Prologue:I
「また、この夢か……」
さすがに頻繁ではないにしろ、今までで何度も見てきた夢だと分かり、私は呆れたような声で呟く。しかし、これが原因で強く根付いてしまった恐怖を払えずにいることに気付き、これは所詮ただの虚勢だということもすぐに分かった。
辺りを見渡してみれば、ただ何もない真っ暗な闇の中に、私は仮面だけの存在で漂うだけのようにそこにいた。見下ろしても体すらなかった。
――お前は、誰だ?――
ふと私の目の前に、私と同じ仮面が現れ、いきなりそんなことを問うてきた。その言葉を言い終えるか終えないかのうちに、まるでそれが合図だったかのように、目の前に同じ仮面が、視界を埋め尽くすほどの数で現れる。
――お前は、誰だ?――
――お前は、何だ?――
その仮面一つ一つが、同じことを何度も問うてくる。その不協和音に、私は耳を塞ぎたくなるのを堪え、一言口にする。
「……そういうお前達こそ、なんなんだ?」
これは見飽きた夢。この問いかけをすれば、どんな結末になるか、それがどんなに自分にとって恐怖を与えるのか分かっていながら、私は問いかけないという選択肢を選べない。何故なら、この問いかけをすることで、この永遠に続くのではないかと思われる悪夢が終わるからだ。
――私は、なんだ?――
――私は、お前だ――
――お前は、なんだ?――
まるで風の通り道に配置された風鈴のように、私の問いかけに対し、一斉に鳴り出す。一番聞きたくない言葉に近づいていることに、ないはずの体に悪寒が走りだし、みっともなく震えてしまいそうだった。だが、耳を塞ぐ手もなく、無防備でそれを受けるしかない。
――お前という概念が適用される存在なのか?――
――お前は、本当に存在しているのか?――
瞬間、私を除く全ての仮面に亀裂が走る。その音がそのまま心に突き刺さりそうだ。そして瓦解していく仮面達は、最後に一言残した。
――我々は、無だ……――
その言葉を最後に暗闇の世界も崩壊し、私は悪夢から解放される――。