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マスク・リベリオン ~最強仮面と反逆者~ 作者:山折 由
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魔闘士の戦闘

 ラジクはキーンを高く評価していた。

 態度や行動には問題こそあるが、遠回りかつ陰湿な攻撃を取らず、正々堂々真正面から勝負を申し込む。発言自体もラジクの成績から間違ったことは言っていない。
 対決の機会をくれたことも好印象だ。
 今年の魔法大会も後二ヶ月で予選が始まる。
 ラジクにとって、この練習試合はありがたい。
(まあ、今回は試合じゃなくて勝負だから……練習にはならないだろうけどな)
 試合とはいっても場所を借りて戦うというだけで、魔闘士の試合ではない。つまり、ルールのない戦いだということだ。
 ルール通りでもラジクは勝つ自信があるも、勝率は上げておくにこしたことはない。それに、練習場では観客も居るだろう。
 校舎から出て広場にフィールドが見えてくる。広大な円形の白線は、戦闘可能領域だ。
 キーンの背後を歩くラジク。その前から声が聞こえた。
「俺が勝ったら、お前は首輪を外せ」
「俺が勝ったら、お前は態度を改めろ」
 キーンは向かずに「ハッ!」と一蹴しているが、声色から表情は明らかに苛立っている。
 ラジクに負ける気は無い。
 もし負けたとしても、この首輪を外すぐらいならこの学園を出て行く。その際魔神契約の件をどうするかは、負けた時に決めればいいだろう。

 そして、二人は闘技場で対面していた。

 練習場だが、大会の予選もここで行なわれる為、規定通りの作りになっている。地面の上に描かれた広大な白い円、戦闘場は強化魔法無しだと本気を出して一周回るのに1分はかかるだろう。
 その中央に、二人の少年が立つ。
 そこからお互いに後ろ歩きで離れ、距離を取っていく。
 戦闘場クォーターの位置に描かれた赤い円に到着するラジク。そしてキーンも位置につき、懐からスッと一枚のコインを出した。
「これが地に着いたら開始だ」
「ああ」
「ルールは場外に出るか、気を失うか、死ぬか。その首輪は命を投げ捨ててもいいという覚悟の表れだ。まっ、気を失った瞬間に審判が止めに入るから、即死じゃねぇ限り死なないがな」
 そんなことを言うが、こんな野良試合に審判は存在していない、観客は場外に少し距離を空けてざわめいている。 
(俺が最底辺とはいえ……流石に気を失えば助けてくれるだろう)
 誰もこの戦いを止めようとしないのは、互いの首元に備わった首輪の意味を知っているからだ。
「やる前に質問がある。こんな野良試合、イルバーシュでは許可されているのか? ミルディアスでは互いに申請書を書いて教師に渡さなければならなかったぞ?」
 ラジクは涼しげな顔で聞いていたことが、表情から観客達には理解できないようだ。
「今更逃げる気なのか……」
「ミルディアスの奴が居ないからって嘘吐いてるんじゃねぇだろうな!」
「最底辺の実力とやらを見せてくれよ」
 観客席からは煽りまでもが聞こえてくる。
 実際は観客の言うとおりラジクは嘘を吐いた。
 ミルディアスからやってくる学生など、滅多にいないからだ。
「それなら誰かが止めてるだろ。質問はそれだけか?」
「いや、まだだ。質問していいのなら、午後からの授業についてちょっと聞いておきたいことがあった」
 軽い感じでラジクは聞き、周囲の苛立ちが増す。
 今から魔法を使って潰し合うというのに、暢気そうに告げるラジクが、解せなかった。
「……舐めてんのか?」
 怒りを更に増したキーンに対し、フッと、鼻で笑う素振りを見せながら、ラジクは指を突き出す。
「お前、もしかして舐められてないとでも思ったのか? 身の程知らずが」
 周囲の雑音が、その発言によって消え失せたのは、コインが動いたからだ。
「潰れろや!」
 カツーン! とコインがフィールドに金属音を響かせる。
 本来ならゆっくりと放ることで緊張感を生み出すものだが、それよりも怒りの方が勝ったのだろう、キーンは床に叩きつけている。
 それこそが、戦闘開始の合図だった。
 音と共にラジクは身体を屈めて回避動作に入る、魔法を使うのには時間がかかるからだ。
 最速でも二分半、百五十秒という時間は、実戦では長すぎる。
 敵の動作と同時に動ける為に、ラジクは足に力を籠めた。
 動くべきは前後ではなく左右、最も警戒すべきは正面であり。

 ――ラジクの肉体は宙を舞う。

「ガッ…………!!?」
 唐突な攻撃。
 しかし衝撃を受けながらも思考は止めない。これは先程、足に力を籠めて、身体を屈めようとした時点に受けた痛みであり、キーンが攻撃に出たことで起きたダメージだと理解する。
(なんとか見えたが……)
 奴は火炎弾の脳内詠唱を行なったのだろう、足下に小さな火球を高速で作りだし、そしてそれを右脚で蹴り飛ばしたのだ。
 そしてそれが一瞬で、作製と同時にその火球が弾き飛ばされている。
 視界では確かにそれを捉えることができたが、身体が動いて対応できるかは別問題、反応を見せるよりも速い火球が、ラジクの腹部に直撃し、両脚が浮き上がった。
 恐らくは作製時間が短かったのだろう、直撃と同時に火球が消失し、衝撃だけが残った。呼吸が止まっり、頭から地面に叩きこまれる。
「チッ……卑怯な奴だ!」
 キーンの叫び声に対して、そっちもだろうと反論してやろうかと口を開くが、それよりもキーンの追撃は迅速に行なわれ、すぐさま意識を切り替えて行動を視界に移す。
 右脚を左手がなぞる。すると五つの小型火球がへばりつくように脚に付着した。
 これによって、この魔法が火炎弾ではなく、火炎弾の亜種であり、教科書に載っていない特殊で非常に厄介な性質を持っている魔法だと理解する。
「やるね」
 この時点でラジクは、キーンを高く評価していた。
 ラジクが使っている魔法についての予測は当然として、魔法作製速度と脳内詠唱速度に身体能力の組み合わせ、更にはそれを絶妙な力加減で放ってきたのだから。
 試合の開始前の時点で自らの肉体に強化魔法を発動していなければ、最初の攻撃で確実に意識が朦朧としていて、不利になっていただろう。
 事前に強化魔法を発動していたからこそ意識が飛ばす、すぐさま起き上がることが可能となっているが、それでも隙は出来ている。
 そして二撃目が、ラジクを襲う。
「これが本命か!」
「舞えや!!」
 キーンの叫び声と同時、蹴り上げた五つの火炎弾は全てがバラバラに散り、それがラジクの頭上で散り散りとなっていく。
 前後に高速で迫る火炎弾が、上空でラジクを囲んだ瞬間、一気に軌道を変えた。
 上空から前後左右飛び散っていた火球が、加速を増しながらラジクを襲う。
 火炎連弾(フレイムラッシュ)
 命令を与えることが可能な現象魔法の能力を有した作製魔法だ。
 図書館に置かれている持ち出し不可の重要書類に書かれた魔法の一つに入るが、威力が低いという欠点が存在している。使う者が基本的にいない魔法だ。
 いない理由は、威力がないからであり、キーンの脚力によってその弱点が補われた火球は、赤い閃光のようにラジクを囲み、迫り来る。
「おおおおおおおおおっっっ!!」
 上下左右から迫りくる火球は一発でも当たれば動きが鈍り、残りの四発も直撃する。
 そんな軌道だった。
 だが火球は五つだけであり、全方向から迫ってはいない。それを瞬時に理解したラジクは脚に力を籠めて倒れている体勢からなんとか前方に突き進む、キーンが虚を突かれた反応を見せたのは、この状況下で前進による突撃が想定外だったのだろう。
 明らかにトドメとして放たれた攻撃を瞬時の判断で切り抜けたラジクに対して、キーンの表情に余裕がなくなったのは時間の経過と、いきなり攻撃を仕掛けに入ったラジクに対する警戒だろう。
 ラジクのタイムラグを考えれば、防御又は回避を行い、時間が経つことで高性能な大魔法を発動してくるのは目に見えている。
 故に速攻で潰すというのは、ラジクを僅かでも知っている人間にとっては当然のことであった。
 開始前から身体に強化魔法を発動するのは違反行為だが、これは練習試合であり、審判も存在していない。
 だからこそ強化魔法の時間稼ぎに質問を行ない、それが気付かれる前に下らない質問で相手から話を切り上げさせたラジクは、練習場に連行されている間に使用していた強化魔法による肉体を駆使した接近戦でキーンを倒すつもりだった。
 それでも結果的にはキーンの初撃に対処できずにダメージは受けたが、これでようやく目論見通りの状況となっている。
 相手は出鱈目かつ攻撃的な魔法だが主に遠距離主体の攻撃魔法士だ。
 それに対して時間をかけて強化されたラジクの肉体ならば、仕掛けてくる魔法攻撃にも対処し、そのまま力押しで倒せるという自信がある。
「なっ……!?」
 しかし、その判断は、キーンの行動によって覆された。
 キーンも同じくラジクに接近、右脚が上がったと思えば即座に地につけて左脚での回し蹴りが迫り、フェイントによって肉体が硬直したことで回避動作が間に合わず、やむを得ず右腕を盾にした。
 そこまでは防御に成功したが、脚のガードと同時、ラジクの肉体が宙を舞う。
「ゴッ……な……」
 ラジクは魔法の質だけは自信があった。そもそも魔力自体は学生の中でも高いのだから、敵の攻撃を耐えることは当然として、膝をつくまでいくと賞賛する程だというのに、結果がこれだ。
 防御がまるで意味を成さず、視界に映る床がまだ白いのでなんとかフィールド外に出ていないが、不可解な程の浮遊感を受けていると理解したのは、その床に大きく叩きつけられたからだ。
(……こいつ、固有魔法持ちか)
 立ち上がることができないのは、脚力のせいではない、ラジクがキーンの固有魔法を舐めていた結果として起った現象だとすぐさま理解した。
 キーンの持つ固有魔法について確信が持てたのは、自らの身体で受けてからだった。
 火炎連弾の速度は現象魔法で加速させたものだと考えていたというのに、実際は固有魔法の力だったのだ。
 魔法に干渉する魔法は珍しい魔法の一つであり、情報が少ない。火炎連弾の際に蹴りとして出した脚は命令を出す為の道具だと考えていたが、実際は違っていたのだ。
(……魔法に関与することができる強化魔法……そんなの今まで知らない以上は、こいつの固有魔法以外に有り得ない!!)
「場外にならなかったか、よかったな。いや、悪かったの方が正しいな、こりゃ」
 楽しそうなキーンの声を無視しながらも、思考を続けるラジク。
 現象魔法ではなく、現象能力を持った強化魔法の組み合わせ、仕掛けは複雑ではなくシンプルな分、この魔法は威力と制度が高く、そしてそれに合わせた魔法を会得しているのだろう。
(力を加えた際に付着している魔法を弾き飛ばす魔法……辺りかな)
 だからこそ、強化魔法を使用しているラジクの肉体が大きく弾き飛ばされたのだ。
 ラジクは意識を強く持ち、よろけながらも何とか立ち上がろうとする。
 実際には固有魔法の攻撃によって吹き飛んだだけだというのに、何度も宙で回されたような感覚が全身を襲う。
 こみ上げてくる吐き気を何とか堪えたのは、吐いている間にトドメを刺されるからだ。
 立ち上がろうとしていた体勢を崩し、右へ側転を行なうことで追撃としてキーンが蹴り飛ばした火球を回避して起き上がるラジクの視界に映ったのは、再び迫り来る五つの火球だった。
 立ち上がった瞬間に放たれた五つの火球は、頭部、両腕、両脚を捉えている。加速しながら迫り来る火球に対し、ラジクは動くことができない。
「可哀相に……止まったら終わっちまうぞ」
 言葉とは裏腹に楽しそうな面を見せるキーンだが、それはすぐさま怒りへと変わった。
「止まったら終わるというのは違うな」
 ラジクの口が、緩んだからだ。
「この位置なら……動かなくていいんだよ」
 叫び声と同時、轟音がフィールドに響き渡り、観客がざわめいた。
 ラジクに迫る火球が途中でいきなり爆発したのは、キーンの火球が持つ性質で、だからこそラジクに迫る前に爆発したのかと誰もが推測したが、実際は違う。
 爆風によって、キーンの姿が視界から消えるが、それはお互い様だろう。
「なにがアッッ!!」
 動揺した声と共にキーンが悲鳴を漏らしたのは、ラジクの右拳がその狼狽した面に入ったからだ。
 同じように、キーンも強化魔法で肉体が強化されているのは、今までの動作で解っている。
 だからこそ、ラジクはキーンを倒すために、最初の会話の時点で爆撃魔法を発動していた。
 その爆撃魔法の位置まで側転で誘導させ、火球の壁として爆撃を起こすことで防ぐ。
 理想は爆撃の位置までキーンが接近してくれることだったが、あの苛烈な攻撃に対してそこまでの余裕がなかった。
 そして爆撃魔法の位置を確定して発動した二秒後に加速魔法アクセル魔法撃ショットを使う為に予め時間を調整しながら、キーンとの移動時に先に発動していたということだ。
「こっからは、俺の攻撃ターンだ」
 時間が経過し、爆発を起こした瞬間に予め使っていた加速魔法の力がようやくラジクの肉体に加わり、一気に自らの速度を増す。
 そしてその一秒後、右手に魔力が集中する。
 そうなるように試合前に仕組んだことにより、この状況でキーンの思考を上回る一撃を放つことができていた。
「まだだッ!」
 しかし、その渾身の一撃を受けても倒れない辺り、キーンは見かけ通りの実力を持っていた。
「チッ!」
 胴体を地に打ちつける直前、高速で両の腕を地に叩き込むことで伏せの状態から叫ぶキーンに舌打ちをしたのは、ラジクが手の内を見せすぎていたからだ。
 強化、加速、爆撃、魔法撃の四つをこの戦闘で使用している。ラジクが黒仮面無しで扱える魔法は後二つしかなく、キーンもそれを理解しているのだろう。
 使えるとすれば通常魔法二つ、多くて三つ。固有魔法があるのならミルディアスで最底辺呼ばわりはされていないだろう。
 そうキーンが推察するのが基本であり、事実ラジクが使える魔法は残り二つだった。
 そしてその内の一つは、爆撃魔法を見せた時点で使っているし、同じ魔法を創り出すキーンも予測することができているだろう。
 キーンが起き上がったと同時に両脚を振るい、無差別に火球を飛ばす。
 その瞬間に吹き飛ばしたキーンの位置に移動を開始しようと作製された、ラジクの五つ目の魔法である炎弾が砕け散る。
 魔力は他者の強力な魔力が加わり、力負けすると砕けて消失する。
 故に、キーンは炎弾、もしくは何かしらの作成魔法の攻撃を予測して、自らの魔法を飛ばしていた。観客から見れば奇行にしか見えないも、それは魔闘士の上級技術の一つだ。
「やるじゃないか!」
「ッ……まだ俺を見下すかッ!」
「実際は、お前が俺を見下してるんだけどな」
「黙ってろ!!」
 本心に対してキーンは叫ぶも、そこから動作には出ていない。
 もう魔法が発動された以上、次の対応に出ているのだろう。
 その動作から思考速度も把握でき、ラジクの顔から冷や汗が浮き出る。
 ラジクの魔法は高威力かつ高性能だが、タイムラグが長い以上、事前に発動しなければならない。
 それしかできない以上、相手の未来を予測して、質の高い魔法を仕掛けることだけが、今のラジクができる戦い方だった。
 それを理解したからこそ、キーンは動かないのだろう。
 これは攻撃を受けて吹き飛ぶ位置、回避する為のルート、全てラジクの思い通りにならなければ、勝機はないことを理解しているのだ。
 だからこそ、キーンは攻撃を弾き飛ばし、止まる。
 これは別にキーンが対処できないからと、舐めた結果ではないということは本人も解っているだろう。お互いに戦闘方法が解らない以上、予めどうするのかを大体は決めた状態で戦闘に望まなければならないのだ。
(予想してたよりも冷静だぞコイツ……結構ピンチだな)
 魔法は脳内だろうが唱えてしまうと、消すことはできない。
 精度が上がれば魔力消費が上がるのも当然であり、ラジク自身の魔力量は学生では高い方だが、維持できるとすれば発動してから五分が限度であった。
 それに対してキーンは身体強化魔法を使っているも、それで実際に攻撃を行なったのは数回だ。
 こうしている間にも見当違いの方向でラジクの作り出した炎弾が発生し、何度も爆発が起きている。見当違いと言えどキーンが本来回避している予定だった位置に放たれているので、ラジクの成績が最底辺だと知っている観客が野次を飛ばすこともない。
 今まで二人が一切の詠唱をせずに戦っている。情報アドバンテージを守る為の脳内詠唱は魔闘士の基本だが、それは魔法士にしても高等技術の一つだ。
「どっちが勝っても、おかしくないぞ……」

 二人の実力を理解し、この戦いを見入っている。

 無言でこの決着を待っていた。
 そこにあるのは最初の反応とは違う。最底辺がどう叩きのめされるのかではなく、どちらが勝つのかという好奇心だ。
(後十秒! これがラストチャンス!)
 キーンが何もせずにただ突っ立っているのは、接近することによる恐怖でもない。
 どこかのタイミングで発動される加速魔法、そこからの魔法撃に備えてのことだ。
 位置を決めて設置する炎弾、炎弾を爆破させる爆撃魔法とは違い、加速と魔法撃は自身に対して発動される。
 だからこそ、ラジクはその時間になれば、キーンに接近し攻撃に出る必要があった。
 この攻撃のチャンスを、ラジクは三度、用意していた。
 一度目は使用済み、三度目は最後の締めで一分後だが、全ての魔法を使用した後に繰り出される予定の一撃であり、何もない状態ならばこのキーンが対処することは可能だろう。
「これで決める……」
 全てを利用できる二度目の攻撃。
 これがラジクにとって最後のチャンスだった。
 その為に接近することを止め、機を窺っていたのだが、キーンもそれは理解できているだろう。
 ラジクは身体を駆使して左からキーンに回り込むも、身体だけを動かして向きだけは合せてくるのは、これによる誘導からの魔法攻撃を避けたからだ。
 本来なら直撃の予定だった爆撃魔法だが、この両者の間で爆発すれば、別の役割を持つ。
 ラジクとキーンの間で、爆撃が引き起り、再びお互い爆風で視界から敵の姿が消えた。
 煙幕としての役目を果たし、決着をつけるために迫る。

「だろうな!」
 その爆風を裂くかの如く、キーンの蹴りによる炎弾が一直線に飛んだ。
 連弾ではなく単体の炎弾なのは、それが自身が持つ最強の一撃だからだ。
 爆風を利用した攻撃は奇襲、加速している為に対処が遅れるが、加速は一時的な現象魔法であり、継続はしない。
 だからこそ、キーンは加速した瞬間の動きを止めるために炎弾を放っていた。
 ラジクの魔法と戦い方から、最初の攻撃も全力だったに決まっている。
 ラジクが一体どんな事情でそうなったのかはキーンには全く理解できないが、それに対して嘆かずに戦い方を考案したことについては、評価してもよかった。
 だが、そこまでしたとしても、不愉快でならない。
 それは魔闘士としての在り方にある。
 魔闘士はただのうのうと生きている魔法士とは違い、自らの魔法が最強であるという意志を示す存在だというのに、こんな小細工を要するということが、キーンにとって不愉快で仕方ない。
 今までの奴もそうだった。 
 ただ有名になれるかもしれないから、有名な魔闘士と関わりたいからだとかいう舐めた連中が、自分と同じ領域に立っているということが不愉快でしかたがなかった。
「よく頑張ったが、ここまでだ!」
 ラジクの加速魔法による速度は最初の攻撃で見ている。
 キーンはそれを受けた時、肉体と共に意識が吹き飛びそうな破壊力を持っていたが、加減する理由もない以上、それが最高速に決まっている。
 あの速度なら、対処可能だった。

 だが、現実は違う。
「ああ、終わりだ」
 ラジクはそれよりも速く、力強く握られた右の一撃が再びキーンの面に入り、激痛が生じた。
 理解する為の脳は衝撃によって薄れていく。

 それによってこの戦いは、終わりを迎える。

「……危なかったな」
 キーンの攻撃は最適解だった。
 二度目の速度は一度目と同じ、それを緩める為の攻撃を爆風目がけて放つということは、防御と攻撃を兼ね揃えた一撃だ。
 この速度は最初の攻撃よりも強い。恐らくあれが全力の一撃だったのだろう。
 だが、ラジクの魔法が、それを防いでいた。
 魔法による盾の作製。
 ラジクが持つ最後の魔法である作成魔法は、ラジクが爆撃を受けることなくキーンに迫るための一手だった。
 炎弾を作りだして爆発した瞬間、その爆破地点よりもすこし離して魔法盾シールドを発動することにより、爆風を受けることなく迫ろうとしていたのだが、それによって炎弾をも防ぎ、なんとかキーンに予想外の一撃を叩き込むことができたことに対して、安堵していた。
 普通に発動すれば割れていたが、ラジクのは時間をかけて作製された高性能の盾だ。
 見えない板のようで脆そうだが、強度は十二分にある。
 そして爆裂が弱まったと同時に消失するようになっていたので、爆破と同時に攻撃が来なかった場合、吹き飛んでいたのはラジクの方だろう。
 まだ事前に使っていた残っている魔法が発動されていくので観客が近付いてくることはない。
 キーンが倒れている位置には攻撃が飛んでこないことは解っているので、ラジクはこの魔法が終わるのを棒立ちのままで待っていた。
「なんだアイツ! キーンに勝ったぞ!」
「アイツって最底辺じゃなかったのかよ!!」
「あのキーンがぶっ倒れてやがる……」
「なんで倒れたのにアイツはまだ魔法を使っているんだ?」
 観客が歓声をあげながら声を徐々に高くしていく。
 やはりキーンはイルバーシュの中でも上位に入る強さなのだろう。
 それが転校生に、しかも最底辺と称されていた奴にやられたとなれば、噂にもなるのは当然だ。
「ラジク……君!」
「入るな!」
 そしてキーンが倒れたことに安堵しながら迫ろうとしていたミーシュを叫びながら停止させ、ふらついた状態でラジクは自らの魔法に巻き込まれない安全地帯を通り決闘場から出ていく。
「悪いけど……後は頼む」
 かけつけてきたミーシュにそう告げ、ラジクはそのまま意識をなくした。
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