第六章 『明かされる真実』⑥
六人の子供たちが『MC』研究施設に入ったのを見届けたのち、澪が黒崎に尋ねた。
「黒崎先生も、お気づきになったのでしょう?」
「ん? 何のことや?」
惚ける黒崎だが、頬の緩みは隠せない。
「“ここに、『MC』はいない”ということをです。彼らの潜水艇がありませんでしたから」
「何や、ばれとったとか?」
「はい」
「いつ気づいた?」
「え?」
「俺が『MC』がおらんことに気づいたとに、いつ気づいたとか? そう聞きよるとたい」
黒崎の言い回しが可笑しかったのか、澪はくすりと笑って答えた。
「ここから竹田さんを送り出した時です。先生は、命を賭して交渉の場に赴こうとしている生徒さんを、あんなに軽い調子で送り出すような方ではありませんから」
「そんなもん、買い被りすぎばい」
照れた様子で黒崎は澪から視線をそらした。
そんな彼を澪は嬉しそうに見つめる。
潜水艇内に沈黙が訪れた。
少しの時が経ち、黒崎が再び口を開いた。
「ところで、仕事はせんでよかとや?」
「仕事、ですか?」
「そうたい。ここに『MC』がおらんことはもう分かったとやけん、一刻も早く海上におる吉川さんに報告して、奴らの次の移動先ば捜さんといかんやろうもん」
「なるほど。確かにそうですね」
指摘されてやっと気がついたというように、澪は口元に手を当てた。
だが、
「いいんです、別に。そのほうが黒崎先生や子供たちにとって、都合がいいのでしょう?」
そう言って彼女は微笑む。
「まぁ、それはそうやが……」
「できることなら、子供たちを『MC』と接触させたくない」そう考えていた黒崎は口籠もった。
「では、報告いたしません」
「本当に、それでよかとや?」
「構いません。だって、“仕事よりも大切なことがある”と教えてくださったのは、黒崎先生ではないですか?」
「あぁ、“自分の気持ちに素直になること”、か」
「そうです。今の私の素直な気持ちは、“黒崎先生の味方になりたい”ですから」
「……澪」
黒崎は澪を見つめた。
澪の瞳も、真っ直ぐに彼を見つめ返している。
言葉にしなくとも二人の心は、今、同じ想いで溢れていた。
しかし、同時に、“神”に抗った者の行く末を知る黒崎だけは、その胸中に広がっていく暗雲をどうしても消し去ることができずにいた。
声紋、静脈、網膜。三つの生体認証を必要とする厳重なセキュリティーシステムの先に、そのドアはあった。もっとも、現在それらのシステムは破壊されているため、六人は、何の妨げもなくここまで辿り着いていたのだが……。
「これで、最後やな」
エントランスホールから続く廊下の最奥。半開きになっている自動ドアの前で恭也が呟いた。
ここにくるまでに六人は、廊下の途中にあった左右二部屋ずつ、計四部屋を見回っていた。
だが、国が隠している“何か”については発見できずにいた。
見つけたものといえば、五台のベッドが並ぶ寝室にあった使い古されたひと組のトランプぐらいのものだ。
「この部屋が、当たりっぽいね」
セキュリティーレベルの違いからそう判断し、豊が言った。
彼は、ドアの前にいる恭也を押し退けると、半開きの隙間から室内を覗き見た。
「え? これ、何?」
「何や? 見せてみろ!」
すかさず豊の頭の上から恭也が、隙間に強引に自分の顔をねじこもうとする。
その様子を眺め、レオが冷静に告げた。
「先に、扉を開いたほうがいいと思うよ」
「そういうことは早く言えや」
恭也が扉に両手を差しこみ、それを思い切り開く。
六人の眼前に、『MC』研究施設最奥の部屋がその姿を現した。




