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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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第五章 『合宿』⑨

 八月三日。臥蛇島合宿、三日目。

 何事もなくすぎて行く無人島生活に、六人は慣れ始めていた。

 警戒しないといけないというのは考えすぎで、『MC』の居所が分かるまでただここにいればいいのかも知れない。そんな思いも、言葉にはしないまでも彼らの胸には去来していた。

 しかし、この日、六人は、その考えは非常に甘かったのだと思い知らされることになる。


「他にもあるのけ?」

 好奇心いっぱいの目で豊に先を促したのは、清次郎だった。

「あとはねぇ、“リア充”とか」

「りあじゅう? 何だ?」

 清次郎が首を傾げる。

 豊は、

「リアルが充実しているってこと。つまり、“実生活が満ち足りてる”ってことだね」

 と、少し自慢げにそう解説した。

「ふーん、なるほどなぁ」

 納得した様子で、清次郎は大きく頷いた。その顔は、まるで難解な数式を分かりやすく説明された受験生のようだ。もし、ここに紙とペンがあったら、間違いなくメモを取っていることだろう。

 そんな二人のやり取りに、テーブルに肘をついて暇そうにしていた恭也が気づいた。

 彼は、隣に腰かけている千鶴に尋ねた。

「あいつら、何の話ばしよるとね?」

「え? 豊と清ちゃん?」

 千鶴は、部屋の中央で胡坐をかいて座っている二人に目をやった。

「そう」

「あれ、“掲示板用語講座”開いてるんやて」

「掲示板って、ネットの?」

「そう。一般的やないねんけど、掲示板の中では使うって言葉あるやん? それを、豊が解説してるんやて」

「そうか。ばってん、掲示板用語げな、世界で一番役に立たん言葉やんか。受験にも出らんし。そげんなもんの講座の付き合いとか、おっさんも大変やねぇ」

 苦笑いする恭也に、千鶴は干し肉の入った袋を開きながら言った。

「いや、それが、どうやらそうでもないみたいやねん」

「どういうことや?」

 袋から取り出した干し肉を物珍しそうに見つめて、千鶴は答えた。

「清ちゃんな、豊から教えてもらうまで、掲示板って知らんかったんやて」

「嘘やろ? 顔はおっさんばってん、一応、あいつも平成生まれの中学生ばい」

「清ちゃん、パソコンも携帯も持ってへんねん。……ってか、これ何?」

「ビーフジャーキー。食ってみろ。美味かぞ」

 促された千鶴は、干し肉を口に入れた。それを見届けてから恭也は話を再開した。

「家になくても、パソコンは学校で使うやろうもん」

「使うけど、掲示板への書きこみの仕方なんか、授業じゃ習わへんやん」

「そういえば、確かにそうやね。ばってん、あげん一生懸命に教わるもんでもなかろうに」

「清ちゃんな、掲示板だけやなくて、ブログとかホームページとかの話を豊から聞いて、それをPRに使おうって考えてるんやて」

「山川道場の宣伝ば、インターネットを使ってしていくっちことね?」

「正解。でな、最終的には、世界中に山川道場の名を広げていくのが清ちゃんの目標なんやて」

 そう言うと千鶴は、既に三つ目となっている干し肉を頬張った。

「ふーん。つまり、道場再建に向けて、あいつなりに勉強しよるっちわけか」

「そういうこと。ウチ、清ちゃんのこと立派……っていうか、健気やと思うわ。道場の再建費用と引き換えでこんな場所に連れてこられてんのに、それを恨むどころか、師範代としての役割を果たそうとしてるんやから」

「……」

 千鶴の言葉に、恭也は思わず黙りこんだ。

 ただ所在無く生活している自分と、道場再建を夢見て頑張っている清次郎。同じ十五歳という年齢であるにも拘らず、その生き方に大きな差があることに気づかされたのである。

「それにしても、これ、めっちゃ美味しいわ」

 四つ目の干し肉をしげしげと見つめる千鶴に、

「それ、意外と塩分多いんだよ」

 部屋の中央から豊の声がかかった。

「大丈夫やて。ウチ、まだ若いもん」

 忠告を気にする様子もなく、千鶴は迷わず四つ目を口に放りこんだ。

 そこに、

「カロリーも高いんだよ」

 豊がぼそりと呟く。

「え? う、……嘘」

 五つ目を袋から取り出そうとしていた千鶴の手が止まった。塩分は気にしなくても、カロリーは気になるお年ごろのようだ。

「本当だよ。きっと、太るね」

 豊は、意地悪く笑った。

 その時、向かいの建物から声が聞こえてきた。

「……ちゃーん、千鶴ちゃーん」

 どうやら、亜依が千鶴を呼んでいるようだ。

「亜依ちゃん、やっとお目覚めみたいやな」

 実際に一つ年上だということもあり、千鶴がお姉さんのような口調でそう言う。

「え? まだ寝てたの? 亜依が寝すごすなんて珍しいね」

 少し驚いた顔をする豊に、

「この島にきた日の夜、亜依ちゃん、あんまり寝てへんかったみたいやねん。せやから、今回はゆっくり寝かせたろ思て、起こさへんかってん」

 と、彼女は再びお姉さんぶって見せた。

「へぇ、それはそれは。その思いやりの十分の一だけでも、僕に欲しいものだね」

 そう豊が皮肉るのと同時に、ドアのない入口から亜依が姿を見せた。

「千鶴ちゃん、いたいた。あ、恭也君、おはよう」

「あぁ、おはよう」

 恭也に手を振る亜依。そんな彼女の服が、昨日のままであることに気づき、千鶴が尋ねた。

「あれ? 亜依ちゃん、まだ着替えてへんの? どしたん?」

「うん。えっと、これなんだけど、千鶴ちゃんのじゃないかなって」

 亜依は、手に持っている服を差し出した。それは、今千鶴が着ているものと同じだった。

 実は、千鶴と亜依の服だけでなく、この合宿中に着るようにと用意されていたのは、個々のサイズは違えども、六着全て同じものだった。それが日替わりで八月十五日分まで収納ボックスに入れられており、また、どの日にどれを着るのかについても指示されていた。つまり、六人は、毎日揃いの服を着るようになっていたのである。

「え? ひょっとして、ウチ、間違えた?」

 慌てて自分の服を確認する千鶴に、亜依は言った。

「多分。だって、これ穿いてみたけど、丈が短いし、ウエストもかなりゆとりがあるから」

 その途端、室内に豊の嘲笑が響き渡った。

「……あの、亜依ちゃん。そういうことは、あんまり大きな声で言わんほうが、えぇんと違うかなぁ?」

 豊に睨みを利かせながら、千鶴は努めて穏やかな口調でそう諭した。

 だが、亜依は、

「え? 何が?」

 と、理解できていない表情で首を傾げている。

「もうええ! とっとと着替えるで!」

 千鶴は、大股で部屋を出て行ってしまった。

 それを見送り、亜依がそっと豊に尋ねる。

「ねぇ、豊君。千鶴ちゃん、何だか怒ってなかった?」

「まぁ、ね。あ、でも、全然気にしなくていいと思うよ。千鶴、ちょっとしたことですぐ怒る……」

 楽しそうに答える豊を遮り、外から怒声が飛んできた。

「聞こえてるで! 豊! あとで、絶対泣かすからな!」

 当の豊は笑っていたが、どすのきいたその声に怯えた亜依は、

「じゃ、じゃあ、また後でね」

 と周囲に告げ、慌てた様子で向かいの建物へと駆け出して行った。

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