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マスク・リベリオン ~最強仮面と反逆者~ 作者:山折 由
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黒の仮面は夜に舞う

「未だにこんな奴等が活動してるのか」
 ラジクは眼の前に広がる胸糞の悪い光景に対して、嫌悪を抱きながら感想を吐く。
 そこは夜間の立ち入りは禁止となっている区域だ。真っ暗な闇の中で無数に伸びる木々は広大な自然を表現している。
 その自然が作りだした絶景を「暗視魔法(キルナイト)」を使用すること楽しむ者が居るという噂もあるが、眼の前の相手は別の行為を楽しんでいる最中だった。
 四人の男が、三頭の鹿に錠をかけている。
 その鹿は銀の角が煌めき、白い身体が激しく体を上下して抵抗するも、完全に男達の腕力によってねじ伏せられ、四本の足が空を切っていた。
 細身の男二人は木の棒に「発光魔法(ライトライド)」を発動して灯りを作り、ただ突っ立っているだけの照明役で、実際に作業を行なっているのは服の上からでも屈強な肉体が解る男二人だ。
 照明役を用意することで暗視魔法の発動を行なわずに素手での捕縛を行なう役割の分担。そして捕獲する対象の性質を理解しているのか罠を使っていない。
 四人は明らかに手慣れている。
 手際よく男達が捕らえている神秘的な魅力を持つ鹿はただの愛玩動物ではなく、種族限定の魔法を所持している魔物であった。
 男達は辺りの警戒を怠っていない。これによって魔物を取引していた組織の残党が、新たに活動を始めようとしていたのだとラジクが推測するのは容易かった。
「全く……楽しむのは夜景だけにしとけ」
 先程の独り言とは違い、凜とした声でラジクは男達に告げる。
 四人がラジクの声を耳に入れた瞬間、縄をかけていた二人の腕が停止し、声の発生源である木々の中を凝視し、敵の位置を注意深く睨みつけた。
 ただ立っていた二人は何がなんだか解らないという表情でお互いの顔を見合っているが、その存在が木々の間から姿を出した瞬間に、目を見開かせて仰け反ってみせる。
「で、出やがった!」
 動揺が露わになり、脅えた声を漏らす二人に対し、屈強な男の一人が咆えた。
「散れ! 相手は俺がする!」
 その叫びを合図としてラジクを視界に入れた四人の行動は迅速であり、森林がガサガサと鳴り響く。
 咆えた一人がラジクと対面し、三人が倒れている鹿を置いてバラバラに散った。
 多種多彩な鹿がこの森林には存在していたが、魔物と呼ばれている鹿は一種類であり、それもわずか三頭しか存在していない。その鹿だけを狙う辺り、この四人は魔物に対する知識も有しているのだろう。
「……お前の質問に対する回答をしてやるよ……馬鹿が。夜景は金にならないだろうが」
「俺はその鹿達と友達なんでな」
「そんな見た目で鹿ってかぁ?」
「そうだな、蹴られても文句を言うなよ」
 一人残った男は眼の前の存在に対し、警戒を強めて身構えていた。
 それはラジクの姿のせいであり、この身長からよくても精々十代半ばであろう少年の顔は、額から鼻下までは漆黒で染められた仮面で隠れて一切解らないのだ。
 肩まで伸びた黒髪が風によってなびき風格を出している。そしてそれは、正義を示す証。
 出会えば終わりとまで呼ばれた伝説の存在。
 十色の「仮面」が一つ、黒の仮面だ。
「ハッタリ野郎が!!」
 その存在に警戒はするも、伝説を信じてはいない男は怯まず腰を落とし、戦闘態勢に入る。
 それを眺めた黒の仮面が辺りを確認しながらも、前方に足を踏み出した瞬間。
「そらよォッ!」
 両脚に力を籠めて屈強な男が両の腕を振り上げ、掴みかかるかの如く突撃する。バチバチン! と両手を鳴らしたかと思えば、腰を曲げて瞬時に少年に向けて引き締まった右の豪腕を振るった。
 外見こそ一体変わっていないが、ラジクは男の拳が「強化魔法(アップグレート)」により腕力を強化し、「加速魔法(ハイアクセル)」によって更に鋭さを増した一撃だということを察知している。
 それが肉体を砕こうと迫り来る。
 いきなり現れた伝説の存在を即座に排除しようとしていたのは、敵の強さがもし伝説通りだとしても、逃げるよりも倒すことで魔物の捕獲を優先した結果だろう。
「……愚かだな」
 その言葉を終える前に、男の豪腕から繰り出されし拳による一撃がラジクに直撃することは確定していた。
 だが、最後まで口を動かすことができているのは、回避を成功させたからに他ならない。
 ラジクはただ、身体を滑らせただけだ。
 最小限の動きを即座に行う。常人なら意識を当然のように奪える程の強烈な一撃を平然と回避しながら男の背後に回り込み、右腕を伸ばす。
 男の背を完全に捕らえた瞬間、まるでラジクを挟み込むように左右に光の瞬きのようなものが発生していた。
「ハッ、馬鹿がッ!」
 橙色の光が突如ラジクの両耳手前で点滅した瞬間、その部分から爆撃が発生した。
 その現象によって静かな森林に衝撃が走り、木々が激しく揺れ動き、そして葉が重なってザアザアと暴風に打たれたかのような音を鳴らす。
 「爆撃魔法ブラスト」は予め位置を確定してから自らが作った魔法を対象に、爆発を引き起こす魔法であるが、魔法を発動する時間である発動時間タイムラグが一定よりもかなり長いという欠点があった。
 自分の別の魔法を対象とした魔法だ。
 爆撃魔法は条件がある故に威力は多種存在する魔法の中でも上位に位置している。
 男達は敵の強さを理解していた。だからこそ豪腕を囮に使い、背を取られるまでが計算であり、爆撃魔法を直撃させる為に爆撃の位置まで誘導させ、本命である爆撃を直撃させたのだ。
 その結果として、辺りを震撼させる程の爆撃を黒仮面は回避できずに受けている。距離が近いため、腕を振った男もその爆撃を受けて吹き飛んでいたが、それもこの四人の計算に入っていたのだろう。
「ガアアアアアアアアッ!」
 叫びつつ痛みに耐えながらも、それでいて喜んでいるのは特殊性癖でもあるのか、それとも、警戒していた敵を倒せたことかくる喜びなのか、その両方なのかは解らない。
 だからこそ、そこに少年の悲鳴がなかったことを理解するのが、少し遅れた。
「馬鹿か……なら、お前等は一体、何になるんだろうな」
 爆撃を受ける直前、ラジクは両肩の上部に小さな板を作り出していた。
 「魔法盾シールド」と呼ばれる魔法を、発光から爆撃までの合間に作製していたのだ。
 それによって爆撃を完全に防ぐことはできないが、ラジクは一切痛みを負っていない。これは強化魔法によって強化された肉体からくるものだ。
「は……な……こ、これが……伝説の、存在……」
 あまりにも速過ぎる魔法の発動を目の当たりにして、格の違いを理解した時にはもう遅い。
 爆風で吹き飛び震えながら仰け反っている男に迫り、右掌を額に突き出したラジクは、その掌を起点として魔力を発射した。
 それは「魔法撃ショット」という覚えやすい初心者向けの基本的な魔法だが、この魔法の利点は魔力の加減で威力が調整できるということだ。
 加減をすることで対面していた男の意識だけを飛ばしたと同時に、ラジクは腰を大きく回す。
 そこから豪快に両の腕を振るい、各指の間に発生させた銀色の閃光を発生した数全部、つまりは計八本を投げ飛ばした。
魔弾(バウンドショット)
 その一言で、戦いはアッサリと終わりを迎える。
 適当に飛ばされたかのようなバラバラな軌道を描く閃光が、木々を跳ねて縦横無尽に森林を駆けていく。
 ラジクの魔弾は跳ねるごとで徐々に速度を増し、人間が出せる速度を軽く超えた。
 それによって来るという認識よりも速く、跳ねることで加速した銀の閃光が残りの三人全員に迫る。
「ぎゃっ!」「がはっ」「グッ!」
 数秒にも満たない時間で、森林に三種類の悲鳴が響き渡った。
 眼前の仲間による爆撃を受けた男は声も出ずに意識を飛ばしていた為、少年は悲鳴の方へと迅速に向う。
 爆撃魔法を行なった二人の位置は足音から把握できていたが、最後の一人は縄をかけていた男だけあって気配、音を消していたので、二人の位置から、爆撃を対処された際、最も不意打ちが決まるであろう地点に目がけて放っただけだ。
 予想、もしくは適当と呼ぶのが正しいだろう。直撃しない可能性も普通にあったが、その時はその時で追撃をかければいいだけだ。
 その男を視界に入れ、当たっていたことに一息吐く。男は倒れながら足音が聞こえた方向を、そこに立っている仮面の下からでも涼しげだということが解る少年を見る為に顔を上に動かしている。
 激痛で苦悶の表情を浮かべてもなお、男は殺意をその仮面に向けていた。
「足か……腰を狙ったんだけどな」
 それに対し、ラジクは残念そうな声を出す。当たった箇所に不満があったからだ。
「ッッ……黒仮面(ブラックマスクッ)! なんで追いついてッ!」
 残念そうな様子の少年は男の言葉を最後まで聞かず、掌から魔力を放出することで意識を飛ばす。
 魔法撃は攻撃の初歩であるが、強化魔法をある程度は貫けるという利点から接近戦をする者は誰でも使う最高峰の攻撃魔法だった。
「……眠っていた。遅れてすまない」
 全てが終わり、ラジクは踵を返して鹿に迫る。
 そして鹿を拘束している縄に手を伸ばし、先程の暴力的な行為は何処に消えたのかと言うほどに優しく壊していく。
 外された鹿はすぐさま起き上がり、ラジクの身体に頭を預けていた。
 隠れていた他の鹿達も近づいてくる。その角は輝きを魅せ、この森林の風景に相応しい。
 残りの魔物である鹿二頭も、黒仮面の前に並んで立っている。
「コイツ等は牢屋にぶち込んでおくよ、道具から明らかに前科があるだろうし、俺の存在もある。意識のない奴等が政府の前で倒れていたら、行き倒れじゃなくて犯罪者だと確信するだろうからな」
 鹿達の頭を撫でていく。狙われた三頭の鹿はトルキスと呼ばれる魔物であり、魔力を消費して自らの偽物を生成し、それを囮に逃走するという種族魔法を持っていた。
 それを捕らえることができ、魔物ではないも他の希少種として高値で売れる鹿達は無視する辺り、その魔物の価値を知っていたのだろう。
 恐らくあの四人は前に滅ぼした魔物売却組織の取りこぼしだ。
 キュィーとその言葉に対して返事をする鹿達を、黒仮面は再び撫でていく、口元が震えながらも、ようやく本題に入ろうとしていた。
「……今日は伝えないといけないことがある。俺は遠く離れた場所に移らないといけなくなった……だからもう、俺は君達とは会わない」
 それは、今までの関係に終わりを迎えるということだった。
 本来は明日の朝、出発時に告げようとしていたのだが、今が言うべきタイミングだろう。
 その言葉に対して、三頭の鹿がラジクの辺りを歩き、悲しげにキュルルルと鳴いている。少年が去るのを拒んでいることを理解し、思わず口元が緩みながらも話を続けた。
「知っているんだよ、君達が他の鹿達に嫌悪されている理由。それは君達が持つ魔法よりも、俺という得体の知れない種族(にんげん)と会い、それを警戒しているからだ……ここが区切りなんだ……解って欲しい」
 少年は鹿の頭を優しく撫でていた。口元は笑みを浮かべながら、「うん」「ありがとう」と鹿の鳴き声に対して返事をしていく。
「それじゃあ、さよなら……ありがとう」
 鹿達との会話を終えた黒仮面を纏う少年は振り向かず、捕らえた四人を宙に浮かべて鹿達から離れていく。
 匂いは消していた。
 それはこの四人も察知されない為に行なっていたのだろう、これでもう、魔物達と会うことはない。魔物を確保する人間も全て捕獲したのだから。

森林を出ても、辺り一面は闇だった。
 夜は誰もが眠りにつく時間だ。誰も起きている訳でもないのだから、発光魔法を誰も使っていない。しかし、暗視魔法か発光魔法を使わなければ誰も活動することはできない。
 暗視魔法を使い、誰の目にも止まらずラジクは学生寮の部屋へと戻り、鏡を見つめて仮面を指でなぞる。 
 先程の四人は起きていた政府の眼の前に送り飛ばしてやった。
 所持していた道具もあるが、今までにも同じ事が何度も起きている。牢屋行きは間違いないだろう。四人は黒き仮面に懲らしめられたと証言するのかもしれないが、それはただの伝説の影響を受けた人間が英雄の真似事をしただけにしか見えないに決まっている。
「お疲れさま」
 自分自身に労いのことばをかけつつ、仮面が左から空気に溶けるかのように消失していき、ラジクの黒髪が短くなっていく。
 先程まであった風格は消失し、童顔が現れて思わず自らに対してムッとした。
「さてと……明日から、俺は一体どうなるんだろうな……」
 仮面の時よりも高い声を出しながら、ラジクは気怠げにベッドに入り、明日のことを想定しながら瞼を閉じた。
 明日は昼から馬車に乗り、一日かけて離れた地方のイルバーシュ地方の魔法学園へ転校することになっていた。
 イルバーシュには昨日も仮面の力で行ったばかりだが、今はあくまで一生徒だ。ただの人間らしく馬車を使わなければならない。
「馬車は疲れるから、嫌なんだけどな」
 ベッドに身体を預け、そう愚痴を零すが、それが一般的なのだとラジクの意識は薄れていった。

 ――そして二日後。
 仮面の代償として最底辺のレッテルを貼られ、虐げられた結果、ミルディアス魔法学園を追い出された少年。ラジクの新たな生活が、始まろうとしていた。
+注意+
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