第二章 『召集令状』②
大阪市浪速区。南海電鉄なんば駅中央口と直結する“なんばパークス”内に、大阪府最大の延べ床面積を持つシネマコンプレックスがある。名前はシンプルに、“なんばパークスシネマ”だ。
七月七日、午後七時。早坂千鶴は、“なんばパークスシネマ”の“シアター9”にいた。
全部で十一ある劇場の中で、この“シアター9”だけはオリジナルシートになっていて、しかも、専用のラウンジが利用できるため、プレミアムシアターと呼ばれている。シート数は百十一あるのだが、今日は、その殆どが埋まっていた。
上映が終わると劇場内に明かりが点き、それまで陰影だけだった千鶴の姿がはっきりと現れた。彼女は、星や水玉がプリントされた短めのチュニックに、デニムのショートパンツを身に着け、フリンジサンダルを履いていた。ボヘミアン調でありながら可愛らしい“いかにも中学生”といったスタイルだが、それだけに、ひとりでプレミアムシアターにいるのは不自然だった。
シアター内から少しずつ客の姿が消え始めた。その客たちに倣って帰り支度を始める千鶴の前に、ゆっくりとした足取りで二人の男が近寄ってきた。どちらも黒スーツを着てサングラスをかけている。
ひとりの男が、千鶴に声をかけた。
「早坂千鶴様ですね?」
「せやで」
頷き、千鶴は男を見上げた。
「映画、いかがでしたか?」
「うん、よかったで……って、あんたら観てへんの? それやったら、今からでも遅ないから観ぃ、感動するから。ここ、深夜までやってんねん」
「残念ながら、それができないのです」
「ほしたら、どうしてこんなとこにおるん?」
千鶴が首を傾げる。
男は答えた。
「貴女を、お誘いするためです」
「え? 誘うって、ひょっとして、ナンパ? あかんあかん。まぁ、確かに、ウチは自他ともに認める美少女やけど、おっちゃんと付き合う気ぃはないねん」
「い、いいえ、そういう意味では……」
男は口籠もった。困惑の表情がサングラス越しにでもはっきりと見て取れる。
代わりにもうひとりの男が前に出ると、内ポケットから一枚の紙を取り出して告げた。
「お嬢様、貴女に召集令状が出ています。我々と一緒に東京まできてください。これは、貴女の祖父、早坂銀一郎様からのご依頼でもあるのです」
「じ、じいちゃん?」
祖父の名を聞いた途端、千鶴の顔色と声色が変わった。
「じいちゃんがウチに、東京行け、言うたん?」
「はい」
「いつ?」
「今すぐです」
「でも、ウチ、着替えとかお泊まりセットとか持ってへんよ」
「お着替えは既に東京へと送られていますので、ご心配は無用です」
結局、男のこの答えが駄目押しとなり、千鶴は、東京行きを覚悟せざるを得なくなった。
「では、参りましょう」
男たちに促され、千鶴は、“なんばパークスシネマ”をあとにした。
十九時十二分。大阪市浪速区にて早坂千鶴確保。




