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少女たちの旅立ちの庭

 一晩という時間は退屈であれば長く、楽しければ短く、悲しければもっと短い。


(……おじいさまは、ひどい)

 少しずつ広くなっていく屋敷の中を眺めながら、マリーは数千回も呟いたその言葉を心の中で繰り返した。

 マリーの部屋は一切片付けなどはしない。させない。マリーは大半のものをここに置いていくと決めたのだ。

 書き掛けの日記から、万年筆、インク壷、人形、ドレス、何もかも。食堂にかけられたマリーの絵も祖父の絵も、外してはならない。と、マリーはケイトにそう命じた。

 セージが逝くのならば……だからこそ、祖父とマリーの絵をここに残したかった。誰もいない屋敷で、死んでいくなどあまりにも哀れだ。

 その気持ちを汲んだのか、二人が絵に手をかけることはない。

 父とケイトは口も開く暇もないほどに一秒を忙しく過ごしている。家のことだけではない。近くの村の住人を避難させ、さらに屋敷の周りには厳重な壁を作り上げた。

 二人ともマリーに声を掛けてくることは滅多になく、マリーが近づくこともない。

 ただ、マリーをセージの側に近づけないように、監視の目ばかりが厳しい。



「物語を最初に編み出したのはマリア。あとを継いだのは私。そして次はセージだ。物語はずいぶんと先に進んだのだろう?……進んでないわ。おじいさま。終わらないのよ」

 マリーは眠れるはずがない。眠るわけにはいかない。

 庭から部屋に戻ったのは夜のはじめごろのこと。それからマリーはバルコニーに座って祖父の残した日記を読んだ。めくりすぎて、日記の中はボロボロになっている。それでも読み返す手を止められない。

「物語の続きを聞くことは、二度とできないのよ、おじいさま」

 呑気な祖父の文字をみて、マリーは呟く。

 祖父の日記によると、物語は最初マリアが作った。それを祖父が引きつぎ、セージに語って聞かせた。だから物語の続きはセージに聞きなさい。と、祖父は綴る。

(だからセージはあんなにも……ベスの物語を終わらせようとしたんだわ……)

 続きを聞けなくなってしまった壮大な物語を、マリーは幾度も思い巡らす。彼の声に耳を傾け、呑気に物語を聞いていた日々はどれほど幸せだったことだろう。


『二人が出会えば、きっと素晴らしい終わりがみえるはずだ。さあ勇敢なるおちびさん。次はおちびさんが彼を救う番だ』


「救えないわ。救えないのよ。なにもできないの……」


『私も手伝おう、だから一緒に、彼を救ってほしい。お前の母を救えなかった愚かな私はこれ以上、罪を重ねたくはない』


「なぜ、私にそんな無茶をいうの? それならもっと早くに……秘密を共有してほしかった」

 遅すぎたのだろうか。と、マリーは日記を抱きしめ膝に顔を埋もれさせる。

 しかし早くにこのことを知っていても、きっとマリーにはなにもできなかった。

(おじいさまは、私とセージが出会うことを分かっていたの……それとも)

 マリーの頭の中に懐かしい祖父の顔が浮かんでは消えて行く。もしマリーが庭へ行く勇気を持たなければ、セージに出会うこともなかった。

 そうなれば、遅かれ早かれ屋敷は突然の崩壊をしただろう、マリーとケイトを巻き込んで。

 祖父はマリーを危険に立たせるような真似だけはしないはずだ。この日記を隠していたのも彼なりのゲームのようなもの。

 セージが言うとおり、祖父は彼自身の死が一番の想定外のことだったのだろう。きっと祖父は時を見てマリーをけしかけ、あの庭を見つけさせるつもりだったのだ。

 そしてこの壮大な物語の謎解きをさせて、何かの解決を導くつもりだった。

 だからわざとらしく、こんな鞄をひっそり隠した。祖父が語る物語のように、一気にはすべてを見せない。それが祖父のやり口だった。

 祖父が生きている限り、セージは爆発などするはずがない。それを分かっていたからこそ、祖父は時間をかけた物語を編もうとした。

 しかし、その方法を明かすことなく、祖父は旅立った。

「マリー」

 俯くマリーの頭に、大きな掌がのせられた。

「ずっと放っておいて、そのくせ突然こんな目に遭わせて。どれだけひどい父親だろうと思うだろうね」

「……お父様」

 その手は、父だ。

 彼は朝から晩まで、馬車に荷を詰め込むことに予断がない。掌はすっかり汚れていた。

「ねえ、お父様……立派なお医者様なのでしょう? お父様……セージを……治して」

 うずくまったまま動かないマリーの頭を撫で、エドは目を伏せる。

 無理だ。と、その目は語っている。

「治してよ。セージのこと、治して……」

 もう涙はすっかり枯れ果てた。声もかすれ、体は引きずるほどに重い。そんなマリーの前に、エドは一冊の本を差し出す。

「ジョージが私に書いた日記だ。読みなさい」

 それはマリーの物よりも少し重い、祖父の日記。

 恐る恐る受け取り、中を開く。その中の文字は、ひどく乱れていた。怒っていた。悲しんでいる。マリーに当てられたものとは全く異なる。祖父の思いがぶつけられ、散らばっている。


 私が優しき大将? 馬鹿な! 私はただの嗜虐者だ。

 私はひどい実験を繰り返していた。ひいてはマリアの病気を解明できると思っていたのだ。

 私はなんてひどい男だろう。エドワード。君の知っている私はもう、いないのだ。

 

 乱れる文字はしかし、そのうちに鎮まっていく。マリーはその文字をなぞるように読む。

「……セージの優しさに気付いた私は……」

「どうしても彼を生かしたくなった。彼と向かい合い、彼を生かすために」

「私は、危険を承知で」

「彼を屋敷に連れて帰った。これはある意味、賭けだ。後少しで、全てがうまくいく……完成する。きっと、彼がマリーの優しさに触れることができれば」

「後少し、後少しで……」

 マリーは口を閉じた。文字はそこで終わっている。これは祖父の心の吐露だ。娘婿にだけ、彼は弱さを漏らしたのだ。

 彼はここまで書き上げて、あの庭に全てを埋めた。

「おいで、一緒にいこう。見せたいものがある」

 日記を眺めつつづけるマリーの手を、父が引く。

 亡霊のように父の引かれるマリーの体は、玄関をくぐり楡の木立を横切り、裏庭にでる。そこはすっかり闇に覆われているので、父は手にしたランタンをそっと持ち上げた。

 光がさっと広がり、淡い光が濡れた大地を照らし出す。

「ここだ」

 それは、裏庭の中でももっとも暗い一角である。裏は崖のようになり、木立のせいで光もささない。けして立ち入ってはならないと、ケイトから口を酸っぱくいわれていた場所のひとつ。

 たしかにバルコニーから見渡せば、この一角だけ妙に闇が深く、恐ろしい場所だった。しかし父は、その場所に堂々と足を踏み入れる。

「お父様……? ここは……」

 マリーは震えながらその後を付いていく。地下の庭よりも、地上の庭は寒々としている。もう春だというのに、空気は冷たい。この場所は、音もなくあまりにも……静かで冷たすぎる。

「見てごらん」

 エドは、ゆっくりとマリーの手を離し、その背を押す。

「歩いて行くんだ。ゆっくりと」

 光がかざされたそこに……。

「……マリアの、墓だよ」

 小さな十字架の、本当に小さな……墓がある。

 草と木の間。闇の深い場所。そこにそっと置かれた、小さな石碑といまだに美しく光る小さな十字架。

 土の上には、まだみずみずしい花が一輪。その花の前の土は、人の膝の形にえぐれている。

「ケイトだ。毎日、彼女はここに花を添えてくれる。雪の日も雨の日も嵐の日も、関係ない。毎日だ。もう10年、毎日彼女は」

 父はへこんだくぼみに膝を落とし祈る。マリーはまるで力を失ったように崩れおち、手を組む。祈りの言葉など、何一つ浮かんでこない。ただ、目前にあるその小さすぎる墓を、見つめることしかできない。

「お母様の……?」

 そしてマリーは思い出すのだ。かつて叔父がマリーに教えたことを。

 マリアは……太陽の当たるところで眠ることさえ許されなかった!

「お母様が、ここに?」

「流行病で死んだ人間の扱いは、非情だ。本来ならここで眠ることさえ許されなかった。町の端にある、ゴミ捨て場のような場所に埋められるのが通常だ。しかし、メイドも料理人も皆、ジョージが解雇して、秘密の墓を作ったのだ。誰にも知られないように……この墓を知っているのは、私たち、家族だけ」

「私は……知らなかった」

「そうだ。私たちはあまりにも過保護だった」

 父は土で汚れるのもかまわず地面に座り込み、マリーを抱きしめる。大きな手が震えている。

「私とマリアはここで出会った。もう15年以上も前、狩猟に出た私は間違えて、この屋敷に入ってしまったんだ。ここの庭はまるで森のようだろう。まだ若い私は、子鹿がいると噂に聞いて、迷い込みそして、間違えてマリアを撃ちかけた」

 かつて叔父が語ったように、父は語る。

 きっと晴れ上がった美しい冬の日だったのだろう。父は猟銃をもって庭に迷い込んだ。母は子鹿のように、庭を駆け回っていた。おそらくケイトのお節介から逃げながら。 

 素早い母を、子鹿と間違うのは仕方のない話。銃を放った後、聞こえた悲鳴に、エドはどれほど驚いたことだろう。

「地面に転がったマリアは、まるで生きた人間にはみえなかった。妖精のようだった。私は妖精を撃ってしまった、とひどく恐れた。弾は運良くはずれていたが、彼女は転び足を怪我していた。彼女に私が近づくと」

 父は含み笑いをする。

「マリアは私を殴ったんだよ」

「お母様が!?」

「女性に殴られたのは生まれて初めてだ。そして彼女は殴った拳を痛そうに振って、これでおあいこ。と、そういった。その瞬間に、たぶん私は彼女に恋をしていた」

 父が語るごとに夜が深まり、闇が濃くなっていく。しかしエドはけしてマリーを離さない。

 どこかで虫が鳴いている。夜には鳴かないはずの鳥の羽音も聞こえる。

 こんな孤独な場所で、母は眠っているのだ。

「だからこそ、病に冒されたマリアを救おうとした、私だけじゃない。皆でね。小康状態を保って、もう何年も生きてきた……でも、彼女は最期のわがままをいった」

「……」

 自分のことだ。と、マリーはうつむく。母は、きっと18歳をすぎて生きることができないと本能で悟ったのだろう。だから最期に、愛する人の子供を産みたいと、願った。それを口に出して言った。反対をされることをわかっていながら、でもけして譲らなかった。

 父は、どれだけ苦悶したことか。そしてそれを貫き通した母はどれだけ勇敢な少女だったのだろう。

「ひどい父だろう。でも私は、お前を恨んだことはない。マリー、生まれてきてくれて、ありがとう」

「私も……そう思います。お嬢様」

 闇の中から声が聞こえる。顔を上げると、そこには、黒いドレスをまとったケイトがたっていた。手には、あふれんばかりの花、花、花だ。

「お花を置けるのも、あと少しですから」

 ケイトは、皺を気にすることなく地面にひざを突いて花を置く。闇の中に白や赤の花が華やかに散った。

「ケイト……」

「私は、お嬢様にひどいことを」

 あれほど巨大だったケイトが、今は小さくなって震えている。マリーは父の手から離れ、ケイトの肩を抱きしめる。

 父が二人の肩を交互になでた。

「マリアが病になったのは自分のせいだと、ケイトはいまだに気に病んでいる」

「マリアと私は一緒に育ち、何もかも一緒でした。それなのにマリアだけが病にかかった。だから私は」

 だから、ケイトは必要以上にマリーに厳しかったのだ。10歳を超えるまでマリーは周囲の親戚や人々から「流行病を持つ娘」と忌まれて過ごす羽目になる。

 だから屋敷から出さなかった。淑女であれと言い続けたのは、周囲の人がケイトをそう罵ったのだろう。あれほどのお転婆だったから、マリアは病にかかったのだ……側で仕えるメイドが、マリアを殺したようなものだ……。

「だから、風邪を引けばあんなに心配してくれたのねケイト」

「お嬢様、どうぞ。大旦那様が私にあてた手紙を。お嬢様もみる権利があります」

「……手紙?」

 震えるケイトがそっと差し出したのは、一冊の本。それは、祖父の残した4冊のうち、一冊である。


『キャサリン』

『よくあの子をここまで立派にしてくれた。あとはどうか、君の心のままに』


「キャサリン……?」

「私の本名は、キャサリンです。愛称のケイトと……マリアが」

 本をもつ手が、震える。マリーの中に、キャスとかかれた文字が、様々に浮かんで音を立てて消える。

 思わず、マリーはほほえんでいた。

 秘密の答えはこんなに身近なところに、あったのだ。

「キャス。花を、愛を、君に」

 石碑にかかれた文字を、マリーは思い出す。ケイトの目が驚きに見開かれ、そしてそのヤグルマギク色の目から、涙が一滴流れ落ちる。

 闇の中でも、彼女の目は印象的なほどに美しい。

「まさか、お嬢様があの庭に行かれるなんて」

 ケイトは、屋敷を見つめる。父も、マリーも同時にそちらを見た。今はうっすらと明かりがともるその場所は、明日以降、闇に包まれるのだ。そして、いつの日か、崩れ落ちるのだ。秘密の庭とともに。

「マリアはあの庭を……井戸の底の道から、見つけたのです。あなたの叔父上と一緒に、梯子を付けて、何度も通って庭を整え、あずまやをつくり」

「お母様と、ケイトが……?」

「おそらくずいぶん昔からあそこにあったのでしょう。ただしマリアが見つけた時、階段脇の扉はまだ埋もれたまま。あそこを直し、通路にしたのは大旦那様が戻られてからのこと。私たちの時代は、井戸だけが唯一の道でした。壊れた窓を直し、書斎を造り、土を重ね、そしてたくさんのハーブを植えた。それから、あの庭は完全に子供たちだけのものでした。そして途中からは旦那様……エド様も一緒に」

 ケイトはふと、顔を上げてエドを見上げる。二人は子供のような顔で含み笑いをした。

 父は墓に軽く会釈をし、マリーとケイトの肩を叩く。

 そしてひらりと、手を振って背を向ける。父は父だからこそ、墓の前で祈ることはできても涙はこぼせないのだ。こぼしかけた涙は飲み込んで、背を向けるしかない。

 今更、マリーは父の寂しさと悲しさを知った。

 屋敷に父が戻ってこなかったのは、叔父の言うとおり、悲しさのせいだ。そしてあえて数日早くバースデイプレゼントを送ってくるのは、マリーのバースデイがマリアの命日だからだ。

 ケイトは去って行く父の背に頭を下げ、マリーの手を握る。

「私たちが庭を作りました。懐かしい……少女時代の話です」

「ケイトも……あの庭へ、通ったの?」

 マリーは想像する。しかし想像もできない。このケイトが、あの庭で土まみれになっていたなんて。

「最初は、怖かった……私には勇気がなかった。年頃の娘より大きな体で、もしあの道に詰まってしまったらどうしようと思えば降りることもできず。マリアに励まされて、ようやく、通れるようになったのはマリアが庭を知って半年もあとのことでした。あの道を、お嬢様は、すぐに通られたのですね」

「勇気さえあれば、いけるのよ。ケイト……キャス」

「まさか」

 その言葉に、ケイトは口を押さえる。

 掌に、彼女の涙が散る。

「お嬢様が……同じことをおっしゃるなんて」

(ケイトの黒いドレスは)

 闇の中でうずくまるケイトのドレスは黒い。マリーの記憶にあるかぎり、ケイトのドレスは、いつも黒い。 

(……喪服だったのね)

 彼女はまだ、マリアの死を引きずっている。

「……キャス」

 だからマリーは彼女の手を強く握りしめた。マリーは母を知らない。しかしここ数ヶ月耳にする母の痕跡によって、ぼんやりとその過去が見えてきた。

 母は誰よりも勇敢で、強かったのだ。

「一つお願いがあるの。いいえ、これはお願いじゃないわ」

 もしここに母がいれば、きっとマリーの背を押しただろう。

 ケイトの背の向こう、白い十字架を見つめてマリーは頷く。

 母なら……母がマリーの想像通りの人であれば、きっとマリーに言うはずだ。

 後悔のないように、と。

「あなたは私に秘密を持ち続けた。だから、そのお詫びをしてほしいわ」

「お詫び……?」

「明日の朝、一回だけ庭に行く。秘密の道からね。だからお父様には言わないで」

「しかし」

「爆発は、まだしない。でしょ?」

 力強くそういえば、ケイトは少しだけ笑う。

「お嬢様は、本当にマリアにそっくりです」

「ねえケイト。たぶん私はあなたや父のことをもっと、信頼すべきだった。そしてあなたたちは、私がもっとずっと早く賢くなっていることを、知るべきだった」

「ええ、ほんとうに」

「少し、ボタンが掛け違ったのね」

 マリーは膝の土を払って立ち上がる。春に近くても、風はまだ冷たい。触れる風の冷たさを、胸にいっぱい吸い込む。

 薄闇に包まれたこの場所は、ほかの場所より少しだけ、空気が冷たかった。



 翌朝。まだ日が昇るより少し早く。

 マリーは一人で井戸の前に立っていた。


「……ここに、キャスへの伝言があるわ……」

 手には蝋燭を。足は梯子に。ゆっくりと井戸の道を降りながら、マリーは入り口を照らしだす。ちょうど梯子の端に、今にも潰れそうな文字が見えた。

 これは満月の夜に見つけた文字だ。

「キャス。あなたの勇気は素晴らしい」

 文字は、そう削ってある。

 稚拙だが、暖かな文字だった。マリーは闇の中を進みながら、壁を照らす。

 壁には、まるで落書きのように、文字があちらこちらに刻んであるのだ。

 どれも同じ人物による彫り文字。マリーはその凹みに触れて、ほほえむ。

 ……先に行く彼女はどんな気持ちでこれを彫ったのだろう。

 そして、後を追う彼女はどんな気持ちでこれを見たのだろう。

「キャス。もうすこしよ」

 あと数歩で庭に繋がる梯子がある。

「大丈夫、怖くない」

 その数歩手前に一文字。

「さあ、手をかけて」

 梯子の一段目。

「ゆっくり足をあげて」

 梯子の二段目。

「扉を押し開ければ」

 そして庭に繋がる、最後の一段。

「……キャス。ほら。私たちが迎えにきてる」

 庭に繋がるその場所にかかれたその一文は、はじけるように大きな文字でかかれている。

 その気持ちのいい文字をじっくりと眺めたあと、マリーは胸一杯に庭の空気を吸い込む。

 そして、マリーは声をあげる。

 いつもと同じ、それは始まりの一言。

「……セージ」

 声は、庭の空気に柔らかく広がった。

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