。聞いてくれ、『MC』計画の全てを……」


 午前九時三十分。国会議事堂前、トラック荷台。

「おい、何分経った?」

 六人が国会議事堂に足を踏み入れてから既に十度目となる質問を黒崎はした。

「九十分です」

 そう澪が答える。

「遅かねぇ、遅すぎばい」

 椅子に座った黒崎は、その組んだ足を幾度も揺すりながら呟いた。

「確かに、時間がかかりすぎています」

 澪も不安そうな顔を浮かべる。

「なぁ、澪」

 黒崎は、ちらりと澪に目をやった。

「駄目です」

「何や? まだ何も言っとらんやろうもん」

「仰らなくても、分かります。黒崎先生を国会議事堂内にお入れするわけにはいきません」

「何でや?」

 すると、澪は、真っ直ぐに黒崎を見つめて告げた。

「黒崎先生のお命を危険にさらしたくはないからです。これは仕事などではなく、私の心からの願いなのです」

「その気持ちは、嬉しか。ばってん、俺の気持ちも汲んでくれ」

「先生のお気持ち、ですか?」

「そうたい。たとえ自分が死ぬことになっても、子供たちのところに行きたかっちいう、俺の気持ちたい」

 「もうこれ以上、引き留めることはできないのだ」そう判断し、澪は言った。

「分かりました。黒崎先生のお気持ち、斟酌いたします。ですが、ひとつだけ条件があります」

「条件? 何や?」

「私も、連れて行ってください」

「そげんなこと、できるわけがなかろうもん。これは俺と『MC』との問題たい。単なる『MC』の先生である澪を連れて行くとかできん」

「いいえ。私は、単に『MC』の育ての親だというわけではありません」

「え?」

 黒崎の顔色が変わった。

「ま、まさか、……澪」

 言葉をつなげずにいる黒崎に、彼女は全てを察したかのように、

「はい。そのとおりです」

 と、頷いて見せた。

「分かった。一緒に行こう」

 黒崎と澪は、トラックの荷台から飛び降りると、国会議事堂へと駆け出して行った。


 午前九時三十二分。首相官邸五階、総理応接室。

「たった今、二人が国会議事堂へと入りました」

 吉川長官が韮沢総理に報告した。

「そうか。動かなければ別の手を、と思っていたが、そう先読みする必要はなかったということか。……吉川君、準備はできているかね?」

 戦没者追悼式用のネクタイを選びながら、総理は確認した。

「はい。いつでも行動に移せます」

「よし。では、警視庁第一機動隊を国会議事堂前に配備してくれ。それから、報道規制の解除だ。君たち警察庁からは、“テロリストが、子供六人を人質にして立て籠もった”という情報を伝えるように。テロリストの主犯格は、二人。“黒崎剣一”と“荻原澪”だ」

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