最終章 『生まれることの意味』⑤
五分後。ジョーカーの遺体は、ソファーの上に寝かせられていた。負傷した恭也の膝には、クイーンによる応急処置が施されている。
一応落ち着いたことを確認してから、エースが頭を下げた。
「すまなかった」
「謝ってすむか! もう少しで殺されるところやったんぞ!」
足を伸ばして床に座った状態で怒る恭也を、レオが手で制した。
「いや、場合によっては、僕たちが君たちの中の誰かを殺していた可能性もある。その話はやめよう。それより、何故、ジョーカーを撃った?」
「兄弟として、あいつのやり方が許せなかった。ただ、それだけだ。それに、俺たちは『MC』だ。遅かれ早かれ、全員死ぬことになる」
「兄弟? さっきも言っていたけど、それってどういう意味なんだ? それに、遅かれ早かれ死ぬ、だなんて……」
そうレオが問うと、エースは、一度深く呼吸をしてから口を開いた。
「もし、君たちがこちらの頼みを聞いてくれるのならば、『MC』計画の全てを教えよう。……クイーン」
エースがクイーンに目をやる。
すると、彼女は、「分かったよ」と言うようなあからさまなウインクをしてから、
「えーと、亜依ちゃんと千鶴ちゃん、だったっけ? 私と一緒に少しお話ししない? 階段の先に、御休所っていう綺麗なお部屋があるの。そこ、行こ」
と、二人の手を取った。
「レオ君、どないしよ」
千鶴が泣きそうな顔をそちらに向ける。
「大丈夫だよ、早坂さん。行っておいで」
レオは笑ってそう答えた。
「レオ君が言うんなら、平気やな。よし、亜依ちゃん、行くで」
千鶴が亜依を誘い、三人は御休所へと続く中央階段を上がって行った。
「頼みを、聞いてくれるんだな?」
クイーンの行動に乗ったことでそう察し、エースがレオに尋ねる。
「あぁ。『MC』計画というのが何なのか、僕も気になるからね」
「そうか。では、早速で悪いが、俺たちの頼み事を伝える。先ずクイーンだが、それはもう聞き入れられた。彼女の願いは、“普通の中学生の女の子と一緒に、お喋りがしたい”、だったんだ。俺たちは、学校というものに通ったことがない。学校では同年代の仲間が集まって、色んな話をするんだろう? そういった“普通”に、彼女は憧れていたんだ。協力してくれたレオ、君に感謝する」
エースは再び頭を下げた。
「構わないよ。それで、次は?」
「俺とキングの頼み事は同じ、……試合だ」
「試合?」
「そうだ。キングは、素手での戦闘を得意としている。だが、これまで一度も武器を持たない相手との戦いを経験したことがないんだ。だから、お互い武器を使わずに、自分の体だけで殴り合い、蹴り合う。たとえ、それで死ぬことになっても、恨みはなし。そんな勝負をキングはしてみたいんだそうだ」
「なるほど。じゃあ、その挑戦は僕が受けるよ。それで、エース、君は?」
「俺か? 俺は、……これだ」
そう言うとエースは、ソファーの下から何かを取り出した。
それを手に持ち、彼は続けた。
「これは、剣道という武道に使うものらしい。武道と言うからには、試合もあるんだろう? 俺は、これを使った試合がしてみたい」
「それ、“竹刀”っていうんだよ」
豊がエースの手に持つもの指差してそう伝える。
「“しない”、か。君は、剣道に詳しいのか? だったら、俺と試合してくれ」
エースは懇願するような目で豊を見た。
「い、いや、僕は……」
そんなことできるはずもない豊が口籠る。
すると、
「よし! 俺が相手しちゃる!」
床から恭也の声が上がった。
「君が? でも、君は……」
エースが、膝に巻かれた恭也の包帯を見下ろす。
「これか? これしきの怪我、何てことはなかばい。剣道っち聞いたら黙っとられん」
そう勢いこみ、立ち上がろうとする恭也だったが、
「痛っ! 痛ったたたた!」
すぐに膝を押さえて尻もちをついてしまった。弾は貫通したとはいえ、骨が砕けているのだから当然だ。
そんな彼の前に立ち、清次郎が言った。
「おめは大人しく寝てろ。オラ、もう一度おめと勝負がしてぇんだ。だから、それまでは無理すんな」
「……」
恭也は、黙って頷いた。いつもなら何かしら悪態をつく彼だが、今回ばかりは、従うしかないと思ったのである。
話をまとめた清次郎は、エースに向かって宣言した。
「そういうわけで、おめの相手はオラだじゃ!」




