私は元気にやってます…
この話だけで完結する内容ですが、『挙動不審の冴えない男を追っかけたいと思います』の為というのが主目的で書いてます。切ない系の話として読んでいただけたらと思います。
神様は平等ではない。
世の中は不公平だ…。
そんな泣き言を言ってる暇があるなら、精一杯生きてください…
私の名前は新山瑞穂、17歳の高校生。
私には、お付き合いしてる人がいる。
漫画とかでテンプレートの隣の家に住む男の子だ。
同い年の大澤悠人、同じく高校生。
しかもなんと…同じ学校の同じクラス!!
うっ…。おっと失礼。
生まれた時から一緒に育って、血液型も一緒。誕生日は生まれた月こそ違うものの、2人とも7日生まれ。
しかも明日は彼の18歳の誕生日!!
何をプレゼントしようかな…なんかお仕事で使ってもらえるものがいいな…。
実は彼…高校生作家なの。しかも…なぜか恋愛小説作家。
いや…違うの。恋愛小説がダメってわけじゃなくて彼がそういうのを書くイメージが全く湧かないからなんか不思議で…。なんか売れっ子らしくて、私の友達にもファンが多い。その作家が彼だとは口が裂けても言えないけど。
なんで?そりゃ友達の夢を壊したくないもの。彼みたいな人が書いてると知ったら読者離れちゃうよ、冗談抜きで…。
彼…最近忙しいのか学校に来てないの。
仕事が忙しいみたい。
留年とかしちゃうのかな?本業は勉強なんだからおばさん達もちゃんと注意してくれたらいいのに。
彼女としてはちょっと…いやかな〜り心配です。
〜〜〜〜〜〜っ。はぁっ…はぁっ…はぁっ…。
よし大丈夫。
とりあえず買い物に行ってみよ〜。
さて…どこに行こうかな。駅前のデパートとだと良さげなのが色々あるかもしれない。
まだ大丈夫だろう…早く帰ってくればいいだけだし。
テーブルに書き置きを残して…出かける。
流石はデパート…色々欲しいのがあり過ぎて目移りしちゃいます。
え?そんなにたくさんあるなら、彼の誕生日プレゼント選び大変だねって?
ぜ〜んぜんそんな事ないよ、だって色々欲しいのって全部私のだもん…。
彼のはすぐに決まったよ。
彼には似合わない可愛いフレームの写真立てにしちゃいました。
仕事に関係ない?そ、そんな事ないよ…?
ほ、ほら私の写真入れて飾れば小説のアイデアがたくさん浮ぶはず…?
でも1番の理由は私の事…少しでも覚えてて欲しいもん。
よし、買い物も済んだので帰ろうかな。
ママもあんまり遅くなると心配するだろうから。
帰宅してお風呂とご飯も済ませ、彼におやすみなさいのメールして、今日も無事に1日が終わる。
翌日にとんでもない出来事を起こるとはこの時の私は予想すら出来なかった。
翌日…なぜか深刻な顔をして、ご対面している彼と私とそれぞれの両親。
余談だけど私達の両親は、大学時代の同級生らしい。
だから仲良しのはずなのに、この重苦しい雰囲気は…なんだ!?
彼の誕生日…だよね?えっと…。
「瑞穂には、俺から話してもいいでしょうか?」
「悠人君…。君に任せるよ」
「ありがとうございます」
「瑞穂、今日は俺の誕生日だと思うんだが…実は欲しいものがあるんだ」
「え…?そうだったの!?私もう準備しちゃったよ…。えっと…お小遣い厳しいけど…買い直そうか?」
「いや…そうじゃない」
そう言って彼はテーブルに一枚の紙切れを置いた。
婚姻届…。な、なんで!?
私の事知ってるくせに…なんでそんな事するのよ。
「い、嫌…。無理よ、そんなの」
「お前に苦労させてしまうと思うけど、俺はどうしてもお前と籍を入れたい」
私が知らなかっただけで、彼は残酷な人だったのだろう。
私は生まれつき心臓が弱く、いつまで生きられるか分からない身体だった。
なので…とっくの昔に人生を諦めていた。
結婚は無理でも、せめて付き合うぐらいは経験したいと無理言って、彼に事情を話した上で私達は付き合っていたのだ。
私が求めていたのはそこまで。それ以上なんて求めてなかったのに、なんで…。
「瑞穂…お前を愛してる。卑怯かもしれないけど、俺の親にもお前の親にもこの結婚は認めてもらった。あとはお前の気持ち次第だ。お前の残りの人生…俺に支えさせて欲しい」
「………」
「お願いだ…」
彼のその真剣な表情に心が揺れる。
私だって…あなたと一緒に歩いていく人生を思い描いた事はそれこそ数えきれないほどある。
私は諦めたつもりだったのに…神様…短い時間しかない私がそれを願ってもいいのでしょうか?
「悠人がそれでいいなら…」
私はなんて弱い人間なんだろう…。手が届く幸せに縋りついてしまった。
彼がポケットから小さな箱を取り出す。
それが何か聞かなくても分かる。
ていうか…それ先に出して話そうよ…。
オッケーもらってから出すのってなんかずるい…。
私達はその日のうちに婚姻届を出した。短い間だけど楽しく過ごしていけるとそう思っていたのに…。
彼はすぐに寝たきりになり、1週間後に亡くなった。
私より先に逝ってしまったのだ。
その日、私は悲しみに暮れる間もなく、手術を受ける事になった。
まだ彼の顔を見ていない…なのに時間がそれを許してくれない。
なんの因果か…このタイミングで心臓の提供者が現れたのだ。
私は彼が亡くなったショックで何も考えられず…されるがままに手術を受けた。
夫の死に顔を見ない妻…私は最低な女だ…。
彼の葬儀は、私の欠席という形で行われた。
手術は成功。私は生き長らえたらしいけど実感が全くない。
それ以前に彼の居ないこの世界に…私の生きる意味なんてあるのだろうか…。
無気力な日々をこれからずっと過ごしていくのだろうか…。
術後の経過も順調で少し落ち着いてきた頃に、彼のご両親が訪ねてきた。
彼の葬儀とかで忙しかったらしく、向こうも大変だったらしい。
「瑞穂ちゃんには悪い事したね。本当にすまない…。あいつの我儘に付き合ってくれて本当にありがとう」
おじさんが目に涙を溜めながら謝罪とお礼を述べた。
私は意味が分からず、どう返していいか分からない。
「これ、あいつから瑞穂ちゃんに…」
そうして渡されたのは、ビデオカメラ。
録画された動画は一つだけ。それを再生する。
そこに写っていたのは…彼だった。
「瑞穂がこれを見ているって事は僕はもうお前の側にいないんだな。寂しくて鼻水垂らしてないか?」
画面の中の彼はそんな意地悪を言う。
「瑞穂…俺さ?実は脳に腫瘍があったんだ」
え…?どういうこと!?おじさんを急いで見るが、静かに頷いただけだった。
「瑞穂も先が長くないって知ってたけど、俺の方が実はヤバくてさ。おじさん達に無理言って瑞穂に俺の心臓を移植できるか検査とかしてもらってたんだ。お前、検査の内容とか興味なさそうだから知らなかっただろ?」
彼がイタズラが成功した子供のように笑う。
「悪いな、結婚して早々未亡人にしちまって…。でも俺…お前の1番最初の旦那になりたかったんだ。これでお前の初めて…全部もらったな」
ちょっと…!?なんてこと言うのよ?おじさんとおばさん隣にいるのに。
もう…本当に…馬鹿なんだから…。
「いいか?お前にバツがあっても、それでもいいって言ってくれる奴が居たらそいつと添い遂げろ。もし誰もそういう奴が現れなくて、一人が寂しいって思ったら親父に相談しろ。次に大事な話をする。本の印税がこれからもお前に入ってくる。その金は迷惑料と謝礼とでも思ってくれ」
お金?突然の話で意味が分からず、おじさんを見ると…先程と同じように頷くだけだった。
「時間がなくてあまり残してやれなかったけど、まあそこは許してくれ」
ばか…。移植の手術代…あんたが出してくれてるのは知ってるよ。
私を気遣ってか、まだ教えてもらってないけど、私を生かしてくれているこの心臓があんたのだって事も知ってる。
あんな都合の良いタイミングで提供者が現れるなんて変だもの。
「瑞穂…まだ泣いているか?どうせお前の事だ…いじけて泣いているんだろう?」
う、うるさい。こう見えてもか弱い乙女なんだ…そりゃ泣くよ…。
「そんなお前に最後にメッセージな」
『神様は平等ではない』
『世の中は不公平だ…』
『そんな泣き言を言ってる暇があるなら、精一杯生きてください…』
「瑞穂…ありがとう。人生を諦めて無気力な生き方をしないで済んだのはお前のおかげだ。遠く離れてるけど、俺はいつでも見守ってる…幸せになれよ」
そこでビデオカメラの映像は終わった。
私は声を我慢する事なく泣き続けた。
おじさん達は黙って私が泣き止むまで側にいてくれた。
「おじさん、彼が言っていた寂しくなったらおじさんに相談しろってどういう事ですか…?」
「ねえ…ママ?パパは…いつ起きるの?」
「パパ、寝坊助さんだから…。もう暫くここで寝てるって…」
「ふ〜ん。テレビとかあるからお家の方が楽しいのにね」
「本当よね…。さっ!!パパに挨拶したから帰りましょうか。また来るねって最後にもう一度言っておいてね」
「うんっ!!パパ…またね!!」
小さな手を握って帰路につく。
あなた…?私達をどうか見守っていてくださいね…。