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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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第四章 『それぞれの想い』⑤

 黒崎の前から澪が走り去り、およそ十分後。道場内では、漸く恭也が目を覚ましていた。

 ゆっくりと上半身を起こすと、その途端、彼の腹部に強烈な痛みが走った。

「痛っ!」

「大丈夫?」

 顔をしかめる恭也に、亜依が横から手を差し出す。

「あ、あぁ」

 まだぼんやりとしている両眼で、恭也は辺りを見回した。

「あれ? 他の奴らは?」

「会議室。これから私たち、臥蛇島ってところに連れて行かれるんだって。その説明で……」

「え? が、がじゃ? ……ふ~ん」

 理解できていないことがはっきりと分かる返事を恭也がする。

 直後、彼はいきなり大声をあげた。

「ちょ、ちょっと待て! 黒崎もおらんやんか!」

「あ、黒崎さんは……」

 介抱を自分に任せてくれた黒崎を、亜依はフォローしようとした。

 だが、それに耳を貸すことなく彼は、ぶつぶつと愚痴を溢し始めた。

 「まったく、生徒が倒れとるとに……」とか、「あいつは鬼ばい」などといった声が聞こえてくる。

 ところが、

「とても担任とは思えん」

 そう声に出したあと、恭也はぴたりと愚痴を止めた。

 それから、

「そうやった。もう、担任じゃなかった」

 彼は寂しそうに顔を伏せた。

 かけるべき言葉が見つからず、亜依は、ただ黙ってそれを見守った。

 すると、恭也は、ふと何かを思い出したように、伏せていた顔を彼女へと向けて言った。

「そういや、俺が倒れとる間、ずっと看ててくれたんやろ? ありがとうな」

「そ、そんな……」

 まったく予期していなかったその謝意に、亜依が頭を掻く。どうやら、照れると髪の毛に手をやるのは、彼女の癖のようだ。

「私のほうこそ、ありがとうだよ。だって、恭也君は、私の命の恩人なんだもの。あの時助けてくれていなかったら、多分、私、澪さんに殺されていたと思う」

「ん? あぁ、ここに連れてこられた日のことか。あれは、当たり前のことばしただけたい。亜依のごたる優しくて可愛か女は、放っておけんけんな」

「……恭也君」

 突然の告白に、亜依は、くしゃくしゃになったボブショートの髪を撫でつけることも忘れて彼を見つめた。

 そこに、

「よし、決めた!」

 いきなり、恭也が立ち上がる。

「な、何?」

 大きく体を引く亜依を前に、彼は、声高に宣言した。

「相手が『MC』やろうと何やろうと、これからずっと、亜依は、俺が守る!」


「亜依は、俺が守る!」

 その言葉を聞いた瞬間、亜依の脳裏に、七夕祭りでの彼氏の言葉が蘇った。

「大丈夫だよ。何があっても、亜依は僕が守るから」


「そんなこと、……できるわけない」

 目に大粒の涙を溢れさせ、亜依は小さな肩を小刻みに震わせた。

 そして、

「清次郎君に負けたくせに、弱いくせに、守るだなんて簡単に言わないで!」

 ヒステリックにそう叫ぶと、訳が分からず呆けたような顔をしている彼を残し、そのまま道場を出て行ってしまった。

 その場には、茫然自失で立ち尽くす恭也だけが残った。

「弱いくせに、か」

 恭也は、小さく呟いた。剣道を始めて十年、「弱い」と言われたのは、これが初めてだった。

 彼は、床に落ちている竹刀を拾い上げた。

 いつもの上段に構え、振り下ろす。恭也の剣は、鋭い音を立てて空気を切り裂いた。

「確かに、そのとおりばい。俺は弱か。もっと強くならんと、亜依は守れん。……山川清次郎! 次は、絶対に勝つばい!」

 そう自分に誓うと恭也は、自らを奮い立たせるように大声で笑った。

 その声は、道場の壁に反響し、彼の胸の奥深くにいつまでも響き続けていた。

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