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ゴノニ探偵団の事件簿  作者: おだアール
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第五話 透明人間

   ゴノニ探偵団の事件簿



   五 透明人間


 ぼくらゴノニ探偵団の活躍ぶりは、今や町中に広まっている。町では、「桜木小学校にはとびきり有能な探偵がいるらしい」ってうわさになっているらしい。うれしくなってくるじゃないか。つい、「それ、ぼくのことなんです」って言いたくなってくるんだよな。でもぼくはそういった衝動をぐっと抑える。だって、探偵というのはあくまでも影の存在であるべきだからなのだ。

 どうしてゴノニ探偵団がそんなに有名になったんだって? おいおい、いままで四つの難事件をすべて解決してきたぼくらの実績を見れば、そんな疑問などわかないだろ。ぼくら、事件の解決率百パーセントなんだよ。もはやぼくらに解決できない事件はない、とまで言い切っても言い過ぎではないのだ。

 このように名声を得たぼくらゴノニ探偵団は、ようやく――、と言うかついに、学校の外つまり一般市民から、事件解決の依頼を受けるまでになったのである。しかも依頼があったのは犯罪中の犯罪。なんと、コンビニでの売上金盗難事件なのだ。もちろんぼくらは、依頼を断るようなことはしない。どんなに難解な事件であったとしても、果敢にチャレンジしていくのだ。

 そう、例に漏れずこの事件も、それはそれは、不可解な様相を呈していくのである。


 今日は、五年生、六年生の授業参観日。大勢の保護者が学校を訪れている。先生なんか朝から気持ち悪いぐらい優しいし、ぼくらに授業の進め方をいちいち説明してくれるし、なによりもふだんと服装が全然違うんだよ。スカートをはいて、ネックレスやイヤリングまでつけてんだから。

「描けましたか、みなさん。では、このグラフからどういうことが言えるでしょう。はい、わかる人」

 先生は、大都会に近いある都市と山間部のある村の年齢別人口グラフを、みんなに描かせて、児童の考えを求めた。実はこれに近い内容は、先週の社会のときにもやっていて、みんなだいたい答えはわかっているのだ。先生にうながされてクラスのほとんどの児童が手をあげた。

「はい、辻村さん」

 先生はマナミちゃんを当てた。

「この都市は、十歳以下の人口が多いですから、この人たちが大きくなる将来も人口が減る心配はないと思います。でもこっちの村は、今もほとんどが六十歳以上の人たちですので、将来はますます人口が減ってしまう心配があります」

 マナミちゃんは、こう発表して座った。

 タツヤは、とろーんとした目でマナミちゃんを見ている。おい、口が開いてるぞ。

「はい、そのとおりですね。では、この問題についてどうしたらいいのか、みんなで考えてみましょう」

 先生が言った。ぼくが後ろを振り向くと、保護者の人たちもうんうんとうなずいている。おかあさんはぼくと目があって、胸もとで軽く手を振った。

 授業参観のことはこれくらいにして本題に移ろう。事件のことだ。まずは、探偵団にどのようにして依頼があったのか、みなさんに説明しなければならない。


「あのーっ、五年二組はここでしょうか」

 参観の授業が終わると、どこかのおじさんが教室を訪ねてきた。だれかが「はい、そうですけど」と言った。

「ゴノニ探偵団のみなさんに会いたいのですが……」

 おじさんはこう言って、教室の中を見渡した。

「おい、ケン。ゴノニ探偵団にだってさ」

「はい、ゴノニ探偵団の江守といいますが……」

 ぼくが立ち上がって言うと、おじさんは教室の中に入ってきて、ぼくの前のいすに腰かけた。チワワとレイコもやってきた。ほかの児童も興味深そうにまわりをとり囲んでいる。

「わたし、北岡敬二郎というのですが、この近所でコンビニを経営している者です。六年一組の北岡敬介の父親で、今日授業参観に来たんです」

「はい、それで?」

「実はですね。コンビニでちょっとしたことがありまして……」

 ぼくらのまわりは、それこそ黒山の人だかりになっている。だれかが鉛筆でメモを取っている音がする。おじさんは取り囲んでいる児童たちを見回して、ぼくに言った。

「あの――。今ちょっとここではお話ししにくいので、あとでコンビニに来ていただけないでしょうか。お願いしたいことがありますので……」

 おじさんはそう言って、取り囲んでいる児童たちをかき分けて出て行った。おじさんが出て行くと、ぼくのまわりが急にわきたった。

「こりゃ、たぶん何かの事件だよ」

「学校の外から依頼がくるなんて、はじめてじゃないかよ」

「おじさん、深刻な顔してたわ。大事件なのよ、たぶん」

「ケン、放課後、もちろんコンビニに行くよな」

 ぼくは、レイコとチワワを交互に見た。二人ともうなずいた。もちろんだよな。大事件の予感がする。ぼくの胸はどくどくと高鳴っていた。


 放課後、ぼくらゴノニ探偵団は、おじさんが経営しているというコンビニをたずねていった。コンビニに入るとすぐ、六年生の北岡敬介先輩が待ってくれていた。

「よっ、探偵団。よく来てくれたね。ちょっと奥の方に来てよ」

 ぼくらは先輩に案内されて奥の部屋に入った。そこには、昼間教室をたずねてきたおじさんが待ってくれていた。

「実はね。事件というのはね――。おとついのことなんだけど、レジの中のお札だけがいつの間にか全部なくなっているのがわかったんですよ」

「ふむふむ。おとついの何時ごろのことなんですか?」

「それが……、はっきりわからないんです。このコンビニね。見てくれればわかるんだけど、とっても小さい店でしょ。そうなんで、わたしと嫁さんの二人だけで、店番してるんですよね」

「バイトの人とか雇っていないんですね」

「そうなんです。それで、おとついの昼間はわたしが店番をしてたんですけどね。そのときはレジの中のお金に異常はなかったんですよ。で、夕方になって、店番を嫁さんに変わってからレジの中を確かめたら、お金がごっそりなくなっていたってことなんです」

 おじさんが説明してくれているとき、奥さんらしい女の人がお盆を持って部屋に入ってきた。女の人は、「ごめんなさいね、面倒くさいことお願いしちゃって。この人が頼りないもんだから」と言いながら、ぼくらの前に紅茶とケーキを出してくれた。ケーキを配り終えると、おじさんのとなりに座って「どうぞ、食べて」と言った。チワワは、「いただきます」と言って、さっそくケーキをぱくついた。

 おじさんは続けた。

「こちらがわたしの嫁さん、つまり敬介のおかあさんです。それで、さっきの続きだけど、いつレジのお金がなくなったのか、さっぱりわからないんですよ」

「被害額はいくらですか」

「たぶん、七、八万円ぐらいだと思うんだけど……」

「うわーっ、七、八万円だって。大金だ」

 チワワがケーキを食べていた手を止めて言った。

「警察には、届けたんですか」

「いや、届けていないんです。警察に届けると?泥棒の入った店?っていうことで、評判が悪くなるかも知れないでしょ。それになによりも、ゴノニ探偵団の方が頼りになると思いましてね」

 ぼくは、警察より頼りになると言われて、ちょっと胸を張った。

「今、店番は?」

「息子の敬介がやってます。六年生にもなるとしっかりしてるね」

「これから捜査を開始するんですが、まず、店の中をいろいろ調べていいですか」

「どうぞ、どうぞ。わたしが案内しますよ」

 ぼくらは、店の中を調査した。このコンビニは、出入り口を入ると、左にカウンター、右に商品棚がある。棚は真ん中に一列分あるだけで、商品はその棚の両側と奥の壁に並べられていた。商品棚を奥に進むと飲み物の冷蔵庫が並んでいる。カウンターの中はタバコの棚とレジが一台あるだけだ。うーん、確かに小さいコンビニだ。

 ぼくらは、なにか手がかりになるものはないかと、店の中とカウンターを調査して回った。問題のレジは鍵はかかるらしいけど、ふだんは、いちいち鍵をあけるのが面倒ということでかけてないらしい。お金の引き出しはふだん閉めてるけど?両替?ボタンさえ押せばいつでも飛び出してくるらしい。つまりいつでも、だれかがボタンさえ押せば、お金を持ち出せる状況にあるのだ。

「ふーん、特に怪しいものは見あたらないなあ……」

 ひととおり調べたぼくは、こうつぶやいたんだけど、レイコはまだていねいに調べて回っている。レイコが天井を見ておじさんに聞いた。

「あれって、監視カメラですよね」

「あっ、そうだ。あのカメラの説明するの、忘れてましたよ。あのカメラで、出入り口とカウンターの映像を撮って記録しとくんです。おとついの映像は残してるんだけどね、これがまた奇妙なんです――」

「どう奇妙なんです?」

「奥の装置で見てください。そこで説明しますよ」

「監視カメラは、あの一台だけなんですか」

「そうです。店が小さいですからね」


 ぼくらは監視カメラの映像を見せてもらうことにした。おじさんは装置を操作してぼくらに言った。

「これが、おとついの映像なんです。開店から閉店まですべて記録しています」

 監視カメラには、出入り口全部とカウンターの一部が映っている。出入りした人はすべて記録されているので、犯人は必ずこの中にいるはずだ。

「開店してる時間は何時から何時までなんですか」

「朝の七時から夜九時まで、十四時間ですね。二人だけで店番してますからね。ほかのコンビニのように二十四時間営業ってのはできないんですよ」

「この装置に全部記録されるんですか」

「ずっと残しておくと映像がたまる一方ですから、一週間ぐらいで消すようにしています。便利な機械ですよ。好きな時間の映像をパッと出せますしね。早送りや巻き戻しも簡単ですし、編集もできるんですよ」

「先ほどおっしゃった、奇妙なことってなんですか」

「それがね――。実は、入ってきた人の人数と出て行った人の人数があわないんですよ」

「えっ、どういうことですか」

「わたし数えたんです。おとつい、店に入ってきた人は二百八十三人いたんですけど――、出て行った人は二百八十二人しかいないんです――。つまりひとり足らないんですよ」

「えっ? おじさんの数え間違いじゃないんですか」

「いや、それはないよ。二回も確かめたんですから」

「ふーむ、確かに奇妙ですね……。ぼくらが確かめてもいいですか」

「いいですよ。でも、全部見ようとすると十四時間もかかるんです。だから早送りして、人のいるところだけ確かめていくのがいいんですけど……、それでも二時間ぐらいかかるでしょうね。みなさんの親御さんが心配するかも知れないので、明日にしたらどうでしょう」

 ぼくは店の時計を見た。すでに六時を回っている。ぼくらは、おじさんに明日もう一度くることを約束してコンビニを出たのだ。そうそうもちろん、おばさんにケーキのお礼は言ったよ。


 さてみなさん、この事件だけど、どうも一筋縄ではいかない、なんか不気味な予感がしてこないかい。なんせ?人が消えた?っていうんだから。つまり、自由に姿を消せる?透明人間?がいたってことだよね。コンビニに入ってきた犯人が、店内で姿を消してレジをあけ、お金を取り出して透明のまま店を出たってのが、今の段階で考えられる唯一の流れってこと。

 ゴノニ探偵団は、今、まさに今、究極の難事件に出くわしたと言えるだろう。名づけて「透明人間事件」。ぼくらの挑戦は始まったのだ。


 翌日、さっそくぼくらは学校できのうの現場検証の結果を確認しあった。

「人が消えたって、わたし信じられないわ。そんなことあるわけないじゃない」

「だよな。ぼくもそう思うけど……。でも、現実に、ひとり足らないってんだから、その事実は認めなきゃ」

 捜査の大原則は、まず事実は事実として認めることなのだ。

「おいら、思うんだけど――」

「なんなの?」

「おじさん、よく人数、数えたよな。だって早送りでも二時間かかるんだろ」

「そうよね。それも二回も確かめたって言ってたものね」

「今日の放課後、ぼくらも確かめようとしているんだけど、大変なことだよな。ぼくがもし、ビデオで犯人さがしするとすれば、怪しそうな人がレジに行っていないか、それだけしか調べないね」

「そうよね。わたしもそうだわ。おじさん、よっぽど根気のある人なのよ」

「もうひとつ、ぼくが腑に落ちないことがあるんだ」

「なに?」

「レジのお金が盗まれたら、やっぱりまず警察に届けないかい」

「うーん、言われてみればそうね。きのうは、警察よりゴノニ探偵団の方が頼りになるって言われて喜んだけど――、本当はやっぱり警察に届けるべきなのよね」

「だよな。確かに変だよな」

「おじさん、私たちに、まだなにか、かくしていないかしら」

「おっ、レイコの第六感が出たね。おいらも同感だね。ねっ、思うんだけど、一度、北岡敬介先輩にも事情を聞いたらどうだろ」

「そりゃいいかも」

 いつもながら、ゴノニ探偵団の議論は冴えてるだろ。きのうのわずか一日の現場検証で、これだけふくらんだ話ができるんだから。事件というものは、こういった議論を繰り返していくうちに解決していくものなのだ。さあ、ぼくらの次のステップがやってきた。

 北岡敬介先輩への事情聴取、ぼくらは、これがポイントになると読んだね。


「よっ、きのうはお疲れさん」

「先輩も、ありがとうございました。今日もおじゃましますがよろしくお願いします」

「おおっ、いいよ。親父の助けになってくれるんだから」

「おじさんは、どんなおとうさんなんですか?」

「親父ねえ――。ひと言で言うと、おふくろの尻に敷かれてるかな」

「おいらんちと同じだ」

「ほら、うちコンビニだから、毎日売り上げの計算とか仕入れの支払いとかやんなきゃなんないだろ。そういうの全部おふくろがやってんだよ。親父にはまかせらんないって」

「なるほど、おじさんはあまり計算に強くないんですね」

「なので、お金は全部おふくろが管理して、親父は毎月おふくろからこづかいもらってんの。ぼくと同じようにね。こづかいは、大人にすればずいぶん少ないみたい。親父いつも、足らない足らないって言ってるよ。親父もたまには友だちとお酒飲みに行ったりするじゃない。そのお金もないってぼやいてたよ」

「おじさん、かわいそう。でもわたしは、おかあさんの気持ちもわかるわ」

「レイコも、おいららを牛耳っているもんね」

「それは、チワワくんがたよんないからでしょ。それに『おいらら』って変よって前から言ってるでしょ」

 先輩が割って入った。

「お前たちのケンカは、お前たちだけでやってくれよ。もう授業が始まるぞ。さっ、早く教室に戻りな」


 北岡先輩への事情聴取は、成果があったような、なかったような――。でも、ほら、なんとなくストーリーが見えてこないかい。ぼくらゴノニ探偵団は、早くも核心をとらえているように思わないかい――。とは言っても、まずは透明人間の問題を解決しなきゃならない。今日の放課後、ビデオをじっくり見せてもらってからってことで。その後の展開は……。まあ、お楽しみにってことだね。


「やあ、よく来てくれたね。待ってましたよ」

 ぼくらがコンビニに行くと、おじさんはこう言って出迎えてくれた。

「こっちにビデオの準備できてるから。悪いんだけど、おじさんは店番しなきゃいけないんだ。操作方法を教えるので、君たちだけで確認してくれるかな」

 おじさんはぼくらに、装置の操作方法を教えてくれた。ぼくとチワワは真剣に聞いていた。機械オンチのレイコも一応聞いているようだがなんか退屈そうだ。ひととおり操作方法を教えてもらって、ぼくらは例のビデオを再生した。

 ビデオは七時ジャストから記録されている。出入り口からは朝日が差し込んでいた。カウンターの中でおじさんが座って新聞を読んでいる。お客さんはまだだれもいないようだ。七時五分ごろ、はじめてのお客さんが入ってきた。レイコがノートに横線を一本引いた。お客さんは商品棚を一周まわってからカウンターに来た。おじさんは商品にバーコードリーダーを当てて、お客さんになにか言葉をかけた。たぶん金額を言ったのだろう。お客さんはお札を出してカウンターにおいた。おじさんはお札を受け取り、レジを操作してから、お客さんになにやら手渡した。おそらくおつりの小銭とレシートだろう。お客さんはおつりを受け取りレシートはレシート入れに放り込んで出入り口から出て行った。チワワが自分のノートに横線を一本引いた。この監視カメラでは、レジのお札の引き出しまでは見えない。なので、もしも、本当にもしもだよ。透明人間がいて、勝手にレジを開けていたとしても、このビデオでは確認できないことになる。

 このペースでビデオを見続けると十四時間もかかる。ぼくらは、早送りと再生を繰り返して、人が出入り口を通過したときの人数を数えた。レイコは入ってきた人の人数、チワワは出て行った人の人数を?正?の字を書いて数えていったのだ。もちろん、出入り口のほかにレジ付近で不審な動きがないかも確認しながらである。

 確かに大変な作業だった。二時間以上かけてぼくらの作業は終わった。ビデオは二十一時ちょうど、つまり午後九時ちょうどに終わっていた。すべての確認作業が終わると、チワワは「はぁーっ」と大きなため息をついた。レイコは背もたれにどっともたれかかった。ぼくもどっと疲れて机にくっぷした。

 で、結果はというと――、入ってきた人二百八十三人、出て行った人二百八十二人。おじさんが言っていたとおりの人数だった。出て行った人がひとり足らないという結果である。やはり透明人間がいるのか……。ぼくらは謎が解けないまま、コンビニを出た。すでに午後七時になろうとしていた。ぼくは帰ってから、おかあさんにこっぴどく叱られることになったのだった。


 翌日の探偵団会議は、重苦しい雰囲気で始まった。ぼくもそうだと思うが、チワワもレイコも沈痛な面持ちをしている。

「いったい、どういうことだろう」

「まさか、透明人間ってホントにいないよな。おいらこわくなってきたよ」

「いるわけないじゃない。そんなお化け」

「透明人間はお化けじゃないよ」

「じゃ、チワワくんはなんだと思うのよ。妖怪だっていうの」

「お化けでも妖怪でもないよ。人間じゃないか。おいららと同じ人間だよ」

「そんな人間いないわ。バカらしい」

「まあまあ、透明人間がいるかどうか議論するよりも、なにか仕掛けがあると見る方が合理的じゃないか」

「仕掛けって?」

「それはぼくにもわからないけど……。ただ、きのう、おじさんに装置の操作を教えてもらってるとき、ぼく、ちょっと気がついたんだ」

「何に?」

「ビデオの?プロパティ?のことさ」

「プロ……。なに、ケンちゃん、また難しい言葉知ってるのね」

「おいらも知ってるよ。ファイルの基本的な情報のことだよね」

「えっ、チワワくんも知ってるの? 知らないの、わたしだけかしら」

「パソコンやってればわかるよ。でね。あの装置は、監視カメラの映像はハードディスクに記録していくんだよ」

「おいらもそれは知ってた。それで?」

「おじさんが説明してくれているとき、ビデオのファイルが七、八個あっただろ」

「おじさん一週間ぐらい残しとくって言ってたよな。だから七、八個でいいんじゃないの」

「それはいいんだけど、ビデオファイルのプロパティが変だと思ったんだよ。つまりね、きのうとか一週間前とか、事件と関係がない日のビデオファイルのプロパティではね、長さが十四時間〇〇分〇〇秒と、ぴったし十四時間だったんだ」

「ふむふむ、七時ジャストから二十一時ジャストまでだからね」

「ところがね。事件があった日のビデオのプロパティを見ると、長さが十三時間五十九分四十五秒だったんだよ。つまり、十五秒短かかったんだよ」

「それはおかしいわ。ビデオでは、七時ちょうどから二十一時ちょうどまでちゃんと記録されてたわよ」

「だろ、おかしいだろ。ってことは、どこか途中で十五秒分、間引かれていたってことさ」

「そういや、装置では編集もできるって言ってたよな」

「そうなんだ。おそらく間引かれた十五秒の中に、出て行った人が映っている映像があったんだろね。もしそうだとすると、出て行った人も二百八十三人。ちゃんとつじつまがあう。透明人間なんかいないってことになるんだよ」

「ビデオの細工はおじさんがやったのかな」

「たぶんね」

「でも、動機がわからないわ。どうしてそんなことしなきゃいけないのよ」

「だね。それはぼくにもわからない。ただ、今回の事件に、おじさんが関与していることは、ほぼ間違いないと思う。というか、おじさんが犯人である疑いが濃厚だよ。だって、事件に無関係なら、ビデオを細工する必要なんかないんだから」

「なるほどね。だんだん真相が見えてきたわね」

「けど、問題は証拠だね。ビデオは、編集されたっていうだけで、盗難事件の直接の証拠にはなってないだろ。なにか決定的な証拠を見つけるか、それとも、おじさんに自供させるかしないと」

 どうだい、みなさん見てくれたかな。ぼくらの会議の結論を。もともと重くるしい雰囲気で始まった会議だったけど、いつの間にか見事に解決してるでしょ。これがゴノニ探偵団の実力だってことだね。

 さて、事件はこれから解決に向かっていくのである。舞台はすべて整った。あとは、ぼくらゴノニ探偵団が得意とするところだ。

 決行は――、今日の放課後だ。


 放課後、ぼくらがコンビニに行くと、おじさんが出迎えてくれた。

「やあ、捜査状況はどうかね。ゴノニ探偵団しょくん」

「ええ、ほぼ解決したと思います」

「えっ! そうなのか。それで、犯人は?」

「犯人はですね。ぼくらの結論では、やはり……」

「やはり?」

「やはり、透明人間だという結論に達しました」

「えっ? そうなのかい。でも本当に透明人間だとすると、捕まえられないじゃないか」

「それが、ぼくらゴノニ探偵団は捕まえたんですよ。今、ここに連れてきています」

「えっ! どこに?」

「そこです。おじさんの横、そのレジの前に立っています」

 おじさんはあわてた様子で、後ずさりした。

「さあ、透明人間くん。犯行当日やったように、レジの引き出しを開けてお札を取ってみたまえ」

 ぼくが大きな声で言うと、レジのボタンが自然に押され、ガチャンという音とともにお札の引き出しが飛び出した。そしてそのあと、引き出しの中の一万円札がふわりと飛び出したのである。一万円札はカウンターを飛び越え、商品棚の奥の方に跳んでいった。

 おじさんは目をむいている。たぶんあり得ないことがおこったのでびっくりしているのだろう。ぼくは続けていった。

「透明人間は、事件当日、こうやって一万円札を八枚、つまり八万円盗んだのです」

 おじさんは、言った。

「そっ、そんな、バカな……。盗まれたのは、四万七千円だよ。その日はそんなに入ってなかったんだよ」

「あれっ、おじさん、どうして盗まれた金額をそんなに正確に知ってるんですか? 前は七、八万円と言ってたじゃないですか」

「きみたちが帰ったあと、数えたからだよ」

「えっ、だれが数えたんですか?」

「わたしだ。わたしに決まってるだろ」

 しばらく沈黙があった。ぼくらは、みんなおじさんの方を見ていた。

 おじさんは、自分の言ったことに気づいたらしい。「えっ? えっ?」と言いながらまわりを見渡した。

「あんただったのね。どうしてそんなことしたのよ」

 突然、おばさんの大きな声が響いた。おばさんはいつの間にか奥の部屋から出てきていたのだ。おばさんはおじさんの手を引っ張って奥の部屋に連れて行った。奥の方からおじさんの「ごめんよ。ごめんよ」という声が聞こえてきた。


 言わずもがなではあるが、おじさんはおばさんの前ですべて白状することになった。

 おじさんは、外部から盗まれたように装ってレジからお金を盗ってこづかいの足しにしようとしたのだった。自分が盗んだのだから警察に通報できなかったのは当然である。ゴノニ探偵団に捜査を依頼したのは、小学生のことだからいずれは迷宮入りになるだろうとの考えがあったためらしい。ビデオを間引いたのは、ぼくらをまどわすためとのことだった。

 えっ? どうして、レジの引き出しが勝手に開いて、一万円札が飛んでいったのかって? そんなのエスパータツヤのマジックの力があれば、たやすいことさ。北岡敬介先輩に協力してもらって事前にちょっとした細工をレジにほどこしておいたけどね。

 えっ? 犯人がかわいそうだって? そうだよなあ。ぼくも本当はそう思うよ。でもね、これが世の中の仕組みなんだよ。男の悲哀を感じる事件ではあったけど、男というのはたえ忍ばなきゃ。なっ、チワワ、そうだよな。

 なにはともあれ、これにて透明人間事件は、一件落着したのである。


 今回の事件を解決したことで、ゴノニ探偵団の評判がますます広がっていったことは言うまでもない。

 そして今日も、だれかから事件の情報が寄せられたのだ。


「おい、ケン。今度は、人間が増える事件があったんだって」

 よし来た。ゴノニ探偵団の出番だ。チワワ、レイコ。さあ事件だ。捜査にいくぞ。

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