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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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最終章 『生まれることの意味』⑥

 試合は、レオ対キング、それから、清次郎対エースの順で行われることとなった。

 レオとキング。広間の中央で向かい合う。

「ルールは、どちらかが倒れるまでってことでいいんだな?」

 そうキングが確認した。

「あぁ、それでいいよ。……あ、そうだ。始める前に、ひとつ聞いてもいいかい?」

「何だ?」

「君も、人を殺したのか?」

 「何だそんなことか」とでも言うように、キングはさらりと答えた。

「あぁ、殺した。俺たち五人の中で、これまでに人を殺めたことがないのは、クイーンだけだ。あいつは、犬が相手でも引き金を引くことを拒んだくらいだからな」

「犬相手って、臥蛇島の合宿のことかい?」

「何で知ってるんだ? ……まぁ、いい。そうだ」

「それで、人を殺したあと、君は眠れているのか?」

「眠る? あぁ、別に睡眠に支障はないが……」

「殺した人の顔が毎晩浮かんできたり、罪の意識にさいなまれて夜中に飛び起きたりということは?」

「ない」

 キングはきっぱりと首を振った。

「……そうか。ならば、残念だけど君は僕には勝てないよ。僕と君では、背負っているものの重さが違うから」

 一度深く呼吸をすると、レオは静かに構えた。

「話は終わりか? では、行くぞ!」

 鋭い声とともに、キングは右の上段蹴りを繰り出した。

 レオは、後方に動きながらそれを左手で捌くと、同時に、背を見せるキングに鉤突きを打った。鉤突きとは相手の肝臓を打つ技だ。正面よりも背中からの突きのほうにより効果がある。

 僅か二秒弱のうちに、勝負は決した。キングが、大理石の床へと倒れたのである。

「さぁ、次は山川君の出番だよ」

 寂しげな口調で清次郎に微笑んで見せると、レオは、倒れているキングを抱えて空いているソファーに寝かせた。


「じゃあ、よろしく頼む」

 ひと振りの竹刀を清次郎に投げ渡すと、エースは広間の中央へと歩み出した。

 その背に向かって、清次郎が尋ねる。

「どうして、おめはやったこともねぇ剣道の試合をしてぇと思ったんだ?」

「別に理由はない。ただ、これを見ていると何となく懐かしい気持ちになってくるんだ。何故だろうな?」

 エースは、手にした竹刀をしげしげと見つめた。

「ふーん。不思議なこともあるもんだな」

「そうだな。ところで、ルールは、さっきの二人と同じく、どちらかが倒れるまで、ということでいいのか?」

「あぁ、それでいい。実は、オラも剣道のルールって知らねぇんだ。まだ、黒崎さんに教わってねぇからな」

「……黒崎」

 清次郎が出した名をエースが呟いた。

「どうかしたか?」

「ん? いや、なんでもない。始めよう」

 エースは竹刀を振り上げた。

「よし、試合開始だ」

 清次郎も竹刀を構える。

 だが、それは、恭也と対戦した時の片手半身の構えとは違い、正眼の構えだった。

「ちょっと、おっさん、何ば考えとるとや? 自分の得意としとる形ば変えるとか、簡単にするもんじゃなか!」

 恭也が清次郎に向かって怒鳴る。

「煩ぇ! 黙って見て……」

 清次郎が最後まで返事をすることはできなかった。エースの斜め上へと振り抜いた竹刀が、彼のこめかみに当たったのである。

 視界が大きく揺らぎ、がくりと片膝をつく清次郎。どうやら、眼尻を切っているらしく、流れ出る血液が氷柱から滴る水滴のように床へと落ちた。

「何だ、もう終わりか?」

 小柄なエースが、大柄な清次郎を見下ろした。

「いいや、まだまだ」

 清次郎が首を横に振る。流れる血が辺りへと飛び散った。

 それを見かねて恭也が叫んだ。

「もうよか! おっさん、やめとけ!」

 だが、清次郎は竹刀を杖にして立ちあがった。

 そして、恭也のほうへと視線を送ると、にんまりと笑って言った。

「とめるでねぇ。オラ、今、リア充してんだ」

「りあじゅう? それは何だ?」

 そうエースが聞いてくる。

 すると、清次郎は、実に嬉しそうな顔をして答えた。

「知らねぇのか? じゃあ、教えてやる。リア充ってのは、リアルが充実しているということ。実生活が満ち足りているってことだじゃ!」

「実生活が満ち足りている、か。……なるほど」

 「理解した」とエースは頷いた。

「さぁ、仕切り直しだ。遠慮しねぇで、かかってこい!」

 再び清次郎が竹刀を構える。

 ……だが、

「いや、もういい。試合はやめだ」

 そう一方的に告げると、エースは持っていた竹刀を床に放り投げた。

「何故だ?」

 納得いかないとの表情で清次郎が尋ねる。

 エースは、

「君たちのことが分かったからだよ。試合というのは、戦闘ではない。自分を知り、相手を知るための競技だ。つまり、雌雄を決するだけが試合の目的ではないということだ。まぁ、それでも、敢えて勝ち負けをつけるとするならば、君たちの勝ちだ。……リア充しているという点でね」

 そう答えると、儚げに淡く笑って見せた。

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